第7回矢沢宰賞

第7回矢沢宰賞

最優秀賞 かいばみ賞

ありがとう   徳田 健


小学3年8歳の秋

まだ歩けていた

それでも幼さと

これからの施設生活との不安で

母の背中にしがみついていた

今は高校2年17歳

あれから9年

母は歳をとった

その小さい体で

大きくなった僕の体を背負い

送り迎えをしてくれた

背中のぬくもりを感じて

満足しているのにわざと困らせたりして

今までありがとうの一言もいえなくて

今日もまた背中の上
審査員
審査員

これまでに無数の「ありがとう」が生まれてきました。
その中に、こんなに深いありがとうがあったなんて・・・。お母さんの背中から生まれました。

奨励賞 1席 かいばみ賞

表現   杉本 麻衣子


あなたに何かを伝えたい

それを私は言葉で言う

もしそれができないのなら

私は

字で書く

もしそれができないのなら

私は

絵で表す

もしそれもできないのなら

目で ふんいきで

そう 体全体で

表現できる


だから

今日みんな笑っている
審査員
審査員

この詩で、あなたは自分の心をよく表現しました。自分の心を伝えることができると、つらい時も、友だちとはげまし合って生きることができます。

奨励賞 2席 かいばみ賞

雪合戦   松井 亮


学校の帰りに雪合戦をした

友達の投げた雪玉が

ぼくの顔に当たった

すごくすごくいたくて

ぼくは泣いてしまった

次の朝ぼくは友達に言った

「暁一の玉、チョー速いやあっ。だってオレが泣くくれぇだもん。」

友達は笑った

ぼくも笑った

きのう 泣いた話で

ぼくたちは笑った
審査員
審査員

亮君は、えらいなあ。きみの人がらが、気持ちがすごくよくわかります。笑った/笑った/きのう泣いた話で/ぼくたちは笑った。
あなたの豊かな表現力と、あったかく人を包む気持ちに思わず拍手してしまいました。

奨励賞 3席 かいばみ賞

ぼくらの櫛池川   江口 達也


春の川はたっぷり流れている

ゆうゆうと流れている

雪溶け水を集めて

たっぷりと流れている


夏の川は長く流れている

石と石の間を、白いしぶきを上げ

長く流れている

あっ、ハヤがいる
 

秋の川は木の葉と会話をしている

くるみの葉が一枚

ユラユラと踊りながら

ぼくも一枚

葉っぱを落としてみる


冬の川はどうどうと流れてる

近づけないほどどうどうと

流れてる

雪も落ちたとたん

水の仲間
審査員
審査員

あなたがおとなになって、まわりの景色が変わったとしても、ここに書かれた川が音を立てて、いつも記憶の中を流れます。
この詩を書いたあなたの心の中に、しっかりふるさとの姿が残されました。

奨励賞 4席

ひとこと   片岡 亮太


おはよう

いってらっしゃい

きをつけて

また あした

こんなに 短い ひとことに

やさしさを 感じるのは なぜだろう

笑顔を 取りもどしていくのは なぜだろう


こんにちは

げんきかい

おめでとう

がんばれよ

こんなに 普通のひとことが

心を軽くしていくのは なぜだろう

憂鬱を 打ち砕いていくのは なぜだろう


短い ひとことに

救われる 時がある

普通の ひとことだから

救われる 時がある

今度は 僕が 言ってみる


いってきます

げんきです

がんばります

ありがとう

しぼみきっていた 僕の心が

少しずつ ふくれてきた
審査員
審査員

みじかい一言だけれど、どれも心がこもっているからです。人を思うあたたかい心は、人の心をふっくらとさせてくれます。
「げんきです」「がんばります」亮太君のひとことが、まわりを励まします。

奨励賞 5席

みんな生きてるよ   砂川 光輝


かんらん車どうして動かないの

おじいさんになったの

メリーゴーランドは、おばあさん


お花がゆれてるよ

コスモスがわらってるね

これ、お花を置く台ですか

お花のおイスだね


すごい雨だね

雨さんがガラス窓みがいているね


あした、じゃがいも植えるの

土のおふとんかけますね

毛布は、どうするんですか


ピーナツあらったね

どろがついていたね

ピーナツ、おふろに入りましたね


麦茶飲んだらきれいに洗おうね

ふせておくんですか

コップが眠っていますね
審査員
審査員

こうき君は、先生にゆっくりとはなしました。
先生はその言葉を書きとめました。本当に、すべてのものが生きているんだなって、こうき君が教えてくれました。

佳作

空   堀川 紗耶


空が

くもをつつんでる


くもが

空をつつんでる


ママが

さやをつつんでる
審査員
審査員

空がお母さん、くもがその子どもに見えたのでしょうか。
そして、おわりの2行が生まれました。ぼくはすきだなあ、この詩・・・。

手   島崎 敬悟


お父さんの手は

かたくて でっかくて おもい

土がうまっているみたい

たばことポマードのにおい


お母さんの手は

やわらかい

くうきでふくらんでいるみたい

ちょっとカサカサあれている

でもクリームをつけたら

つるつるの手


おばあちゃんの手は

お皿をあらう手

水の音がする

つめたいだろうな

ぼうみたいにかたくなった


みんなと手をつないだら

ぼくはあったかくなる
審査員
審査員

目が不自由な分、敬悟君の言葉は豊かに家族の手のようすを伝えてくれます。
土がつまっている、空気でふくらんでいる、水の音がすんでいる…。
どれも敬悟君の心をあったかくするものがすんでいる手です。

かみさま   市橋 綾華
 

かみさまは、どこにいるの?

かみさま、お空にいるの?

かみさま、くもの上にいるの?

私のちかくにいるの?

みんなには、みえない。

あたまにいるの?

おうちはあるの?

私にもみえない。

どこに、いるの?
審査員
審査員

私もまだ見たことがないのです。本当にどこにいるんでしょう。
知らないうちに、もうあっているんだよ…、そう教えてくれる人もいますが。

どんぐり   太田 悠


どんぐりたちの話し声

耳をすますと聞こえてくるよ


ぼくらはみんなにているけれど

ぼくらはみんなべつべつなのさ

よく見てよ
 

ぼくはひびがはいっているんだよ

ぼくは黒いぞひやけだぞ

わたしはスタイルいいでしょう

わたしはちっちゃくてかわいい

でしょう


聞こえたよ

どんぐりたちの楽しい話し声

わたしはわかるよ

みんながぜんぶちがうって

わたしもこんどなかまにいれて

くださいな
審査員
審査員

すずめもカラスも白鳥も、たくさんいても実はみんな1羽づつちがうんだな、と思うようになりました。どんぐりたちの話し声、私も耳を澄ましてみましょう。

ぼくの犬   嶋 晃一


名前はメイとチァーコ

ぼくみたいに大きい

エサをあげると

カリカリッと食べる

いっぱい食べる

はやく食べる

水をのむ

ペロペロのむ

いっぱいのむ

おいしそうにのむ

下むいてねてる

グーグねてる

きもちよさそう

ぼくもおひるねしましょ
審査員
審査員

すきだっていうことは、相手と同じ気持ちになれることなんだ。
晃一君は、みんなにそう気づかせてくれました。

たん生日   加藤 綾乃


「ウギャアー、ウギャアー」

生まれた

9月5日に、わたしが生まれた

一人、人口がふえた

一つ命ができた

お母さんがガンバッて

わたしを生んでくれた

今思うと、

苦しかっただろなーと思う

わたしもお母さんになったら

赤ちゃんを生むんだ

一人の人口をふやして

一つの命を作って

赤ちゃんを生むんだ
審査員
審査員

女の子って、こんなふうに感じているんだなあ。
この詩は、生まれたからには精一杯生きなくっちゃ、と私をはげましてくれます。

誕生   田口 哲也


今年、ぼくのしんせきが

一人ふえました。

小さくて元気な男の子で

かわいがりたいです。
 

ぼくの手をにぎったとき

ぼくは 小さな小さな命の

誕生を

かんじました。
審査員
審査員

おわりの4行に注目。生まれたての命がギュッと哲也君の指をにぎって、あいさつしました。
命と命のあいさつです。しっかりと生きましょう。2人とも…。

あたらしいおともだち   牧岡 亜実


ハムスターがほしくなった。

かいにいった。

一ぴきだけ立っていたよ。

にらめっこした。

おにいちゃんもこれにしようと

いった。

かってもらって手にのせた。

まるかった。

あったかかった。

きょうからいっしょだよ。

あたらしいおともだちなかよくしよう。
審査員
審査員

わが家にもハムスターがいました。「きょうからいっしょだよ」。
あなたの気持ちがよくわかります。

あり   藤間 大希


家のにわに出て

はっぽうスチロールの下を見ると

ありのすがたがあった

ぼくがありを

じっと見ていたら

ありたちは

パーっとにげていった

でも、一ぴきだけ

おいてきぼりのありがいた

ぼくはそいつをつかまえて

ほかのありたちのところへ

にがしてやった

「みんなにしっかりついていくんだぞ。」
審査員
審査員

仲間と同じことができないでいるものを見て「しっかりついていくんだよ」と大希君はいいます。自分自身にいいきかせるときがあるかもしれません。

おじちゃん   上原 さゆり


もし正義の味方

「ウルトラマン」

がいるのなら その正体は

「美喜夫おじちゃん」

だろう


春

「田植えが大変だ」

そんな時おじちゃんは

「ブォー」

と大きな音で

車にのってやってくる


秋

「稲かり大変だ」

そんな時おじちゃんは

「ブォー」

と大きな音で

車にのってやってくる


おじちゃんは

わたしたちの

「ウルトラマン」
審査員
審査員

そうだよね。親せきに1人くらいウルトラマンがほしいよね。
おじちゃんのたのもしさが、よくわかります。

兄弟   八木 健輔


ぼくのお兄ちゃんは

頭が悪くて

力はぼくより強い

ぼくとお兄ちゃんとケンカしても

やっぱり勝つのはお兄ちゃん

でも

やさしいお兄ちゃん
審査員
審査員

「でも、やさしいお兄ちゃん」そうでしょう。お兄ちゃんはそのやさしさで、大人になっても健輔君をきっと守ってくれます。

けんか   小林 幹子


ああ、どうしよう。

私の心の中は、その言葉で

ぱんぱんにふくれあがっている。


まだおこっているのかな。

あやまってみようかな。

2時間目、3時間目と、

どんどんどんどん

時計の針が動いていく


友達の方を見ていたら、

友達と目があってしまった。

よく見てみると、友達もあせっていた。

話しかけてみよう。

「あのさ、さっきはごめんね。」

「うん、いいよ。私も悪かったしね。本当に、ごめん。」


けんかって、すごいと思う。

だって、前よりも、

もっともっともっと

友達と仲よしになれるから。
審査員
審査員

「心の中がぱんぱんにふくれあがっている」なんて、よく表現しました。
「なかなおりすると、もっともっと仲よしになれる」。あなたは、大切な発見をしました。

車いす   坂本 恭章


車いす

きんぴかの

車いすが

まちどおしいけんど

ぼくはほんとうは

きょうへいくんの

車いすのほうがえい

寝そべって先生にこいでもらえるき


車いす

いつもいつまでも

ぼくとのつきあいが

ながくなるけんど

よろしくね
審査員
審査員

きんぴかの車イスが待ち遠しいけど、きょうへい君の車イスの方がいいなあ…。
でもあなたは、新しい車椅子をすごく楽しみにしています。

つまずく   伊藤 健一


人は つまずく

たくさん つまずく


でも 立ち上がる

力を入れて 立ち上がる

どんなにつらくても 立ち上がる

どんな時でも 立ち上がれる

みんなにもその力がある
審査員
審査員

今日もたくさんの人がつまずいて、たくさんの人が立ち上がったことでしょう。たくさんの人たちのため息や、気合いが、聞こえてくるような詩です。

夏   今井 瞳


スースースー

あけていたまどから

スースースー

朝日いっぱいあびた風


母は台所で

たまねぎを切る

わたしもシャキ、シャキ、シャキ

目がうるむ

目のおくから涙がジワー

手の香り

ツーンときてたまんない


初夏のひざしが台所を光らせる

母とわたし二人を光らせる
審査員
審査員

おわりの2行がいいですね。スースースー、初夏の風があなたの胸の中にも吹いています。

入選 50音順

「命のうた」         井口 明子

「ANGEL・FATHER」 伊藤 結香

「つぶやき」         一森 彩美

「とけい」          宇佐美 華奈

「一人じゃない」       梅田 謙

「花」            江口 紗代

「流れ星」          小関 雅子

「秋」            勝島 祐太

「星の友だち」        北原 万里江

「わようっ子カーニバル」   小林 大作

「あさひ」          斉藤 絵美

「光」            坂本 美和子

「せんせ、知っとった?」   指物 厳邦

「おかあさんのこと」     清水 泰蔵

「新学期」          田村 由希子

「寝てはいけない」      高田 典子

「森」            滝沢 麻優

「南の風さん」        中野 恵

「るすばん」         中村 安希

「ゆっくり流れる空の色」   西本 恵

「それ行けがんばれ、お父さん」萩原 洋平

「けんか」          長谷川 武尊

「境目」           太島 美和子

「ケンカ」          松崎 貴子

「春」            松崎 友子

「弟」            宮澤 沙織

「心」            宮島 芽美

「かげろう」         山口 里未

「大きな海へ」        横井 良憲

「通学路」          余語 英秋

第7回矢沢宰賞の審査を終えて

 今回も全国各地から沢山の作品が寄せられました。その中から特にすぐれている作品51篇をえらび、21篇をここに紹介させていただきます。私は、このたびも大変楽しく仕事をさせていただきました。

 今回の応募の特徴は、点字の作品(先生方が、私がわかるように書き直してくださいました)が多かったこと、女子より男子、それも高学年の皆さんによい詩がみられたこと、2人あるいは3人の合作があらわれたことでした。合作の作品には幸いすぐれたものがなく、しかし次回からどう評価しようかと私に宿題を残しました。大勢で壁画を描くような考え方なのでしょうが、私の発想の狭さを感じさせられました。

 先生方のお手紙には、沢山のことを教えられました。“感性の耕し”ということで詩にも取り組まれ、文化祭で今回応募した詩を発表しましたといわれる先生。障害をもつ子どもたちが、ゆっくりだけど言葉にしてくれるのを書きとめる、担任として幸せだなあと感じるとおっしゃる先生。この詩のコンクールがあることで生徒たちの学習や生活の中に集中点ができます、と言ってくださる先生。全員の応募作品をおのおのが大きな紙に書いて、校内に掲示し、父兄にも楽しんでいただいた楽しい試みを、写真で知らせてくださった先生もおられました。

 草の茎によじ登り、朝までに脱皮して空に飛び立たなければならない命があります。トンボや蝶だけではありません。人間の子どもたちにも同じ試練があるでしょう。家族、友だちと生きて、時が過ぎて行くのを悲しいと感じた日、子どもたちは大人になっていきます。その心の中に、朝露となって生まれる詩を、一粒でも残すことができたなら。子どもたちと暮らす先生方の心の中に、私と同じ思いがあると信じています。

  • 審査員 月岡 一治
    上越市出身。国立療養所西新潟病院内科医長。第6回新潟日報文学賞受賞。出版物に「少年-父と子のうた」「夏のうた」(東京花神社)がある。

年ごとの入賞作品のご紹介

最優秀賞受賞者タイトル
第1回(平成6年)山本 妙本当のこと 
第2回(平成7年)山本 妙災害
第3回(平成8年)高橋 美智子小さな翼をこの空へ
第4回(平成9年)野尻 由依大すきなふくばあ
第5回(平成10年)佐藤 夏希お日さまの一日
第6回(平成11年)除村美智代大きなもの
第7回(平成12年)徳田 健ありがとう
第8回(平成13年)井上 朝子おくりもの 
第9回(平成14年)藪田 みゆき今日は一生に一回だけ 
第10回(平成15年)日沖 七瀬韓国地下鉄放火事件の悲劇
第11回(平成16年)佐藤 ななせ抱きしめる
第12回(平成17年)髙島 健祐えんぴつとけしゴム
第13回(平成18年)濱野 沙苗机の中に
第14回(平成19年)田村 美咲おーい!たいようくーん
第15回(平成20年)高橋 菜美空唄
第16回(平成21年)今津 翼冬景色
第17回(平成22年)西田 麻里命に感謝
第18回(平成23年)山谷 圭祐
第19回(平成24年)坂井 真唯クレヨン
第20回(平成25年宮嶋和佳奈広い海
第21回(平成26年)金田一 晴華心樹
第22回(平成27年)安藤 絵美拝啓 お母さん
第23回(平成28年)宮下 月希大好きな音
第24回(平成29年)宮下 月希心のトビラ
第25回(平成30年)阿部 圭佑ものさし
第26回(令和元年)上田 士稀何かのかけら
第27回(令和2年)宮下 音奏大好きな声
第28回(令和3年)横田 惇平ふくきたる夏休み
第29回(令和4年)野田 惺やっと言えた
第30回(令和5年)舘野 絢香気持ちをカタチに 思いを届ける