最優秀賞
災害 山本 妙
今の今まで
とても小さなことで泣いていた
だけど
大きなことで泣いている人がいると気がついた時
自分がちっぽけな生き物に思えた
災害で苦しみ、泣く
そんな人達になにもできず
立ちすくむ自分を、なにかと考える
地震がくる
大きな大きな地震がもうすぐ……
私の中で何かがゆれる
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一瞬のうちに多数の人命を奪った、阪神淡路大震災と向かい合った詩。
自分の悲しみを測っては泣いてきた、まだ小さな作者が、とてつもなく大きな悲しみがこの世にあることを知って立ちすくむ。
その「立ちすくむ自分を、なにかと考える」心の姿。
ちっぽけな生き物にすぎない自分が見えてくる。
心のふるえが、自分をおそう目にみえない大地震を予感することで、生々しくとらえられている。
豊かな感性が深さを増して成長し、2年連続の受賞につながりました。
奨励賞
日ちょく 若林 祐太 気をつけ。 まさひとくん、 気をつけをしてください。 金ぎょも気をつけ。 これから、 二じかん目のべんきょうをはじめます。 気をつけ。 金ぎょも、 金ぎょは、 まあ、いいや。 これで、 二じかん目のべんきょうをおわります。
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思わず吹き出してしまう、楽しい作品。
授業風景が目にうかび、同級生と、窓辺にいるだろう金魚の姿、号令をかけるゆうた君のユーモアのある表情が、明るい教室の中に生き生きと見えてきます。
こんな短い言葉で、君の人柄と気持ちをすがすがしく伝える、表現力の確かさに驚きます。
間のとり方が、すばらしい。
空 勝沼 みほこ ふっと空を見る そして思う 空は青い とても青い 今度は横を見る 人が急いで歩いている 時間を気にしながら 決してそれはめずらしい事ではない それが普通の光景 人は休む事を知らないのだろうか 人は時間とともに足早に過ぎてゆく それが普通の生活 人はこの青い空を見たことはあるのか 道にひっそりと咲いている花は…… 一度、ゆっくりと休むといい そして空を見る 空は青い とても青い
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気持ちに濃淡を失った生活をしていると、毎日が機械的に、ただ時間に追われて過ぎていきます。あなたはそんな生活の空しさを、頭上に広がっている空の青さに教えられたのです。
空はこれから、あなたの心の中にも、青さをまして広がります。
まさおみにいちゃんのたんじょう日 渡邊 将斗 先生あのね、 きのうはにいちゃんの たんじょう日だったよ。 おかあさんが 「きょうはにくだよ。」 と、いってくれたよ。 にいちゃんのたんじょう日だもんな。 ケーキもあったよ。 ももと クリームたっぷりと いちごと みかんがのってたよ。 おいしそうだな。 にいちゃんのたんじょう日だもんな。 ぼくと ゆうとと あさ子で 「ハッピバスデートゥーユー」 とうたをうたってあげたよ。 にいちゃんのたんじょう日だもんな。
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選評
にいちゃんのたんじょう日を心から祝う弟の気持ちが、すべての言葉からあふれてきます。
にいちゃんのたんじょう日だもんな、という3回のくり返しが、肉とケーキとお祝いの歌だけでは表しきれない、愛情に満ちた家族の暮らしぶりを、あたたかくくみ上げてきます。
佳作
ゆき 金子 洋介 十二月には ゆきの赤ちゃんがいっぱい生まれる。 ゆきのおまつりなのかな。 ゆきはがんばっているよ。 なかまがいっぱい生まれるから。 二月には ゆきはお日さまにたえてるよ。 ゆきはじぶんをつめたくしてがんばっている。 なかまもがんばっているから。
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雪のひとひらひとひらに、人間と同じ命と生活があることを感じています。
その雪はがんばって生きていて、12月と2月とでは、そのがんばりかたが違うことまで敏感に感じとりました。豊かな感性があり、奨励賞をさしあげたかった作品。
石 刈谷 政人 ぼくがけった 小さな石 ころがりきると ぼくをにらむ それでもぼくは けってしまう いらいらしてる時 石をけると すかっとする そのたびに うらめしそうに ぼくを見る
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この石は生きています。けられると、にらみ返す。
するとまた、けられる。うらめしそうに、また、見かえす。
刈谷君はこのように、石だけでなく、まわりの物すべてを生かすことができるのだと思います。
その生き生きとした世界の中で、しっかりあたりを見わたしている君は、とても幸せだと思うのです。
たんじょう日 大倉 由香里 わたしは、 きょうから、七さいです。 よろしくね。 ほんとうのたんじょう日は、 木よう日なんだけど びょういんだから このまえのがいはくでしたの。 おうちにかえるとちゅうで、 くまのぬいぐる みかってもらったよ。 だから、 もう、七さい。 よろしくね。
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なんてかわいい7才になった自己紹介でしょう。
あなたがたくさんの人に向かって、「もう、7才。よろしくね」と、あかるく話しかけてくれるので、僕たちは誰も、「おめでとう」と心から祝います。
本当に、おめでとう。
ヒヤシンス 古川 恵 わたしのヒヤシンス みどりのめが さむそうにがんばっている
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「わたしのヒヤシンス」といった最初の1行で、あなたがどれほどこのヒヤシンスを大切にしているかがわかりました。
観察する短い言葉がヒヤシンスに対するあなたの深い愛情をうつし出しています。
おとうとの手 内藤 祐実子 おとうとの手をさわってみたよ。 やわらかくて、 ホワホワするんだよ。 それに、 つめが小さくて、あったかいよ。 まるで、小人の手みたいです。 ちっちゃな手は、 いつもゆびがぐうばっかりしています。 ぱぁにさせると、 わたしのゆびをつかんでしまいます。 そして、 たべようと、口のところにもっていきます。 わあ、たべられちゃったらたいへん。 小人さんから、ぬけ出したよ。
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行のおわりにつけられたいくつかの「よ」が、あたたかく響きます。
まだ赤ちゃんの弟の仕草が、手に取るようにわかります。
お姉さんになったあなたのよろこびと嬉しさが、ほほえましく、明るい笑い声になって伝わってきます。
MY DEAR NURSE 安田 浩 貴方は何時も優しくほほ笑んでいる 貴方は何時も優しく見つめている 僕の心の片隅に何時も話しかけてくれる そんな貴方が僕は好きです ほほ笑むと貴方の口紅の色が優しく見える 見つめられると何でも出来そうな気がする ショートカットの似合う笑顔が綺麗で そんな貴方の前では子供でいたい だから何時までも僕の心の奥にいてください
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優しい看護婦さんに出会った。
年上で、きれいで、そのやさしさは母親に似ているけれど、見つめられると何でもできそうな気がしてくるやさしさだ。
初めて経験するあなたの気持ちが、言葉使いの素直さによって、まぶしく表現されています。
ウインナ-のダンス 佐々木 理絵 ウインナ-が フライパンの上で ダンスを始めた シュルシュル ポンポン 楽しいダンス おとなりどうしでぶつかり合って あらごめん とんではねて クルリと宙がえり 楽しい楽しい ウインナ-のダンス
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なんと楽しいウインナーのダンスでしょう。シュルシュル ポンポン あらごめん。
ダンスをしているのはウインナーともう一人、ほがらかな、あなたです。
電話 中川 明津男 また、楽しみの日が来る。 明日だ。 明日は、木よう日。 うちに電話が できる日だ。 明日になってからが また長い。 七時になるまでが…… 明日は、だれがでるかなあ。 じいちゃんかなあ。 かあちゃんかなあ。 やっぱり、にいちゃんかもしれない。 だけど、 やっぱり、かあちゃんがでてくれないかなあ。 なんか、かあちゃんがでてくれる気がするぞ。 早く こい こい 明日。
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養護学校にいるあなたが、週にたった1回の、家族に電話できる日をどれほど待っているのか、痛いほど伝わってきます。
電話機が特別なものに見えることでしょう。
かあちゃんこそいつも電話に出たいけど、じいちゃんやにいちゃんの気持ちを考えているのかも知れません。
風 矢沢 香奈子 朝、まどを開けると冷たい風が 顔にあたる 風、風って一体何だろうか 形も大きさも何もないけれど 音だけはきちんと残っている その音は、季節によってちがう時もあるけれど たまに春の安らかな香りもつけてくれる そんな風、私は大好きだ。
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目に見えない風を、あなたはあたりに残される音でつかまえました。
その結果、あなたが感じる風に奥行きが出てきて、僕たちにも風が、音をとうして見えるようです。これはあなたの発見です。
わたしの宝物 内山 幸恵 六年生のくせにはずかしいんだけど 私の一番の宝物は お母さんなんだ お母さんが帰る時は 玄関まで見送りするんだよ 泣きたくなるんだ 私もいっしょにいきたいって!! この前 どういうわけか お母さんの車のあと 追いかけていこう!!って 決めたんだ 車のあと追いかけて行けば 家に帰れるでしょ やめたけどね
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家族と離れて暮らしたら、つらいことがたくさんあったけれど、あなたは自分の宝物が何か、気づくことができました。
もう少したつとお父さんも兄弟も、おじいちゃんおばあちゃんも、あなたの大切な宝物であることに気づくことでしょう。
第2回矢沢宰賞の審査を終えて
昨年の第1回矢沢宰賞は、対象を県内の特殊教育諸学校在籍者に限ったものでしたが、151編もの応募に恵まれました。本年度は新たに見附市の小・中・高校生を対象に含めましたところ、実に465編の応募をいただくことができました。作品のレベルも高くなり、詩の内容も雪、風、雲、木、山、海、地球といった自然や宇宙から今年1月の阪神淡路大震災に対するもの、次いで学校、友人、家族、その中での自分の気持ちを表現するものなど多方面にわたり、そこからみずみずしい感性が、生き生きと伝わってくるものばかりでした。
詩の長さからみますと、短い詩にすぐれた作品が集中していました。原稿用紙2枚、3枚の作品は1枚目に書かれた内容を繰り返すだけであったり、幾つもの気持ちを次々に並べるだけで、どれも失敗しておりました。自分が強く感じたこと、ハッと気づいたこと、誰かに語りかけたいことを伝えるとき、すっきりとしたわかりやすい言葉を選ぶことが大切です。
年齢が低い皆さんの作品には、しばしば「…だったよ」といった「よ」が使われていました。言葉以上の気持ちが伝わってきて有効な方法ですが、いつまでもこればかりに頼ると、詩はそれ以上に深くなりません。今回から入賞作品に作者の学年を示しましたので、成長とともに変わっていく表現方法を他の入選者から学ぶことができるでしょう。それから、詩は原稿用紙の1番上の段から書き始めてください。2段目から書き出している人がたくさんいます。
とくに優れた作品から最優秀賞1編、奨励賞3編、佳作1編を選びました。最優秀賞は2年連続で同じ作者でしたが、他は全て別の作者になりました。中でも今回奨励賞を受賞された若林祐太君(7歳)の詩の世界は気持ち良く、印象に残りました。
来年、更に新しい大勢の皆さんの作品に接することができますことを、楽しみにしております。
- 審査員 月岡一治
上越市出身。国立療養所西新潟病院内科医長。第6回新潟日報文学賞受賞。出版物に「少年-父と子のうた」「夏のうた」(東京花神社)がある。
年ごとの入賞作品のご紹介
回 | 最優秀賞受賞者 | タイトル |
---|---|---|
第1回(平成6年) | 山本 妙 | 本当のこと |
第2回(平成7年) | 山本 妙 | 災害 |
第3回(平成8年) | 高橋 美智子 | 小さな翼をこの空へ |
第4回(平成9年) | 野尻 由依 | 大すきなふくばあ |
第5回(平成10年) | 佐藤 夏希 | お日さまの一日 |
第6回(平成11年) | 除村美智代 | 大きなもの |
第7回(平成12年) | 徳田 健 | ありがとう |
第8回(平成13年) | 井上 朝子 | おくりもの |
第9回(平成14年) | 藪田 みゆき | 今日は一生に一回だけ |
第10回(平成15年) | 日沖 七瀬 | 韓国地下鉄放火事件の悲劇 |
第11回(平成16年) | 佐藤 ななせ | 抱きしめる |
第12回(平成17年) | 髙島 健祐 | えんぴつとけしゴム |
第13回(平成18年) | 濱野 沙苗 | 机の中に |
第14回(平成19年) | 田村 美咲 | おーい!たいようくーん |
第15回(平成20年) | 高橋 菜美 | 空唄 |
第16回(平成21年) | 今津 翼 | 冬景色 |
第17回(平成22年) | 西田 麻里 | 命に感謝 |
第18回(平成23年) | 山谷 圭祐 | 木 |
第19回(平成24年) | 坂井 真唯 | クレヨン |
第20回(平成25年) | 宮嶋和佳奈 | 広い海 |
第21回(平成26年) | 金田一 晴華 | 心樹 |
第22回(平成27年) | 安藤 絵美 | 拝啓 お母さん |
第23回(平成28年) | 宮下 月希 | 大好きな音 |
第24回(平成29年) | 宮下 月希 | 心のトビラ |
第25回(平成30年) | 阿部 圭佑 | ものさし |
第26回(令和元年) | 上田 士稀 | 何かのかけら |
第27回(令和2年) | 宮下 音奏 | 大好きな声 |
第28回(令和3年) | 横田 惇平 | ふくきたる夏休み |
第29回(令和4年) | 野田 惺 | やっと言えた |
第30回(令和5年) | 舘野 絢香 | 気持ちをカタチに 思いを届ける |