第18回矢沢宰賞

第18回矢沢宰賞

最優秀賞 ポプラ賞

木   山谷 圭祐


木がたっている

ぼくもたっている

木がたっている

ぼくは木を切ろうとしている

木が問いかける

なぜ切るの?

僕は答える

売るため

木が問いかける

なぜ売るの?

ぼくは答える

お金が必要だから

木が問いかける

なぜ必要なの?

ぼくは答える

生きるため


木は黙った

あたりはしんとしている

木が問いかける

なぜ私なの?

ぼくは答える

そういう運命なんだよ

木が問いかける

あなたも切られるの?

ぼくは答える

ぼくは切られない

木が問いかける

なぜ?


僕は黙った

あたりはしんとしている

木が問いかける

あなたも地球の子でしょ?

僕は木を切り倒した

木は涙を流している

ぼくも涙を流している

木が最後に言った言葉が頭に残る

そう みんな地球の子なのだ
審査員
審査員

木とぼくとが向きあって、問いと答えを重ねていく。
「なぜ切るの?」という単純な木からの質問にはじまって、「売るため」「お金」「生きるため」……と問答が次々と展開していきます。
問いはするどく的確であり、答えも逃げていません。
木と人間は同じように生きているけれど、立場は逆なわけです。
木を倒さざるを得ない側にも、切り倒される側にも涙があり、「地球の子」の涙はともに熱い。生きることの原理を突く力作。

奨励賞 ポプラ賞

コップ   小林 里咲


心のコップがありました

中には何も入っていません


心のコップがありました

笑ったら中に水がチョロリ


心のコップがありました

さみしそうなコップもありました


心のコップがありました

さみしそうなコップに水を分けました


心のコップが二つにふえました

そしたら二人で笑いあいました


心のコップが二つありました

二人で笑ったらコップから水があふれ出ました


心のコップが二つありました

あふれ出たこの水を大切につかおう
審査員
審査員

人は誰もが「心のコップ」をもっている、というのは作者の発見。
さみしそうだったり、笑いあったり、コップはその人の心をそのまま反映するのです。
豊かな心のコップには豊かな水があふれ、貧弱なコップには貧弱な水しかたまらない。
水のあふれる二つのコップはきっと幸せを映し出すことでしょう。

逃避行と家出少年   戸嶋 憲朔


午後二十二時五十分─

僕は乗った JR銀河鉄道に

行き先 知らない どこかな これ

その先 まっくら 現実逃避 どこかな

 
レザーを着たねずみが僕に指さす

僕は猫のようでなんだか全てが狂ってる


このまま行けば消えるかな

このモヤモヤ

このまま行けば消えるかな

この混沌 嫌 嫌だ


午前一時二十分─

このまま行けばいいことありそう

このまま行けばきっとあるさ

僕は信じてるつもりさ


午前六時四十分

新宿駅

World is mine

そんな気分は流れここ下北沢

ここならそうだ

みんな同じだ高円寺もそうだ

We are the world!


そんな旅立ち

へたれの僕にはできるわけはない


午後二十三時五十分─

天井を見上げる何も変わらない部屋

何も変わらない僕 ベットにうずくまる
審査員
審査員

想像のなかの銀河鉄道に、身をまかせた自由な逃避行です。本人には混沌としてつらいのでしょうが、とほうもない空想に心身をまかせきっています。
新宿からはじまる都内の旅はダイナミックですが、実際はベッドについてわずか一時間、「何も変わらない僕」だったという空想上の気ままな旅でした。

ねこにのまれて   宇治 佑一朗


ねこにのまれて 空へ行く

ねこにのまれて うちゅうへ行く。


月や 太陽や 地球が 見える。

海からは魚の命

大地からは 動物達の命 人の命

空からは 鳥達の命がある。

地球にはたくさんの命が 見える。

太陽には 温かい火が見えて

月には きれいな光が見える。

ねこは 旅をする。

ねこは うちゅうを回る。


ねこは いろいろな命をさがす。

ねこは 地球やいきものをみまもる。


ねこにのまれて 命をたすける

ねこにのまれて 旅をする。
審査員
審査員

題名にびっくりしました。さらに、ねこにのまれて宇宙へ旅をするという、とんでもない奇想天外な詩の世界に感心しました。
「ねこにのって」ではなく「のまれて」が、作品をとても楽しいものにしています。
作者の想像力が大きく羽ばたいていることにより、宇宙の大きなスケールも見えてきました。

巡恋   吉田 弥生


あなたはどこにいるのでしょう

 
あなたはどこをみているのでしょう


あなたは何に思いをよせているのでしょう


どこにいて どこをみて

何に思いをよせているのか、

わからないまま…


あなたは私の心の中に

いるはずなのにどこか遠い


あなたは私の心の中に

いるはずなのにどこか小さい


ふもとは飾りをつけピンクのほほを

楽しげに笑わせる

あなたは山々のように私に笑う

どこか遠かったあなたが近くに感じた

どこか小さかったあなたを大きく感じた

歩みよる2つの影は

ピンクの花を空に散らばせる


宇宙は無数の点をうち

銀色の小さな瞳を輝かせる

あなたは星々に目を輝かせ笑う

どこか遠かったあなたは隣にいた

どこか小さかった

あなたは大きくなるばかり

寄りそう2つの影は

無数の星に照らされた


野々は赤く青くどこか力を秘め

黄金の手で心をふるわせる

あなたは野々のように

心をふるわせるように笑う

隣にいたあなたは支えてくれる存在に

大きくなったあなたの存在は

「あたり前」の存在で

共に歩く2つ影は

紅葉のごとく燃えていた


山々は周りを連らね白い肌で包みこむ

あなたは白い雪のように心につのる

支えてくれる存在の

あなたへの思いは雪と共につのり

「あたり前」の存在の

あなたは消えるはずがない

つのる思いは2人の思いをかためた

 
ふもとは白くかためられた

2人の心を溶かす

 
ピンクのほほはどんどん小さくなる

空に散らばったピンクの花は

まとまることなく

 
すれちがい


あなたはどこにいるのでしょう


あなたは私の心の中にいるはずなのに


どこか遠い


あなたは私の心の中にいるはずなのに


どこか小さい
審査員
審査員

「巡恋」という言葉は作者の造語でしょう。
「めぐる恋」=恋愛感情が固定することなく、果てしなくめぐるという意味でしょうか。
「あなた」に寄せる心、それは必ずしもうまくは運ばない。すれちがう。
二つの心は溶けあいたいと願うけれども、恋愛感情はなかなか思うようにいかないもの

ですね。

佳作

ひとでは海のお星さま   山下 美香


ひとでは海のお星さま

今日も暗い海の中

いろんな色でかざってくれる

時には わかめを食べちゃって

魚にいっぱいしかられる

だって おなかがすいてうごけない・・・


ひとでは海のお星さま

今日も岩にくっついて

暗い海をかざってくれる

時には 魚につつかれて

いっぱいいたずらされてもね

ひとでと魚はとてもなかよし


ひとでは海のお星さま

空に光る星のように

かがやくことはできないけれど

ひとでなりの一生を

せいいっぱい 生きている
審査員
審査員

海にすんでいるヒトデは、空で光る星によく似ています。
海を明るくかざってくれるけれども、いたずらもする。
暗い海のなかで「せいいっぱい生きている」ことを、作者は発見しました。

音   坂井 里帆


私の好きな音

それはバスケをしているときの音


ボールが床を打つ音

バスケットシューズが「キュッ」と鳴る音

ボールがゴール板にあたる音

ホイッスルの音 ブザーの音

観客の声援

そして仲間の掛け声


どの音も私をワクワクさせる

そしてまたボールを追いかける

仲間の声を聞くために

試合が終わった後はどんな音がするのかな
審査員
審査員

バスケットボールの試合を音で表現した点がユニークです。
動きの早いシューズがキュッと鳴る音やホイッスルが聞こえてくるような迫力があります。
試合後の音って、どんな音だろう?

楽譜   大箭 ひなた


先生から楽譜をもらった

「これを吹きます」


もらった楽譜をながめていたら

おたまじゃくしの家族に見えた

小さい子供や大きい大人や

大家族だ

その曲を練習してみた

おたまじゃくしはじっとしたまま

私の練習を見守っていた

私は頑張って練習した


先輩達と曲を吹いた時

なかなか追いつけなかった

でも私はおたまじゃくしともっと

仲良くなって

先輩みたいに上手く吹きたい
審査員
審査員

楽譜を「おたまじゃくしの大家族」ととらえたのは、なるほどその通り愉快です。
曲をうまく吹けるようになったら、大家族もほんとうに踊り出すかもしれない。
彼らと仲良くなりたいね。

デッサン   木津 ます美


今日はデッサンの日

デッサンでも私はモデルだ

スタートから数分の間 動けない

少しでも動けない


自分がモデルだといつもと違う風景が見える

いつもは自分の描いてる絵だけど

今日はみんなの絵が見える

そしていつもよりも部室が静かに思える


まだ終わらないのかな

疲れてきて「あと何分」と聞いてしまう

「あと2分」まだ何分もあった

残りの時間が分かっていてもその残りの時間が長く感じる


もう一回聞こうかなと思った時

「終わりー」

デッサンが終わった

終わったと思ったら一気に力が抜けた

デッサンは描くのだけが大変なのではない

モデルだって同じ位に大変なんだ
審査員
審査員

デッサンのことを、モデルになった側から考えている着想がおもしろい。
逆の立場から見るみんなの絵は、どんな感じがするのでしょう?
デッサンする側もモデルの側も、大変さは同じ。

色えんぴつ   山田 琴音


赤、青、黄色

それぞれみんなちがう色


私たちはちがう

好きな色も

住んでいる家も


色えんぴつはいろんな色がかさなりあって

きれいな絵になる

どれもみんな必要な色

みんな仲良くケースに入っている


私たちも一人じゃない

みんながいれば、なんでもできる


一本一本

一人一人

みんな助けあっている

私も、そう思って生きていこう
審査員
審査員

色えんぴつの色がちがうように、みんなの好きな色も家もちがう。
でも、いろんな色がかさなり合って一枚の絵になります。
同じようにみんなの力を合わせることで一つのことができます。

楔   百武 流奈


あなたのことを

何度も何度も思い出す

楽しかったこと

おもしろかったこと

幸せだったこと

二人で笑ったこと

だけど

その全てが今はつらくて

悲しくて生きてる気がしなくて

あなたを忘れられたら

どんなにらくだろうと何度も思うけど

やっぱり

あなたにあって

あなたと一緒にいて

あなたと別れたこと

その全ての日々を信じられる日が来る

よう

歩いていこうと思う

空がどこまでも

青くきれいに広がるように

現実をみて

大人になるんだ
審査員
審査員

親しかった人との楽しく幸せだった時間が、何かの拍子につらくて悲しいものになってしまった。でも、そんなことに負けずに前へ進んで行こうという決意こそ、「大人になる」ことです。

すいか   寺師 大道


すいかは なぜ

緑色の しましまが あるんだろう


木星から 飛んできたのかな

模様が そっくり

シマシマ猫が まるくなったら

似ているかも

もし 草色の

でっかいだんご虫が いたら

すいかに へんしん

こわいよう


中は 赤い

太陽から

力を もらったのだろう

種は 黒い

時々 茶色い

きっと

地球が 力を くれたのだ


太陽さん

地球さん

いただきます
審査員
審査員

なぜ、すいかに「しましま」があるのかと疑問を感じただけでなく、自分なりの想像力を自由に広げていったことが大切で、詩としておもしろくなっています。最後は感謝の気持ちですね。

車窓から   西塚 孝二


久しぶりの東北新幹線

空は雲におおわれ

窓の外は雨が降り続いている

津波のことが気になり

海岸を見ようとした

もちろん新幹線からは

見えるはずがなくて

ぼくにはやっぱり何もできないと

いう残念な気持ちになった

窓の外は

深い緑が続いている


ウトウトしながら

テレビで見たことを思い出した

桜を見て

店を再開すると言っていた

その人はこの辺りにいるかな


目が覚めて

駅が近づくと

急にビルが増えた

街も建物も自然の一部

そんな気持ちになった

雲の合間から

街に光が差し込んでいた
審査員
審査員

東日本大震災のことが気になって、新幹線の車中から、災害の跡や復興しようとする人のことを思う。大切な応援ですね。
被災地を通過して駅に近づくと、街の見え方が少しちがってくる。

ひぐらし鳴いた   藤縄 佑樹


ピピピピピピピー

あっ 鳴いた

鳴いた鳴いた

ひぐらし鳴いた

いつもより早いなあ

たくさん鳴いているなあ

去年もその前も 一回しか

聞こえなかった

いいね いいね今年はたくさん鳴いている

いい声だねえ

じょうずだねえ

ビビビビビビビー

あれ へただなあ

ただいま練習中かな

今年は暑いから早いのかな

春が遅かったからなのかな

でも去年も暑かった

どうしてかなあ

ピピピピピピピー

おっ また鳴いた

いいねいいね ひぐらしいいね

きれいな声だねえ

夏だねえ
審査員
審査員

ひぐらしがいつもの年より、たくさん早く鳴いたことに対する驚きとうれしさが、「いいね いいね」というくり返しの言葉からストレートに伝わってきます。素直な反応が輝いています。

もも   土肥 昇太


ももは大きいから、

切って食べる。

3人分に切って食べる。

ひとつはお母さん

ひとつはお父さん

のこったひとつはけんと兄ちゃん。

…あれ?僕の分がない?


また切ろう。

こんどは4つに切ろう。

ひとつはお母さん

ひとつはお父さん

ひとつはけんと兄ちゃん

ひとつはようへいくん

…あれ?やっぱり僕の分がない。

もうひとつ切ろう。

こんどは5つに切ろう

ひとつはお父さん

ひとつはお母さん

ひとつはけんと兄ちゃん

ひとつはようへいくん

ひとつはみゆさん。

…おかしい、やっぱり僕の分がない。


ええい、もう一つ切ろう。

こんどは6つに切ろう

ひとつはお父さん

ひとつはお母さん

ひとつはけんと兄ちゃん

ひとつはようへいくん

ひとつはみゆさん。そして、僕。

…やっと食べられた。


だいぶ小さくなったけど、

みんなで食べるももは

やっぱりおいしい。
審査員
審査員

一つのももを、家族や友だちに均等に分けようとして、なかなかうまくいかないというユーモラスなタッチ。
いつも自分の分は最後にする心がけはいいなあ。大きなももはおいしかった?

家   富川 雅香


僕は家をかいた

スケッチブックにクレヨンで

赤い屋根の家をかいた

でもしっぱいした

僕は赤い屋根の家を

黒でぬりつぶした

すると家の中の人が

とても不安そうな顔をした

次の日の夜

僕の家ではてい電がおきた

僕は不安だった

あの絵と同じように

次の日

赤い屋根の中にいる人に

僕は言った

「ごめんね。」
審査員
審査員

絵にかいた家の赤い屋根を黒くぬりつぶしたら、家の中の人が不安な顔をし、次の夜停電になった、という愉快な空想。いや空想ではなく、本当のできごとのように書かれていて楽しい。

地球   大屋 菜々子


地球はみんなの家だ


家という名の部屋がある

道という名のろう下がある

空という名の天井がある

地面という名の床がある


この家に住んでるのは人だけじゃなくて

犬や猫、ちょうやアリ、みんなが住んでる


みんなのものなんだ


だからこれからもみんなが住んでいくために

この場所を大切にしていこう
審査員
審査員

家→部屋、道→ろう下、空→天井、地面→床、この発想はおもしろい。
たしかにそういうふうに言えます。
しかも地球の住人は人間だけでなく、「みんなのもの」というところが大切です。

僕の海   中野 聖菜


クレヨンの空

ノートの海

コンパスのヨット

消しゴムの雲

消しカスの砂浜

はねた絵の具の赤い太陽

小さなえんぴつのカモメ

付せんの熱たい魚


夏まっさかりの昼さがり

僕の机は海になった
審査員
審査員

机の上にあるクレヨン、ノート、コンパス、消しゴム……それらが海浜のものに似ているという着想はすばらしいです。
「消しカスの砂浜」には思わず吹き出しました。「机=海」は大発見!

ぼくのお兄さん   松田 強志


ぼくには二人のお兄さんがいる

ぼくは兄弟の中で一番背が高い

長男は社会人

次男は大学生

三人集まると仲がいい

長男はまじめで几帳面次男は器用で調子がいい

ぼくはやさしくてあわてんぼう

三人それぞれちがうけど

一緒の事が一つある

三人めがねをかけている

めがねをかけると

みんな同じ顔してる

兄弟って不思議
審査員
審査員

三男坊の「ぼく」は「やさしくてあわてんぼう」。
男三人兄弟はそれぞれ性格がちがうけれど、めがねをかけているという共通点が愉快です。
親はたいへんだろうけれど、頼もしいでしょう。

入選

冷静に そして 単純に   佐藤 真希


生きる意味って何?

鏡に映る自分に問いかけた

答えなんて返ってこないって

分かってるのに


そんな顔してると、掴

つか

めそうだった

幸せも

ほら 逃げて行く


そんなこと分かってるよ

けど・・・

辛くなってきた

思い切り泣いてしまえば

ラクになれるかな?


降り続いてた雨も少しずつ弱まってきた

そうだ 雨が止んだら

もう一度探しに行こう

ふと想い浮かんだ 君の姿


君の笑顔がみたい

水たまり飛び越え 全力疾走


冷静に そして 単純に

考えたら見つけられた

近くにあったんだ 僕が生きる意味


すべてが嫌になった時も

笑いたくなった時も

一緒にいてくれた君が

僕のすべてで生きる意味なんだ

僕らの出逢いに

ありがとう
審査員
審査員

生きる意味ってそう簡単にはわからない。むずかしい。
でもむずかしく考えるよりも、冷静に単純に考えたら、案外わかるかも。

いそがしい   土田 真由子


がっこうにきた きがえる。

いそがしい。

みんなとぐるぐるはしる。

いそがしい。

おはようのあいさつ あさのかい。

こくご さんすうべんきょう いそがしい。

たいいく さぎょう いそがしい。

きゅうしょくじゅんび そうじ いそがしい。

きゅうしょくたべて はみがき いそがしい。

じゃんぼぼーるで あそびたい。

ぶらんこも のりたい。

びじゅつ おんがく いそがしい。

れんらくちょう くばる かえりのかい。

いそがしい いそがしい。

おかあさんの くるまだ うれしいな。

さようなら。
審査員
審査員

あらためて考えてみたら、学校での一日ってこんなにいそがしいんだ、というユーモラスな発見。家に帰ったらまたいそがしい?

自転車   稲田 健太郎


「遊びに行ってくる」

いつものように自転車に乗ったら

何だかヘンだ

後ろのタイヤがペッチャンコ

空気がない

つぶれている

空気入れてもらったばかりなのに乗るとペッチャンコ

タイヤを押してもペッチャンコ

続けて二回入れてもらったのに

やっぱりペッチャンコ

友達が待っているのに

ぼくの自転車ペッチャンコで元気ない

暑い時も多少の雨も

ぼくと共に走るのに

今日はペッチャンコで動けない

早く空気一杯吸ってパンパンになってよ

ぼくと一緒に走ろうよ

君がいないと

ぼくは淋しいよ
審査員
審査員

タイヤがペッチャンコ。パンクしたか空気もれのはずなのに、「ペッチャンコ」だけくり返してあせっているようすがおもしろい。

私は誰?   堀井 海輝


服をたくさん買った

きれいにネイルをぬった

髪を染めた

雑誌の中で笑ってる

きれいな女の子になりたくて

はき慣れないくつはいて

似合ってないアクセサリーをつけて

自分らしさは遠のくばかり

私は誰なんだ
審査員
審査員

お化粧して着かざり、きれいになればなるほど、自分らしさがなくなっていくという観察と皮肉。自分を客観視することも大切。

なぞにもとめて   佐藤 駿之介


なぞに思うこと

なぜそうなのかわからないこと

たくさんのなぞが、ぼくの中に、

自ぜんの中に、いのちの中に、

海の中に、山の中に、太陽の中に、

地球の中に、うちゅうの中に、

星の中に、ぐるぐると、なぞの中に

なぞをつくる

調べて、なぞを、ときあかそうとするほど、

思いもかけない

新しいなぞが生まれてくる

ぼくは、「なぜ」「どうして」と

知りたがり、

また、新しいなぞに出会うだろう
審査員
審査員

あらゆるものの中になぞがある、という貴重な発見。
とき明かそうとすれば新しいなぞが生まれ、なぞがなぞを生むという不思議。

僕の中の世界観   小村 太貴


僕の中の世界は、僕の感情によって

ころころ変わる時がある。

例えば、美しい空や雲やはばたく鳥を

見ると、飛びたいと思い、空想して

とてもわくわくする。

兄とケンカをすると、世界の終わりを

感じる。

時々、楽しいことがあると

自分のオリジナルの曲を歌う時もあるのだ。

僕は思う。空想という世界は誰にも

じゃまされず、僕だけのもので

最高に自由なのだ。

しかし、あまりに調子にのると、先生に

おこられるのだ。

けど僕は、僕の世界を愛している。

空想から現実に出来ることがあるかもしれない。

その第一歩なのだ。
審査員
審査員

あれこれ空想することはすばらしい。誰もじゃまできない。先生だって。
空想を大きくふくらませることで自分の世界もふくらむ。

風   清水 利香


走っている時

いつも背中を押してくる風

ときには進みをじゃまする風


走り終わった時

気もちよくかけ抜ける冷たい風

おいうちをかけるような温かい風


走っている人にとって

ときにはうれしさの混じったいい風

ときにはくやしさの混じった悪い風

いろんな風があるけれど


どれも私の走りを見守ってくれる

やさしい風
審査員
審査員

自分にじゃまな風、うれしい風などいろいろあるけれど、やっぱり風はやさしい。
風のことを見すごさずによく観察できています。

お客さん   西田 麻里


床屋さんに入っていく

男性のお客さん

ズボンのポケットに手をつっ込み

ちょっと気取って

入っていく


美容院に入っていく

女性のお客さん

寝グセのついた髪のまま

ちょっと疲れた顔で

入っていく


床屋さんから出てくる

男性のお客さん

「ありがとうございましたぁ」と

店主に見送られ

スキッと切りそろえられた頭を

恥ずかしそうになでながら

帰っていく


美容院から出てくる

女性のお客さん

自信に満ちあふれ「私は女優よ!!」と

言わんばかりの表情で

綺麗になった髪を

風になびかせながら

帰っていく
審査員
審査員

男性と女性のお客さんの特徴やちがいを、端的にするどく観察できていなければ書けない詩です。男女の対比はまさしくその通り。

ぼくとロッキー   中屋  匠


自立活動の時間や

ランチルームに行くときに

だんだん

眠くなる

イライラしてくる


すると ぼくの前にクッションが置かれる

ロッキーのテーマソングが鳴る

チャンピオンロッキー中屋 対 挑戦者

チャンピオンロッキーが叫ぶ

「ロッキー ロッキー ロッキー」

ひたすら クッションにパンチを打つ

レフリーの声

「挑戦者 ダウン」

「チャンピオン 中屋 防衛記録の更新に成功」

チャンピオンのマイクパフォーマンス

「こんにゃろめ こんにゃろめ こんにゃろめのめー」

挑戦者の声

「次ぎこそ リベンジだ」

チャンピオン 中屋の声

「返り討ちだ」

イライラがおさまる

落ち着く

先生が大好き 学校が大好き

先生

いつも いつも ありがとうございます
審査員
審査員

ボクシングのチャンピオンとして挑戦者をダウンさせたという、うれしくてカッコいい夢で、先生や学校が大好きになる。痛快!

自分らしさ   金安 美央莉


まず私はおしゃべりが好き。

友達との何気ないおしゃべりが好き。

これが私の自分らしさ。


次に私は長距離走が嫌い。

走っても走ってもゴールが見えなくて嫌い。

これも私の自分らしさ。


そうやって自分らしさだって言い訳して

成長しない自分が嫌い。


わがままな自分。子供っぽい自分。

全部自分だけど


ひとつずつでも ゆっくりでもいいから

しっかり直して

自分のことを好きになりたい。
審査員
審査員

自分の嫌いな点を正直にあげている素直な勇気。
何よりも自分をしっかり見つめているすばらしさ。自分を好きになることが大切。

かばん   金子 侑矢


かばんは苦しかった

毎日 毎日いろいろな物を入れられて

かばんは苦しかった

学校にもっていかれるかばんは痛かった

重たい教科書を何さつも入れられて

かばんは痛かった

遊びにもっていかれるかばんは悲しかった

遊んでいる時はおきざりにされて

かばんは悲しかった

かばんは、

苦しく、痛く、悲しかった

でも、かばんはうれしかった

毎日毎日かばんを使ってくれる人がいる

毎日使ってもらえるように

苦しくても痛くても

悲しくても

かばんはがんばった。
審査員
審査員

いつも背負っているカバンの身になって、苦しさと悲しさ、さらにうれしさをもとらえている。たまにはカバンの気持ちになろう。

じてん車   八木 彩沙


赤いじてん車で

はしった

風が

すごくきもちいい。


青いじてん車で

はしった

町のけしきが

きれいだな
審査員
審査員

さまざまな色のじてん車があって、その色によってじてん車も、乗っている人の感じ方もちがってくるという発見は、たのしいね。

ひととき   吉田 美優


初めての漢字の勉強

人と木で何と読むでしょう

「ひととき」

正解は「休む」だって

木の側で人が休むから

でも休むのは一時

「ひととき」でもいい気がする
審査員
審査員

「ひととき」の意味は「休む」とも言えるけれど、「人と木」で「休」だよね。
自分で考えてくふうした答えを出したことに拍手。

夏休み   猪口 颯太


一日の始まりは

ラジオ体操だ


その次

お父さんと弟と

ランニング


やっと 朝ごはん

ランニングの後だから

うまい うまい


宿題をする


むずかしい問題

かんたんな問題

詩や絵をかいたり


お昼ごはんを食べて

少し休むと

町内プール

ない時は

ゆっくり ごろごろ


夜は

おいしいごはん

おもしろいテレビ


そしてまた

一日の

ふりだしに もどる

すごろくみたいな

ぼくの夏休み
審査員
審査員

ラジオ体操で始まって、おもしろいテレビを見て終わる一日は、きっと楽しい夏休みでしょう。「すごろく」とは、なるほどなあ。

色の気持ち   青木 遼太朗

色には、気持ちがある

赤、もえるぜー

青、しょぼーん

黄、ピッカピッカピカーで超元気

白、ぼくは、なにをやっているんだ

人によって

その色にあう人がいるのかも

色がかわる人がいるのかも

今日ぼくは何色かな
審査員
審査員

色によってちがう気持ちがある、というのはすばらしい発見です。
しかも、それが人にもあてはまるというところに感心しました。

はなび   高藤 隼


フェニックスはなび

てんちじんはなび

三じゃくだまはなび

だいスターマイン

いっぱいはなびが あがったよ。

おつきさま びっくりしたかな。

おほしさま おちなかったかな。

そらが われなくて よかったよ。

ぼくのおなかは

ドーンと ひびいたよ。
審査員
審査員

花火大会では、大きな花火がいくつもあがって、夜空も見あげる人たちもにぎやかです。
ホントに空がわれないかと心配になるよね。

心をこめて発ぴょうしたよ!   星野  愛


私は、

心をこめて

「冬の夜」をふいた


みんなでふいたり

歌ったりした

そのえんそうがみんなの心に

ひびきわたってくれているといいな

そして東ほく地ほうのみんなの

心にも

ひびきわたってくれているといいな
審査員
審査員

心をこめてふいたり歌ったりしたえんそうは、きいたみんなや東北地方のみんなの心に、きっととどいているでしょう。やさしい心。

宝物   中村 美友


あの頃君がボクに教えてくれた宝物

世界の広さなど何も知らなかった

あの日のボクに 君は教えてくれた

宝物は友達

長い長いトンネルの中に

立ちつくしていたボクが

やっと外に出られた

鳥のように空高く飛んで行く

君の後を追うように

ボクも羽を動かした

あこがれの君が今では隣に居る

それだけで世界が広くなる

ずっと言いたかったことがある

ボクの宝物は友達

笑われたっていいあこがれに触れたとき

世界がぐっと広くなる
審査員
審査員

トンネルの中のように長く心ふさいでいたボクが、君によってはばたいて広い世界に飛び出せた。友だちは何ものにもまさる宝物。

僕にしかわからないこと   菊川 桃那


僕は、この障がいに生まれたことが、ずっと嫌で苦痛だった。なんで僕だけ、こんな思いをしなきゃいけないの。なんで僕だけ、こんな体なの。ずっとこの障がいの自分がキライだった。

でも、あるときわかった。

この障がいで生まれたから、今の自分がある。この障がいで生まれたから、この障がいの辛さが身にしみてわかる。この障がいで生まれたから、大好きなあなたに出会えた。

だから、今は何も悔いはない。

だって、大切なあなたに出会えたから
審査員
審査員

自分の障害は誰のせいでもない。悩むことはあっても自分や周囲の人を信じれば、必ず乗りこえられる。そんな力強さが頼もしい。

たいふう   石黒 椋也


せんせい、あのね

たいふうが

うみのほうにいったんだって

ぎゅうんとまがっていったんだって


すごくほっとしたよ

もしかしたら

にほんがきらいになったのかもしれないよ
審査員
審査員

去ったたいふうを、そんなふうにとらえることもできるんだと感心しました。
そうなのかもしれない。ホッとしたり心配したり。

知っていること   小林 優月


わたしの知っていることは

たくさんあると思うけど

広い宇宙からみてみれば

とても小さなことだろう


わたしの知っていることは

小さいことかもしれないが

小さな小さな虫たちには

たくさんあると感じるだろう


わたしの知っていることは

とても小さなことだけど

何かのやくに立てたなら

わたしの知っていることは

大きな大きなことだろう
審査員
審査員

ひとりの人間が知っていることは小さいことかもしれない。
でも、それを役立つように生かせば、きっと大きなことになっていく。

だいこんのめ   北村 光


だいこんのめが、でた。

はあとのかたち。

それとも、ちょうちょのかたち?

それとも、りぼんのかたち?

ほんとに、あんなちっちゃな

ちゃいろいたねから

おおきなだいこん、できるのかな?

りっぱなだいこんになって

おいしいおでんができるといいな。
審査員
審査員

かわいいだいこんのめにたいするやさしい心がつたわってきます。
その心でそだてれば、きっとおいしいおでんができるでしょう。

蓮   小林 みお子


今、葉月。

蓮の葉達がささやき交す。

「今年はどんな清らな花を咲かせましょう。」と。

ここを通る度、あの夜の蓮が見えてくる。

あれは長月。送別会の夜。

酔いざましに行ったお濠。

埋め尽くしたまっ赤な、まっ赤な蓮、蓮、蓮。

かつてない酷暑の赤。

まるで貴方の体から抜け出して、私を射抜いた眼。あああの眼。

「本当にこれでいいのか。」

私は小さく手を振ってさよならした。

貴方の心が蓮を染めたのかも。

あんなに赤い蓮、もう見る事はないだろう。
審査員
審査員

長月(九月)の夜、お濠に咲いていた赤い蓮の思い出は、「貴方」とさよならした夜の強烈な眼と重なり、思い出として残った。

第18回矢沢宰賞の審査を終えて

 「十人十色」という古いことわざがあります。人が十人いれば、顔かたちが十人みなちがうように、性格も考え方もちがうという意味です。そのことと同じように、多くの人が詩を書けば、それぞれがちがった詩になるのが当然です。だからおもしろいわけです。

 本年は全国から、昨年よりも多い六〇九編の応募がありました。それらの詩の表情はもちろん全部ちがっていました。みなさんのナマ原稿の山を、一編ずつ読み進んでいくときの期待と楽しさと緊張感は、毎年のことながら私にとってスリルに満ちた作業でした。たくさんのさまざまな言葉の海を泳ぐ時間、その喜びは何ものにもかえがたいものがあります。

 3月11日の東日本大震災の後、詩や短歌・俳句などで大震災をあつかった作品が、さまざまな場所でたくさん書かれましたし、今も発表されています。今回の応募作品のなかにも少しありました。災害を自分なりに受けとめて作品を書くことも大切です。しかし、それを書く書かないは自由です。強制されたり義務感で書くものではありません。災害にかぎらず身近におこった事故や事件でも、急いであわてて書かなければならない理由はありません。じっくり受けとめて深く考え、自分なりの言葉をさぐりましょう。

 悲しいことであれ、楽しいことであれ、そのことを心のなかでじっくり温め、内容を納得できるまで熟成させたうえで、自分と正直に向き合って書く心がまえこそ大切です。どんなできごとに対しても、オトナにはオトナの、小学生には小学生なりの受けとめ方があっていいはずです。

 本年も多数応募された学校や、一人か二人だけ応募された学校などいろいろでした。そうした数や地域にとらわれず、あくまでも作品本位で厳正に選考いたしました。選評は各作品に付してあります。例年に負けない充実した時間をくださったみなさん、どうもありがとう。

  • 審査員 八木 忠栄
    1941年見附市生まれ。日大芸術学部卒。
    「現代詩手帳」編集長、銀座セゾン劇場総支配人を歴任。
    現在、個人誌「いちばん寒い場所」主宰。日本現代詩人会理事。青山女子短大講師。
    詩集「きんにくの唄」「八木忠栄詩集」「雲の縁側」(現代詩花椿賞)他多数、エッセイ集「詩人漂流ノート」「落語新時代」他、句集「雪やまず」「身体論」(吟遊俳句賞)。

年ごとの入賞作品のご紹介

最優秀賞受賞者タイトル
第1回(平成6年)山本 妙本当のこと 
第2回(平成7年)山本 妙災害
第3回(平成8年)高橋 美智子小さな翼をこの空へ
第4回(平成9年)野尻 由依大すきなふくばあ
第5回(平成10年)佐藤 夏希お日さまの一日
第6回(平成11年)除村美智代大きなもの
第7回(平成12年)徳田 健ありがとう
第8回(平成13年)井上 朝子おくりもの 
第9回(平成14年)藪田 みゆき今日は一生に一回だけ 
第10回(平成15年)日沖 七瀬韓国地下鉄放火事件の悲劇
第11回(平成16年)佐藤 ななせ抱きしめる
第12回(平成17年)髙島 健祐えんぴつとけしゴム
第13回(平成18年)濱野 沙苗机の中に
第14回(平成19年)田村 美咲おーい!たいようくーん
第15回(平成20年)高橋 菜美空唄
第16回(平成21年)今津 翼冬景色
第17回(平成22年)西田 麻里命に感謝
第18回(平成23年)山谷 圭祐
第19回(平成24年)坂井 真唯クレヨン
第20回(平成25年宮嶋和佳奈広い海
第21回(平成26年)金田一 晴華心樹
第22回(平成27年)安藤 絵美拝啓 お母さん
第23回(平成28年)宮下 月希大好きな音
第24回(平成29年)宮下 月希心のトビラ
第25回(平成30年)阿部 圭佑ものさし
第26回(令和元年)上田 士稀何かのかけら
第27回(令和2年)宮下 音奏大好きな声
第28回(令和3年)横田 惇平ふくきたる夏休み
第29回(令和4年)野田 惺やっと言えた
第30回(令和5年)舘野 絢香気持ちをカタチに 思いを届ける