第23回矢沢宰賞

第23回矢沢宰賞

最優秀賞 ポプラ賞

大好きな音   宮下 月希


音には、たくさんの音がある。

ドンドンドン 階段をおりる音

トントントン ママがほう丁で料理する音

トスントスントスン 弟の小さな歩く音

みんな、わが家で聞ける音

私は、どれも聞きなれた音だけれど、大好きな音がある。

カチャっと言うげんかんを開ける音

カチャの音が大好きだ

いつも、かけてあるげんかんのカギ

自分で学校へ行く時も、

カチャからドアを開け、カチャと自分でカギを開けて、カチャの音で帰って来る

帰ってきた時のカチャは、安心のカチャ

落ちつける場所へ帰ってきた安心の音。

それよりもっと好きなカチャ。

それは、パパが帰って来る時のカチャの音

家族がみんなそろう、カチャの音。

なかなか帰ってきても遊んでくれないパパに、いじわるで、

「帰ってこないで」

って言う時もあるけれど、

カチャの音が、聞こえた時の私達の笑顔は、

パパは、知らない。

一日何回、カチャの音を耳にするだろう。

一人で、るす番の時のカチャの音は、

こわいけれど、カチャは家族のつながる安心のカチャの音。

音ではじまり音で終わる一日のくらし。

音っていいな!!

今日もパパが帰ってきた

今日はニッコリ顔でむかえて見よう

パパおかえりなさいって。

一日のしめくくりのカチャの音

パパの帰ってきたカチャの音

一日が終わる安心の音 大好きな大好きなカチャの音。
審査員
審査員

家の中で聞くことのできる音は、いろいろあって気になるけれど、なかでも作者は玄関のカギが開けられるときの「カチャの音が大好き」だという。

家を出るとき、帰ってきたときの「カチャ」という音に、作者は耳をすまし、こだわっています。なにげない音へのこだわりが生んだすてきな詩です。

特にパパに意地悪を言うことがあっても、パパが帰ってきたときの「カチャ」がうれしい。

パパの「ただいま」といううれしい言葉が音にこめられていて、家族をつなぐ「カチャ」という音の再発見です。

奨励賞 ポプラ賞

おばあちゃんの家   鈴木 花凛


「ねえ、ばあちゃん、とまってもいい」

「いいよ」

とつぜんきめたけどおばあちゃんはやさしく

「いいよ」といってくれた。

おばあちゃんの家は、すずしい。

おばあちゃんの家は、しずか。

おばあちゃんの家は、おもちゃがたくさん。

おばあちゃんの家は、ひろい。

おばあちゃんの家にはにわがある。

にわに花ややさいやしょくぶつがある。

おばあちゃんのベットは気もちいい。

おばあちゃんの家にはおじいちゃんがいる。

おばあちゃんの家にはお父さんの兄さんがいる。

おばあちゃんの家には犬のクマがいる。

おばあちゃんの家にとまった。

おばあちゃんと買いものへいった。

おばあちゃんはすごい。

おじいちゃんもすごい。

おばあちゃんはやさしい。

おじいちゃんもやさしい。

わたしはおばあちゃんの家がすき。

そこにすむ人もすきだ。
審査員
審査員

おばあちゃんが好きなんですね。うらやましいくらい。

おばあちゃんだけでなく、その家がすずしかったり、ひろかったり、そのこともふくめてとっても好きで、気に入っているようすがわかります。

おばあちゃんだけでなく、「そこにすむ人」もみんな好きなんだ。

みんなに歓迎されて笑顔が咲きそろった作品です。

今日の一日   田村 愛那


「おはよう」今日も一日がんばろう

「いただきます」今日の元気の源

「ごちそうさまでした」今日もじゅうでんかんりょう

「いってきます」学校がんばるぞ

「おはよう」今日も仲よくしてね

「はい」この問題ならとけるぞ

「しーん」集中集中いい字を書くぞ

「今日の給食は何かな」あれだといいな

「いただきます」おいしそう

「ごちそうさまでした」おいしかった

「ピー」いい音でないなー

「さようなら」また明日会おうね

「ただいま」学校がんばったぞ

「今日の夕ご飯なにかな」ハンバーグかな

「いただきます」あーおいしい

「シャカシャカ」歯をみがこう

「チャポン」おふろきもちいいなー

「おやすみ」今日も一日おつかれ様 明日もいい日になるかな?
審査員
審査員

「おはよう」から「おやすみ」にいたるまで、たくさんの挨拶や言葉があります。

黙っていてはダメ。さまざまな挨拶や言葉が本人たちや周囲を明るく元気にします。

一日中の挨拶が作品をはつらつとさせています。

それらがリズム感よく簡潔に使われていることにも注目しました。

一日中はりきっているんですね。

2   神戸 天飛


2は2人で食べられる

2こあると1こずつ分けられるから

2は信用できる

2こあるとあっているか確認できるから

2はチャンスをくれる

1回だめでももう1回あるから

2は沢山食べられる

29まんを2こ食べて

2重あごになった

2は安心できる

2こあれば1こだめでももう1こあるから

2は写真をとる時のポーズ

ピース 平和のサイン

2は増えていく

3になるには2が必要だから

2こが2こあるとにっこにこ

2は2人になれる

2人だと

1人ぽっちにならなくてほっとできるから
審査員
審査員

「1」でも「3」でもなく、「2」に着目したところがおもしろいし、「2」のさまざまなケースを、自分流に深く考えたところに感心しました。

いちいち「なるほど」と納得させられます。

第四連などはユーモラスな遊びが生きていて笑いました。

2は1の二倍であり、「1人ぽっち」でないところがとてもうれしいねえ。

月、火、水、木、金、土、日   山谷 将太郎


月、それはとても人間にとってとても大切だ。

なぜなら、黒い夜空にすっと出て、黄色く輝き、人間の心を豊かにしてくれるからだ。

火、それは人間に楽しさを与えてくれる物だ。

なぜなら、赤く燃えさかり、子供に昇っていく様子を伝えているからだ。

水、それは人間とうまく付き合える物だ。

なぜなら、海で波を上げたり、筒の中で鉄砲のように吹き出して遊ばせてくれるからだ。

木、それは人間を守ってくれている警備隊だ。

なぜなら、洪水で水があふれ出してしまうのを防ぐためにがんばってくれているからだ。

金、それは人間に挑戦を与えてくれる物だ。

なぜなら、使う時に使い、使わない時は使わないという「節約」という目標を与えてくれるからだ。

土、それは人間のサポータだ。

なぜなら、植物の根を囲んで、成長させ、人間と植物の心が近づくようにしてくれているからだ。

日、それは人間成長に関わっている物だ。

なぜなら、子供に日光を浴びさせ、ぐんぐん育ててくれているからだ。
審査員
審査員

珍しいこんな詩があってもいいなあ。月曜日から日曜日までを、作者は自分の観察や考え方を工夫して、月から日にいたるまでをみごとにとらえて見せました。

それぞれに納得できる考え方ですし、どこかしらオトナっぽさもある。

単なる思いつきではなく、人間との関係でとらえている点に感心させられました。

お母さん   山口 みどり


「愛してるよ。私の娘。」

それがお母さんが言ってくれた最後の言葉。

私ははずかしかったけど「ありがとう。」と言って家を出た。

でもある日、家に帰るとお母さんは病院にいて、お母さんは弱りきっていた。

「つらそう。」なみだが出る。

お母さんは昔から病気で体が弱い。

でも、子どものためにつくしてくれる。

「生きてほしい。」私は思う。

でももういない。

だけどお母さんは、きっと私の中にいる。

そう信じてる。

きっと病気でつらかったよね。

お母さんの子どもでよかった。

ありがとう。

大好きだよ。お母さん。
審査員
審査員

「愛してるよ」と最後の言葉を残して入院し、やがて亡くなったお母さんへの思慕がせつせつと伝わってきます。

お母さんが自分の子どものことをいつも思っていることは、病気の場合も健康な場合も変わりがありません。

「(お母さんが)私の中にいる」「お母さんの子どもでよかった」という気持ちのすてきな輝やき。

散歩   木村 良季


僕は散歩が好きだ。

初めて散歩をする道、

知らない道を歩くとき、

僕は とてもわくわくする。

初めて見る景色は

とても新鮮だ。

長い一本道でも、

迷路のような

入り組んだ道でも、

知らない道なら歩きたい。

いつも右に曲がる角を、

左に曲がるだけで、

世界は違って見える。

もっと、いろんな景色を見て、

もっと、世界を広げたい。

だから、今日も出かけよう。

新しい道を、景色を、

探しながら

のんびりと。
審査員
審査員

作者は目が不自由なのだろうけれど、「散歩が好きだ」という。散歩はすばらしい。

知らない初めての道を歩くのは、ある意味で勇気がいるが、未知に対する挑戦にも似て心おどります。「いつも右に曲がる角を/左に曲がる」それだけでも新鮮な体験となる。

単に道を散歩することでなく、人生を生きることと同じ。

入選

体   浅倉 大河


私の体は色んなもので、できている。

一つは、大好物のうどん。

一つは、千葉の思い出。

一つは、作曲の才能。

一つは、私の家族。

一つは、ゲーム。

もし、このどれかが欠けてしまったら。

それはもう、別の誰かになっちゃうよ。
審査員
審査員

大胆な発想がおもしろい。「うどん」から「ゲーム」にいたるまで、好きなもの、すてきな

ものなど、いろいろなもので自分のからだができているという大胆な作品。

虹   池津 蓮太


ひとりひとりのうれしいおもいと悲しいおもいが

空に舞い上がって虹になる

二つ合わせて美しく

天を飾るのだ

あるとき僕は

それを知ったのだ

僕の悲しみとうれしさに

虹が呼びかけた

おーい!

早くおいでここへと

またあるとき

虹がでていた

今日も虹が見れた

今日もみんなの心が見れた
審査員
審査員

人のさまざまな思いが「空に舞い上がって虹になる」という詩句に惹かれました。

「みんなの心」が虹に見られるという着想のすばらしさ。虹が親しいものになりました。

お寺の朝   石黒 葵士


朝早くみんなでおきょうを読む正座して本を持つ

リズムよくみんなと声を合わせて読む

みんなにおくれないように読む

リズムがとちゅうでかわる

むずかしい

おいていかれないようにいっしょうけんめい読む

正座してたら足がしびれてやっと立てた
審査員
審査員

お寺での貴重な体験が要領よく書かれている。朝早くみんなと一緒にすわっておきょうを読む。家ではとてもできない珍しい団体生活は、生涯忘れることができません。

色々な顔をもつ波   上野 慧


波はふきげんだ

波は色々な顔をもっている

あら波はいらついている

あら波はだれかにいらついている

あら波は海の環境にいらついている

あら波は風の気候にいらついている

静かな波はなにかをやさしくつつんでいる

静かな波は魚などをやさしくつつんでいる

静かな波は泳いでいるぼくたちをつつんでいる

静かな波は漁をしている船をつつんでいる

ぼくはそんな波が好きだ
審査員
審査員

波はたくさんの顔をもっていて、あら波だったり静かな波だったり、表情は変わります。

観察していると海がよく見えてきます。「船をつつんでいる」波がすてきです。

離れ離れでも心は繋がっている。   梅村 輝星


今は会えない。

とてもさみしい日々が続いている。

今は会えないと分っているけれど

会いたい。家族に会いたい。

上も下もきょうだいがいるけれど

会えた日は少ない。

そんな時きょうだいの一番上の

お姉ちゃんがくれた言葉が

うれしくて心に残った。

「離れ離れでも心は繋がっている。」

この言葉をくれた時から

私の人生は変った。

今は会えないけれど、いつかは、

会える

と私は思う。

だから私は

楽しく生きると あの日 ちかった。
審査員
審査員

今は家族と別れているから会えないけれど、お姉ちゃんがくれた言葉が忘れられない。

でも。とても会いたい。元気で希望を持っていれば、そのうちきっと会えるよ。

あめつぶ   大崎 千鶴


あめつぶさん

どうして丸いの

中に人がいるのかな

それともかぜさん

丸めてる

教えてかぜさん

あめつぶさん

どうして丸いの

教えてね
審査員
審査員

雨つぶが丸い ─ 誰もがあたりまえのように考えていることに対する疑問から詩は生まれます。「中に人がいるのかな」「かぜさん丸めてる」などの発想がユニーク。

うさぎ   粕田 舞


私はふわふわしたうさぎ

引っ込み思案で寂しがり屋のうさひぎ

とりだと寂しくて悲しくなってしまうの

口には出さないけれど本当は誰かのそばにいたい

たくさん甘えたい

私はふわふわわしたうさぎ

かよわい小さなうさぎ

だけど私は好奇心旺盛

小さな体でピョコピョコ跳ねて色んな所へ行けるんだ

いつか世界を一周したいこの足で

夢見る私は可愛いうさぎ

私はふわふわしたうさぎ

ひとりぼっちの可哀想なうさぎ

ひとりでいるのは寂しいけれど

友達を作るのは苦手な私

話し掛けることさえも出来ない臆病な私

でもひとりぼっちのままは嫌

苦手なことはたくさんあるけれど

少しずつ前へ進んでいきたい

ひたむきでかわいらしいふわふわした

うさぎのように
審査員
審査員

ひとりぽっちで寂しがり屋のうさぎになった気持ち。でも好奇心旺盛だから、ピョコピョコどこへでもとんで行く夢がある。前へ進んで行きたいのが作者の気持ちです。

心の糸   小館 知佳


私の心には糸がある。

その糸は大切な人たちとつながっている。

心と心の糸でつながっている。

糸の中にはたくさんの思いがつまっている。

愛情や友情がその中を流れている。

糸は切れることもあれば

またつながることもある。

たとえばケンカして仲直りした時だ。

私の心の中にはまだたくさんの糸がある。

そして私にはまだ出会っていない

たくさんの大切な人たちがいる。
審査員
審査員

たくさんの思いがつまった心の糸があり、切れたりつながったりもする。

心の中に「たくさんの糸」があるのはすばらしい。大切な人との出会いをつくってくれます

旅大好き   小林 奈央


シャボン玉

小さな 小さな

シャボン玉

私の友達を紹介します

「風さん」

風さんが

私の旅を案内してくれるの

鳥さんの上を飛んだり

雲さんの上を飛んだり

風さんは

自由気まま

私は旅の初心者

でも風さんはいろんな所を知って

いる

だから私は風さんにのるの

大変なときもあるの

くるくるまわったり

上にいったり下にいったり

でもね

それが楽しい

みんなにも会える

鳥さんは音を出してくれる

風さんは

木さんと音を出してくれる

のんびりだったり

もどってみたり

速かったり

とくに決まってはいないけど

それが

私と風さんの旅

旅大好き
審査員
審査員

風さんは旅の初心者・私を、自由自在に旅へ案内してくれます。

たいへんなときもあるけれど、信頼してのって行くこと。

風さんとの気ままな旅でみんなに会えるよ。

秋の家族の様子   酒井 葉月


秋になると妹は

いつも以上にダラダラする

ナマケモノのようになる

きもちいからなのか

秋になると母は

ゆったりする時間を増やす

カピバラのようにねる

すごしやすいからなのか

秋になると父は

食べ物をいっぱいたべる

イヌのようによくたべる

食欲の秋だからなのか

秋になると私は

バレーをがんばる

スポーツ選手のようによく動く

スポーツの秋だからなのか

秋になると家族は

さまざまなすがたを見せる
審査員
審査員

秋になったときの家族のようすを、自分もふくめて率直に描写している。

そして自分以外に対して皮肉っぽいところが愉快。暑い夏のあとの秋にはゆったりできるね。

あるかない学校   櫻井 響


うごかない学校

真夜中にもうごかない学校

一歩も歩かない学校

三かいある学校

夜にもうごかない学校

木がいっぱいある学校
審査員
審査員

発想がとてもユニークでおもしろい。詩のこころが生きています。

学校が動かない、歩かない、それが当然というのは詩の魂ではない。

学校が歩くのを待っているのかな?

海のほうせき   佐藤 南


海で貝をひろったよ

ひかってきれいで

しろくてね

しんじゅをひろったきぶんだよ

海で貝をひろったよ

うすいピンクでかがやいて

ルビーをひろったきぶんだよ

海で貝をひろったよ

にじがうつったみたいなね

きれいな きれいな貝だった

ほうせきまぜてつくったの
審査員
審査員

貝に「しんじゅ」を感じたのは、よほど美しい貝だったからだね。

さらに貝の美しさに、「にじ」とか「ほうせき」を感じとっている、その想像力こそが美しいよね。

今日は おじいちゃんの三回き   佐野 愛理


おじいちゃんとお別れして

この日まで

長かったような

短かったような

手を合わせると

おじいちゃんが

ほほえんでいるような気がした

おじいちゃん わたしが見えますか?

この夏 自転車に乗って大平森林公園まで行けたよ

この夏 早起きしてラジオ体そうに毎日行けたよ

この夏 お兄ちゃんは お父さんよりもせが高くなったよ

この夏 みんなみんな大きくなったよ

おじいちゃんが たくさんたくさん

教えてくれたから

おじいちゃんが たくさんたくさん

かわいがってくれたから

この夏も 本当はいっしょに

わらっていたかったな

おじいちゃん
審査員
審査員

亡くなった大好きだったおじいちゃんへの報告が、感傷的にならずとても明るい。

この夏も「わらっていたかったな」という一言、おじいちゃんもきっと笑顔でしょう。

くつ洗い   澤田 健太


洗ったくつ

ブラシでみがいたくつ

ぴかぴかできれいなくつ

よごれをきれいにおとしたくつ

初めはどろどろだったくつ

洗剤で洗ったらきれいになったく

つ

あわをたてて洗ったくつ

くつぞこもきれいになったくつ

くつのうらも初めはきたなかった

くつ

くつのうらもきれいになったくつ

くつの横もきれいになったくつ

洗ってくさくないくつ

初めはくさかったくつ

においもしないくつ

くつのおくもきれいになったくつ

じゃりもなくなったくつ

はきごこちのよいくつ

気持ちよくはけるくつ
審査員
審査員

くつをていねいに洗ったことがこまかく書かれています。いつもこんなにていねいに洗ってあげれば、くつもうれしくてはずんでくるでしょう。さあ、はいて出かけよう。

自然   澤田 結奏


自然の音を知っているかな?

森の音 川の音 海の音…

自然の音は

私たちの体と心を癒し

リラックスさせる 不思議な音

森の音は

小鳥のさえずりの音

葉っぱ同士が風でこすれ合う

サワサワという音

森が歌っているようだ

さらに

森の色「緑」を見ると気持ちが安らぐ

海の音は

波のザザーン ザーンという音

潮風の香りと一緒に聞こえる音

カモメやウミネコの声は

ちょっとうるさいが好きな音

川の音は

チョポポ… ジャアア…

石とその間を流れる水が奏でる音

それは楽器演奏会

私はこの音を聞くと

とっても気持ちいい

たくさんあるけれど

私はこの川の音が大好き

こんなに素敵な音たちは

人工ではなく“天然”だ

天然なのに人間を癒すのは凄い

聞いてみてほしいな みんなにも

そして 考えてほしいな

これからの自然のことを
審査員
審査員

自然が奏でる音を、するどくとらえています。風の音や波の音、川の音などを心すませて聞いているのです。聞くだけではなく、作者は自然のことまで考えています。

ミニトマト   島 峻太


ぼくは、ミニトマトをそだてている

ミニトマトはおいしい

赤くて丸くてかわいい

とってすぐたべられる

いつも十こたべる

なくなったらすぐとりにいく

ひやすともっとおいしい

お兄ちゃんはミニトマトがきらいだ

だからぼくがたべてあげる

おねえちゃんはちょっとたべる

だからおねえちゃんのもたべる

ミニトマトがもっとたくさんとれてほしい

ミニトマト大すき
審査員
審査員

自分で育てているくらいだから、ミニトマトがよほど好きなんでしょう。

お兄ちゃんやおねえちゃんの分まで食べてしまう。ミニトマトもうれしいにちがいないね。

やまもとあつこせんせいのほっとけーき   菅井 孝敏


ふわふわ

ほくほく

あまい

おいしい

あったかい

もちもちしてる

ほかほかしてる

ぷにぷにしてる

むくむくしてる

とてもおいしかった

あったかかった

こいあじだった

においがおいしかった

あまいにおいがした
審査員
審査員

せんせいがつくってくれたホットケーキのおいしさを、こんなにくりかえしたくさん表現している。みんなでたのしくにぎやかに食べたようすが見えてくるようです。

じゅう道   田崎 碧子


わたしはじゅう道がとくい、

とくにはらいごしが、

でも投げかたがむずかしい。

わたしはじゅう道がとくい、

お兄ちゃんから教えてもらうと、

うれしくてたまらない。

わたしはじゅう道がとくい。

大会によばれて一本を、

とるしゅんかんがあたたかい。

わたしはじゅう道がとくい、

一本をとるドーンという音を聞くと、

よっしゃと言うのがおさえきれない。
審査員
審査員

いつもお兄ちゃんはきっと厳しくやさしく、あなたに柔道を教えてくれるのだね。

「一本」が決まった瞬間はほんとうにすばらしい。さらに「とくい」をのばそうね。

真夏の星のオーケストラ   田崎 悠月


お盆が終わった

夜の田んぼ道

空は 満天の星

天空のまん中で

満月が指揮をする

こおろぎのフルートと

さそり座アンタレスのピッコラの協奏曲

わし座のアルタイルのチェロに

こと座のベガのビオラバイオリンが

音を重ねている

はくちょう座のデネブの

ビオラも加わって

夜空のオーケストラは

クライマックス

火星のシンバルが点滅

演奏が終わった

指揮者の満月が

眠たそうに

西へかたむいた
審査員
審査員

夏の夜空はまさに満月が指揮者でしょう。オーケストラの演奏が聞こえてくるようです。

各星座の楽の音、火星のシンバルも印象的です。指揮者はうれしいでしょう。

ひまわり   田中 智樹


ひまわり畑に行った

黄色 黄色 黄色

何百というひまわりが

並んでいる

みんな同じ方向を向いて

まるで朝礼のようだ

ぼくも一緒にならんでみた

ひまわりたちと

同級生になったような

気分になった
審査員
審査員

いちめん黄色が広がるひまわり畑が目に見えるようです。見渡すかぎりの黄色のなかに入った“朝礼”の気分はどう?「ひまわりたちと/同級生になった」がうまい。

8月の僕   南里 好洋


8月の 夏休み 夏の蒸し風呂

身体の汗 心の汗

心の汗 宿題終わるか

心の汗 宿題終わらそう

心の汗 早くも日にちが無い

心の汗 ダックダク…

心の汗は消えるだろうか

外は蒸し風呂

蒸し風呂の 中で汗が ビッチョビチョ

身体の汗はいつか消える

心の汗は消えるだろうか

皆さんは今夏 心の汗をかきましたか
審査員
審査員

からだの汗はぬぐったり洗い流したりできるが、「心の汗」はたいへんです。

簡単ではない。「心の汗」の発見が作品のポイント。厄介な「心の汗」はどう流すかな?

うみ   平井 晄志


ぼくはうみにいった、

うみに入ろうとした、

いきなりなみがおしてきた

だれがなみをおしたんだろう。

ぼくはうみにいった、

うみに入ったら、

水がしょっぱかった

だれがしょっぱくしたんだろう。

ぼくはたぶん

大きな魚がなみをおして、

大きな魚のなみだだと、

ぼくは思う。
審査員
審査員

海にいったとき「だれがなみをおしたんだろう」という、素朴な疑問を感じたことが大切です。「大きな魚」がなみをおし、しょっぱいのは魚のなみだという詩的想像力。

あいすが あまいな   平井 梛稀


あいすが あまいな あいうえお

からすが かあかあ かきくけこ

さるさん さんぽだ さしすせそ

たいいく たのしい たちつてと

なっとう ならんだ なにぬねの

はちさん はちみつ はひふへほ

まんげつ まんまる まみむめも

やきにく やこうよ やいゆえよ

らいおん らんらん らりるれろ

わにさん わらった わいうえを

ん
審査員
審査員

こういう工夫されたことばあそびの詩を、バカにしてはいけません。

いざ書いてみると、そう簡単ではないはずです。

「なっとう ならんだ」はたのしい着眼ですね。

消しゴムの毎日   布田 誠人


僕は、消しゴム。

いつも、みんなに使われている。

だけど、僕は、それがうれしい。

理由は、使われないより、使われた方が嬉しいからだ。

だけど、僕は、強くこすられるよ

り、普通にこすられる方がうれしい。

と、言っても、消しピンや投げられたり、強く握られたりするのは、ちょっぴり嫌だ。

ところで、僕の仲間、ケシカス君。

僕をこすったら出てくる。

せっかく出来た仲間なのに、ケシカス君は、はじき落とされ、捨てられる。

いずれ、僕も、小さくなって捨てられる。

だけど、僕には、筆箱の中に他の仲間もいる。

真っ暗だけど、色々なことを話してくれる。

明日も、仲間と一緒にがんばろう!
審査員
審査員

いろいろな使われ方をされる消しゴムの気持ち。うれしかったり嫌だったり。

分身ケシカス君のことも気になるけれど、自分は筆箱の中でほかの仲間と話ができるうれしさ。

卓球大会   星野 雄貴


カン カコン

 サーブが決まった

カン カコン

 レシーブされた

カン カコン

 スマッシュ打った

カン カコン

 打ち返された

カン カコン

 サーブを出された

カン カコン

 レシーブした

カン カコン

 スマッシュ打たれた

カン カコン

 打ち返せなかった

ぼくの卓球技術は、まだまだだ。
審査員
審査員

卓球試合が「カン カコン」という音だけで、リズミカルに書かれています。

選手たちはその音に敏感になって打ち合っているわけで、カタカナもはずんでいます。

夏のスタジアム   若月 秋佳里


夏になると

暑くなるけど

大好きな

サッカー観戦も

熱くなる

スタジアムも

気温より

サポーターの

サッカー愛で

熱くなる

スタジアムは

広場より熱い

家より熱い

日本中の

どこよりも熱い

世界中の

どこよりも熱い
審査員
審査員

日本のサッカー熱は年々高くなっています。作者もサッカーが大好きでよく観戦するから、こういう詩が書けるのでしょう。試合中のスタジアムはどこよりも熱い。

ひらひらと   本間 智子


ひらひらと ひらひらと

桜が散って そこの脇道を一面に染める

きれいなのがもったいないけど

私はそこを歩きたい

ひらひらと ひらひらと

洗濯物が 風に合わせてダンスをしている

飛ばされないか心配だけど

私はそれを見ていたい

ひらひらと ひらひらと

枯れ葉が落ちて そこの歩道を埋めている

掃除をする人はいるけれど

私はそこを踏んで行きたい

ひらひらと ひらひらと

燃える火のこが 寒空に私の息より高く登る

ずっと見てても飽きないけれど

私は早く帰りたい
審査員
審査員

桜の花が散っているようす。「ひらひらと」という擬音のくりかえしによって、春らしい雰囲気を表現しています。洗濯物も風にたわむれていて、春の楽しさです。

手紙   増田 果音


私の字で私の気持ちを伝えられる手紙

カラフルにペンを使ったり

シールをはったり絵をかいたり

オリジナルの手紙

メールではなく手紙

字がきたなくても

文章が苦手でも

心のこもった手紙は

相手の心のポストに

しっかり届く

手紙を受けとると

心がぽかぽかあたたまる

ずっと残しておける手紙

何度も読み返せる手紙

そんな手紙が私は好きだ
審査員
審査員

電子メールではなく、気持ちをこめたオリジナルの手紙は、仮に字がきれいでなくとも心をこめれば「相手の心のポスト」に届きます。心が心をあたためるのです。

雲   結城 葵


あっ雲がでてる

あの雲は

ハンバーグの形だな

じゅる じゅるる

よだれがたれそうなくらい

ハンバーグが食べたいな

あっそっちの雲は

たまごやきの形だな

じゅる じゅるる

よだれがたれそうなくらい

たまごやきが食べたいな

あっ今日のおべんとう

ハンバーグと

たまごやきだ

いただきまーす
審査員
審査員

雲を見あげたらハンバーグの形のものと、たまごやきの形のもの、それらを食べたい。

おべんとうをあけると、両方が入っていたからうれしい。最後の一言がうれしい。

すごいな   吉田 愛里


ショッピングモールに行った。

歩いていたら前の方で人がばらばらっとあつまった。

なんだろうとみたら車イスのおじさんだった。

みんなが「大丈夫ですか」と声を

かけていた。

「お困りですか」「〇〇しましょうか」

どれも優しい言いかただった。

私は、それを見て親切だと思った。

うれしくなった。

おじさんの顔がすごくニコニコだ

った。

おじさんの周りには、いろんな年

のいろんな人がいた。

おじさんは「ありがとう」「ありがとう」といいながらお辞儀をして帰った。

ずっと見ていた。

うれしかった。

おじさんもうれしかったはず。

私もうれしかった。

おもいやりっていいな。

おもいやりってすごいな。
審査員
審査員

やさしい思いやりと親切心にあふれた光景、それを街で目撃したときのうれしかった気持ちは特別なものでしょう。そのことを正直に書いているところがすばらしい。

ランドセル   渡邉 響


ぼくはランドセル

あの子のランドセルだ

あの子が年長の時に出合ったランドセル

一目見た時からあの子は気に入ってくれた

ぼくは、あの子に買ってもらった時

すごく嬉しかった

あの子もすごく喜んでいた

そして入学してからはぼくを

すごく大事に使ってくれた

毎日背中でしょってくれて嬉しかった

だがそんな日々も一年で終わったのだ

それからというものあの子は

ぼくを雑に使うようになっていった

ぼくは悲しかった

気づけばもう あの子は六年生だった

もうあの子は中学生なんだなと

ランドセルは思った

いよいよ明日は卒業式だった

卒業式の時にその子はランドセルの事を思い出したのだ

卒業式の後、その子は、急いで帰った

そして、その子はランドセルを上にあげ

「ありがとう」と言ってくれたのだ

ランドセルは嬉しかった

そしてランドセルの心は消えたのだった
審査員
審査員

あの子が気に入って使ってくれたランドセル。上級生になると雑に扱われるようになってしまった。しかし卒業式のあと、ランドセルに「ありがとう」と声をかけた。

ひとしずく   渡辺 珠生


悲しくて 悲しかったから

泣こうと思って

泣きたくて 泣きたくなったけど

泣けなくて

それを

声に出して 声に出してたら

雨が降って

雨が降りそそいで そそいで

目に入って

目にたまって たまって

一粒落ちて

一粒落ちて 落ちて

涙が落ちてるみたいで

そうしたら

心が晴れて 心が晴れたから

悲しくなくなって

悲しくなくなった。

悲しくなくなったら

笑顔になった
審査員
審査員

悲しいけど泣けず、声に出したら雨が降ってきて目にたまった。

それが涙みたいに落ちたら心が晴れて、悲しくなくなった。

そして笑顔になったというテンポがいい詩。

第23回矢沢宰賞の審査を終えて

 今年開催されたリオのオリンピック、パラリンピックには、多くのみなさんが一喜一憂されたことでしょう。みごとに獲得したメダルを嚙んで笑うアスリートたちや、くやし涙を拭うアスリートたち。彼らはいずれ劣らず、私たちの想像を超えた厳しい練習を重ねていたはずです。4年後のオリンピックでさらに上に挑戦する選手、今度こそと期待される選手たちも何人かいました。

 「矢沢宰賞」も、メダルを獲得できた人、残念ながら逃した人が毎年います。逃した人は(4年後ではなく)来年奮起してほしいし、入賞した人はさらに上を目ざして挑戦してほしい。スポーツと詩は同じではありませんけれど、共通する要素もあるはずです。

 今年はいつもより多い975編が、全国から寄せられました。うれしい悲鳴をあげながら、作品の山を読ませていただきました。今年の夏の暑さよりももっと熱い作品の山でした。いつものように、地域や学年を考慮することなく作品本位で読ませてもらいました。数が多いことは、それだけすばらしい作品に出会うチャンスが多いわけですから、読む作業はむしろ楽しいものでした。しかも、どの作者の顔もクセも私にはわかりませんから、未知との出会いなのです。

 まず2回ずつ読んで60編あまりにしぼりました。さらにくり返し読んで、最終的に入選以上の39編を苦心の末に選びました。いつもながら終始辛くもスリリングで楽しい作業でした。多くの作品との出会いに、選者として今は「やあ、ありがとう!」の気持ちでいっぱいです。

 今回から「入選作」の配列順は姓名の50音順としました。「入選作」32編のこまかい序列には、深くこだわる意味があまりないと考えるからです。

 まだお顔を知らないみなさんにお会いして、対話できるその日その時間を楽しみにしております。

  • 審査員 八木 忠栄
    1941年見附市生まれ。日大芸術学部卒。
    「現代詩手帳」編集長、銀座セゾン劇場総支配人を歴任。
    現在、個人誌「いちばん寒い場所」主宰。日本現代詩人会理事。青山女子短大講師。
    詩集「きんにくの唄」「八木忠栄詩集」「雲の縁側」(現代詩花椿賞)他多数、エッセイ集「詩人漂流ノート」「落語新時代」他、句集「雪やまず」「身体論」(吟遊俳句賞)。

年ごとの入賞作品のご紹介

最優秀賞受賞者タイトル
第1回(平成6年)山本 妙本当のこと 
第2回(平成7年)山本 妙災害
第3回(平成8年)高橋 美智子小さな翼をこの空へ
第4回(平成9年)野尻 由依大すきなふくばあ
第5回(平成10年)佐藤 夏希お日さまの一日
第6回(平成11年)除村美智代大きなもの
第7回(平成12年)徳田 健ありがとう
第8回(平成13年)井上 朝子おくりもの 
第9回(平成14年)藪田 みゆき今日は一生に一回だけ 
第10回(平成15年)日沖 七瀬韓国地下鉄放火事件の悲劇
第11回(平成16年)佐藤 ななせ抱きしめる
第12回(平成17年)髙島 健祐えんぴつとけしゴム
第13回(平成18年)濱野 沙苗机の中に
第14回(平成19年)田村 美咲おーい!たいようくーん
第15回(平成20年)高橋 菜美空唄
第16回(平成21年)今津 翼冬景色
第17回(平成22年)西田 麻里命に感謝
第18回(平成23年)山谷 圭祐
第19回(平成24年)坂井 真唯クレヨン
第20回(平成25年宮嶋和佳奈広い海
第21回(平成26年)金田一 晴華心樹
第22回(平成27年)安藤 絵美拝啓 お母さん
第23回(平成28年)宮下 月希大好きな音
第24回(平成29年)宮下 月希心のトビラ
第25回(平成30年)阿部 圭佑ものさし
第26回(令和元年)上田 士稀何かのかけら
第27回(令和2年)宮下 音奏大好きな声
第28回(令和3年)横田 惇平ふくきたる夏休み
第29回(令和4年)野田 惺やっと言えた
第30回(令和5年)舘野 絢香気持ちをカタチに 思いを届ける