第25回矢沢宰賞

第25回矢沢宰賞

最優秀賞 ポプラ賞

ものさし   阿部 圭佑


授業中に
ものさしをさわる

開いたり閉じたりしてさわる

ものさしを口にあててみる

ほっぺたにくっつけてみる

肩をたたいてみる

透明なところから先生が見える

この前買いかえた
折りたためるものさし

あくびの口を
ものさしでかくす

たまにノートの上においてみる

少しはやる気になるかな
審査員
審査員

授業中にもかかわらず、折りたたみ式のものさしを口にあててみたり、ほっぺたにくっつけてみたり、先生を見たりして落ちつかない。
そんな自分をしっかり描写している。なかなか授業に集中できず身が入らないようすだ。
やる気を出そうとしている行儀の悪さが、かえってほほえましく感じられるのが、じつは憎めない魅力となっている。
「ほっぺたにくっつけてみる」とか「透明なところから先生が見える」というくり返しが、作品をユーモラスにすると同時にすばらしいものにしている。

奨励賞 ポプラ賞

瓶   金井 美音里


瓶が海に浮いている

ぷかぷかひとりで浮いている

周りに誰もいないのに

ぷかぷかぷかぷか浮いている

あるのは一つ瓶独り

手紙が入っているけれど

開ける人がいないから

届かず留まり出ていかない

独りの瓶の周りには

誰も、誰も、いはしない

誰にも見られず否定もされず

沈みもせずにただたゆたう

自分が誰からも分からなくなって、
海の泡に消えそうで

空気の中に溶けそうで

怖くて怖くて仕方がない

寂しく寂しくてどうしようもない

誰かのモノでないことが怖くて

誰かがそばにいないのが寂しくて

考えることが悲しくなって

手紙を持つのが嫌になる

自分が存在することに
なんの意味も感じなくなって

所詮自分は駄目な奴だって

自分が自分でいることが
駄目な奴なのが悔しくなって

浮くこともままならず

どんどんヒビがはいってく

自分を偽っていくことでしか
その姿を保てなくなるぐらいになる

駄目だ、駄目だって言いきかせても
偽ってでしかいられなくなる

だんだん海に沈んでいって

しだいに心地よくなって

自分が偽りでいることなんて

いつしかどうでもよくなっていく
審査員
審査員

海に浮いている瓶のことをじっくりと観察している作品です。けれども読んで行くと、その瓶はひとりでたゆたう「自分」のことかもしれない。
怖くて寂しくてどうしようもない。どんな手紙が入っているのでしょうか。
自分が自分でいることのむずかしさ、そのことを受けとめて作者は客観的に書いているようです。

ぼくときょうりゅう   中西 悠樹


ぼくはきょうりゅうが大好き

ティラノサウルス、アロサウルス、タノロプス・・・

強くてかっこいいから、会って仲良しになりたい

もし、近くに行ったらぼくは食べられてしまうかな?

でも、ティラノサウルスの目や皮ふをよく見て、ふれてみたいんだ

そして、ティラノサウルスのせ中に乗ってみたい

ゴツゴツして大きなせ中は、きっと学校の屋上より高くて、遠くまで見えるはず

そのまま守門山に登っていっしょにほえてみたら、どちらが大声かな?

それから、寺泊の海に行ってしっぽですべり台遊びもやってみたいな

海の中の古代魚にぼくがおそわれそうになったらティラノサウルスが助けてくれるかな?

ぼくが大好きなきょうりゅう

夏の夜の夢でもいいから会いたいな
審査員
審査員

強くてかっこいいきょうりゅうが大好きなんだね。怖いけど近づきたい。
それだけでなく、「学校の屋上より高く」「守門山」「寺泊の海」という親しい地名が出てきたり、「古代魚」も出てくる。
ただきょうりゅうが大好きというだけでなく、現実を読みこんだことで「夏の夜の夢」は一層ひろがりを加えました。

未来の自分へ自分エール   宮下 月希


まだ見えない自分の想いは、
くり返して強くなるけれど
未完成のまま、まだいる私。

道しるべはないから
何が正しいのかわからない。

誰に聞いたってわからない。

誰かと比べたって何も始まらないから
一歩を踏み出そう!

このまま自分がどうしたいか、わからずに
ありのままの自分でいたいから
逃げてばかりのプライドを捨てて
ありのままでいよう。

リプレイが出来ない今を大切に生きたい。
未来には、終わらない答えがある。

このまま留まってしまえば、痛みと悩みはそこに置きざり。

目指す目標を決めたなら

目指す覚悟を決めたなら

胸に手を当てて自分に聞いてみよう

今やりたいことは、何なのか?

未来の希望は自分で切り開く
自問自答してみよう。

答えは一つではない
一つではない答えからたくさん吸収して
いっぱい、いっぱい
いろんな道を探そう

どの道を行ったってまちがえはない
どれを選んだって、全部に意味がある。

得るものがある。

そこから自分が、求めるものを探し
大人になっていくのだから…

まだ、未来へ続く道は長い。

だから、ゆっくり、ゆっくり
自分を見つめて歩いてゆこう
きっとそこは、希望がみちている。

後ろを見ないで、前を向いて、まだ見ぬ
明日へ、未来へたどりつこう
きっと答えはそこにある。
審査員
審査員

成長過程にある未完成の自分をよく見つめ、未来の希望に向かって自分で切り開いて進んで行こうという信念。
しかし「何が正しいのか」は自問自答しても、はっきりとわからない。
答えはわからないが、「今を大切に」前向きにゆっくり進んで行くしかない。
小学校六年生にしては大人っぽい思考が渦巻いている。

ボール   岡村 翼


僕はボール。

誰かに買われるのを
今か今かと
待っている

皆が僕を横目で見ながら
通り過ぎていく

やっと買ってくれる人がいた

それは十才くらいの
男の子である

僕はすぐに
男の子に使ってもらった

その子はサッカークラブに入って
間もないようだ

とても上手とは言えなく
いつも試合をベンチで
見守っているような子だった

しかしその子は
毎日毎日僕をけり続けて
一生懸命練習をした

おかげで僕はボロボロの
カラダになっていた

二年が過ち
僕はその子に使われなくなっていた

物置から僕を引っ張り出してけった

あれからメキメキと上達していた

彼は僕を持ち「ありがとう」と言った

僕もうれしい気持ちになった

今から僕は清掃工場に運ばれて
燃やされてしまうのだ
審査員
審査員

自分をサッカーボールに見立てた作品。ずっと売れなかったのだろうが、男の子が買い、サッカークラブに入った。
毎日練習に使われたのでボロボロになってしまい、使われなくなったボールに対して「ありがとう」の言葉。
男の子はいい選手になったのだろう。やがて燃やされても、ボールにとっては本望であろう。

箪笥   山田 昴也


みんな、頭のなかに箪笥があります

ある人の引き出しでは
喜び 怒り 哀しみ 楽しみ
感情を四つに分けて、収納されています

だから 状況に応じて
どれを着こなすべきか 分かっています

また ある人の引き出しでは
「喜び」 に 怒りを
「楽しみ」 に 哀しみを
こっそり 仕舞い込んでいます

だから 気分に応じて
どれを 着こなせば
「何」が得られるのか 分かっています

またまた ある人の引き出しでは
生産しつづけている感情を
消費できないまま
次々と押し込んでいくので 常に満員です

だから もうすぐで
溢れ返りそうになると 悩んでいます

順番が回って・・・
僕の引き出しでは
感情をうまく整理できないので
散文的になっています

だから 生活そのものに苛まれて
着る行為でさえ 面倒臭くなっています

ほんとうは 裸になりたい

だけど 世間体を気にするので
みんな 頭のなかに箪笥があります

さて 今日
あなたは 引き出しを開けて
どれから 着ようと
考えていますか?
審査員
審査員

いきなり「みんな、頭のなかに箪笥がある」という発想はおもしろい。
箪笥の大きさも引き出しの数や種類や中身も、人によってもちろん違いがあるでしょう。
収納の仕方も一律ではありません。感情が「常に満員」ということも、なるほどあり得ることです。
引き出しを開けて「何を着ようか?」と迷う人も多い。

入選

『木の命』   浅野 朔


生きる
そのために栄養をつくる
そのために水を吸いとる

生きる
そのために実を落とす
そのために種を落とす

だけど
人間にふまれてしまう
人間にふみつけられる

人間は
人間は土をふむ様に
大切な命をふんでいる
審査員
審査員

木が生きていることをあれこれむずかしく表現したら、きりがありません。
作者は生きる木のことを素直に簡略に書きました。木を無神経にふみつける人間のことも、反省をこめて。

あさがお   五十嵐 蒼真


あさがおは早おきだ

ぼくより早くおきて
「おはよう」ってわらう

むらさき、ピンク、あお
色とりどりな
大きなえがお

今日もやっぱり
先をこされた

あさがおは早おきだ
審査員
審査員

いつも自分より早起きして、花を咲かせているあさがおに対する喜びとくやしさがあります。
でも色とりどりでうれしいのです。「わらう」とか「えがお」というのは花が咲く意味。

神様のおくり物   石垣 愛華


いつもの朝
あれ愛犬の姿がない

こたつをめくると
死んだ愛犬の姿

今でも分かる

愛犬のにおい
愛犬の毛
愛犬の寝顔

思い出すだけで
涙がでる

死の前日いっぱい遊ばせてくれたのは
神様のおくりものなのかな

一つの命がなくなるだけで
こんな悲しい物なのか
審査員
審査員

ある朝、愛犬が死んだ悲しみ。思い出はたくさんあるけれど、前日いっぱい遊べたことを「神様のおくりもの」と考えれば、せめてもの慰め。
悲しいけれど、暗くはない作品になった。

私の夏   石月 鈴


今年の夏は特に暑い そこで
第一挑戦者はウチワー
温風が来る!

第二挑戦者はセンプッキィ
ぬるいっ!

第三挑戦者はレイボーウ設定温度26℃!
すずしくなるまでもうすこしかかりそう

第四挑戦者はコオリミッズ
かわいたのどにヒット!

第五挑戦者はアイスックリィームー
つめたい+おいしい!

第三挑戦者のレイボーウが
いい感じにすずしくなってきたー!

勝者は…

コオリミッズ 三位!
アイスックリィームー 二位!
レイボーウ 一位!

この三者に拍手を!

私はこんな夏にする
審査員
審査員

暑さに対する決まりきった「夏の挑戦者」を、作者は「センプッキィ」(センプーキ)「コオリミッズ」(コオリミズ)などと、自分流の表現をしている。
その大胆さを評価します。

スカイツリー   大﨑 希美


わたしはあなたにいいたいことがある

なんでとがっているの

なんでスカイツリーって名前なの

なんでそんなにせが高いの

とんがっていると雲がささっちゃう

その名前カッコイイね

わたしもせが高くなりたいなあ

こんど、てんぼう台までいかせてね
審査員
審査員

スカイツリーにぶつける素直な気持ちが表れていて、じつに楽しい。「雲がささっちゃう」というフレーズをふくむ第二連も愉快です。
今度はてんぼう台までのぼった詩を書いてね。

かけがえのない親友   大野 ほの美


母が昔につくってくれたアルバム

今では汚れているけれど
重みのあるアルバム

私はこのアルバムが大好きだ

ペラペラと
めくる
めくる

懐かしさと一緒に
脳裏には写真の情景が浮ぶ

「あ。」

一枚の写真を見て手が止まってしまった

そして切ない気持ちになった

六年前に転校してしまった親友だった

六年も前のことだけど

今でもしっかりと覚えている

「友達になろう。」

そう言ってくれたあの日のことも

それなのに
私はその子と
ちゃんとお別れができなかった

その子との最後に泣きたくないから
悲しくなってしまいそうだったから
私はそそくさと家に帰ってしまった

るなちゃん

こうして考えているときにも彼女は必ずどこかで頑張っているんだ
笑っているんだ
そう思えた

そして私も頑張ろうと思える

ときにくじけそうになっても
立ち上がるんだ

私に勇気を与えてくれて
ありがとう

るなちゃん

私はこのアルバムを見るといつもこういう気持ちになる

大切な時間にさせてくれる

だから私はこのアルバムが大好きだ
審査員
審査員

アルバムを見て、転校して行った親友のこと、ちゃんとお別れができなかったことを悔いている。
でも、どこかで彼女も頑張っていると考えると、自分の気持ちも元気になってくる。

いっぽんの木   大野 龍盛


いっぽんの木はいいな
ひとりでたっているから。

ぼく、
いっぽんの木になりたい

すごくおおきな
ぼくの木に、
とりやむしがきたら
おもしろいだろうな。

ひとがやすみにきたら
おもしろいだろうな。

いっぽんの木は、
かっこよくて
ちからもち。
審査員
審査員

いっぽんの木になりたいという、じぶんのあこがれのきもちを、しょうじきに書いています。なるほど、とりやむしやひとがくるからおもしろいだろうね。
でもつらいこともあるよ。

お好み焼き   岡崎 さくら


母の帰りが遅い日に
「今日は私が作るから」と
夕飯係を申し出た

メニューはお好み焼き

大張り切りで

朝十時
歩いてキャベツを買いに行き

おやつの時間、まだ三時
もうキャベツをトントンみじん切り

夕方四時半
早く作り始めすぎてもう完成

夜六時
やっとみんなでいただきます

母が作ると厚くてふわふわ
私が作ると薄っぺらい

なのにみんな
「おいしい、おいしい」だって

今日は私の心が
ポカポカ ふわふわ
審査員
審査員

夕飯作りを申し出てお好み焼きを作る。張りきって早く作ってしまった肝心のお好み焼きは、母が作るのにはおよばず薄っぺらい。
でも、みんながおいしがって食べてくれたうれしさ。

宇宙の地球   岡田 海羽


この世で一番大きな星は
地球でもなくて 太陽でもなくて
他の星でもないんだ

赤い星 白い星 青い星
その星は 一生 その色だけれど
私たちの心の中にある星

それは 一生のうちに いろんな色や形にかわることができる

一つの星だけど たくさんの色を
持っている

いろんなものが 混ざり合って いろんな形の
この宇宙にある どんな
星よりも大きく輝いているんだ
審査員
審査員

宇宙にはたくさんの星が、さまざまな光をはなっているけれど、「心のなかにある星」があって、「どんな星よりも大きくかがやいている」という作者のはっけんにこそ価値がある。

わたしと白杖   大友 雅


わたしが白杖と出会ったのは
小学部に入ってからだ

初めは白杖がうまく扱えるか不安だった

白杖の先を肩幅で振るのが難しかった

手首が痛くなった

横断歩道を渡る時
耳を澄まして聞いた

車が来ないか
ドキドキした

白杖は障害物の存在を教えてくれる

白杖は歩くためになくてはならないもの

今では学校の敷地内や
坂道を下りたバス停にも行ける

バスにも乗れる

今までありがとう
これからもよろしく

わたしの白杖
審査員
審査員

初めは白杖がうまく扱えず、「ドキドキした」けれど、やがて扱いなれて「歩くためになくてはならないもの」になった。
分身みたいな杖に対する心からの「ありがとう」の気持ち。

木の気持ち   角田 優那


私は野原の中に立っている

目立たない木

みんな私に目も向けない

だけど違ったんだ

いつものように
空を見ていたんだ
青く広い空を

いつも考える
「私はなんでここに生えたんだ」

遠くではいろんな木が
いっぱい生えている
いつも楽しそうだ

こんな自分が大嫌いだ
いつも人なんか来ないのに
ある一人の女の子が来た

その子は私の側に来て座った
そしてこう言ったんだ
「悲しそうだね」

なぜ分かるんだろうか
「いつも見てるけど楽しそうなのを
見たことがないよ」

いつも見てる?
「木さんが悲しいと私も悲しいよ」
「…じゃあね」

女の子はいつも見てると言っていた
この私を…?

誰も見ないただジャマなだけかと
ずっと思っていた。

私はいつの間にか
涙であふれていた
生きてて良かった
審査員
審査員

遠くではさまざまな木がいつも楽しげなのに、私は野中に立つ木。木も「一人の女の子」も、じつは作者の分身なのかもしれない。
一本の木も一人の女の子もしっかり生きている。

今   神戸 天飛


すぎた時間はしらす
すぐに鮮度が落ちる

未来の時間は浪費家
楽しみを貸してくれる

でもぼくは過去にも未来にもいない
永遠の今に閉じこめられている

時間は集合体
時間分子がDNAのらせん構造のようにつながっている

昨日今日明日の順番で出来ているこの順番は絶対に変わらない
だけど一生に二回だけ特別な日がある

昨日がない日と明日がない日
はじまりの日と終わりの日
どちらも記憶がないのは残念だ

ぼくは絶対に行けない明日に向って生きている

今は一瞬で過去になる
そして過去は人生になる

だから今だけを生きる
心臓の鼓動がコトンと言った

たった今、今が終わった
審査員
審査員

一見むずかしそうな作品。でも、テーマは「過去(昨日)〜現在(今日)〜未来(明日)」をテーマにしている。
誰にも過去〜現在〜未来があるけれど、一瞬の今を生きている。

わらった   小林 実央


わらった。

先生としゃべりながらわらった。

わたしは、下校の時間をおくらせながら、先生とみんなでわらった。

先生が「もう帰ろう。」言うまでしゃべりながらわらった。

わたしの学校に来てからの仕事は、勉強することじゃない。

わたしの仕事は先生をわらわせることです。

わたしは、一日先生やだれかをわらわせて、自分もわらうことである。

もしも先生やだれかを一回でもわらわせなかったら
元気が出ないのでかなしくなります。

まい日先生に会うのをたのしみに学校に来てるのでたのしいです。
審査員
審査員

学校へ行く「わたしの仕事は先生を笑わせること」とは、いやあ大胆です。
だれかや自分をも笑わせるんだって。いったいどんなことをしゃべって、周囲を笑わすのか興味津々。

夏の夢   桜井 舞乃


夏の夕焼けまっかっか。

小道も草もまっかっか。

私も君もまっかっか。

赤い夕日に照らされて

全てがすべてまっかっか。

ぼくの夢までまっかっか。

遠くの海までまっかっか。

小さな団地もまっかっか。

すべてが全てまっかっか。
審査員
審査員

「私も君も」「ぼくの夢まで」、そこらじゅうが夕焼けで「まっかっか」とはすごいね。
八回くりかえされる「まっかっか」がここでは効果的です。まさに「夏の夢」そのものです。

かくれんぼ   佐藤 碧


「もういいかい」
私は隠れている子に問いかけた

「まぁだだよ」
あなたは そう言った

「もういいかい」
私は再び問いかけた

「まぁだだよ」
あなたはまた そう言った

「もういいかい」
私は再び問いかけた

「もういいよ」
あなたは そう言った

私は すぐに叫んだ

「みーつけた」

あなたは小さな植物の芽
春のはじまりを教えてくれる

私はあなたとのかくれんぼを楽しみにし
かけ足で帰路をたどった
審査員
審査員

友だちとかくれんぼしているのかと思って読んでいったら、春の植物の芽に問いかけていたのだから、びっくりして思わずうれしくなってしまう。
そんなかくれんぼがあってもいい。

「ステージの上で」   佐野 愛理(見附市)


ある日レッスンの日

「この四人で出てみない?」
と、先生に声をかけられ

「おもしろそう!」
「やりたい!」

と、二つ返事をした私たち

それから、いつものピアノ練習とは
ちょっとちがった練習が始まった。

エレクトーン
ダンス
歌

衣しょうを決めて
小道具を作って
練習は毎回わくわくした

ちいさいときからずっと四人でやってきた

初めて会った時は 恥ずかしくて
なかなか話せなかった

でも もう一緒にやって 七年
一人一人のこと 手にとるように分かる

四人一緒だと楽しくて
ついついふざけて 怒られることもあったけど

四人一緒だと楽しくて
時間が経つのも忘れて みんなで練習したこともあったけど

もう あと少しでこの楽しい時間は終わる
だから 悔いが残らないよう 四人で精一杯
ステージで発表する

さあ!次は私たちの番だ!
審査員
審査員

仲良しの四人で発表会のステージにあがることになった。
そのレッスンは楽しさの時間であると同時に緊張感もあるはずですが、いい思い出になるでしょう。
さあ、次が出番だ!

くも   新道 葵(群馬県)


くもが泳いでいる

空を泳いでいる

ラムネのような澄んだ空を

サイダーのような透きとおった空を

わたあめのような雲が

のんびり

やわらかに

泳いでいる

心を弾ませて
楽しげに意気揚々と空にのぼっていった

昨日の入道雲
しんみりと
悲しみを埋めるように連なっていった

今朝の雨雲たち
胸を踊らせて
ちびっこのようにはしゃぐ

昨日とは違った表情をしたさっきの入道雲
そのときのキモチで
表情を変えて
そのときの気分で
カタチを変える

自分のキモチを
そのままの表情で表している

仲間と一緒に過ごしていても
一人ぼっちで過ごしていても

くもは
堂々とありのままの素直な自分でいる

そんなくもの姿を見てたら
細かいことを気にしないで
「一人ぼっち」でもいいのかな

そう思える自分が
一人ぼっちで
空を見上げていた
審査員
審査員

空を泳いでいるくもをずっと見上げています。くもの楽しげなようす哀しげなようす、その表情は見上げている人の心のあり方でちがって見えます。
ときには「一人ぼっち」もいい。

とっても楽しい時間   関 崇晴


かえるも下校ゲコゲコ

ブタにぶたれてぶったまげた

ハゲをはげます

坂でサッカー

サメに食われて目がさめた

すいかはやすいか

げたでにげたげたがぬげたおったまげた

つくえの上のキャベツくえ

イカがいかった

ウマがうまってでんわにでんわ

りっぱなスリッパ

ロシアのころしあおそろしあ

ダジャレを言っている時間が
ぼくの一番の楽しい時間だ
審査員
審査員

ダジャレを徹底的にフルにかさねた詩。ときにこういう詩で言葉遊びをしてみるのもいいでしょう。
「げたでにげたげたがぬげたおったまげた」という行など、徹底しています。

奇跡   髙藤 隼


今生きている「自分」は
前の先祖が
前の前の先祖が
ひょんな事で
出会ってなかったら
今生きている「自分」は
いなかったかもしれない

父がささいな事で
忘れ物をしなかったら
今生きている「自分」は
いなかったかもしれない

母が父の忘れ物を
走って届けに来てくれなかったら
今生きている「自分」は
いなかったかもしれない

そんな奇跡が連続して
今がある

何十年 何百年もの
奇跡を経て
今を生きている

でも何十年 何百年後には
この奇跡が続いているのかは
わからない

大丈夫
自分で作ればいい
そうやって続いてきたのだから
自分にそんな事ができるのか

大丈夫
君もまたその「奇跡」によって生まれた
人間なのだから
審査員
審査員

自分が今生きていることを「奇跡」としてとらえ、そのルーツを探ったりして考えをめぐらしている。
「奇跡」がいくつも重なって現在があるのかもしれない。不可解と言えるかも。

どんなものでも   竹石 愛


ぼくは木です

ただ立っている木

花はない 緑だけの
ただ立っている木

ひまわりみたいにおしゃれになりたい

雲みたいにのんびりうごきたい

太陽みたいに輝きたい

クワガタみたいに強くなりたい

ただの木じゃものたりない

ぼくは木です

ただ立っている木

花はない 緑だけの
ただ立っている木 だけど
葉っぱで地面をおしゃれにできる

みんなが木かげでのんびりできる

水や光で強くなれる

どんなものでも すごくなれる
審査員
審査員

「ただ立っている木」に自分をなぞらえている。花も緑もなくおしゃれもできない、立っているだけで動けない木。
でも、みんなが木かげにやってきて、のんびりしてくれる喜び。

雲と一緒に   田中 彩葉


空を見上げると、そこには雲があった

大きくもなく小さくもない。ちょうど良いサイズの雲が

私が「やあ」と声をかけると、
同じく「やあ」と言ってくれる

雲に、どこへ行くのか聞かれたので
「ちょっとそこまで」とだけ言った

歩くと同じ速さでついてくる雲
止まると一緒に止まる雲
走ってもついて来てくれる雲
だけれどいつしかいなくなっている雲

今日はもう会えなくても明日がくれば
また会える。そう思うから私はずっと、
明日にむかって歩き続ける

雲と一緒に歩き続ける。
審査員
審査員

空の雲と「やあ」と声をかけあう。歩くとついてくる、走れば走ってくる。一緒に止まる。
いつも友だちなのだ。いつしかいなくなっても明日になればまた会える。仲良しは一緒。

お盆   寺嶌 壮志朗


島根のじいちゃんは、六年前に亡くなった

お盆になるとわたしは島根に行く

亡くなったじいちゃんも
お盆になると帰ってくるらしい

わたしはまだ会った事はないが
じいちゃんのために
だんごをつくってまっている

いまかいまかとじいちゃんを
こころまちにしている

きゅうりの馬に乗って帰るらしいが
じいちゃんはふりおとされないか
かなりしんぱいだ

もどる時はなすの牛に乗ってもどる
牛はゆっくりあるくから
ゆっくりともどるらしい

今年こそじいちゃんに
会えますように
審査員
審査員

亡くなったじいちゃんに会いにお盆に島根へ行く。まだ会ったことがない。きゅうりの馬からふりおとされないようにと心配する。
一途な気持ちがいい。今年こそは会えたのかな?

シンデレラタイム   永井 雪華


あなたとわたしの影は重ならない

時計の長針と短針が
なかなか重ならないように

あなたはだれとも重ならない

あなたはいつもひとりさみしそう

けれどわたしが勇気を出して
あなたに声をかけ

あなたが友達になってくれたら
あなたもわたしもひとりじゃない

長針と短針が重なる十二時
あなたとわたしのシンデレラタイム
審査員
審査員

「あなた」と「わたし」は時計の長針と短針のように重ならない。だからといって、両者がたださみしそうにしているだけでは友だちになれない。
勇気を出して声をかけ合おう。

冬とアイス   中川 莉緒


ほわほわアイスからゆげ

なぜだろう?

ここは部屋だから、温かいのに
なぜだろう?

空は寒いだがなぜアイスがほしくなる

もしかして、自分にかけられたま法かな、
それとも、のろいなのかな 冬はちょっと
こわい

なぜだろう?
アイスは食べ終わった

もう一こと胃がコンサートの、アンコールみたいにさけぶ

早く冬が終わってほしと、思ったら
また胃がゆってきた グ~と、

なぜだろう?
審査員
審査員

寒くてもアイスがほしくなることがある。「ま法」か「のろい」かと怖がるところ、「胃がコンサートの、アンコールみたいにさけぶ」ところ、「なぜだろう?」のくり返しも愉快。

生きたって いいじゃない   永野 省吾


生きたって いいじゃない

障害があったって

うでがなくたって

目が見えなくたって

生きたって いいじゃない

音が聴こえなくたって

声がまったく出せなくたって

人とちょっとちがったって

生きたって いいじゃない

それは個性であり

他人にはない物である

個性を持っている人は
世界がちがって見えるだろう

障害は個性であり
その人だけが持っている物だ

人の役に立ちたと努力する人だって

生きたって いいじゃない
審査員
審査員

ややもすると負けそうになって落ちこむ自分を、力いっぱい鼓舞している詩ではないでしょうか。
そう、「個性」を生かすこと。「生きたって いいじゃない」のくり返しはその通り。

いろんなおとのあめ   名古屋 侑翔


あめあめ

いろんなおとのあめ

はっぱにあたってぴとん

まどにあたってぱちん

かさにあたってぱらん

くるまのやねにとてん

じてんしゃにあたってぽつん

じぶんにあたってしゅるん

せんたくものにあたってぽつ

ホウセンカにあたってしとん

てのひらにあたってぽとん

こいぬのはなにぴこん

ほっぺたにあたってぷちん

かえるのせなかにぴたん

あめのおとがすき
音がおもしろいから

楽しい音がききたい


※岸田衿子『いろんなおとのあめ』より引用あり。
審査員
審査員

あたるものによって、あめの音はおなじではありません。あめの音をよくききわけました。
「ぴとん」とか「しゅるん」「ぴこん」とか、きまりきった音ではなく、いろんな音がある。

夏野菜   西 葉菜


トマトはいつも晴れている

きゅうりは雨のようにみずみずしい

とうもろこしは星のような粒

枝豆はプチットはじける水しぶき

レタスはたつまきのようなからだ

ゴーヤはかみなりのようにごろごろしてる

なすはまるで大きなしずくのよう

全部大地のめぐみ

いっただきます
審査員
審査員

夏野菜の特徴を自分流に独自に表現している。詩はそういうとらえ方でなくてはなりません。
夏野菜が好きだからよく観察して、表現できているのです。「いっただきます」もいい。

おかあさんのこころのこえ   濱野 さくら


私のおかあさんは 

私のことがあんまり
 
すきじゃないか 

すきなのか 

わからないが

私のおかあさんは
こどもがだいきらいなんだ

だから私のおかあさんは 
私のことがきらいなんだ
 
ほんとは 
私じゃなくってあかちゃんがすきなんだ

でもこんなに私のことがきらいでも 
やだともいわずそだててくれた
 
ほんとうにすきなのかな
 
でも私のおかあさんは 
ほんとうに私のこときらいなんじゃないの

やだともいわずそだててくれてありがとう

ほんとうにほんとうにありがとう
審査員
審査員

おかあさんが私をすきかきらいか、すなおにぎもんをぶつける、そこにひかれた。
たとえことばに出さなくても、わが子がきらいなおかあさんはいない。詩も「ありがとう」でおわる。

なみだ   広瀬 あずみ


だれだって涙をながす

つらいとき

くやしいとき

うれしいとき

かんどうするとき

様々な感情をもって涙をながす

ながしたくてながしているわけではないのに
私の目からは涙がこぼれる

その涙に私の心の声がつまっている

誰かに届けたい私の声が一粒おちていく

あなたに拾ってほしいその涙

もしあなたが拾ってくれたら

本当の私の心の気持ちが

きっと
分かるはず

私の涙が拾えなかったら

あなたが拾える涙を探して
拾って下さい。
審査員
審査員

人はさまざまな涙をながす。その涙の意味は一律ではないが、理解してほしい。
涙に「私の心の声がつまっている」という認識はすばらしい。人の涙を「拾う」という大事なこと。

虹色の涙   山田 彩花


悔しいとき、次への決意と力強さで流す涙は赤色。

不安になったとき、自分に問いかけ、
流す涙は青色。

隣で一緒に泣いたとき、
流す涙は癒しの森の緑色。

思いやりの心で流す、愛と優しさに包まれた涙は桃色。

何も無駄な涙なんてない。

自分の色で彩っていこう。

ふと、そんなことを考えて、空を見上げたら、いつもより笑顔になれた気がした。
審査員
審査員

いろいろな涙があるように涙にはいろいろな色がある、ということ。赤、青、緑、桃色など、虹の色にも似ている、そうかもしれない。
どんな涙もきっと「自分の色」をもっている。

ぼくのすいか   山田 大翔


暑い 暑い 日差しの下

緑のつるや 葉っぱのかげに
すいかが ゴロゴロ

畑の中にある

大きいものも 小さいのも
丸っこいのも
少しほそ長いのも

色んな形がある

きめた!

ぼくは、
この一番大きいすいかを
とるぞ
審査員
審査員

暑い日差しの下で、畑にはスイカがゴロゴロと育っている。大きさもかたちもさまざま。それだけでもスイカ畑はにぎやかそうだ。
もちろん、ぼくは「一番大きいすいか」をとる。

いろんな音のカミナリ   米倉 諒


カミナリ カミナリ

いろんな音の カミナリ

みちにあたって ばつん

やねにあたって どかん

あめといっしょに どっかん

水たまりにあたって ばっしゃん

木にあたって ばっつん

がらくたにあたって ぶっつん

ゴミにあたって べっちん

うみにあたって ばしゃん

すなにあたって ばっん

山にあたって どどどっかん

カミナリ カミナリ

いろんな音のカミナリ
審査員
審査員

カミナリのいろんな音を作者は聞きとりました。「ばつん」「べっちん」「ばしゃん」……耳をすませ想像力をはたらかせれば、そんなふうに聞こえるのだろう。
カミナリって愉快だ。

ありがとう   渡邉 悠詩


今日もお酒をじいちゃんについだ

じいちゃんはいつも喜んで

「ありがとう」

と ぼくに言う

今日は 氷をいっぱいにしてあげた

そしたら

「おお すごい ありがとう」

と笑顔で言われた

もっと言われたいな

その日 花の水やりをしたら

お母さんが とっても笑顔で

「ありがとう」

と言ってくれた

ありがとう

とってもうれしくなる言葉

もっと言われたいな

「ありがとう」
審査員
審査員

お手伝いをすれば、じいちゃんもお母さんも笑顔で「ありがとう」と言ってくれる。うれしいことばを「もっと言われたい」ね。
言われるだけでなく、だれかに言ってあげることも。

第25回矢沢宰賞の審査を終えて

 はじめに私事で恐縮ですが、9月に見附市内の二つの小学校で詩の出前授業を行いました。午前中、矢沢宰さんの母校である小学校の5・6年生の前で、矢沢宰の詩について具体的な鑑賞と、どのように詩を書いたらいいかということをお話しました。生徒さんが熱心にメモをとる音が高く響いていて驚きました。

 終わってから全校の生徒さんと一緒に、秋らしい給食を食べました。午後は別の小学校(私の母校)に移動して、5・6年生が書いた詩について批評し、詩の書き方についてもお話しました。私にとって貴重な体験でした。

 それらがすんで間もなくして、「矢沢宰賞」の応募作品が事務局から段ボール箱でドサッと送られてきました。全国から寄せられた、昨年よりずっと多い1,089編です。学校や学年単位でまとめて応募された作品、個人的に送られた作品など、いつものようにさまざまです。
 
 段ボール箱に、応募作品はきちんと行儀よくおさまっていたけれど、書かれている作品の表情はみなちがう世界をかかえていました。

 それらを書き、応募された人たちが学校でどんなふうに勉強をし、部活などでどんなにがんばっているのか、私にはわかりません。友だちとの時間をどう過ごしているのか、家で毎日何をしているのか、私にはまったくわかりません。

 作品のすべてを一編ずつ読むとき、私はそこに書かれた作品の世界にだけ集中しますから、余計なことを考えめぐらす余地はありません。
 
 学校やその所在地も考慮しません。(冒頭に書いた2つの小学校にうかがったのは「矢沢宰賞」への応募後でした。)
 
 全作品を読んで、最初に九十編ほどにしぼり、さらに2回ほど読み返して59編とし、最終的に入選以上の39編を残しました。

 「入選作」の配列順は前回同様、姓名の50音順としました。
今年も「生命の詩の集い」の会場でみなさんに初めてお会いして、対話できるのを今から楽しみにしております。

  • 審査員 八木 忠栄
    1941年見附市生まれ。日大芸術学部卒。
    「現代詩手帳」編集長、銀座セゾン劇場総支配人を歴任。
    現在、個人誌「いちばん寒い場所」主宰。日本現代詩人会理事。青山女子短大講師。
    詩集「きんにくの唄」「八木忠栄詩集」「雲の縁側」(現代詩花椿賞)他多数、エッセイ集「詩人漂流ノート」「落語新時代」他、句集「雪やまず」「身体論」(吟遊俳句賞)。

年ごとの入賞作品のご紹介

最優秀賞受賞者タイトル
第1回(平成6年)山本 妙本当のこと 
第2回(平成7年)山本 妙災害
第3回(平成8年)高橋 美智子小さな翼をこの空へ
第4回(平成9年)野尻 由依大すきなふくばあ
第5回(平成10年)佐藤 夏希お日さまの一日
第6回(平成11年)除村美智代大きなもの
第7回(平成12年)徳田 健ありがとう
第8回(平成13年)井上 朝子おくりもの 
第9回(平成14年)藪田 みゆき今日は一生に一回だけ 
第10回(平成15年)日沖 七瀬韓国地下鉄放火事件の悲劇
第11回(平成16年)佐藤 ななせ抱きしめる
第12回(平成17年)髙島 健祐えんぴつとけしゴム
第13回(平成18年)濱野 沙苗机の中に
第14回(平成19年)田村 美咲おーい!たいようくーん
第15回(平成20年)高橋 菜美空唄
第16回(平成21年)今津 翼冬景色
第17回(平成22年)西田 麻里命に感謝
第18回(平成23年)山谷 圭祐
第19回(平成24年)坂井 真唯クレヨン
第20回(平成25年宮嶋和佳奈広い海
第21回(平成26年)金田一 晴華心樹
第22回(平成27年)安藤 絵美拝啓 お母さん
第23回(平成28年)宮下 月希大好きな音
第24回(平成29年)宮下 月希心のトビラ
第25回(平成30年)阿部 圭佑ものさし
第26回(令和元年)上田 士稀何かのかけら
第27回(令和2年)宮下 音奏大好きな声
第28回(令和3年)横田 惇平ふくきたる夏休み
第29回(令和4年)野田 惺やっと言えた
第30回(令和5年)舘野 絢香気持ちをカタチに 思いを届ける