第4回矢沢宰賞

第4回矢沢宰賞

最優秀賞

大すきなふくばあ   野尻 由依

ふくばあが死にました

私はさびしいです

おねえちゃんとおばあちゃんはなきました

お父さんもなきました

だけど私はなきませんでした

バクバクがじゃまでふくばあのかおが見えませんでした


ふくばあのおはかまいりにいきました

水やって 手をあわせて きました

私は天国にいったとばかりおもっていて

ふくばあがおはかの中にいたこと

しりませんでした


ふくばあ 元気

私は 元気だよ

きいろいかたかけ ありがとう

あったかいよ

たからものにするね

天国にいるふくばあへ
審査員
審査員

第1連はふくばあの死の様子、第2連は死後の世界が天国とお墓の中と2つあることの驚き、第3連は大すきなふくばあがいると信じる天国への静かな語りかけで作品ができています。
読むと、ふくばあがいる天国は由依さんの心の中にある、そこで死者は生き続けていることがわかります。
目に見えない天国という心の中の世界を、言葉がうかびあがらせました。
由依さんは人工呼吸器をつけており、バクバクとはその人工呼吸器の一部だと思います。字は、筆を口にくわえてひとつひとつ書いたものです。
ふくばあが、目を細めて聞いています。由依さんの心の中の世界は、詩を書く力で広がり始めました。今後に期待しています。

奨励賞

ゆめ   白川雄太郎

きのうゆめを見た

花びらが

ゆうとばあちゃんを囲んだ

花びらの妖精がおった

二人おった

赤い羽根があった

妖精が

ゆうとばあちゃんを運んでくれた

あれは ゆめね

  (注)ゆう・雄太郎・本人
審査員
審査員

読むと、涙が生まれてきます。ゆうは生まれ、ばあちゃんも生まれ、やがて2人とも死んでいきます。
花びらに囲まれている姿が、そう教えています。でも、花びらには妖精がおって、ゆうとばあちゃんに1人ずつおって、2人が生きている長さを見守ってくれているのです。ほっとします。
ばあちゃんのゆうに対する深い愛情を感じます。
ゆめで、ゆうは自分の一生をみたのかもしれません。
ゆうがじいちゃんになった日にも、花びらが舞い、妖精がゆうと孫のちいさないのちを守ってくれることでしょう。

夕日   中谷正浩


朝日は

ゆっくりのぼっていく

夕日は

ほんのいっしゅんだけ

そのいっしゅんを

ぼくはずっとながめている
審査員
審査員

朝日と夕日の観察が正確になされています。
でも沈もうとする夕日は、なぜあんなにいさぎよいのでしょう。
朝日は生まれてから成長期にある正浩くんたちのすがすがしさをイメージさせます。
夕日はピークを過ぎて失われていくさまざまなものの光りをイメージさせます。
夕日の一瞬の美しさを、ずっとながめたくなる中谷君の気持ちは、自分の中に沈む一日という時間の短さと大切さに気づいているから、生まれるのだと思います。

秋   池松綾子


秋が来て

青い空と

とけ合って

ちょっと切ない

気分になる

コスモスも

鳥も

すすきも

人間も
審査員
審査員

綾子さんの目の奥には、くっきりと、秋の青い空が残されています。
またあなたに秋が来て、その記憶の中の青空が全身に広がっていきます。
あなたの目が覚えているコスモス、鳥、すすき、誰もが、秋の青いせつなさに気づきます。あなたの秋が、見事に表現され、その空の下に僕もいるような気持ちになります。

ちりとりとほうきとごみ箱   勝本幹夫


ちりとりとほうき

おいてある時は

いつもいっしょ

ほうきでごみを

ちりとりの中に入れる

人の家庭だって同じ

ほうきは父ちゃん

ちりとりは母ちゃん

ごみはお金

ごみ箱は店

父ちゃんがかせいで

母ちゃんの手にわたり

母ちゃんが店で物を買う

ほうき

ちりとり

ごみ箱

きってもきれない

関係だ
審査員
審査員

父ちゃんは「ほうき」。「ごみ」はお金。「ちりとり」は母ちゃん「ごみ」をたくわえる「ごみ箱」は店なんだぞ。
このたとえの正確さとおもしろさに引きつけられました。
黙々と働く御両親にも笑顔がこぼれているようで、幹夫君はその父ちゃん、母ちゃんが大好きで尊敬していることがわかって、家庭ってひとりひとりにとってありがたいな、大切だなあと思わせられるとてもよい作品です。

佳作

未来   加藤 祈


あぁ私のお腹の中は

男の子?

女の子?

どちらでもいいから

元気で

じょうぶで

明るい子に・・・

生まれて
審査員
審査員

男の子からは絶対生まれない異色の作品。
10歳の女の子がもつ「未来」のイメージです。早熟な感性にひかれました。

けんか   佐藤高志


ぼくは毎日

ともゆきとけんかしてしまう。

先生の話を聞けない。

先生におこられっぱなしだ。

むねに

なんかすんでいるのでしょうか。
審査員
審査員

「むねになんかすんでいるのでしょうか。」本気できく、高志君。
その本気さが、ひょっとすると何かいるんじゃないかと、僕に思わせるほどの迫力を持っています。

世界   早瀬戸 渚


ずっと卵の中に住んでいる。

何がおもしろいか、知らない。

まわりは、何も見えない。

まわりに何があるか、

全く知らない。



なんだか、あたたかくなってきた。

光の穴が見えてきた。

まわりも見えてきた。

光があること知らなかった。

まぶしい。

光の言葉、一つ覚えた。
審査員
審査員

何かの卵の中のいのちが、殻を割って外に出るまでの気持ちと様子がかかれています。中にいるのは早瀬戸さん自身かもしれない。
光があることを知ったのが、早瀬戸さんであって欲しいと思います。

くも   田之口萌香


わたしが、まだ、ようちえんのとき、

わたしの、ちかくの、にわで、

あおむけに、なって、ねころんでいたら、

いつのまにか、空を見ていました。

空を見ていたら、

はっと、思った。

くもは、うごいている。

あつくもない、

さむくもない風が、

ゆっくりとふいてくる。

いままでの中で、

一番気もちいい、場しょだった。
審査員
審査員

まだ小さなあなたが、庭で寝ころんで空を見ている。雲があって流れていることに気がついた。
空を動いていく雲と、見上げているあなたをつつむ風があって、今までで一番気持いい場所だった。僕にもそんな場所があったことを思い出しました。

うさぎ   高橋寿弥


ぼくは、

うさぎをだいてみた。

あたたかくて、

あったかーいふとんにはいっているみたいだ。

そのうさぎは、

ただのうさぎじゃなかった。

きょうぼうすぎて、

ぼくの手や、

いろいろな所をひっかかれた。

それでもだいてみた。

気もちがおだやかになるなぁ。
審査員
審査員

最後の2行、それでもだいてみた/気持ちがおだやかになるなあ。
に、うさぎを抱いた高橋君のうさぎ好きの気持ちが、とってもよくあらわれています。

一生懸命   堀田雄大


一生懸命 働いている

人を見ました


一生懸命 光をすいこんでいる

花を見ました



一生懸命 えさを取っている

鳥を見ました


みんな一生懸命…


そして

一生懸命生きている

自分に気付きました
審査員
審査員

堀田君は本当に一生懸命生きているから、ほかの人の一生懸命さがわかるようになったのです。花や鳥でさえ一生懸命生きています。
今、それがよくわかるようになりました。

言えない気もち     渡辺総太


誰かがいじめられていた。

でもぼくは見て見ないふり

だれかが

見えないきこえない悲めいをあげても

みんな見て見ないふり

ぼくは、言おうと思っても

声にだせない

おお声でいいたい

でもなにかがとめる。

そのなにかがわからない

はらからなにかがにえくりかえる。

でもやっぱり言えない自分にはらがたつ

そしてそのまま時間がとまり

ぼくは

なにもできない自分に怒りをたたきつける。
審査員
審査員

いじめられている人が、見えない聞こえない悲めいをあげているのがわかる総太君。
それに対して何も大声で言えない自分もやはり、見えない、聞こえない悲めいをあげている。いじめることの残酷さが、読む者に深く伝わってきます。

時計の電池いれなくちゃ   梶 栄子


Ah 時計が止まった

時計は 急病

早く 手術しなくちゃ

やっぱり 素人のわたし

頭から めんどう心が

顔を出す


時は過ぎるが

僕は 記憶そう失

早く電池を入れてくれ

それが僕の運命



他の時計は しらんぷり

あわれに思うが

しようがない

変わりに 一生懸命

動く 働く 忙しい


他の時計は 知らせてあげる

チクタク チクタク

電池を入れろ 電池を入れろ

わたしは階段を かけ下りる
審査員
審査員

ユーモアとリズム感が気持いい作品。読んでいるとスピード感があって、楽しいアニメーション映画を見ているようです。ああ僕まで階段をかけ下りる!

いえない   堀川彩子


「あんたなんかきらい。」

ほんのささいなことでけんかになった。

頭がカッと熱くなり、

ついさけんでしまった。

かみの毛をひっぱり合い

おたがい、自分は悪くないと思いこんで。



どちらかが、あやまればすむことなのに。

心では、

(あやまらなきゃ)

と思ってる。

頭の中では、火山が

噴火して。

どうしてもいえない

ひと言

たったひと言

そのひと言が、いえなかった。
審査員
審査員

「頭の中では、火山が噴火して。」がおもしろい。
噴火がおさまるのには時間がかかるから、ああそれですぐに「ごめんなさい」と言えないんだなあと納得しました。

まめまき   坂詰友理


かぞくみんなで、まめまきをした。

ピーナッツのにおいが、プーンとしたよ。

おには、おめんのないおにいちゃんおに。

おにいちゃんのあたまに、ピーナッツがあたった。

コッツーン!

ゆりは、

「ふくのかみになって。」と、みんなにいわれたよ。

う~ん、

ふくのかみって、どんなおしごとするのかなあ。
審査員
審査員

「ふくのかみ」のおしごとって、本当になんだろう。
まめまきの日に、何をするんだろう。僕にも分かりません。

もし…私が   長場八枝子


もし私がいじめられたら

たすけなくてもいいよ

でもみまもっててね



もし私がふられたら

なぐさめなくてもいいよ

でもたちなおるまでまっててね


もし私がころんだら

手をさしのべなくてもいいよ

でも立つまでまっててね


もし私が死んだら

泣かなくてもいいよ

でも私のこと忘れないでね
審査員
審査員

すぐ助けやなぐさめを求める人が多いのに、はっきりと、まず自分で何とかするから、と言うあなたに好感をもちます。
そうでなくちゃね。そんな君のこと、誰もが泣いて忘れません。

卒業   垣下奈穂


みんなと別れるのは、

ちょっと悲しい。



でも、

わたしの心を洗って、

きれいな心にして、

中学部へ行こう。

新しい中学生になろう。
審査員
審査員

短い言葉が、新しく中学生になるあなたの気持ちをはっきりと伝えています。
「心を洗って、きれいな心にして、中学部へ行こう」。

まどかちゃんちにいった日   原 拓也


きょう、

まどかちゃんちに あそびにいったよ。

おひめさまごっこやだったから、てつぼうしたよ。

うちで、テレビを見ていて、きがついた。

「メモちょうがない!

まどかちゃんちに、わすれてきた!」

まどかちゃんちのチョコのにおい。

また いこうかな。
審査員
審査員

「あっ、忘れ物をしてきた!」。でも、忘れ物といっしょに、「まどかちゃんちのチョコのにおい」を思い出す。
大好きな友だちの家で遊んだ時の楽しさが、チョコレート味で伝わってきます。

のらねこ   木下尚弥


のらねこは道にいる人を見ると

すぐにげる

えさをやるとちかよる

だからかわいい


のらねこは雨がふると

雨やどりする

だからかわいそう


のらねこは人の家にしのびこむ

ほかのねこのえさをとる

ちょっとわるいことをする

のらねこ

ぼくはそういうのらねこがすきです
審査員
審査員

のらねこは「にげる」、「ちかよる」、「雨やどりする」、「ちょっとわるいことをする」。そんなのらねこの全部が好きだという木下君。
のらねこの姿がいきいきと描かれています。

ぼくのチビ   渡辺洋平


夕方

学校から帰ってくると

いつも

げんかんにすわって

しっぽをふってうれしがるチビ



チビを見ていると

なぜ人間は

動物の言葉が

わからないんだと

ふっとさみしくなる
審査員
審査員

洋平君を見上げてしっぽをふるチビの目。「チビの言葉がわからない」とさみしくなる洋平君のやさしい心。互いの気持ちは言葉を越えて伝わっていきます。

入選

音と一日           赤坂 真理子

つゆ草            磯部 千恵

争いの街           市橋 直美

ゆき             大橋 隆寿

ふとんまじゅつし       岡野 陽一

さいの神           春日 哲

おと             岸 美岐

歌              吉楽 拓也

やまもとくん         古根川 淳一

大いちょう          坂本 正行

トンビ            桜井 悠

雲を見ていると        杉浦 雅紀

試走会            杉山 伸也

天の国            鈴木 ひとみ

パンやさんになりたい     関美 奈斗

負けた気持ち         高野 彩

さみしいおるす番       高山 藤佳

バッタ取り          田巻 雅史

いのち            津国 貴士

ゆうひ            土井 祐美

時              中 善宏

道              西田 睦津紀

バスケットボール       花井 雅子

もし…だったら        林 裕也

足              原田 勇樹

空              福井 雅子

びょうき           古山 祐基

かぜ             真坂 孝広

ぐちるお母さん        松田 阿弓

風がでてきて木や草がおどりだした 吉田 恵

第4回矢沢宰賞の審査を終えて

 この度の第四回矢沢宰賞の募集には、県内外から1,788編ものたくさんの詩作品が寄せられました。すぐれた作品が多く、その中から最優秀賞1編、奨励賞4編、佳作15編、入選30編を選ばせていただきました。皆様に作品をお読みいただき、詩は心のどこから生まれてくるのか、読む者の心をどれほど感動させるかを、共に体験していただければと思います。その結果、詩を書く力を身につけることが、私たちの生活をいかに味わい深いものにしてくれるか、つらいことを乗り越えさせてくれるかおわかりいただけるものと確信しております。

 奨励賞になった四編の詩からは、作者の心の世界がもっと広々と力強く伝わってきます。ひとつひとつの作品については私の選評をお読みいただくとして、とくに「ゆめ」、「夕日」の2編は読むたびに深い感動を人々に与え続けるすぐれた作品です。

 今回は全国からたくさんのすぐれた詩が寄せられました。「ゆめ」、「夕日」といった短いけれど心の深いところから生まれた作品が、更にたくさん全国各地から送られてくることを心から望んでおります。すぐれた詩は、読んだ大勢の人たちの心をあたため、励まし続けてくれます。 

  • 審査員 月岡 一治
    上越市出身。国立療養所西新潟病院内科医長。第6回新潟日報文学賞受賞。出版物に「少年-父と子のうた」「夏のうた」(東京花神社)がある。

年ごとの入賞作品のご紹介

最優秀賞受賞者タイトル
第1回(平成6年)山本 妙本当のこと 
第2回(平成7年)山本 妙災害
第3回(平成8年)高橋 美智子小さな翼をこの空へ
第4回(平成9年)野尻 由依大すきなふくばあ
第5回(平成10年)佐藤 夏希お日さまの一日
第6回(平成11年)除村美智代大きなもの
第7回(平成12年)徳田 健ありがとう
第8回(平成13年)井上 朝子おくりもの 
第9回(平成14年)藪田 みゆき今日は一生に一回だけ 
第10回(平成15年)日沖 七瀬韓国地下鉄放火事件の悲劇
第11回(平成16年)佐藤 ななせ抱きしめる
第12回(平成17年)髙島 健祐えんぴつとけしゴム
第13回(平成18年)濱野 沙苗机の中に
第14回(平成19年)田村 美咲おーい!たいようくーん
第15回(平成20年)高橋 菜美空唄
第16回(平成21年)今津 翼冬景色
第17回(平成22年)西田 麻里命に感謝
第18回(平成23年)山谷 圭祐
第19回(平成24年)坂井 真唯クレヨン
第20回(平成25年宮嶋和佳奈広い海
第21回(平成26年)金田一 晴華心樹
第22回(平成27年)安藤 絵美拝啓 お母さん
第23回(平成28年)宮下 月希大好きな音
第24回(平成29年)宮下 月希心のトビラ
第25回(平成30年)阿部 圭佑ものさし
第26回(令和元年)上田 士稀何かのかけら
第27回(令和2年)宮下 音奏大好きな声
第28回(令和3年)横田 惇平ふくきたる夏休み
第29回(令和4年)野田 惺やっと言えた
第30回(令和5年)舘野 絢香気持ちをカタチに 思いを届ける