第24回矢沢宰賞

第24回矢沢宰賞

最優秀賞 ポプラ賞

心のトビラ   宮下 月希


人は、みんな心のトビラを持っている。

うれしいことを、閉じこめておくトビラ

かなしいことを、ためてしまう心のトビラ

楽しいことを呼びよせるトビラ

苦しいことを、受けいれてしまうトビラ

でも、

たつた一つきっと誰もがもっている

開かないトビラがある

自分だけじゃない

誰もがみんなそのトビラは開かない

どうして開かない?

それは、自分の気持ちを閉じこめておく

開かずのトビラ

もしこれを言ったらだめだろう

きずつけてしまう

これを言ったら、どうなるのかな?

と、

人の気持ちを考えると、なかなか言えない

そんな気持ちを閉じこめておくトビラ

そして、

自分だけ悩んで受け入れてしまうトビラ

はき出せないままの言葉を

閉まっておくトビラがある

そんな心のトビラは、

いくつあるのだろう…

心のトビラは、私の心の中に、

いくつ存在するのだろう

楽しいトビラには、どんどん夢や希望

うれしいことを、トビラ全開にして

たくさん、たくさん入れこもう

悲しい、苦しいことを受け入れるトビラは

自分だけでない、トビラを開けてもらおう

そしたら明るい新しいトビラが、

あらわれる

どんどん成長して、トビラも形をさまざまに変化する。

心のトビラは、いつでも大きく変化する。

私の人の広さと共に。
審査員
審査員

人は心のトビラをいろいろと持っている。それはいくつあるのか、自身にもよくわからない。

そのいっぽうで、開かないトビラを誰もが持っている。誰にとっても大切なトビラだ。

作者は自分ひとりのことだけにこだわっているのではなく、もっと広く他の人の気持ちにも思い至っている。考えがそこまで深く広い小学五年生に驚いている。

思考と感受性がとびぬけている。いずれのトビラも固定したものではなく、成長し変化してゆくともとらえている。宮下さんは昨年につづく最優秀賞受賞。

奨励賞 ポプラ賞

金曜日の夜   金子 茉桜


塾から帰り、家の玄関を開ける

「ただいま。」

「おかえり。」

いつも通りのたわいのない会話

「明日は休みか。」そう思うとくたくたに疲れた体も頭もフワッと軽くなる

そして、床にゴロンと寝ころび辺りを見回す

図書館で借りた本、マンガ、テレビ、ゲーム

どうしてだろう?

普段は何気なく置かれている物なのにまるで買ってきたばかりみたいにキラキラ輝いて見えるのは

マンガを一冊手に取り読み始める

かわいい柴犬が登場するマンガだ

読んでいるとふと転校してしまった友達のことを思い出す

マンガと同じかわいい柴犬を飼っていて

ひまわりみたいな笑顔の女の子

「元気にしているかな。」「部活はなにをしているかな。」

そんなことを考えていると

さみしい様ななつかしい様な気持ちになった

夜遅くまでダラダラしようと思っていた私だけど

友達に手紙を書く便箋をワクワクしながら選んでいた
審査員
審査員

塾での勉強にくたびれて家へ帰ってきたのでしょう。

でも、明日が休みだとわかると気持ちが軽くなる。

寝ころんだあたりには、借りてきた本が新鮮に輝いて見えてきて、マンガを夢中で読みはじめる。柴犬を飼っていた、転校した友だちのことを考えていると、疲れも忘れて手紙を書きたくなった。その高揚感。

ドーナッツ   神戸 天飛


ドーナッツの穴はどこに繋がっているのかな?

ドーナッツ星かな?

昨日通った大和トンネルかな?

ドーナッツの穴を通ったらドーナッツの反対側に行

けるかもしれない

穴は何にでもできる

空に空いた穴はオゾンホール

風に空いた穴は竜巻

宇宙に空いた穴はブラックホール

地面に空いた穴はぼくがほった落し穴

ドーナッツの穴は空間でできてる

もし世界に空間しかなかったら

空間は穴になれず空間のまま

空間がなにかに囲まれると穴になれる

もし世界にぼくしかいなかったら

ぼくはぼくでただのぼくのまま

ぼくがたくさんの人と出会えると

ぼくはたくさんのぼくになれる

ドーナッツを持ち上げたら

砂糖が空間に落ちた

ぼくは甘い空間を食べたい
審査員
審査員

誰もが日常、さりげなく見逃しているドーナッツの穴に着目した、それがど

こに繋がっているのか問うところに、作者の突出した感性が感じられる。

星? オゾンホール? 想像力はどんどん広がって行き、宇宙の穴にまで到る。

「たくさんの人と出会える」と「たくさんのぼくになる」という発想はすばらしい。

夏の水   山崎 琉汰


ぼくがだれだかわかる。

水だよ、みんなが夏に楽しむプールや、海などにぼくはいる。

みんなが楽しむすがたを見ると、うれしくなるんだ。

でもぼくは、みんなを悲しませてしまう時もあるんだ。

水が雨になってしまうと、しん水して家を、流してしまう時がある。

それどころか、家の人までいっしょに、流してしまう時がある。

でもみんなが、水を好きでいてくれるから、ぼくの心は、おれないんだ。

たまにいやな事を、思い出してしまうけれど、みんなが楽しそうにプールや海で、泳いでいるのを見ると、こっちまですごくうれしくなってくる。

だからぼくは、しっかりしてみんなが水を好きでいてくれる様に、がんばりたいんだ。

もっとみんなに水を飲ませてあげて、のどをうるおしてあげて、元気づけてあげたいし、ぼくはあたたかくなれるから、温泉に入ってくれる人を、あたたかくしてあげて、みんなを気持ちよくさせたいんだ。

だからぼくは、水をもっともっと広めて、世界の人を助けてあげたいんだ。
審査員
審査員

私たちが生きる上で欠くことのできない水。

夏の海やプールで人は水と仲良くなるけれど、水には怖いところもある。

今さら水の大切さは言うまでもないことだが、この詩は水の立場になって、人間との親密な関係をつくりたい、という水のこころを表現している。

人間はもっともっと水を大切にあつかおう。

今年の夏   桒原 拓海


長野のばあちゃんの家に行った。

ここからが辛い日々の始まりだ。

一日目、ミッション一

イスの設計図を書け

時間をかけて設計図完成

でも、ボツになった

色々あって二日目、ミッション二

イスの材料を買え

買いに行って帰って行ってかえって

三回ぐらいいってようやくそろった

三日目、ミッション三

イスをつくれ

ついにきた

これまた難しい

たたむ所は穴をあける

木もいい大きさに切る

難しい作業だ

でも頑張る

四〜九日目

ついに完成した

後はのんびりしよう

十日目 最ファイナル終ミッション

ニスをぬれ

ニスぬりがのこっていた

だが超スピードで終わらせた

でもここで事件発生

ニスをぬったから開かなくなった

むりやりやったら開けた

でもまたミッションが

裏ミッション

ろうをぬれ

そしてぬってついに完成した

この努力はむくわれた

これが今年の夏だー
審査員
審査員

夏休みに長野のおばあちゃんの家へ行って、イス造り作業にはげむ。

設計図からはじめてむずかしい作業を重ねながら、ろうをぬってのイス完成まで。

その過程を「ミッション」として、「裏ミッション」までつづく。

作業のつらさよりもユーモラスな感性による展開がおもしろい。

こんな夏休みもいい思い出。

川は木と石と水がある   坂崎 恭乃


川には木と水と石がある

木の根っこから水がでてる

水は石の上を止めどなく流れていく

水は清らかに滑らかに流れている

止めどなく流れるその様は

まるで人間の鼓動のよう

川の流れは穏やかだったり

激しかったりする

それは人間の個性のように

流れが強いのかは感情の高ぶり


華やかな木や植物に生き物がとまりにくる

生き物がとまりにきた木や植物は

より一層にぎやかになる

人間も人が集えばにぎやかだ


川は木と石と水で支えている

人間も植物も動物も支え合って生きている

みんなと支え合って生きている
審査員
審査員

川をよく観察している。

川が木と石と水でできているというのは独自の発見であり、その通り。それらが関係しあい、支えあうことによって川ができている、というのも深い着眼である。

川だけでなく人間世界も動植物が支え合うことで成立している。

川の流れに「人間の鼓動」を聴いたのもすばらしい発見。

入選

また新しい朝が   阿部 朱里


どこかでながされた涙

どこかで起きた争い

明日になれば救われるのだろうか


真っ暗な箱に閉じ込められ

世界を恨み

凝り固まった負の感情は

やがて刃となるだろう


立ち向かう方法もわからず

ただ力まかせに

ただ誰かを傷つけ

ただ生きているだけの僕に

朝は来るのだろうか


光と闇の境界線で

泣いていたのは僕だった

あの日僕に差し伸べられた手は

今日僕が差し伸べた手だ


昨日ぼろぼろに打ちのめされて

明日が見えなくても

今を力の限り生きていく


また新しい朝が来るまで

光をこの手で
審査員
審査員

世界のどこかで涙は流され、争いも起きている。

そのことに対し「負の感情」だけを抱くことなく、やってくる「新しい朝」を信じ、自分を信じて、今を力のかぎり生きること。

阿部家のテレビ   阿部 大翔


阿部家のテレビは三台

その中の一台はリビングにあり

その中の一台は寝室にあり

その中の一台はお父さんの部屋にある

僕のお気に入りはリビングのテレビだ

録画したものを見れる

阿部家はそれをねらって戦う

その戦いは

永遠に続く
審査員
審査員

阿部家のテレビ騒動とでも言ったらいいのか、三台あるテレビのことを客観的にユーモラスに描いている。お気に入りのテレビがいつでも見られるわけではない。愉快な戦い!

あこがれの選手、メッシ   石黒 葵士


ぼくはサッカーをやっている。

好きな選手はバルサの10番、メッシ。

アルゼンチンで生まれ、5さいからサッカーを始め、13 さいでバルサに加入した。

デビュー初ゴールは、ロナウジーニョのアシストだった。

バロンドールかくとくは5回。

メッシのかっこいいところ。

左足からくり出す予測不のうなゴール。

他の選手よりせは低いけれど、スピードを生かしたドリブルで、体をゆさぶって相手をかわしゴールを目指す。

なぜ、そこに決められるの?

いつもいつも、何度も何度も、サッカーの動画をくり返し見る。

頭の中でイメージする。

練習の時、やってみる。

何度も何度もやってみる。

そして、体におぼえさせる。

よし、今度は試合でやってみよう。

自信を持ってやってみよう。

ぼくのゆめは、

プロのサッカー選手になること。
審査員
審査員

サッカーが大好きなんだね。名選手メッシについて、こまかくくわしく調べていて詩も元気だ。ユメを捨てることなく、将来はメッシに負けないサッカー選手になってほしい。

ぼっち   石坂 茉優


夕暮れの教室で 僕と君と彼

現在の生徒 三人

他の人なら とっくに卒業していきました

僕ら 三人ぼっち


夕暮れの教室で 僕と君

現在の生徒 二人

彼なら昨日 卒業していきました

僕ら 二人ぼっち


「今日でお別れなんだ」と言われて

頭痛と目眩がして

君の手にあるのは 紛れもなく卒業証書

待って 待ってよ

失いたくない

一人は嫌だ

ひとりはいやだ…


夕暮れの教室で 僕

現在の生徒 一人

他の人なら 卒業していきました

僕は 一人ぼっち


「…じゃないよ」

人の声がした

機械音声の先生ではなくて

木々と花瓶の侮辱でもなくて

振り返ると

まぶしいほどの君の笑顔があって

僕の名が入った 卒業証書を持っていて

僕の胸が 嬉しさでいっぱいになって…


機械音声の先生の 熱の無いメッセージ

木々と花瓶の 皮肉な舌打ち

僕は君に手を引かれて歩く

ここは「孤独」という名の檻

現在の生徒 〇人
審査員
審査員

親しかった教室の仲間もいずれ別れて行く。「三人ぼっち」から「二人ぼっち」、やがて「一人ぼっち」。でも本当の仲間はたとえ遠くにいても、いつでも笑顔を送ってくれる。

言葉   今村 香音


私は言葉を使います

コミュニケーションとるために

的確な表現を引っ張って

心と心を繋げます。


私は言葉を使います

たくさんのことを知るために

本にテレビにインターネット

あふれんばかりの情報です。


私は言葉を使います

やるべきことをやるために

苦に感じることだって

達成感は嬉しいものです。


私は言葉を使います

毎日を楽しむために

音楽は体のサプリメント

読書は生活のオアシスです。


私は言葉を使います

結論は自分自身のために

当たり前にあるからこそ

愛しみたい星々なのです。
審査員
審査員

「私は言葉を使います」というくりかえしが効果的です。言うまでもなくどんな時代、世界中どこにいても言葉は大切で、人間の重要な関係も言葉からはじまっていると言える。

ハチくんへのざんげ   遠藤 萌花


ごめんね ハチくん

お家をとりこわすことに

なりました

せっかく一生懸命

作ったのにね

きれいなきれいな

正六角形が集まったお家だったのに

もっと別な場所に作ればよかったのに

かん気せんのフードの所に

作っちゃうから

みんなに気づかれて

あぶないあぶないって

だからこわすんだよ

本当は そのままとって

自然に返してあげるのが

一番いいんだけど

それは無理みたい

お家作ったハチさんは

きっと悲しむよね

人間だったら

うでのいい大工さんが

自分の作った家を

誰かにこわされるような

ものだもん

プンプンおこるよね

でもごめんね

もうきまったことなんだ

君たちだけでもにげて

今度はみんなにじゃまされない所に

お家をつくってね

ごめんねハチくん
審査員
審査員

家をこわすことになり、せっかくのハチの巣もとりこわすことになった。

そのことで家を代表してハチに「ごめんね」と言っている。

何よりもやさしい心が作品にあふれている。

向日葵   小田 朱里采


さくらがまんかいのころに

向日葵の種を植えた

きょ年学校からもらった向日葵の種だ


毎日毎日

水をやり

毎日毎日

観察し

毎日毎日

めが出てとねがった

あれあれ

かわいらしい小さな小さなめが出たよ

あれあれ

朝顔のめも出てきたよ

それからそれから

ぐんぐんぐんぐん

のびてって私の身長こしちゃった

ぐんぐんぐんぐん

のびてってげんかんの屋根もこしちゃった


パッとさいた大きな向日葵

きれいにさいた大きな向日葵

太陽にとどけ大きな向日葵

太陽にとどけ私のねがい
審査員
審査員

向日葵の種をまいて毎日水をやり観察をしていたら、ぐんぐんのびて身長だけでなく、玄関の屋根も越して大きくなった。途中の朝顔の芽もうれしい。どんな「私のねがい」?

友人   小此鬼 伊吹


友人その1拓海

友人その2優弥

友人その3大翔

友人その4夏輝

友人その5いお

友人その6幸太朗

友人その7結翔

友人その8りおん

友人その9在音

友人その10仁志

友人その11ひびき

友人その12海里

友人その13しゅんすけ

友人その14きよまさ

友人その15まさき

友人その16朋希

友人その17けいすけ

友人その18はやて

友人その19かいせい

友人その20かなた

友人その21はるき

友人その22生吹

友人その23大輝

友人その24敬太

友人その25せいや

友人その26やまと

友人その27かおる

友人その28そうた

友人その29創

友人その30歩

友人その31あおと

友人その32りく

友人その33りお

友人その34ゆうご

友人その35はると

友人その36優太朗

友人その37しょうぜん

友人がいっぱいいてうれしい。
審査員
審査員

友人の名前だけを大勢ならべただけの詩ですが、誰も思いつかないこういうアイディアも大切だ。フィクションも許される。いろいろな友人関係があるにせよ、多いほどいい。

がっこう   小林 楓果


がっこうは、たのしいところ。

おひるやすみ、20ぷんやすみがたのしい。

ともだちとそとであそべるから。

ぶらんこやてつぼう、かくれんぼをしてあそんでいる。

いちばんすきなじゅぎょうはおんがく。

うたうことがだいすき。

「どれみのうた」がすき。

「どれみのうた」をうたうと、たのしいきもちになる。

「びんご」のうたもすき。

そのうたをうたうと、おどりたくなる。

つぎにすきなじゅぎょうは、たいいく。

はしることがだいすき。

あしがはやくなりたいとおもいながらはしる。

つらくてあせかくけど、はしったあとのすいどうのみずは、おいしい。
のむとぱわーぜんかい。

わたしががっこうでおきにいりのばしょはたいいくかん。

ひろくてはしりまわれるから。

がっこうはたのしくてだいすき。

なつやすみはすこしでいいや。
審査員
審査員

がっこうでのたのしいあそび、すきなおんがくのじゅぎょう、汗かくたいいく、たいいくかんなど、がっこうのたのしさをすなおに書いているところにとても好感をおぼえた。

心の花   近藤 万里


すべての花が輝くように

どんな心も輝きます

うれしいとき 楽しいとき

さびしいとき 悲しいとき

くるしいとき くやしいとき

恋をしたとき 失恋したときだって

美しく 輝きを放ちます


うれしいときは 桜が咲いて

楽しいときは 向日葵が咲きます

さびしいときや 悲しいときは

野原に小さな小さな そらいろの

かわいいはかない花が生まれます

心に 真っ赤な花が咲いたなら、

くるしくなって くやしくなります


恋といってもいろいろで

情熱的な恋ならば

一輪の深紅のバラが咲き

小さなはかない恋ならば

白くて小さな 花が咲きます

恋かどうか よくわからない

生まれたての恋は

やさしいピンクの花が生まれます

もしも失恋したのなら

もしも離れてしまったら

涙色の花を咲かせましょう


すべての花が輝くように

どんな心も

輝いています
審査員
審査員

花にもいろいろあるけれど、そのときの感情によって咲く色はさまざまであり、美しく輝く。恋のあり方によっても花は咲き方がちがう。花はすべて輝くように咲いてほしい。

僕は、扇風機   新村 真博


僕は、扇風機

みんなをいつも涼しくしてる

なぜかと言うと

それは、扇風機の 役目だから

僕には、クーラーがライバルだ

クーラーなんかに負けはしない

でも、実は、けっこう負けてるんだ

だから、みんな、応援してくれ

そしたら絶対勝ってやる

お願いだぞ

ただ僕は、ケンカなんかしないんだ

なぜなら、僕は、心が広いから

どんなにケンカをふっかけられても

クーラーの羽のように上下には振らない

僕は、首を横にしか振らない

自まんしてるんだぜ

ほら、僕の前にくると

みんな、クールな顔になる
審査員
審査員

クーラーが普及した今の時代、誇りある扇風機も負けてはいられない。

みんなが応援してくれる。扇風機を必要とする場合も場所もあるはず。

「心が広い」風はきっと涼しい。

たくさん学んだありがとう   曽我 れもん


馬が好きだ 大好きだ

性格いろいろ おもしろい

表情ゆたかで 人みたい

見ているだけで いやされる


今日も馬に またがって

首にポンポン よろしくね

けしき広がる 空気おいしい

常歩 パカパカ ユラリユラ

あったかくって ねむくなる

馬のベッドがあったらなぁ


速歩 ザカザカ いいリズム

駈歩 すすめ 三拍子

ザカカッ ザカカッ 風を切る

うまくのれると きもちいい

人馬一体になったみたい


今日も早起き 馬のごはん

おはよう トッポ

イチバチ 元気?

みんな 今日も カワイイね


仔馬が産まれた うれしいな

はじめまして こんにちは

立とうとしてる ヨロヨロ コテン

がんばれ がんばれ もう少し

さわってみると ポカポカ しっとり

生きるんだって かんじだな


大好きな馬と さようなら

最後になでなで ヒンヤリしてる

バイバイ さよなら ありがとう


たくさん学んだ ありがとう

これから ずっと よろしくね
審査員
審査員

馬が大好きなんだ。人馬一体になって歩く走る、世話や仔馬が産まれたことも明るいリズムで描かれている。馬からたくさんのことを学び経験するけれど、最後に別れもある。

僕から君へ   竹之内 蛍


やあ 君を 僕の世界に招待しよう

どうするかだって

左目を隠して もう片方で

すりガラス越しに 見るだけさ

ほら 簡単だろう


いつも見ている景色は どう変わったかな

ぼんやりとして

すべての境界が あいまいで

まるで テレビを見ているような

立体感のない世界

そう それが 僕の見ている世界だよ


想像してごらんよ

もしも そのまま外へ出たら

道に 迷ったら

車が 信号無視をしたら

もしも 何かに困ったら

そうしたら

人を 探すのにも 苦労するだろうね

必ず 誰かが

声をかけてくれるわけでは ないからね


だから せめて

こうして 僕の世界を知った 君くらいは

誰かのために 歩み寄ってくれるかい

「どうしたんですか」って

たった一言でいいから
審査員
審査員

目の不自由な「僕」から「君」へ発せられたメッセージ。相手の身になって理解し、ものごとをよく考えて対応するという肝腎なことを、嫌味も不服もなくソフトに伝える。

なつのそら   たなむら かほ


ゆっくりくもがうごいてる。

そらなのにうみみたいにみえる。

おおきなくもは、そふとくりーむ。

ちいさなくもは、かにみたい。

かいがらにもみえる。

とおくのくもは、いるかみたい。

すぐうえのくもは、ぺんぎん。

みぎのくもは、まんぼうにみえる。

すぐにかたちがかわっちゃう。

さっきのぺんぎんもういない。

こんどは、くじらのかたち。
審査員
審査員

空のくもを見あげながら、自由自在にあれこれと想像して、どこかたのしんでいるようすがつたわってくる。しかも空に海の生物がたくさんいるという想像力はすばらしい。

アリのれつ   谷江 柾紀


アリのれつ みんな一緒に歩いているよ

アリのれつ 同じ向きに歩いているよ

アリのれつ ちがう向きに歩かないかな

アリのれつ たいれつくんで歩いているよ

アリのれつ はぐれないで歩いているよ

アリのれつはぐれたアリは戻れるかな

アリのれつ まようことなく歩いているよ

アリのれつ 迷ったアリはどうなるかな

アリのれつ ぼくは迷わず歩けるかな
審査員
審査員

同じ向きで、れつを乱すことなく歩いているアリたちに見入って、よく観察している。

だからいろいろと感心したり、なぜかと考えたりしている。最後に自分のことも考える。

トンネル   平山 綾子


暗い暗い暗い

明かりがない道

進む進む進む

先が見えない中

必死に進む

出口はどこ

出口はまだ

出口はどこなの

一生懸命一生懸命

足を動かした

歩いて歩いて歩いて

どれだけ歩いたか

小さな小さな光がうっすら見えた

走った

走って走って走って

走った先にやっと出口があった

あきらめずに進んでよかった

進んだ先にはちゃんと出口があった
審査員
審査員

暗いトンネルの中を出口さがして、「進む」「歩いて」「走って」息つくひまもなく進んで、ようやく出口に到る。脇目もふらずひたすら進むリズム感。トンネルの意味は何?

海の音   長橋 優奈


海の音は どんな音

ザブザブ と歌ってる

人のよう に歌ってる

だれかと歌ってる見たい


海には ほかにどんな音がある

人が海に泳いでる音

それはどんな音

人がそれぞれの

うれしさや楽しさが

あふれてる


海では ほかにどんな音がある

鳥が海のうえで

ピーチク ピーチク

しゃべってる

人のように


ピーチク ピーチク

ワイワイ ワイワイ

ザブン ザブン


海には いろいろな音がある

海は すごいにぎやかだ
審査員
審査員

海の音を、人のように「歌ってる」ととらえた点に感心した。

海はどんな時どんな音を出すのか、それが気になっている。

鳥や人もやってきて三者の音がまじりあってにぎやか。

森の演奏会   野村 麻耶


暗い森を歩いている。ずっとずっと歩いてもずっとずっと暗い。

「どうしてだろう」

そう考えていると、大きな木の根元が光っていた。そっと見ると、私はおどろいた。

「わっ。こんな所に…。」

根元には小さくかわいらしい虫たちが並んで演奏会を開いていた。

ずっと物影にかくれて開いていた。

指揮者だった虫が私に

「そんな物影にかくれていないでここに来て聞きなさい。」

私が案内されたのは、吹いている所がよく見える場所だった。

「ありがとうございます。」

指揮者の虫にそう伝え、うっとりして聞いていた。

やわらかな音の響きが暗い森の中に響いた。

星も森もみんなうれしそうだった。

いつまでもいつまでも聞いていたいな。
審査員
審査員

暗い森の奥の木の根元で、虫たちが演奏会を開いている。

ものがたりのはじまりのようで夢がある。

どんな音楽を演奏しているのかは、読む人の自由な想像にまかされている。

夏の夜   本田 健


僕は、夏の夜が大好きだ

どれくらい好きかと聞かれると困るけど…

夏の夜は、僕には特別な夜だから

僕は、夏の夜が好きだ

日が暮れて、夜になると、どことなく

涼しさを思わせてくれる所とか、

夏の夜の静けさとか

そういう所が僕は好きなんだ

夏祭りが好きだ

昼間人通りも少なく、ガラガラだった屋台前

夜になると、ヘビのようにグニャグニャの列ができる、屋台前

たこやき、いかやき、リンゴあめ、やきとうもろこしに、かき氷…

ずらっと並んだ、屋台の前に、グニャグニャ並ぶ人の列

赤く光ったチョウチン目がけて、大人も子どもも寄ってくる

夏祭りの夜のピークは何といっても打ち上げ花火だ

一輪の花にとどまらず

二輪、三輪と色とりどりの花が咲く

夜空に花畑があるようだ

ただ、それは、数秒間だけ

夢のような数秒間

見る人に感動を与えられる

数秒間の花火でも、十分に価値はある

その数秒間の花火の中に

僕は一瞬、すい込まれ

いやな事を忘れられる

花火が終わって現実に戻る

人々がざわめき出す

僕は、「はあー」とため息をつく

夢のような数秒間

次は、一年後…

だから僕は毎年思う

夏の夜はすばらしくきれいなものだと

だから僕は、夏の夜が大好きなのだ
審査員
審査員

夏の夜が大好きなんだね。夜は涼しくなり静かになる。

夏祭りにはいろいろな店が並ぶ。

屋台前には人の列ができ、花火があがり、夜空は花畑になる。

夢のように楽しい瞬間。

ページ   増田 果音


小学生のころのノート

マスいっぱいに書いた大きな文字

やんちゃなページ

中学生のノート 努力の証

丸がたくさんついているページ

バツがたくさんついているページ

カラフルなページ

モノトーンなページ

グラフが多いページ

文章が多いページ

思い出がたくさんつまったノート

新しいノートはわくわくする

がんばればがんばるほど増えるノート

明日はどんなページができるだろう

自分らしいページを自分で作り

中学最後のページをめくったら 

高校生
審査員
審査員

小学生、中学生のときのノートのページ。文字だけでなく、さまざまなものが書かれていたりして、それぞれ当時の思い出がいっぱいつまっている。

来年、高校生になったら・・・

足音   増田 みゆ


コツ コツ コツ

遠くで歩いている

かすかに聞こえてきた

カツ カツ カツ

近づいてきた

よく聞こえてきた

ドン ドン ドン

すごく近い

すごくよく聞こえてきた

聞きおぼえのある足音

「ただいま。」

やっぱりわたしの

お父さん
審査員
審査員

遠くから徐々に近づいてくる足音を、それぞれ書きわける工夫をしている点を評価したい。

何者の足音なのかスリリングでさえある。

大好きなお父さんだとわかってホッとする。

けはい   松尾 天聖


ある朝突然、空気がかわる。

それを肌で感じる。

ほんのりあたたかい風が、

肌にふれるような。


それをにおいで感じる。

外にでて走ったとき、

花や草のにおいで、

すがすがしく力がでてくるような。


ある朝、光で目がさめる。

さしこむ光が、

何本かの線になっているような。


そして走りながら気づく。

車の音、人の声が、

だんだん多く大きくなっていく。

それらは、

見えるものではなく、

おれたちにしかわからないものだ。


そう、

春なのだ。
審査員
審査員

朝の空気やにおい、光などで、季節の変化がわかることがある。

でも、よほど敏感な感覚をもっていなければわからない。

この詩では「春」だけれど、他の季節の場合も同じ。

自分とは、何者か   宮本 侑季


ぼくは、自分は何者かと考えるときがある。

人のまねをしてみたり、人と比べたりする。

ぼくは、自分のことを情けないやつだと決めつけて、ネガティブになってしまう。



弱い自分を見つめることは、ぼくにとってはつらいことだ。

ぼくは、いつも、強い自分を持ち続けようとする。

持ち続けていると、つらくなり、体調をくずしてしまう。

ぼくの目標は、自分を知ることと、自分は何を目指しているかを考えること。


ぼくは人のことを悪く言ってしまうことがある。

直接本人に言わず、自分の家や誰もいない場所で文句を言ってしまう。

いけないことだと自分で決めているのに言ってしまう。

う一つ。

ぼくは心が豆腐のようにもろい。

人にバカにされたり、避けられたりすると、落ち込んでしまう。

ぼくは、落ち込んだときには、親や弟になぐさめられている。


自分とは何か。

考えてみるほど、自分は一人では生きていけない、ということが分かってきた。


ぼくは、今まで生きてきて、一人で生きているんだと決めつけていた。


自分とは何か。

考えると、人に助けられて生きているのだと知った。


自分のことを知らなくて困っている人は、たくさんいるのではないだろうか。

ぼくは、自分は何者か、と考えたりすることはいいことだと断言する。


自分を大切にしよう。そうすれば、前に進める。
審査員
審査員

正直に自分を反省している詩。反省することは大切だが、誰しも(大人でも)自分のことはよくわからない。自分を知ることは他人を知ること。何よりも自分を大切にすること。

鏡の中のわたし   目黒 莉々花


鏡の中のわたし

泣きそうな顔

泣くな 泣くなと

歯をくいしばる

そしたらかえって

涙があふれた

鏡の中のわたし


怒っている顔

そんな 顔だと

みっともないよ

そしたら突然

にっこりほほえむ


鏡の中のわたし

笑っている顔

見てると心が

やさしくなるね
審査員
審査員

とくに女性は鏡を覗き見る機会が多いはず。泣きそうな顔、怒っている/笑っている顔。

気分によってさまざまだろうけれど、そこにはそのときの「顔」が正直に映っている。

鉄道   森 海斗


電車で出かけるのは楽しい。

座席に座って、

流れる景色を見るのは気持ちがいい。

眠っている間に、駅に、

着いたのは、のんびりした証拠だ。

ガッタンゴットン

ゴットンガッタン

ガタンゴトンコトンガタン

鉄道の駅は、遠い昔に建ったものが多い。

その長い歴史を知るのもなかなかいい。

列車も種別によって、形や

色が違うから、探してみるのも面白い。

駅も列車も、色々な歴史があるのだな。

ガタンゴトン

ゴトンガタン

ガッタンゴットン

ゴットンガッタン

ガッタンゴットンゴットンガッタン
審査員
審査員

電車に乗ってのんびり旅を楽しむのはいい。流れる風景を楽しむのもいいけれど、さらに電車がゆれる音を忘れずに、鉄道や列車の歴史や種類を調べるのも楽しいにちがいない。

自分   山崎 柊亮


自分はどんなやつなのか

ある日ふと思い、考えてみた。


自分で思っていた自分は

悪いところばかりだった。

なまけもので嘘吐きで・・・

そんなところがほとんどだった。

友達や家族から言われた自分は

悪いところより、良いところが多かった。

優しくて明るくて・・・

そんな自分では思ってもみなかったところが多かった。


自分について考えて

自分が一番自分を知っているようで、

本当は知らないことに気付いた。

自分というものは、

自分の思うものだけでなく、

様々な人の様々な見方によって

発見し、創られていくのかもしれない。

そう思った。


だとすれば、

自分は自分についてまだ知らない、

気付いていないことがあるに違いない。

ならば、

様々な人と接し、

様々な体験をして、

よりよい自分を創っていこう。

そう思った。
審査員
審査員

自分が一番自分のことをわかっていると思いたいが、そうと限らないから厄介。

自分を客観視するのはむずかしい。友達や家族それぞれのとらえ方もあって自分が出来てくる。

私は思う   山下 明日香


落ちこんでいる時に落ちこむなより

落ちこめよの方が

私はいい


がんばっている時にがんばれより

もっとやれよの方が

私はいい


泣いている時に泣くなより

泣いていいよとそっとしてくれた方が

私はいい


悩んでいる時に自信もてより

失敗してもいいよの方が

私はいい


なりたい自分になって

私らしく生きてみよう
審査員
審査員

激励のしかたや慰めのしかたは簡単ではない。場合によっては逆効果になることもある。

それも人によって一律ではないからむずかしい。作者の場合は強い意思が感じられる。

手の魔法   山田 彩花


手ってすごい。

落ちこんだとき、背中をさすって

もらえば安心する。

拍手してもらえば「ありがとう。」


ハイタッチすれば「また頑張ろう。」って思える。

大切な人と手をつなげば、それだけで幸せな気持ちになれる。

私達の手には、そんな魔法がかけられているのかもしれない。

神様、ありがとう。
審査員
審査員

手は言葉を話すわけではないけれど、いろんなケースにあって言葉以上のことを表現することがある。やさしくもあるけれど、きびしい面も多々ある。

手はその人の意向で動く。

みそしる   吉田 咲良


あじはいいけど

かたいからあげ

こげなければ

まあまあのおこのみやき

でも

みそしるだけはおいしい

毎日つくってくれる

おかあさんが大すき

いつも大体こわいけど

いつも大体りょうりが

下手だけど

やさしい時は

かなりやさしい

六月二日十四時十六分に

うんでくれて

ありがとう

今日もおいしいみそしる

つくってね
審査員
審査員

作者はみそしるが好きなんですね。とくにおかあさんがつくってくれたおみそしる。

ずばり「りょうりが下手だ」と書いているけど、やさしいおかあさんのみそしるがおいしい。

夏の終わり   呂 輝帝


ありふれた傷を持った少年少女

過ぎゆく夏の風に揺られて

ありふれた未来に思い出は遠く消えていく


駆け抜けた青春の夢ってなんだろう

駆け抜けた記憶も、今は車窓の雲の向こう


夢の中であなたに逢えた時から

僕がいる場所 心の奥 ひとりぼっち

忘れかけてた想い出の歌を歌おう


僕達は大人になって忘れてしまうだろう

昏れなずむ街の空に あなたを想い耽る

星降る世界 どこかで見ていますか


僕がいる場所 夏の終わり 怖くなって

温もりの中 優しい木漏れ日の下で

いつかはみんなおんなじとこへ 旅に出るの

だから今だけは、飾らない笑顔で


瞳を開けると、心があった

僕らの心を占めるのは、夢幻の祷りと静謐のみ


さようなら また逢う日まで
審査員
審査員

「あなた」との青春の夢は、今は過ぎ去った。あるいはプラトニックな恋だったのか、それはどちらでもかまわない。記憶のあなたを「想い耽る」ことも捨てがたい青春の証し。

ひく   渡邉 華那


ドレミのうた ピアノひく

つなひきで つなをひく

算数で 数をひく

しんどいなぁ かぜをひく
審査員
審査員

「ひく」で語尾をそろえてくりかえす工夫はおもしろい。こんな遊びも詩では許される。

詩の遊びは大いにけっこうである。

最終行の「かぜをひく」がアクセントになっている。

部活   渡邉 萌理


あと三十分 部活がはじまるまで

ラケットがおどっているよ

雲ひとつない青い空を

自由に飛んでいる鳥のように

穏やかな歓喜に

あふれていて

笑顔が絶えない


ラケットをにぎりしめたとき

テニスシューズをはいているとき

先輩の前にいるとき

部活の時間は

どんないやなことも

うまくいかないことも

忘れられる

そして

夢中になれる

ああ たのしい
審査員
審査員

部活がはじまる前までのラケットは自由自在に空を飛んでいて、笑顔が絶えない。

シューズをはいて好きな部活がはじまると緊張するが、夢中になっていやなことも忘れてしまう。

いろんなおとの二の一のあめ   平成二十九年度二年一組


あめ あめ

いろんなおとの二の一のあめ


ひこうきにあたって ぽろん

あきかんにあたって からん

はっぱにあたって ふわん

草にあたって しゅるん


ボールにあたって ぽこん

とけいにあたって ぴっちゃん

ふでばこにあたって ぽとん

ランドセルにあたって ぽちゃん

いんせきにあたって ぱちん

ミサイルにあたって かたん

たいようにあたって どかーん

水たまりにあたって ぴとん

水たまりにあたって ぽとん

水たまりにあたって ぽちゃん

水にあたって ぴちゃん

ねこにあたって ぴこん

いおりのあたまにあたって ぽーん

うさぎの耳にあたって するん

うさぎの耳にあたって ぽとん

はちのすにあたって ぽっつん

かっぱのあたまにあたって びちゃん


プールの中におちて ぱしゃん

家のやねにあたって ととん


家のにわにあたって ぴちゃん


あめ あめ あめ あめ

いろんなおとの二の一のあめ
審査員
審査員

26人の生徒たちが共同で作った詩です。

みんながおもいおもいの雨の音をもち寄ったのでしょう。

いろんな音がたのしそうにおどるように演奏されていて、とてもゆかい。

第24回矢沢宰賞の審査を終えて

 昨11月13日に「矢沢宰 生命の詩の集い」は開催され、直前に『矢沢宰詩集─光る砂漠』(思潮社)が刊行されました。既刊詩集の誤りなどを修正した、いわば決定版です。「集い」の際、受賞者のみなさんには手渡されました。

 その詩集はいくつかの全国紙でもとりあげられました。「感情の明瞭さが際だった」(読売)とか「宇宙や時の意味と懸命に向き合っている真摯な姿」(毎日)「静かな叫びのような言葉が胸を叩く」(新潟日報)と高く評価されました。

 矢沢宰は入院していた時間が長く、病魔と日々向き合うなかで書かれた詩でした。「矢沢宰賞」に応募されるみなさんの境遇とはちがうかもしれませんが、真剣に詩を書くという姿勢は共通しているはずです。すぐれた詩というものは、宰の詩集に寄せられた右の評言と大きく隔たっていないはずです。 

 毎年全国から、それこそ千差万別、さまざまな詩がたくさん応募されます。選考する私の作業はとても責任が重いものですけれど、苦痛ではなく正直言って愉しいのです。詩のなかみや文字、学校の所在地などから、作者のことを勝手に想像したりすることもあります。

 いつも申し上げているように、未知のみなさんの未知の作品との出会いは、選者冥利に尽きるものです。これだけ多くの若い人の作品(今年は973編)と、集中的につき合う機会は滅多にありません。

 事務局から送られてきた段ボール箱を開けるとき、胸は高鳴ります。(みなさんも書いた詩を手放すとき、胸は高鳴るでしょう!)何回も読み返して、まず80編に粗選りし、さらに入選作40編にしぼる。このへんから作業は厳しさを増してきます。でも、苦痛とはちがうものです。

 「入選作」の配列は、昨年同様に作者名の50音順としました。会場で未知のみなさんとお会いして対話する時間が、今から愉しみです。では!

  • 審査員 八木 忠栄
    1941年見附市生まれ。日大芸術学部卒。
    「現代詩手帳」編集長、銀座セゾン劇場総支配人を歴任。
    現在、個人誌「いちばん寒い場所」主宰。日本現代詩人会理事。青山女子短大講師。
    詩集「きんにくの唄」「八木忠栄詩集」「雲の縁側」(現代詩花椿賞)他多数、エッセイ集「詩人漂流ノート」「落語新時代」他、句集「雪やまず」「身体論」(吟遊俳句賞)。

年ごとの入賞作品のご紹介

最優秀賞受賞者タイトル
第1回(平成6年)山本 妙本当のこと 
第2回(平成7年)山本 妙災害
第3回(平成8年)高橋 美智子小さな翼をこの空へ
第4回(平成9年)野尻 由依大すきなふくばあ
第5回(平成10年)佐藤 夏希お日さまの一日
第6回(平成11年)除村美智代大きなもの
第7回(平成12年)徳田 健ありがとう
第8回(平成13年)井上 朝子おくりもの 
第9回(平成14年)藪田 みゆき今日は一生に一回だけ 
第10回(平成15年)日沖 七瀬韓国地下鉄放火事件の悲劇
第11回(平成16年)佐藤 ななせ抱きしめる
第12回(平成17年)髙島 健祐えんぴつとけしゴム
第13回(平成18年)濱野 沙苗机の中に
第14回(平成19年)田村 美咲おーい!たいようくーん
第15回(平成20年)高橋 菜美空唄
第16回(平成21年)今津 翼冬景色
第17回(平成22年)西田 麻里命に感謝
第18回(平成23年)山谷 圭祐
第19回(平成24年)坂井 真唯クレヨン
第20回(平成25年宮嶋和佳奈広い海
第21回(平成26年)金田一 晴華心樹
第22回(平成27年)安藤 絵美拝啓 お母さん
第23回(平成28年)宮下 月希大好きな音
第24回(平成29年)宮下 月希心のトビラ
第25回(平成30年)阿部 圭佑ものさし
第26回(令和元年)上田 士稀何かのかけら
第27回(令和2年)宮下 音奏大好きな声
第28回(令和3年)横田 惇平ふくきたる夏休み
第29回(令和4年)野田 惺やっと言えた
第30回(令和5年)舘野 絢香気持ちをカタチに 思いを届ける