最優秀賞 ポプラ賞
拝啓 お母さん 安藤 絵美 私を生んですぐに旅に出たお母さん 元気ですか、私も元気でいます。 父によく聞きます。 「お母さんは真面目ですてきな人だった」と。 少しでもお母さんに近づけていますか? でも私はまだまだ未熟者ですよね。 「お母さん」という響きが新鮮です。 一度も「お母さん」と呼べなかったことは少しさびしいです。 時々考えます。 「お母さんがいたらどんな生活を送っていたんだろう」と。 お母さんの手料理一度は食べてみたかった。 私は車椅子です。 大変な事はありますが、少しも後悔はしていません。 お母さんが残してくれた大切な命だから。 今は父を支えられるように頑張っています。 お母さん、あなたの娘で良かった。 ありがとう。 これからも見守っていて下さい。
生まれてすぐ永遠に旅立ってしまったお母さんに対する追憶です。
もちろん記憶にはないでしょう。けれども、感傷的になることなく、しっかり冷静に母を慕っています。一度も「お母さん」と呼べなかった、という事実はとてもつらいことです。
お母さんの手料理も食べたかった。でも、後悔していない強い心をもっています。
「死」「悲しい」という言葉を遣っていません。
すてきなお母さんは目を細めて、あなたを見守りつづけるでしょう。
奨励賞 ポプラ賞
心に響け 佐野 百袈 今日はいよいよ発表会 私は舞台で踊ることが大好きだ 発表会当日は朝早く起きてさまざまな準備をする 髪の毛をシニヨンにする 舞台用のお化粧をし 軽食を食べ 気合を入れる 私はこの朝から感じる緊張感が好き 舞台会場に着きすぐにリハーサル 念入りに確認と打ち合わせをする リハーサルのときの曲と指導してくださる先生の声が一緒に 聞こえるのが好き リハーサルが終わり本番十分前 アップをしてお化粧と髪の毛を直して 舞台袖に移動してストレッチをする トゥシューズの紐をキュッときつく結ぶ 一曲目に出る皆が最終確認をしている 皆の真剣な表情が好き 先生が来て皆で手を繋ぎ円を作る 「踊りは命やるっきゃない!。」 皆の気持ちがひとつになる 本番がきた 照明がパァッと点く光が好き トントンッと鳴るトゥシューズの音が好き お客さんが舞台を見ているという光景が好き 役になりきって体が自然と動きだす 無我夢中で踊り続ける 感情がどんどん上がってくるこの感じが好き ブラボーと聞こえる声が好き 拍手の音がなりやまないのが好き まだまだ終わってほしくない ずっと踊っていたい バレエは私に沢山の好きを教えてくれた 踊れることに感謝してこれからも 感動を与える踊りを踊っていきたい 身体をつかって喜怒哀楽を伝えられる 表現者になりたい
バレエの発表会の日の朝から、リハーサル、発表会、客席の反応、それらに対する前向きな姿勢が若者らしくすがすがしい。
うちに秘めた緊張感はあるでしょうし、物怖じしない言動の裏に人知れぬ緊張感はあるでしょう。ためらわずに、すべて前向きに背筋をピンと伸ばしているようすが、くっきりと見えるようです。
僕の影 岩井 城二 影は、いつもそばにいる 家の中にいても 外にいても 学校にいても ずっとそばにいる いつも僕の動きばかりマネをする 遊ぶときも 御飯のときも 友達といるときも ずっとそばにいる どんなに遠いところに行く時もそばにいる でも 僕が寝る時にはいない 夜になるといつもいない 家の中にいても 外にいても どこにもいない でも 影は ずっとそばでかくれているらしい 僕が影のことを嫌いにならないよう 影はかくれている 僕は影が嫌いじゃない 赤ん坊の頃からいっしょにいた友達だから 他のだれよりも近くにいて ずっとそばにいる友達だから ずっと ずっと そばにいる友達 僕の影
誰もが自分の影をすぐそばにもっている。そのあたり前のことをあえて考えてみた詩。
影は自分にさからいませんけれど、じっと自分に注目しているのです。
夜になってどこかへ消えたようでも、じつはかくれて見ているのです。
友だちや兄弟よりも身近で、そばにいてくれる影のことに改めて目を向けたすばらしさ。
半分こ 佐野 愛理 ママは何でも 「お兄ちゃんと半分こだよ。」 と言う。 ケーキ半分こ きらい アイス半分こ きらい ママ半分こ きらい 何でも半分こ 大きらい でも・・・ ころんだ時 お兄ちゃんが 「大じょうぶ。」 と、たすけてくれた いたい気持ち 半分 トマト半分こ すき おふとん半分こ すき ママのかみなり半分こ すき なみだ半分こ 大すき お兄ちゃんといっしょだと 半分こでいやなこともいっぱいだけど うれしいこともいっぱい 楽しいことは二倍になる 明日はなかよく 半分こしようかな?
「半分こ きらい」というのは素直な気持ちでしょう。
ケーキやママは「半分こ」じゃなくて、「全部」がいいよね。でも、半分こがいいときもあります。「ママのカミナリ」も「なみだ」も半分こがいい。
なかなか思い通りにならないからむずかしい。
二つにケンカ別れするのじゃなくて、仲よしがいいと言いたい心だね。
昼寝 佐藤 隼人 夏の午後二時 目をさましたら 一瞬目の前が真っ白になって だんだんと青い空と 白い雲が目の前にうかんでくる ささいなことで親とけんかして 窓からやねの上に飛びだして 真っ青な空と真っ白な雲を見ているうちに眠りに落 ちた 目がさめて 青い空を見ているうちに自分の小ささ 自分の心の小ささが身にしみる その時 空がまるで「もっと大きな男になれ」と言ったかの ように風が全身をとおりぬける 雲が動き 夕立がやってくる 雨に打たれて家の中に入る 部屋に戻ると親が着替えを用意してくれていたその時 心の中から何かがあふれだす それと同時に口から「ごめんなさい」と言う言葉が あふれだした それから僕は大きくなった 小さなことやささいな事はあまり気にしないで 大きな心をもてるようになった まるで真っ青で大きな空のように 空は自分に心の大きさを教えてくれた師である
けんかして屋根の上にあがって昼寝するって大胆です。青い空を見あげているうちに、「もっと大きな男になれ」と空の声が言ったような気がして、家の中に入って反省する。
けんかでカッとしても、時間がたって冷静になれば「ごめんなさい」という気持ちになる。
小さなことにあまりこだわらないことが大切です。
入選
またいつか・・・・ 宮下 月希 今どこで、何をしているの? 今まだ生きているよね? 毎朝、学校へ行く前、空にむかって言う言葉。 「ねぇ。キイ。」 「キイ。おはよう。」 毎日ちがう雲を見て、 毎日ちがう空を見て、晴れの日も雨の日も 毎日毎日言う言葉。 いなくなったキイへのあいさつ キイは、大切なわたしのセキセイインコ。 わたしが、はじめてもらったおこづかいで 買った大切な、大切なインコ キイは、わたしの子ども そう思って大事にしていたキイ。 弟が、にがしてしまったのだ キイは大切な家族 一年たった今でも、キイの顔、キイの声、 キイのしぐさすべておぼえているよ。 キイの事、一日もわすれたことないよ。 カラスに食べられたんじゃないか? もう死んだよ。 人はかんたんに言う。 けれど、きっとキイは生きている。 どこかできっと生きている。 いっしょに、にげたピコだって、もどって これたんだ。 キイだってきっと、もどってこれる ピコのぎせいなんてつらいよね。 キイだけ、もどれないなんてつらいよね。 わたしに羽があったら、 わたしが鳥だったら、 すぐにでもとび立ってさがしに行きたい。 「今日も元気にしているかな?」 「わたしの元にもどっておいで。」 今日も空に声をかけて、出かけるよ。 キイがそばにいるとしんじているよ。 もどってこられなくても、キイは、これか らも、わたしの心の中で生きているよ。 ずっとずっと、いっしょだよ。 またいつか・・・・
大切に飼っていたセキセイインコが行方不明。きっと生きている、さがしに行きたい、という気持ちが切実です。ずっと「心の中で生きている」という希望が何よりも大事。
轍 金田一 晴華 人生の足跡が残せるとしたら、私のそれは細い轍 限りなく広い雪の路に 一筋の線を走らせるように 新雪を踏みしめる感触に 躍動する胸が輪を漕ぐ その距離は短い だけど怯むことはない その細さは弱い だけど恥じることもない その距離は誇り 永遠に消えない 私が前へ進んだ証 その細さは強さ 辛い山道や坂道を 誰かと共に乗り越えた印 純白の大地を進む 私がその一番初めなら 私が標を残したい もしも轍の沈まない 固い大地であったとしても 私が色を被ればいい 太陽のような橙で 悠々と轍を刻んでいこう 私の轍を生みし輪よ 滑れば滑ってゆく程に 超えれば超えてゆく度に 生きている証拠を刻んでいけ 寒さに震える新緑に 雪解けの光を届けるように 私という細い軌跡が 誰かの標となるように 私は今日も轍を残す 人生という足跡を
生きて行くことは轍を残すことでもある。たとえ細い軌跡であっても、それを刻んで進むことが人生だというしっかりした自覚があります。表現が少々硬直していて残念。
気持ち 高木 晴貴 成長する度に苦手な事が増えてきた その苦手に僕は逃げていた だって楽だし傷付きたくないから 思った以上にうまく逃げれた 「よし、このままつき進もう!」そう 思った瞬間、もう一人の僕が出てきて こう言った。 (本当にこのままでいいのか?) なぜか心が重くなって気分が沈む それでも僕は逃げた 一つ二つ苦手が増えても だけど、友達と話していても 自分の好きな事をやっていても 気分が沈む そしてまたあいつがでてきた 「もう一人の自分」 (いつまでそうしているつもりなの? このまま逃げていたって 何も変わらないじゃん) 「分かってるよ!そんな事!」 頭の中、心の中、何人もの僕が出てきて どうしていいのかわからない 考えても考えてもわからない 親にも先生にも色々言われた けど、わからない。 今もまだどうしたらいいのかわからないけど 苦手から逃げた結果が自分を苦しめたのは わかった。 自分がどんな事が苦手なのかも わかった。 たくさんの苦手な事を抱えていたのも わかった。 だから僕はわかった 自分の苦手に立ち向かい、少しずつでも 減らしていこう。 たとえそれが「得意」にならなくても。
誰しも苦手なことからは逃げたい。うまく逃げられなくても逃げたい。
苦手なことから逃げたらさらに苦しむ─そんな自分に気づいて、反省したりして悩みに立ち向かう。
解放 渡邊 茉子 今まで逃げてきたことがたくさんある そして、時間がたつにつれてあふれ出 す「もしも・・・」の言葉 でも、それに答えはあるのかな 私が今まで歩いてきた道 嫌なこともあったけど それだけじゃないよね たくさん笑ったよね その分だけ私は前に進めたかな 小さいころの理想 今の自分と違いすぎて笑ってしまう ねえ、もし過去の自分が今の自分を見たら なんて言うのかな 私はどんな風になるのかな 考えても分からない でも、後悔はしたくない だからどんな自分でも 私は前を見るんだ
前を向いて進んできた自分、そういう自分に簡単に満足せずに、向き合ってこれでいいのかどうか振り返る。小さい頃の理想はどうだったか今はどうかと、前を向いて進む。
君のそばに、ずっといる 姉崎 百花 君のそばには、家ぞく、友達、言葉が そばにいる。 でも・・・一番大切なもの なによりも大切なもの それは、 「言葉。」に はいってる。 「ありがとう。」 そして 「ごめんなさい。」 のこの2つ この2つは、人生にそばに、 ずっといる。 それは、「言葉の親せき。」 みたいなものだ せなかについてきたり、おいかけまわ されたりする。 でも 一生ついてくる だから、 「言葉の親せき。」 を大事にして 一生いや 人生の終わりまで いてもらおう。 「ありがとう。」 そして 「ごめんなさい。」 の言葉を 大事にして
いろいろなものが君のそばにいるけれど、なかでも「ありがとう」と「ごめんなさい」という二つの言葉のすばらしさを発見。追いかけたりして一生ついてくるその言葉。
春を 感じて 平野 伶 なんだか 風が 暖かい そろそろ 春が きたのかな さあ こい 春よ 待ってたぞ 庭で 見つけた ちゅうりっぷ そっと 顔を 近づけた においは なんにも しなかった 新芽も たくさん 出て いたな 頑張れ 頑張れ 葉っぱの 赤ちゃん 夏に なったら また 来るね なんだか 気持ちが ポーンと なった
風や花によって、春がきたことを知ったうれしい気持ちが、やさしくはずんでいるようです。
それを理屈ではなく感性で表現している。読者の気持ちもポーとなるみたい。
宇宙と地球 山口 尚輝 宇宙には 地球以外にも たくさんの星がある そして その星たちは 一つ一つがバラバラにならず 円を描いて回っている それらを 地球から見ると 星座に見えたり 花火のように見える さらに きれいなのは 流れ星だ 宇宙目線で見ると ただのいん石だが 地球から見ると 願い事が叶うという 人間には とてもうれしいことがおきる このように 宇宙から見ると 普通のことが 地球から見ると 全然宇宙とは 違う姿になったり 人間を笑顔にするものに変わる 太陽もそうだ 水星はものすごく暑く 海王星はものすごく寒い でも地球は温かい 大きさも 宇宙から見ると ものすごく大きいが 地球から見ると 小さい そのようにして 宇宙と地球は 密接な関係にある
多くの星たちも太陽も、地球から見たり宇宙から見たりすれば、見え方がいろいろちがったり、宇宙科学的に説明できたりしておもしろい。その密接な関係が見えてくる。
亡き友よ 小倉 清奈 約束の場所で待っていたんだ 君が笑顔で来ることを ずっと ずっと ねむる君を見て思う 僕はまた一人だと 弱い僕の心に伝わる 強い意志を忘れるなと 君の思い 君のために生きてくれと 君の声 前を向いて 自分を愛し大切にしろ そう言って笑ってくれる 君がいた ここにあった よろこび ささやかな 悲しみを 教えてくれた ああ 友よ また合う日 約束の場所で 笑い合おう
どこが約束の場所だったのかはよくわからないが、待っていた友だちは「ぼくのために生きてくれ」と声だけ残して亡くなってしまった。いつか約束の場所で笑い合おう。
つっぱりぼう 栁田 凱斗 ぼくの心のつっぱりぼう お母さん どんなにさみしく落ちこんでいても いつもやさしく支えてくれる ぼくの心のつっぱりぼう お父さん どんなにイライラはら立たしくても 正しい道に立たせてくれる ぼくの心のつっぱりぼう 弟 どんなに苦しく頭かかえても 笑顔で楽しく立ち直らせてくれる みんながぼくを支えてくれる みんながぼくを立たせてくれる ぼくもみんなを支えていく ぼくもみんなを立たせていく ちょっと つっぱりながらね
ひとりで落ちこんだりして苦しくても、母も父も弟も、きみの心のつっぱりぼうになって支えてくれる。みんなも支え、立たせてくれる。きみもじつはみんなを支えている。
きこえる 湊屋 愛 あなたには何がきこえますか 爆弾が爆発する音 人々が泣き叫ぶ声 恐ろしい飛行機の音 燃え広がっていく炎の音が あなたにはきこえますか 今、私たちには ゲームや音楽の音 きれいな歌声 美しい楽器の音 電車や車が町を走る音が きこえる 昔、きこえた音は きこえない だんだん忘れられていっている それが幸せなのか 不幸せなのか もう一度問おう あなたには何がきこえますか
今楽しんでいるゲームや音楽、歌声、電車の音などにうち消されるように、恐ろしかった音や叫びが昔あった。それらが聞こえなくても忘れてはならない、と確認している。
よるのトイレ 萩原 咲喜 わたしはよるくらいとき トイレに行くのがきらい テレビにでてくるこわい人が いるような気がする 本でよんだこわいおばけが いるような気がする おとうさんに言ったら 「とうそう中のハンターが、 トイレにいるかもよ!」 もっとこわくなった ハリーポッターにでてくる わるい人がいるかもしれない がいこつがまどをあけて のぞいているかもしれない でも今のところなにもでてこない わたしはいそいでズボンをはいて はしってへやにもどる おかあさんに言ったら わらっていた おとなになったら よるのトイレこわくなくなるのかな
子どものときなぜか夜トイレへ行く怖さを、正直に告白しています。
そんなときにかぎって怖いことを思い出してしまい、本人は真剣。おとなになれば怖くなくなります。
会話 小川 舞夏 電車の中で 友達と手話で話していると ヒソヒソと話し声が聞こえてくる 目を上げると じっとこっちを見ている人たち 手話って めずらしい 手話って 目立つ 手話って 分からない 手話って 不思議 私はおもいっきり手を動かした みんなが口で話してるように 私たちは手で話しているだけなのだから 手話って おもしろい 手話って 便利 手話って 相手の想いが伝わってくる 手話って… 美しい
電車の中での手話のようす。たしかに目立つけれど、わからない人には口惜しいです。
「思いっきり」手を動かして、おしゃべりを楽しんでください。そう、手話は美しい。
佐々木せんせい 山崎 拓実 佐々木せんせいから へんじがくるのが うれしい 佐々木せんせい きたいして下さい 平成24ねんど うんどうかいのとき ビデオをとってくれてありがとう もうかみのけはひっぱりません しいの木祭きて下さい てがみをやぶきません おきゅうりょうをもらったら おうちにいってもいいですか おみまいにきてくれてありがとう
先生から手紙の返事をもらうのはうれしい。でも、髪の毛をひっぱったりして、山﨑さんはやんちゃな生徒ですね。最後の三行は率直です。お家へ行ったら先生は喜ぶよ。
犯人はだれだ 八木 恒輝 ごそごそ がざがざ 畑の方から音がする なぁーんだ おばあちゃんが野菜を取るのか 近づいてみる スイカ畑だ でもだれもいない 畑の中で目が光る ぞくっ ゆうれいだ にげようとした ぼく でもそこで彼はにげだした 大きなタヌキだ スイカと同じしまもよう ずんぐりしてる でも速い スイカはあまいが彼はあまくない すぐににげられた それからスイカはぐんぐん育った ぼくは思った 彼は犯人でなく 魔法使いだ
一行目の入り方がうまい。おばあちゃん→ゆうれい→タヌキ、スイカ泥棒の犯人を推理してゆくミステリアスなテンポが快い。スイカとタヌキの比較。さて犯人はだれ?
雲の上 松本 貴穂 私はいつも思うんです 雲は、自由でいいよね ゆっくり流れる雲を見て思う 雲は、見てて面白い かたちがかわって かわいいね 晴れているとね 空と雲が綺麗に見えるよ それを見るとね 心の中がリセットされるよ おちつける 雲の上ってどんなだろう 雲の上には また水色みたいな空かな? 見てみたい 綺麗なのかな? 行ってみたい 私の希望は また いっぱい あるんだね
雲にもいろいろあるけれど、そのかたちや動きを見あげていると飽きません。
雲の上、空の向こうには何があるのか、どんなになっているのか。ユメも希望もふくらむね。
「心おどる 春のもの」 石井 和哉 桜の色はピンク 花びらが重なって 美しく咲いている 散らなければ何日か見られるけれど 散ると見られなくなるのは悲しい 花びらが散る様子は鳥が飛んでいるようだ たんぽぽは黄色 綿毛が飛んで また新しいタンポポを作る 自分の力で生きていけるタンポポは強い もんしろ蝶は白 蝶は自由に飛べる 花の村から花の街へ 想い出たくさんできるかな ぼくも 花びらや 綿毛や 蝶のように 人を楽しませながら 自分の力で 自由に飛びたい
桜の花びら、タンポポ、もんしろ蝶、それぞれ自分の力で咲いて散ったり、飛んだりしています。負けずに自分の力で飛びたい、自由に生きたい、という願いこそが大切。
ヘビ 石井 陸翔 先生がヘビをぼうでたたいた ヘビの頭をぼうでたたいた 血が出た ヘビはぼうのところにしがみついていた そして ヘビは死んだ ヘビのおなかは大きくなっていた スズメの赤ちゃんを食べていたのだ 生きるために食べるんだ 先生が言った ヘビはがんばっていたのだ
先生がヘビを叩いているようすを、よく観察しています。ヘビは死んでしまった。
それを見ていた自分の怖いとかかわいそうという気持ちが、先生の最後の言葉にこめられた。
花火と思い出 近藤 宙 バーンと一発の花火があがる。 青い花火。 なぜか悲しい思い出思い出す。 バーンと二発目の花火があがる。 緑の花火。 友達と遊んだ日のこと思い出す。 バーンと三発目の花火があがる。 オレンジの花火だ。 楽しかった思い出思い出す。 バーンと四発目の花火があがる。 赤い花火だ。 あいつとけんかしたこと思い出す。 花火たちがあがるたび、思い出たちがよみがえる
色ちがいの花火がバーンとあがるたびに、いろいろなことを思い出す。
そんなことってあるでしょう。
ただ花火を見物しているだけでなく、楽しみ方は人によってさまざま。
人生とは何か 加藤 弘信 僕は何のために生きているのだろう。 欲しい物を手に入れるためなんだろうか。 それとも うまい食べ物を腹いっぱい食うためなんだろうか。 正直、僕にもよく分からない。 でも分からなくてもいい気がする。 分かってしまったら生きるのがつまらなくなってしまうから。 だから僕は生きてみようと思う。 生きていれば、いつかきっと生きている意味が見つかると思うから。
むずかしい命題です。人生とは?と誰もが考えるわけですが、はっきりした答えは簡単には見つかりません。人間が生きることはその命題をさがす旅。だから生きて行く。
色 村上 琴音 人には色がある あの子は明るい。だから黄色。 あの子は笑顔。だからオレンジ色。 あの子はクール。だから青色。 あの子は元気。だから赤色。 この一人一人の色が集まると 虹になる 色がない人なんて存在しない 人には色がある
たしかに「あの子」たちは色分けできるかもしれません。色のない人はいない。
別々の色が集まると虹になる、という発想はすばらしい。七色以上の美しい虹でしょうね。
非常口 千代岡 龍生 非常口は出口だ 非常口は避難経路 非常階段を下りると道がある 非常口は火災が起きた時に使う 心が火事になる時がある 僕の心が火事になる時 色々な事を忘れる時 非常口はない 非常口がほしい 非常口 探せばあるかもしれない
あらゆる施設には非常口がありますけれど、人間にはありません。
人間の心が火事になって非常口がほしいことがあるけど、自分で探すしかありません。
貴重な着眼です。
草 石黒 玲央 草はすぐのびる 野さいや木とは、ちがい すぐのびる なぜだろう たねがないのに ぬいてもぬいても すぐ出てくる なぜだろう もしかして たねがあるかもしれない もしかして 土の中にひみつがあるのかもしれない 土の中にうえてる生きものや、 たねをまいてる生きものが、 いるかもしれない とってもとっても すぐ出てくる 草はおもしろいなあ
草は取っても取っても、すぐに伸びてきます。それはしょうがないとオトナは嘆きます。
でも、「土の中にひみつがある」と考えるのは発見です。そうなのかもしれません。
光をうけて 安藤 慎悟 月は太陽の光をうけて光っているとな らった 海も太陽の光をうけて光っている 風も光る 雨にぬれて葉っぱが光る 雨にぬれて屋根が光る 乗り物はライトが光る ぼくの目は ぼくの目はうれしい時に光る ほめられたぼく 光ってる 笑顔の友だち 光ってる
太陽の光をうけて葉っぱも屋根も光ります。風もじつは光るのです。
そして人の目も、うれしいときやほめられたときには光ります。
みんなの笑顔も光り輝くのでしょう。
大そうじ 久我 夏輝 大そうじ パタパタパタ 大みそかはおおそうじ キュッキュッキュ キュッキュッキュ ウィ〜ン ウィ〜ン パタ パタ パタ いろんなそうじの音がきこえてくる。 もっときこえないかな サッサッサ ほうきの音がきこえてくる。 そうじ そうじ そうじをするときれいになる。 そうじがおわるとしずかになる。 しずかになった。 ぼくはいい気もち。
大そうじのようすを、音だけでうまく表現しました。耳をすませばきっとみんなの声もまじっているでしょう。そうじのにぎやかな音のあと、静かになって気持ちがいい。
山本先生のふわふわホットケーキ 田村 健成 ふわふわのにおい あまくていいにおい わたあめっぽいにおい おいしくなってくるにおい バニラアイスのにおい すごくたべたくなるにおい ホットケーキのするにおい どらやきのにおい ポッポやきのにおい そとがつるつるパリパリしてる 中がもちもちでふわふわしてる あまくておいしい おいしくてふわふわでいいにおいで またたべたくなるにおい
先生が作ってくれたホットケーキのおいしさを、いろいろなにおいによって表現していて、パリパリふわふわ感が伝わってきます。においだけでとらえてみせたおいしさ。
にわか雨 古谷 純一 今日も またにわか雨 体びしょびしょ 気持ちしょんぼり やる気なくなる でも やんだ後は きれいな虹が出る きれいだー 気持ちも晴れる やる気再び出る これこそ最高だ
雨がふると身も心も落ちこんで、やる気がなくなるのはしかたがない。
しかし、雨がやんできれいな虹が出たら、気持ちも一転して晴れます。
さあ、やる気を出しましょう。
階段 結城 里菜 下から階段を見上げる 長い長い階段 上が見えない 「なぜこんなに長いのか」 問うてみる 返事はない 勇気を出して一段上った 後ろを振り返ってみた もう闇になっていた 進むしかない 後もどりはできない
どこまでつづく長い階段でしょうか。人生は、上(先)が見えない長い階段をひたすらのぼることに似ている。もちろん後戻りはできません。
勇気を出してのぼりましょう。
おにいちゃんとおねえちゃん 島 峻太 おもしろい けんかする おこられる たたかれる たたきかえす たのしい あそぶ てれびをみる げえむをする ほんをよむ べんきょうをおしえてくれる うれしい おにいちゃんとおねえちゃんがいてよかった だいすき
けんかしたり、ゲームをしたりして遊ぶ。だから兄姉は楽しいし、「おもしろい」とも言えます。大きくなってから別々にくらすようになっても、いつも兄姉はすてきです。
第22回矢沢宰賞の審査を終えて
私たち誰もが、日頃たくさんの言葉、さまざまな言葉にびっしり囲まれて生活しています。それらに溺れそうになっている、とさえ言えそうです。
昨年、見附でお話をいただいた詩人・谷川俊太郎さんが今年出版された詩集『詩に就いて』には、詩についていろいろと大切なことが書かれています。そのなかに次のような1行があります。
言葉の群衆をかき分けて詩を探す
─ 最初に言いました「たくさんの言葉、さまざまな言葉」とは「言葉の群衆」と同じ意味だと言えます。その「群衆」を「かき分け」て、自分の詩(言葉)を探し出さなければならない、と谷川さんは言っているのです。しかし、探し出すことは容易ではありません。
今年は全国から596編の応募がありました。全部読ませていただきました。出来不出来はあるにしても、いい加減な気持ちで書かれた詩は一編もなかったと思います。それぞれ自分流に、「言葉の群衆」をかき分けようとする気迫が感じられました。いつもながら、選者として何よりもうれしい出会いでした。
私はふだん、オトナの詩を読むことが多いのですが、年に一度矢沢宰賞に応募された、小学生から高校生までの詩をまとめてたくさん読む、これは特別な時間です。原稿をめくっていると、書いた人の呼吸がなまなましく伝わってきます。至福の特別な時間です。
「かき分け」方や「探し」方は、あくまでも自分流でなくてはなりません。誰かの真似や決まりきった常識では、独自の世界を生み出すことはできません。表現することは自分と闘うことです。しかも、ラクをしないという覚悟が重要で、「急がば回れ」です。
くり返し読ませてもらった詩の作者のみなさんと、初めて会ってお話しできる機会─ これも私にとっては特別な時間です。
- 審査員 八木 忠栄
1941年見附市生まれ。日大芸術学部卒。
「現代詩手帳」編集長、銀座セゾン劇場総支配人を歴任。
現在、個人誌「いちばん寒い場所」主宰。日本現代詩人会理事。青山女子短大講師。
詩集「きんにくの唄」「八木忠栄詩集」「雲の縁側」(現代詩花椿賞)他多数、エッセイ集「詩人漂流ノート」「落語新時代」他、句集「雪やまず」「身体論」(吟遊俳句賞)。
年ごとの入賞作品のご紹介
回 | 最優秀賞受賞者 | タイトル |
---|---|---|
第1回(平成6年) | 山本 妙 | 本当のこと |
第2回(平成7年) | 山本 妙 | 災害 |
第3回(平成8年) | 高橋 美智子 | 小さな翼をこの空へ |
第4回(平成9年) | 野尻 由依 | 大すきなふくばあ |
第5回(平成10年) | 佐藤 夏希 | お日さまの一日 |
第6回(平成11年) | 除村美智代 | 大きなもの |
第7回(平成12年) | 徳田 健 | ありがとう |
第8回(平成13年) | 井上 朝子 | おくりもの |
第9回(平成14年) | 藪田 みゆき | 今日は一生に一回だけ |
第10回(平成15年) | 日沖 七瀬 | 韓国地下鉄放火事件の悲劇 |
第11回(平成16年) | 佐藤 ななせ | 抱きしめる |
第12回(平成17年) | 髙島 健祐 | えんぴつとけしゴム |
第13回(平成18年) | 濱野 沙苗 | 机の中に |
第14回(平成19年) | 田村 美咲 | おーい!たいようくーん |
第15回(平成20年) | 高橋 菜美 | 空唄 |
第16回(平成21年) | 今津 翼 | 冬景色 |
第17回(平成22年) | 西田 麻里 | 命に感謝 |
第18回(平成23年) | 山谷 圭祐 | 木 |
第19回(平成24年) | 坂井 真唯 | クレヨン |
第20回(平成25年) | 宮嶋和佳奈 | 広い海 |
第21回(平成26年) | 金田一 晴華 | 心樹 |
第22回(平成27年) | 安藤 絵美 | 拝啓 お母さん |
第23回(平成28年) | 宮下 月希 | 大好きな音 |
第24回(平成29年) | 宮下 月希 | 心のトビラ |
第25回(平成30年) | 阿部 圭佑 | ものさし |
第26回(令和元年) | 上田 士稀 | 何かのかけら |
第27回(令和2年) | 宮下 音奏 | 大好きな声 |
第28回(令和3年) | 横田 惇平 | ふくきたる夏休み |
第29回(令和4年) | 野田 惺 | やっと言えた |
第30回(令和5年) | 舘野 絢香 | 気持ちをカタチに 思いを届ける |