最優秀賞 ポプラ賞
広い海 宮嶋和佳奈 広い海に問う なぜ海はしょっぱいのか すると海は、 みんなのナミダを集めているからさ。 私は問う なぜ海はキレイなのか すると海は みんなの優しさを集めているからさ。 私は問う なぜしょっぱいのに優しいのか 海はいう ナミダの中には、悲しみと、相手を想う 優しさも入っているからさ。だから キレイでいられるのさ。 私は問う なぜ海は青いのか 海はいう 空のカガミだからさ。空も青くて、キレイだろう? それにね、すきとおっていると、 魚がはずかしがるだろう? 私は問う なぜ海はあたたかかったり つめたかったりするのか 海はいう みんなの悲しみが多いときは あたたかいのさ。 私は問う なぜ悲しいときあたたかいのか 海はいう 悲しいときは心がつめたいから ナミダがあたたかいように あたたかいのさ。 私はそのとき、思った。 だから太陽も、そんな優しい海に 沈んでゆくのだと。
世の中はわからないこと、不思議なことに満ちています。わからないことは尋ねたり調べたりしなければ、いつまでたってもわからないままです。
海に対してわからないことを、作者は素直にくり返し「なぜ」と問う。
しょっぱさにはじまって次々と。海からの答えはわかりやすく、しかも詩的です。
問いと答えに作者の心がしっかりこめられていて、最後に海のあたたかさ、優しさにまで到ります。海をじっと見つめ、あらゆる面から海について考えた力作です。
奨励賞 ポプラ賞
ひこうき雲 小川 斐花 振り向けば 青い空が広がっていて 僕には 関係のないことだと思っていた 青い空が広がっていて どうしてもっと早く 気付かなかったのだろうと 悔やむばかりだった じっと見つめていては 動かないその景色は 動かないはずだったのに 一筋のひこうき雲が それを壊した 「ひこうき雲は 見たら一日 幸せになれるから だからどうか 走ってね」 僕は唐突に思い出した ああそうだ 僕は走らなければならない 振り向くのをやめて もう一度前を向きなおして 僕は走らなければならない 風よりも速く ひこうき雲が消えるよりも早く あの場所へと 「沈む夕日が見えたよ 青い空の中さ 不思議に素敵なことじゃない?」 そうだね 本当にそうだね ひこうき雲を見るのはやめた 君に幸せはやってきただろうか とにかく僕は 僕らは 走らなければならない
ふと見上げた空に対する驚き、そして一筋走るひこうき雲を見たことによって、自分は走らなければならないことを思い出す。
振り向いてひこうき雲に見とれているよりも、僕(ら)は前を向いて走らなければなりません。若者は過去を振り返るよりは、前を向いて走ることが大切。幸せに向かって走ろう。
ぼくのあこがれ 竹田 航汰 ぼくは今、バスケットボールをやっている。 さいしょは本当はしたくなかった。 お母さんにむりやりつれてかれたんだ。 ヤダヤダヤダ…ずっとそう思いながら、バスケットをやっていた。 同じ小学校の友だちもいない。 弟たちは家であそんでる。 バスケットのある日は、友だちともあそべない。 でもしゅく題をしないとお母さんにおこられる。 かんとくもこわい… ヤダヤダヤダー 3年生はあまり試合に出れないのに、土日はいつも早おきして行く。 なんでだよー。 でも、チームの仲間も同じ気もちみたい。 そうだよ。ぼくだけじゃないんだ。 この夏休みは合しゅくした。きもだめしもした。 楽しくてねむれなかったのに、早おきしてランニング。 でもつらくなかった。 その日の試合で強いチームに勝てた。 ぼくもチームの仲間もお父さんお母さんたちも大きな声でおうえんした。 先ぱいたちがとてもかっこよかった。 仲間たちもとってもかっこよかった。 ぼくも、そう思われたい。 ぼくも、がんばりたい。 そう思った時、やっとバスケットボールが好きになった。
バスケットボールをやっていると、あそべないし、しゅく題もあり、早起きしなければならない。ヤダヤダ……。でも、合しゅくして試合に勝った。
おうえんはうれしいし、先ぱいも仲間もかっこいい。スポーツはつらいけれど、同時にうれしい。バスケットボールのつらさとうれしさにあふれています。
ドア 青木 紫苑 ドアを開ければ別の世界 今までになかったことが ドアを開ければきっとみつかる 学校のドアを開ければ新しい発見がある お店のドアを開ければ夢が広がる 心のドアを開ければいままでと違う自分に きっとなれる それぞれ違うドアだけど どれもみんな 生きていくための 大切なドアなのだ だからこそ ドアを開ければ 別の世界がきっとある さあ! その手で別の世界のドアを開こう ドアを開ける前より 心も体も 成長しているから
学校のドアやお店のドアから心のドアまで、この世界にはさまざまなドアがたくさんあります。ドアを自分で開けなければ別の新しい世界は、いつまでも見つかりませんし現われません。
ドアの向うにはどんな世界が広がっているかわかりませんが、おそれずあわてずに開いて行くのが生きるということ。
家族 本間 優華 私の家族。 いつも父に怒られる兄。 兄は頭が固い。 とてもいい音がする。 そんな父は自分に甘い。 ビール一日一本。 たばこ一日一ケース。 私の家族は朝が早い。 休みは私が一番遅い。 母に起こされる。 私と母はきってもきれない仲だ。 私が幼稚園の時。 帰って来る。 おかえり。 ぎゅ。 温かい。 父はバリバリ仕事マンだ。 父は世界で一番私が好きだ。 父とはうり二つだ。 ただ食べ物は別だ。 私と父は大食いだ。 母は料理の献立に悩む。 毎日同じ料理だと母に文句を言う。 母は私を特別扱いしてくれる。 ぬいぐるみで兄との取り合いだ。 内容は小さい事だ。 私は泣く。 家の外まで届くほど泣く。 兄は私にぬいぐるみを譲る。 私の家族。 一緒にいるだけでいい。 かけがえのない宝物だ。 人間が造った宝石はすぐ腐る。 でも家族の絆は永遠だ。 雨が来ても、嵐が来ても。 心はつながっている。 大切な物はと聞かれたら、家族と答える。 どんなに寒い会津でも負けない。 温かいストーブがそこにある。
家族一人一人のことが具体的に正直に書かれていて、好感をもちました。愉快でもあります。家族といっても、それぞれにクセがあったり、好みもちがったりして当然です。
いいこともいやなこともあるでしょうが、「かけがえのない宝物」でしょう。
最後の九行はその通りだと思います。それが基本です。
夏恋花火 西田 奈緒 この夏、好きな人をさそわず、 友と花火を見上げた。 夜空にいっぱい花を咲かせる花火。 ドカーンと音を出して スゥーとゆっくりと消える。 花火ってすぐに消えてしまうんだね。 君を想うこの気持ちも 花火のように消えてしまいたい。 だって苦しむのが限界だから。 だけど、 恋はすぐに消えることが 出来ないんだ。 ずっと 花火をみつめ ずっと 君を想い 私の想いを届け とどんなに願っていても そう簡単には届けられないんだ。 だから 君は、私の気持ちを気づいてくれない。 それがつらくてあきらめようとしても 君の事がこんなに好きだから消えないんだ。 また友と花火を見上げると 夜空に舞い上がる花火 花火の音が心を揺さぶる 花火の音が心に響く 目を閉じるとうかぶのは 夜空に咲く花。 そして君の笑った顔 君を想う気持ちがあふれてくる。 いつか、君の横で笑って花火を見たい。 その夢を叶えることができるかな。 君は夜空に咲く花火を見て いったい誰の事を 想っていますか。
片想いなのでしょう。その人ではなく友人と花火見物に行き、ドカーンと空中にみごとな花を咲かせ、スウーッと消えてしまう花火を見ながら、「君」のことをあれこれと想いめぐらしてしまう。好きな「君」は、私の気持ちに気づいてくれていないというつらい心。
花火の音で心は乱れ、想いがふくらむ。
入選
私の日記は夢の色 矢木 綾華 私の日記は 何色だろう 決して困難が なかった色じゃない 苦しい思い 悲しい思いが あった色にちがいない でも 日記に記録すれば 新しい何かが 見えるような気がする 明日への一歩が つかめる気がする また つらいことはある でも 私の日記は 自分のステキな 夢がつまった色の 日記に ちがいない
うれしいことだけでなく、つらいことも日記に書けばすてきな色の夢となる。
すばらしいことですね。日記を言葉でなく夢の色としたところがユニーク。
心にぐうんと手をのばせ 岩崎 真央 学校にぐうんと手をのばせ げんかん かいだん かきわけて 自分の教室 たどりつけ ノートにぐうんと手をのばせ さんすう こくごの ノートにね みんなでべんきょう すすめちゃおう 心にぐうんと手をのばせ いじわる たいくつ かきわけて 自分の心をつかまえろ
「ぐうんと手をのばせ」というくり返しが力強く、心を引かれました。学校でも家でも、ぐうんと手をのばさなければ、何事もはじまらず、進みません。
出会い 佐々木 明美 今年も また 出会ったよ たくさんの人と 出会ったよ 最初はねえ どんな人なんだろ やさしい人かなあ? こわい人かなあ? わたしのこと わかってくれるかなあ と思った 1回目の授業は わたしが ドキドキしてた お互いが ドキドキしてたかなあ でも 話していくうちに あーよかったあ お互いに話ができて うれしかったあ 次の授業が たのしみになってきた。
若いときも年とってからでも、人との出会いは緊張するもの。ドキドキもするでしょう。
でも出会いは新鮮です。じっくり話してみれば理解は深まります。
牛 石井 陸翔 牛がモーってないた。 うんちをしたよ ドロドロだ しょうべんもたれていた。 土色だった 牛が草を食べたよ ガブ ガブ ガブ 大きな口だ おっぱいは大きいよ あったかいおっぱいだよ さわったら、 モーっていったよ。 赤ちゃん牛もいたよ ミルクをのんでいた チューチューチュー いい音がした。 ぼくはおっぱいのまないよ 牛乳になってからのむよ 本間さんの家の牛乳に なってからのむよ
うんちから牛乳まで、牛をよく観察できました。よけいなことは書いてありませんが、牛がそこにいるような感じです。本間さんの家の牛乳もおいしそう。
そんな 長谷川 菜摘 人は皆 比べられて生きている 兄弟 友達 初めてあった人にまで 比べられて生きている 比べられて 比べられて 比べられて 個性という名の光は 輝きを失っていく 比べるなと 私は 心の中で叫ぶ でも そんな私だって・・・ 自分の方が偉いと思い込み 誰かを軽蔑してみたり 同情しているふりをして 誰かの不幸を笑ってみたり 人の傷口を探して 自分の光を得る そんな人は 多い もう やめよう そんな生き方 比べるために生まれたわけじゃない 比べられるために生まれたわけじゃない そんなことで 光を失いたくない 自分にしかない光を放ちながら ただ そこに 精一杯咲いていたい そんな世界があるんなら とりあえず行こうか
人の個性はみんなちがっていて、単純には比べられません。
第五連で作者は謙虚になって人を観察しています。人を気にして比べるよりも、先へ行くこと。
お母さん 宇治 早柚美 曽我ひとみさんからお話を聞いたよ 悲しい話でした。 北朝鮮につれて行かれた ひとみさん ひとみさんはお母さんから 買ってもらったとけいを大切にしている。 はなればなれになったお母さん どこにいるの どうしているの 時計に話しかける いつか、会えるよね きっと きっと ひとみさんの願いはただ一つ お母さん そうお母さんにいってみたい だきしめたい つよくだきしめたい お母さん
曽我ひとみさんは、強引にお母さんと引き裂かれたままです。お話は身にしみたでしょう。
「お母さんを大事にして!」とひとみさんは話されたのでしょう。
風 青木 実穂 私は風にこう聞いた 「これからどこへ行くんですか」 風がこう答えた 「これから南の国へタンポポの子どもをのせて行くんだよ」 と答えた また、ちがう日 私は風にこう聞いた 「これからどこへ行くんですか」 風はこう答えた 「これから君の家に涼しい風を届けに行くんだよ」 と答えてからこう言った 「君の家まで競争だ」
風は自由自在に吹いています。タンポポの子ども(おもしろい表現です) を南へ運んだり、夏にはうれしい風になったり。最後の一行「競争」が愉快です。
僕には見えないもの 浦辺 亮 僕には見えないものがある どんなものも見えるのに決してそれは… ─見えない─ いつも いつも ゆれ動き続けている 心 僕には それが見えない 心はどんなものなんだろう 太陽みたいに とても明るいのかな それとも 夜空にまたたく星のように 輝いているのかな それは誰にも分からない そうだ… 見えないんじゃなくて 分からないんだ… でも決して分からないことはない だって 人の心と人の心はみえない愛ところで つながっている…から…
心がどんなものか、それは一定ではないし誰にもわからない。
他人の心だけでなく自分の心も。しかし、お互いをつなぐことにより、見えてくる心がある。
ときだいすき 三國屋 萌 ときにはね きれいなはねが ついている きれいだね ときはみんなの にんきもの ことしもね ときのあかちゃん うまれたよ がっこうに ときがくるたび みんなをみてる みんなから あいされつづける ときさんだ ときさんは まぶしいしせんを あびている
佐渡の生徒さんは、ときを近くで見ることができるから、特別好きなのでしょう。
少しずつ増えているのはうれしいね。ときを愛する心があふれています。
空 小村 太貴 野球をしていた頃だった グランドの端っこの草原で昼寝してた ふと思った 「ああ、空って広いな」 何かのスイッチがオフからオンに 空好きモードになった 夕焼けで赤く染まる空 朝焼けでオレンジに染まる空 雲が、空が色を出していた どれもこれも神秘的だな 中三になった今もふと思う 父の様に広い背中だなってね 空には表情がある 悲しいは雨、すごい楽しいは快晴 一度、空を嫌いになった時があった 遠足の時に雨で中止になった 温かかった心が冷めていったよ 「空って 思い通りにいかないんだ」 しばらくは下を向いて歩いたけど いつからか上を向いてた。好きだった 今も好き。悩みも質問も聞いたら 言葉はないけど何となく伝わって来る 今、空に心から言えること 「ありがとう」
空の表情は千変万化します。晴れたり雨だったり、好きになることも嫌いになることもあって、思い通りにいかない。でも心を開いて見あげれば通じるよ。
雲 本間 大瑚 なぜだろう 雲を見ていると 清清しい気持ちになる でも時折悲しくなる 雲は何のために在るのだろう 雲は誰のために在るのだろう 気が付くと 後ろに少年がいた 意味なんてないよ ただ在るだけさ 何もなく何も残さずただ消えるだけ 少年が無感情に 心をこめずにそういった 僕は不思議と泣いていた
雲は「ただ在るだけ」「ただ消えるだけ」ということの裏に、真実は隠されているのかもしれない。科学的に解明するのではなく、詩的想像力で探ってみる?
あいうえおのうた 山谷 誓香 あんこは あまいよ あいうえお かめさん のろのろ かきくけこ さんぽは たのしい さしすせそ たいこを たたくよ たちつてと なぞなぞ たのしい なにぬねの はなびは きれいだ はひふへほ まんとで そらとぶ まみむめも やかんは おもいよ やいゆえよ らっこは かわいい らりるれろ わたあめ あまいよ わいうえを ん
たのしいことばあそびです。同学年の人たち何人もがこころみた作品が寄せられました。
日ごろ親しんでいる「五十音」による、自由なそうぞう力の成果。
あいうえおのうた 韮澤 剛太朗 あかるい ともだち あいうえお かみさま てんごく かきくけこ さくらの おまつり さしすせそ たかいと こわいね たちつてと ならんだ こけしだ なにぬねの はみがき しないと はひふへほ まらかす からから まみむめも やりすぎ だめだよ やいゆえよ らっぱが ぷーぷー らりるれろ わなげを がんばる わいうえを ん
山谷さんと優劣つけがたい作品。詩は自由ですから、こういう作品があってもいいわけです。
心を大いに羽ばたかせて、しんけんにあそんだのでしょう。
しゃぼん玉 張戸 陽菜多 しゃぼん玉 しゃぼん玉 ふわふわ ふわり 空を飛ぶ わたしはおうえんするよ もっともっと高く飛べ しゃぼん玉 しゃぼん玉 ゆらゆら ゆらり 風にのる 風とケンカしたかな ぱちんとはじけた しゃぼん玉 しゃぼん玉 キラキラキラリ 光って見える あれれ?しゃぼん玉? にじのたまごかな? しゃぼん玉 しゃぼん玉 だぁぃ好きな しゃぼん玉
しゃぼん玉が空いっぱいに飛んでいる光景が見えてきます。
ふわふわ、ゆらゆら、みんな思い思いに飛んでいます。「にじのたまご」という発想が可愛い。
点てき 八木 梨里花(見附市) 夏カゼひいた医者に行く。 ドキドキしてる待合室 頭ガンガン熱でクラクラ ついに呼ばれた!! 頭の中でかなづちがなりひびく 目の前の白いベール ベッドの横で心配顔の祖母 先生からのきけんなお告げ 真っ白から真っ黒にそまっていく なみだがうかぶ。キラリと光るはり。 思わず目をそらす。 氷より冷たい消毒液。心ぞうがばく発しそう。 固まる体。 「いたーい。」 おそるおそる見る。 「血ってこんなにこいんだ。」 ポタポタおちるすき通った液体。ポタポタ 今度は先生からのうれしいお告げ おわりだ。 みんなびっくりしてたけど一番びっくりしたのはもちろん私だ。
お医者さんに呼ばれて、前にすわったときの不安が正直に書かれています。
針を刺された痛さと血。二つの「お告げ」に緊張感とユーモアを感じました。
キミへ 西田 麻里 ▼あの日、飼っていたネコと永遠のお別れをした小3のキミは泣いていたね。 でも、ばあちゃんのエプロンのポケットに入ってやって来たボクを見たキミは、一瞬にして笑顔になったね。 キミはボクに、2代目「チャロリ」という名前をつけてくれたね。 ▼キミは学校から帰ると、いつもボクを抱っこしてくれたね。 毎日、ボクのトイレを綺麗にしてくれたよね。 新鮮なエサと水を用意してくれたよね。 ▼小6のキミは悩んでいたね。くる日もくる日も悩んでいたね。 ボクは「キミが早く笑って暮せますように…」と願っていたよ。 ▼春、ピッカピカの制服を着たキミが眩しく見えたよ。 毎日、楽しそうに中学校へ通ったね。 あの頃、キミはお父さんやお母さんに反抗してたけど、ボクの前では変わらないキミでいてくれたよね。 ▼高校生になったキミは、学校から帰るといつも、バットやグローブを磨いていたね。 壁に立て掛けてあったバットが、ボクに向かって倒れてきた時はビックリしたよ。 キミは、朝早くから夜遅くまで毎日頑張っていたね。 真っ黒に日に焼けて…。キミがイキイキ輝いていたから、ボクは嬉しかったよ。 ▼高2の夏、キミが病気になった時は心配したよ。 キミがボクに愛情を注いでくれたぶん、今度はボクがキミのそばにいたよ。 冬が来て、キミがようやく元気になった時はホッとしたよ。 ▼キミが高3の春、ボクは病気になったよね。キミはボクを抱いて、病院に連れてってくれたね。 だんだん弱っていくボクをやさしくなでてくれたよね。 いつも一緒の布団で寝てくれたよね。ボクがオシッコをもらしても、キミは叱らなかったね。 ▼あの晩、キミは寝ないでボクをなで、声を掛け続けてくれたよね。 ボクに落ちてきたキミの涙のつぶ、とってもあったかかったよ。 冷たくなっていくボクの体をなで続けてくれた手のぬくもり、忘れないよ。 キミと過ごした8年と3カ月…。 たくさんの思い出を持って、天国へ行くね。ありがとう。 チャロリより
小3のキミが高3になっていくまで、親切で仲良く過ごしたことを、ネコの立場からくわしく述べています。亡くなったネコからキミへの感謝の気持ち。
悪夢 鈴木 駿一 ぼくは くんせい玉子が 大きらいだ あの黒く丸いフォルムは 見ているだけでゾッとするんだ あのにおいは まるでくさったゾンビのよう そしてぼくは 食べる気持ちが そがれていく それでも何とか たえしのび 一口食べる 食べてみたらどうだ この世の物とは思えない まるでくさった死体のように すぐさまはき出し 現実からのがれる 水を飲む われを忘れて 水を飲む ひたすらにただひたすらに 水を飲む それでも何とか たえしのび 一口食べる すぐさまはきだし 水を飲む 食べる気持ちが そがれていく
くんせい玉子は独特の匂いがします。それが嫌いで、「くさった死体」のようにどうしても好きになれない。嫌いということを徹底してうたった珍しい詩。
初恋 山谷 梨菜 生まれて初めて恋をした 一目惚れってやつだった グラウンドで一生懸命走る君を見て 授業中の真剣な横顔を見て 友達と楽しそうに話す姿を見て でも私は見てるだけ 一緒に話したい 好きな漫画も知ってる 好きな食べ物も知ってる 話す内容ならたくさんある 君のいろんなことを知ってる そう、私は知っているんだ 君に好きな人がいることも その人が私かもしれない でも他の人だったら? 不安で 怖くて 苦しくて 悲しくて 初恋 それは初めての感情で 私にはまだ難しすぎて
人を恋して好きになることはすばらしいし、自分が輝きます。
片想いなのでしょうけれど、よけいなことを考えずに、いろいろ話してみたらいいでしょう。
本音 星野 李縫 自分の心の中にとどめた想いは いつか誰かの心に届くのだろうか 言葉の中に 自分の想いのヒントをいれて 気付いてくれるのを待っている それでも誰にも届かずに 僕は毎日生きていくんだ いつかいつかでいいんだ 僕のココロの本音を 誰かが気付いてくれればそれで
どんな想いであれ、心の中にとどめておくかぎり他の人には伝わりません。
じっくり自分の中で吟味したうえで、誰かに届けられたら、それはすてきです。
SKY 下山 優菜 空を見ていると、あなたの事を考える 私は、あなたに こう言う 「あなたに気持ちを伝えられたら、 楽なのに… あなたは、いない あなたに、あいたい あなたの事を、一目見たい」 でも、言えない 空は、世界にあって、繋がっている。 いつか、あえる時を楽しみにしてる 恋って 切なく 悲しく 楽しく まるで、空のように、たとえる事ができる あなたの、気持ちはどうなのかな?
空を見上げながら「あなた」への気持ちがいろいろゆれます。
簡単には会えないし話せない「あなた」なのかな? 恋する心のためらいが伝わってきます。
喜怒哀楽の人生 内山 優香 消しゴムはね 間違えたら きれいに消してくれる 紙はね 間違えたら 捨てられる ゲームはね 簡単に リセットできる 私はね 一度きりの人生を 生きる人間 消しゴムや 紙や ゲームみたいに 簡単に消したり 捨てたり リセットできない時を 生きている だから… 後悔しない人生なんかないけれど 今を いっぱい笑って 泣いて 悲しんで 人生を 楽しんでいこう 消したい過去からも 逃げずに進んでいこう はぁー 今日も一日 頑張ろう
人間は消しゴムや紙やゲームとちがい、一度きりの人生だからむずかしい。
けれど逆におもしろいとも言える。臆病にならず後悔をおそれずに生きること。
空になりたい 安田 真綺 私は耳が聞こえない。 両親の声も車のクラクションすら聞こえない。 外の世界はたくさん音があふれている。 私の目に写るものだけが私の世界。 そこに音は存在しない。音の存在すら知らない。 他の人達と共有できない悲しみ。 うつむいてばかり、ふと気が付くと 車にはねられそうになったこともある。 だから上を向いて歩こう。 そこには雲がある。星がある。太陽がある。 空にはたくさんの光が存在する。 空はまるで私のよう。 空の光は私の手話と似ている。 光は音より早いように 手話も音より早い。 光があふれた空、私は空になりたい。
耳が聞こえなくても、目があり何よりも心があります。
上を向いて歩けば、空には太陽があって雲も流れています。
空の光が手話と似ている、という発見。
タコ 稲田 健太郎 高い所にのぼり水面を眺める ニョロニョロと動く奴がいた よく見ると 「タコ」だ タコめがけてエギを落とす タコが足を伸ばしエギに近よる ムギュッムギュッと抱きつき ぼくは 「バシッ」 とあわせてタコゲット リール巻いて水面から出ると ブシュッと水を吐く 逃げるタコもいる その姿はエイリアン 足伸ばしヌボーッと逃げて行く 岩の色そっくりに化ける奴 「ここにいるよ」 という感じに はっきり姿がわかる奴など様々だ 見つけて釣りあげた時は 嬉しい 楽しい やめられない
タコ釣りの真剣で楽しそうなようす。タコだって必死に逃げるし、釣るほうも懸命です。
ニョロニョロ、ムギュッ、バシッなどの擬音にも元気があります。
クレヨンな物 松本 優樹 クレヨンの空 ノートの海 コンパスのヨット 消しゴムの雲 そして消しかすの砂 はねた絵の具の黄色い月 小さなすずめ 僕のカバンは、海になった
身近にあるいろいろな文房具だけで、空や海や雲などの大自然を、短い詩のなかにとりこんでしまったウデはみごとなものです。最後の一行もすばらしい。
もしぼくが車にのれたら 佐渡 馨太 もしぼくが車にのれたら 車こうをひくくして タイヤを大きくする フルエアロにかえて カッコウよくする もしぼくが車にのれたら とうきょうへドライブにいき アキバでノートパソコンをかう そして車のぶひんをしらべる べんきょうにもすこしはつかう でもぼくは車にのれない ラジコンをかって タイヤをとりかえる 車こうをひくくして カッコウよくしてかざる かいぞう車の本を 見ていると もしぼくが車にのれたら 本の中の車より カッコイイ車にのっているかなと ときどきおもう
実際には車にのることができないのだけれど、車が大好き。
車にのっていろんなことをしたいという大きな夢がはじけています。すてきな空想の運転です。
私の家族 田村 綾花 私の家族はみんないい人です。 朝と昼ご飯はバラバラだけど夜ご飯はみんないっしょに食べます。 お母さんとお父さんはほとんど毎日仕事です。 ご飯を作ってくれるのはおばあちゃんです。 おばあちゃんのご飯はおいしいです。 おばあちゃんは家のいろんな仕事をしてくれます。 おじいちゃんは弟の遊び相手や勉強を見ています。 姉やお母さんもたまに弟の勉強をみています。 お父さんは犬の相手をしています。 私の家族はいい人だけです。
みんなそれぞれの仕事をして、役割をはたしている家族の姿が見えるようです。
みんな仲がいいんだね。ところで、あなたはいつも何をしているのかな?
おとうとのひみつ 島 花莉奈 おとうとは4さい すきないろは、あおとみどり ほっぺは、ぷにゅぷにゅして さわると、とっても きもちいいよ ほっぺは、ぴんくいろをして まるで おけしょうしてるみたい おとうとをもったら、おもたかったよ 「あそんで。」 って、いったけど 「いそがしくて、あそべない。」と ことわった。 そんなわたしをおとうとが くるくるのめで、じっとみつめる かわいくなって、 きたから、 けっきょく、あそんであげる おとうとがいてよかったよ
4歳のおとうとのかわいらしさがよく書けています。「あそべない」とことわっても、くるくる目だまのおとうとにみつめられて、やっぱりあそんであげた。
わきやく めんまたろう 生越 雅 おれは ラーメンに よく いる “わきやく”の メンマだ さいきんは こどもたちが おれを とりのこす でも、こどもたちよ しってるか メンマはなぁ タケノコなんだぞ まぁ おれは メンマだから いっしょう わきやくだが その わきやくを すばらしく 生きてゆこう よしっ ラーメンのなか はーいろっ
ラーメンになくてはならない名脇役のメンマが、子どもたちに自分のこと、脇役のすばらしさを教えています。いい脇役がいなければ主役は引き立たない。
明るい食堂 古川 悠基 お昼の食堂は明るくて そろそろみんなが給食を食べにくる はいぜんの生徒が 食堂のまどから外をながめている 次から次へと生徒が食堂へ入ってくる 調理員さんは なべを洗いながら生徒を見ている 次は中学一年の生徒が入ってる そろそろ給食が始まります 小学五年生が給食を食べ始める 中学生ははいぜんしながら いいなと見ている その時十二時のサイレンがなりました 中学一年生も食べましょうと先生が言った 外にいた教頭先生も 食堂に来て 「いただきます」と言って 食べます
学校の給食時間、お腹をすかした生徒たちが食堂へ次々に入ってきます。
にぎやかなお昼の様子が見えるようです。先生の声「食べましょう」が印象的。
私の好きなもの 内田 理香子 私の好きなもの いっぱい 私の好きな食べ物 チョコレート一番 アイス いちご あさりのパスタ そのほか いっぱい 私の好きな芸能人 嵐 私がうまれた年にデビューしたグループ だから すき 中でも 一番は櫻井くん 昔は 松潤だった そのあと 二宮くんだった このあと 変わるかわからない 私の好きな遊び おにごっこ オセロ DS Wii テレビばっかり見てるから 母は 怒る 私の好きなもの たくさんあるけど 一番 好きなのは 友達 学校の友達 バスの友達 前の学校の友達と先輩 小学校の友達 仲良くしたい
食べものであれ芸能人であれ、好きなものがいっぱいあることは幸せなことです。
好きなものが具体的に書かれている点がいいし、注目させられました。
おうちのモデルさん 樋口 怜奈 わたしはハンガー。 毎日が楽しいの。 いろんなお洋服を着れて。 まるでモデルさんみたいでしょ。 おせんたく後のいい香り。 わたしはいつでもいい香り。 わたしはハンガー。 今日は何を着れるかな。
いろんな洋服を着られるハンガーをモデルととらえたところが、なるほどおもしろくてかわいいね。幸せで毎日が楽しいハンガーのことがうらやましそう。
無限ループ 上村 彩羽 感情って 何に左右されているのか 私は心だと考えた じゃあ 心って 何に左右されているのか 私は行動だと考えた じゃあ 行動って 何に左右されているのか 私は感情だと考えた ここまで考えてきて やっと「無限ループ」に気付いた 十二年間生きていてよく気付かなかったなと思う人もいるかもしれない 結局気付いたのだからいいじゃない と思う人もいるかもしれない それもまた「無限ループ」だ 私は思った 自分なりの 自分にしかない 「無限ループ」 を見つけてみようじゃないか
感情─心─行動─感情、それはループ状になっていて限りがない、という重要な発見をしたのですね。物事は見かけによらずバラバラでなく連関している。
ぼくのくるま 橋本 直希 ぼくのくるま 早くはしる ぼくのくるま きれい ぼくのくるま さびていた ぼくのくるま てんけんだ ぼくのくるま おんがくがなる ぼくのくるま さかはしる ぼくのくるま どこまではしる ぼくのくるま がんばって ぼくのくるま だいすき ぼくのくるま ポンコツにならないで ぼくのくるま とまってる ぼくのくるま またはしる
「ぼくのくるま」はこうあってほしい、という理想が遠慮なく率直に書かれていて好感をもちました。くるまが大好きだからこそ言える夢やねがいです。
ただ一つ願うなら 渡舩 優花 やっぱりまだ好き。 頭では分かってるんだよ。 もう 「さよなら」って事。 けどね、 心がごねるの どうすれば良いんだろう 何がいけなかったんだろう できるならもう一度。 こっち向いて欲しい ぎゅってして欲しい 笑って欲しい また、 名前を呼んで欲しい だけど一番は… 幸せになって欲しい。
好きなのに「さよなら」、そのことは頭でわかっていても、実際はつらいから悩んでいます。
もう一度笑って名前を呼んでほしいけど……幸せになりたいね。
夢の色 黒岩 理奈 あなたの夢はどんな色? あかるい色? くらい色? ワクワクする色? ドキドキする色? 夢はいろんな色があるんだよ 少しのあいだしか見れなくても その夢は心の中に残るもの 夜になったら さあベッドの中でおやすみなさい 目がさめたら 夢はそこでおしまい どんな夢を見た? あなたの夢はどんな色?
夢はどんな色をしているのか。いろんな色があるはずだけれど、はっきりとはわかりません。
どんな色をしているかは、何回も夢を見て確かめるしかな
第20回矢沢宰賞の審査を終えて
私事になりますが、本年8月に小学校の同級会が見附市内のホテルでありました。卒業してから60年たちました。皆それなりに年を取りましたが、当時の面影は残っていて元気に飲食し、夜遅くまでおしゃべりがつづきました。亡くなった人も何人かあります。それぞれに苦労があったはずですが、久しぶりに懇親できたことを喜び、感謝の気持ちを抱いて散会しました。
矢沢宰賞に応募されている皆さんも、何年あるいは何十年後かに同級会などで懐かしい顔を合わせることがあるでしょう。その頃にはすっかり詩から遠ざかっている人、あるいはまだ詩を書きつづけている人などいろいろでしょう。
─ 今回の応募作650編をくり返し読みながら、そんなことに思いを馳せたりしていました。私が選者をお引き受けしたのは、4年前の第16回(平成21年)でした。当時の小学1年生は五年生に、中学生は高校生か大学生になっているはずです。今も詩を書いている人はいるでしょうか?
若い人たちには、自分が将来進む方向は無限にあります。家業を継ぐ人、サラリーマンになる人、先生になる人、科学者になる人……さまざまでしょう。仕事のかたわら、詩を書く時間をもてる人はすばらしいし、スポーツで汗をかいた喜びやつらさを詩や絵に表現できたら、その人生は豊かさを増します。
賞の選考にあたって、いつも私が心がけているのは、「うまい詩」よりも人の心を動かす「よい詩」を選ぶことです。「うまい詩」を目ざす必要はありません。他人の心だけでなく、自分の心をもゆさぶるような「よい詩」は容易には出来ません。でも、書く時は真剣にそれを心がけてほしいものです。
今年、残念ながら選考にもれた人は、これだけで落胆することはありません。次回にがんばってください。そして、入賞され入選されたみなさん、おめでとうございます。お会いできる日が楽しみです。
- 審査員 八木 忠栄
1941年見附市生まれ。日大芸術学部卒。
「現代詩手帳」編集長、銀座セゾン劇場総支配人を歴任。
現在、個人誌「いちばん寒い場所」主宰。日本現代詩人会理事。青山女子短大講師。
詩集「きんにくの唄」「八木忠栄詩集」「雲の縁側」(現代詩花椿賞)他多数、エッセイ集「詩人漂流ノート」「落語新時代」他、句集「雪やまず」「身体論」(吟遊俳句賞)。
年ごとの入賞作品のご紹介
回 | 最優秀賞受賞者 | タイトル |
---|---|---|
第1回(平成6年) | 山本 妙 | 本当のこと |
第2回(平成7年) | 山本 妙 | 災害 |
第3回(平成8年) | 高橋 美智子 | 小さな翼をこの空へ |
第4回(平成9年) | 野尻 由依 | 大すきなふくばあ |
第5回(平成10年) | 佐藤 夏希 | お日さまの一日 |
第6回(平成11年) | 除村美智代 | 大きなもの |
第7回(平成12年) | 徳田 健 | ありがとう |
第8回(平成13年) | 井上 朝子 | おくりもの |
第9回(平成14年) | 藪田 みゆき | 今日は一生に一回だけ |
第10回(平成15年) | 日沖 七瀬 | 韓国地下鉄放火事件の悲劇 |
第11回(平成16年) | 佐藤 ななせ | 抱きしめる |
第12回(平成17年) | 髙島 健祐 | えんぴつとけしゴム |
第13回(平成18年) | 濱野 沙苗 | 机の中に |
第14回(平成19年) | 田村 美咲 | おーい!たいようくーん |
第15回(平成20年) | 高橋 菜美 | 空唄 |
第16回(平成21年) | 今津 翼 | 冬景色 |
第17回(平成22年) | 西田 麻里 | 命に感謝 |
第18回(平成23年) | 山谷 圭祐 | 木 |
第19回(平成24年) | 坂井 真唯 | クレヨン |
第20回(平成25年) | 宮嶋和佳奈 | 広い海 |
第21回(平成26年) | 金田一 晴華 | 心樹 |
第22回(平成27年) | 安藤 絵美 | 拝啓 お母さん |
第23回(平成28年) | 宮下 月希 | 大好きな音 |
第24回(平成29年) | 宮下 月希 | 心のトビラ |
第25回(平成30年) | 阿部 圭佑 | ものさし |
第26回(令和元年) | 上田 士稀 | 何かのかけら |
第27回(令和2年) | 宮下 音奏 | 大好きな声 |
第28回(令和3年) | 横田 惇平 | ふくきたる夏休み |
第29回(令和4年) | 野田 惺 | やっと言えた |
第30回(令和5年) | 舘野 絢香 | 気持ちをカタチに 思いを届ける |