最優秀賞 ポプラ賞
クレヨン 坂井 真唯 私はクレヨンをおった わざとおった むかついておった クレヨンは死んだ 私はそれをみて悲しくなった クレヨンは言った ぼくはまだつかえるよ 私はもっと悲しくなった でも私は思った さいごまでつかっても死ぬじゃん 私の友達のクレヨンはみじかい 私は言った みじかいじゃんすてれば 友達は言った すてたらもったいないよ その時思った 私のクレヨンは泣いていた いたくてかなしくて死んでいった 友達のクレヨンは泣いていた うれしくてえがおで泣いていた クレヨンは言った うれしかったよ 私は泣いた かなしくてないた 友達は泣いた うれしくてないた さいごのさいごまでつかうだけで ここまで感情がちがうなんて クレヨンは生きてる 私たちと同じように クレヨンは使われる役 私たちは使う役 役はちがっても気持ちは同じ クレヨンはうれしくて泣いていた。
つい折ってしまったクレヨンと向きあっていて、そこに悲しみの感情や後悔が生まれ、友だちの短いクレヨンも登場します。クレヨンは悲しくて泣き、うれしくて泣き、人間同士のように心を素直にぶつけあう。
折られたクレヨンに対し、その人格を認めて同等に向きあい、両者で泣きながら感情をやりとりしている様子が、きちんと書きこまれています。深く心を動かされました。
日頃お世話になっているクレヨンへの感謝の念が、気持ちよくあふれています。
奨励賞 ポプラ賞
相棒達と共に 村岡 諒哉 僕の足は皆の足とは違う 見た目は同じだが 今だに二本の足だけで立つこともできない 歩くこともできない そんな僕を運んでくれる魔法の椅子がある これさえあればどこにでも行ける だけど この魔法の椅子でも行けない所がある それは 階段や 狭い隙間だ でもそんな時は 魔法の杖の出番だ この杖は僕の足を助けてくれ 一人では歩けない僕を歩かせてくれる だからこの二つは僕の最高の相棒だ もしこの相棒達が存在しなかったら 僕はどうなっていただろう 自由に外に行くことが出来ず つまらない毎日を送っていただろう だから本当に心から感謝したい 今僕は生きている この相棒達と共に でもいつかサヨナラしたいと思っている 悲しいけれど だって相棒だから でも何も頼らず 一人で自由に歩ける様になりたい 夢がある それは大きな夢だけど だからその日まで この相棒達と共に 僕は生きて行く
立って歩けない人にとって、車椅子も杖もすごい「魔法」です。
それらを「相棒」と呼んでいるのは、自分にとって親しくて常になくてはならない大切なものだから。場所によってどちらかを使い分ける賢明さ。
大切な「相棒」といずれはサヨナラしたい、という希望をもって生きる強い意志。
楽譜 近 真里 紙の中にはおたまじゃくしが いっぱいうずくまっている まだ、じっとしている 私がピアノをひくことをまっているのだ 私はけんばんをおしてみる 一つおたまじゃくしがはねた 一つずつおたまじゃくしがおどりだした ポーンポーンとはねているようだ 私がピアノをひくたびに一つずつ おたまじゃくしがおどりだした なんだか、とても楽しそうにみえる こっちを見て笑っている いろんな形のおたまじゃくしはやがて 音となりおどりだしたのだ おたまじゃくしがたくさんあつまって 楽譜に生まれ変わったようだ。
ただの楽譜におたまじゃくしがいっぱいうずくまっている――と、とらえたすてきな発見から詩が生まれました。ピアノを弾くとおたまじゃくしがはねて踊りだす、という発想はゆたかで、しかも夢があります。おたまじゃくしだからもしかすると、きっと明るく楽しい春の曲かもしれません。
手 若狭 明愛 大きな手 大人の手 小さな手 子供の手 小さな小さな手 赤ちゃんの手 大きな手は小さな手を守るため 小さな手は小さな小さな手を守るため 小さな小さな手はこれから守る誰かのために… 誰かを守るため。 抱きしめるため。 傷つけるためじゃない。 大切な人を守るために温かい手がある。 人の手は傷つけるためにあるんじゃないんだよ…。
ふだんは誰もがさりげなく見過ごしている手ですが、「大きな手」から「小さな小さな手」まで、それぞれ固有の役割をもたせています。むずかしいことを言っている詩ではありません。
三つの手をとりあげて、「傷つけるため」ではなく、「守るための手」という重要な機能を表現しています。
─ 路地裏の旅 ─ 西田 麻里 大通りを歩いている人たち みんなスマシ顔で せかせかしている すれ違う顔が皆 同じに見える なんとなく 大通りから抜けて 細い路地へ入ってみた いきなり 世界が変わった 軒先に干された 洗濯物のいい香り 魚の焼ける おいしそうなにおい お母さんが 子供を叱る声 シッポを立ててのんびり歩いている猫 ゆっくりと 散歩しているおじさん 「こんにちは!」と あいさつする私 「ハイ こんにちは 朝晩めっきり 涼しくなりましたねー」とおじいさん 私は ほのぼのとした気持ちになった 初めて会った人なのに 何故だか懐かしい気がした 換気扇から出てくる夕飯のいいにおい 「アッ ここのウチはカレーだな…」 「これはサンマを焼くにおいかな…」 「ここのウチは 揚げ物だぁ…」 メニューを当てながら 歩いていたら 「ワンワンワンッ」 犬に吠えられた 私の路地裏の旅は 終わった 再び 大通りに出た みんなスマシ顔で せかせかしている すれ違う顔が皆 同じに見える 何故だか急に 家が恋しくなった 早く帰って あったか~いみそ汁が飲みたくなった
大通りと細い路地では雰囲気がちがいます。路地に入りこんで、そこで生活している人たちや生活のにおいを細かく観察しています。
しかもそれが具体的に描写できているところがすばらしい。
お母さんやおじさん、猫などがいきいきと迫ってきますし、作られる夕御飯も匂ってくるようです。
入選
木 源川 彰吾 ぼくが目覚めた時、そこにあったのは、 広大な砂と、ぼくより高い建物と、 ぼくより小さい子どもたちだ。 春には、ぼくの前で写真をとっていた、 あの子どもたちがいた。これじゃ、ぼくが あまりうつらない。そして、ぼくの下でお いしそうな食べ物をおいしそうに食べてい た。すごく食べたくなった。 夏には、みんながぼくの下でねている。 ぼくはこんなに暑いというのに。しかもみ んなが水遊びをしてるではないか。うらや ましいにもほどがある。 秋には、みんながぼくのことを見にくる。 少してれくさい。でも、ほとんどみんなが、 ぼくの友達のことが嫌いで、あまりこない 日が多かった。 冬には、みんながこの寒い中、冷たくて白 い物を丸めて投げ合ったり、新しい子ども のような丸い物を作ったりしていた。 そして、 たった6年がすぎたとき、 あの子どもたちが少しだけ大きくなり、 りっぱな黒い服をきていた。 ぼくの前であの時のように写真をとり、 ぼくの前でみんな泣いていた。 ぼくも泣いてしまった。 この6年間、くるしい時、悲しい時、 うれしい時、楽しい時がものすごく つまっていたから。 だから、咲かせたのだ。彼らのために、 満開の桜を。そして散るのだ。この6年間の、 すべての思いをのせて…
桜の木の立場から、木の下で春夏秋冬くり広げられる子どもたちの遊びが、小さなドラマのように語られています。擬人化という方法です。成長してそこを去って行く子どもたちを見送る木が印象的です。
夕焼けを二人で 種部 ひなの 砂浜に隠してた 小さな箱は 夜の闇 包まれて もう二度と見つからない 夕焼けを二人で 半分ずつ分け合おう 私は昼 僕は夜 手をつなげば オレンジの空 この海の 素敵で小さな秘密を こっそり教えてあげましょう 夕焼けを二人で 半分ずつ分け合おう 後で君にも教えてあげる この海の 素敵で小さな秘密 夕焼けを二人で 半分ずつ分け合おう 私は昼 僕は夜 手をつなげば オレンジの空
「夕焼けを二人で 半分ずつ分け合おう」というフレーズが、何といっても魅力的です。
「私」と「僕」の仲の良さ(もしかして同一人かも?)が想像されます。
海の秘密って何か? すてきなナゾですね。
部活の音 小林 英里 シュートが入る音が好き シューズが鳴る音が好き ボールがつく音が好き 好きな音が響くたびに 自分の部活が好きになっていく 好きな音が響くたびに 辛かったことも忘れてしまう 響きわたる音のおかげで 毎日の部活が楽しかった 辛い練習も その音が好きだから 最後までやり続けることができた ずっとしていたい これからもずっと この音を聞いていたい
元気な部活の楽しさを、音にしぼって表現しています。きびきびして激しい部活の様子を、音だけでとらえた点に注目しました。
あれこれと欲張らずに、こういう書き方もあることを知っておきましょう。
春の花 千澤 雛希 春といえば さとうみたいな こながついた つくしんぼう 花火みたいな タンポポ バッジみたいな ふきのとう ラッパみたいな すいせん ちょうちょみたいな パンジー ぶどうみたいな ムスカリ あわみたいな うめの花 ピンクのあわみたいな ももの花 ピンクのわたがしみたいな さくら いっぱいしゃしんとりたいなぁ 家でも とりたいなぁ 早く 春になってほしいなぁ
春に咲く花や植物を、サトウや花火やバッジ……などにたとえています。
それらのものをよく観察していないと、このようにぴったりと決まった比喩(たとえ)は発想できません。いずれもかわいい比喩。
一萬円札 水本 佑史 一じっと見る。諭吉の弛んだその頬の、内側にあるもの、そいつは何か。 敗爛、腐臭、歯黒めとったばかりの穢い歯。 まるで俗悪なさぶるこ! 前に立って、手招きしている一萬円、痘痕まみれの憐れな男に、口から出だしたキセルをすすめるこの下衆奴! 喜ぶ男はうまうまと、キセルを吸って醜く笑った。 男は奴に聖母を見たんだろうな。 労しい!吸い口を、ちゃっかり袖で拭く、奴の卑しさ知らない男よ。 こんな場面を見た後で、俺はこんなことを思うんだ。 こやつが、断頭台に追いやられ、穴に首を押しこまれ、罵声にまみれて死ぬことを。 刃はが下り、疣のように、奴の首が取れる、そのことを。スーツ姿の男が首を足蹴にするそのことを。 一萬円はこう言った。 「あの人の一年二千萬、あの人の一年二百萬。」 何で黙ってる。何で黙ってる! 「あんたの一生、一億円。一萬円が一萬枚。」 何で黙ってる。何で黙ってる! 手に持つ一萬円をじっと見る。 「破いちまえ!それぐらいの力はあるはずだ!」 俺は一萬円をじっと見る。
一萬円札をじっと見つめながら、いい子ぶらないで厳しい意見をしっかり思った通り表現しているのは、さすが高校三年生です。
高額のお札に対する自在な想像力をふくらませているところがユニーク。
一歩 菅原 活子 「弱気にならないで」なんて 言わない 誰だって つまずいて 悩んで苦しむ時はあるのだから 明日になれば、笑顔の君 強い君に なってるの知ってる だから 「強くなれ」も 言わない 雨に降られたら 雨宿りすればいい 走んなくていいよ だってあたしは 君を待ってるから 焦んなくていいよ 虹が出たら 歩き出せばいいんだよ 「泣きたい時は泣け」なんて 言わない 誰だって 意地っ張りで 強がりを見せたい時もあるのだから 泣きたくなったら 明あ した日になる前に 溜まってたナミダを落とすんだ だから「泣かないで」も 言わない 向かい風が強かったら 背中を向ければいい それは弱さじゃない だって君は 背中を押されて ここまで来たのだから 風が止んだら 自分の両足で進めばいいんだよ
よけいなことは言わない/しない、というきっぱりした意志につらぬかれた作者の態度が伝わってくるようです。「君」に向かって書かれていますが、この態度は同時に自分にも向けられているわけです。
おかしをはこぶ おとうさん 佐野 遼太 おとうさんは いっぱい はたらきます おかしをはこぶとらっくを うんてんしています ほそくてなかに ちょこがはいっている おかしです ばにらも はいっています おせんべいも はこびます いろんなかいしゃに はこびます あついからあせが だらだらでています でも おとうさんは おかしを はこびます おかしを かったこは おいしくて えがおに なります おとうさん みんなに おかしをはこんでくれて ありがとう
さまざまなおかしを、汗をながしながらトラックではこんでいるおとうさんのようすが見えるようです。おとうさんはおかしをはこぶことで、おかしを買う子にえがおもいっしょにはこんでいるわけです。
世界 五十嵐 愛由 この世界にあるもの 私のいる この世界にあるもの 目の前をちる花 坂の上の学校 光の注ぐ廊下 声の響く教室 茜色に染まる三階 月の輝く帰路 この世界の一日 全てがきらきら 輝いてる 人はこのなか 懸命に生きてる この世界にあるもの あなたのいる その世界にあるもの 桃色の花 緑色の草原 青色の海 藍色の夜空 純白の光 漆黒の闇 この世界の場所 全てがきらきら 輝いてる 生き物はこの中 懸命に生きてる この世界にあるもの 皆のいる この世界にあるもの 人がつくる 友というつながり 草木が癒やす その場の空気 水がうるおす 地球の大地 お日様が届ける あたたかい光 星が照らす 暗い小道 そして 見えも 聞こえも 知りもしないもの 全て 共存してる この世界の全て 全てが全て 一つずつ 命をきらきら 懸命に輝かせている だから この世界を 私達は 前を向いて 輝くもの達を見て そして 生きていくものだから
私たちがともに一所懸命向きあえば、世界はきっと輝くはずだ、と作者は確信しています。
大切なことです。ゆがんだ見方や生き方をしたら、世界のあらゆるものがゆがんで見えてしまうことになります。
浄 小池 沙月 洗濯機の中で 水と水が 争っている 服を巻きこんで からみ合い ぶつかり合っている 洗濯機の中で 水と水が 争っている ぶつかり合い 音を立てながら やがて 水は透明になり 私のブラウスも 清らかな白になった 洗濯機の中のように 人と人とが とことん ぶつかり合い 反駁し合ったら ねたみや憎しみ いがみ合う気持ちも消え 浄められた 心だけが残るのだろうか
きれいに清めるという意味の、珍しい題名です。洗濯機のなかでは水と水とがぶつかりあいながら服がきれいになるのに、人と人も同じようにぶつかりあって、もっと仲良くなれないものか。同感です。
ぼくの物知りおばあちゃんと物知りおじいちゃん 八木 慎一朗 おばあちゃんは何でも知っている おいしい料理の作り方 野菜の育て方 いろいろおり紙のおり方 そろばんの使い方 他にもまだまだたくさんある いろんなけいけんがあるから分かるのかな 優しく教えるおばあちゃんがぼくは大好き おじいちゃんも何でも知っている いろいろなれきし 虫や動物の名前や種類 野球のルールや選手の名前 しょうぎのルール 他にもまだまだたくさんある いろんなけいけんがあるから分かるのかな 詳しく教えるおじいちゃんがぼくは大好き
おばあちゃんもおじいちゃんも、まじめに人生けいけんをつんだから、何でもよく知っているのです。いろんなことをたくさん教えてもらいましょう。
将来はいずれ、きみも教える立場になるのだから。
うちの猫 川上 留衣 うちの猫は 「きなこ」 といいます。 今は二才。一昨年、友達の家から やって来ました。 きなこは狩りが上手です。 セミや鳥、ネズミをとって 食べちらかします。 きなこは早起きです。 毎日、朝の四時位には ばあちゃんを起こします。 きなこは食いしん坊です。 猫のえさだけでなく、 人のものも食べます。 きなこはおバカです。 ケンカの時はいつも、 お腹を出してこう参します。 きなこはかわいいです。 家に誰もいないと、 いつもはばあちゃんの所にいるのに 私の所へ来ます。 狩りが上手で早起きで 食いしん坊でおバカで かわいいきなこ これからも一緒だよ きなこ!!
「きなこ」という名前はゆかい。よいクセもいやなクセもあるけれど、「食いしん坊でおバカで」、そして「かわいい」というのだから、猫がかわいくてしょうがない、そんな気持ちがあふれています。
こてつ 山本 拓実 ぼくのいえのねこのなまえは、こてつ こてつは そとにいった かえってこない だれか こてつを しりませんか こてつは ぎゅうにゅうをのまないで でていった こてつは えさもたべないで でていった だれか こてつを しりませんか こてつは こわいです こてつは ほかのいえのねこを ガリッと ひっかく こてつは えさのさらをこわす こてつは もう かえってこなくていい でも こてつは おなかがすいてるかな こてつが かえってきたら えさと ぎゅうにゅうを あげたい やっぱり こてつといっしょにいたいな
こちらの猫のなまえは「こてつ」。これもゆかい。こてつはこわそうだけれど、えさもたべないで出ていってしまったから、とてもしんぱいでならないのでしょう。
こてつへのつよい愛情が感じられます。
ラケットとボール 武石 優花 部活がある 私は学校に行く 必要なものがある それは ラケットとボールだ それがなければテニスは成り立たない 練習が始まった でもボールはいくらあってもたりない ラケットは一人一本でたりる ボールは思った ラケットは毎回毎回変わるわけではない けれどもボールは出番が来ない日もある ただ数を数えられて終わる日もある けれども急がしい日は急がしいのだ ポケットの中に入れられて、打たれたら、拾われる どんどん傷がついてくる ラケットは傷ついたボールを見て思った とうとうやって来た 「さようなら」と言う日が ボールは空気を入れても一回打ったら、空気がぬけていく ボールはカッターで切られ、空気がどんどんぬけていく ラケットは伝えたかったことを伝えた 「今まで協力してきてくれてありがとう。一緒に練習した日を忘れない。これから、こわれるまでいろんなボールと出会うけど、一つ一つを思い出としていくね。」 ボールは言った。 「私も忘れない。これからもがんばってね。」 ラケットはかなしいけれど言った。 「さようなら…。」 ボールも言った 「さようなら…。」
部活でテニスをしているのでしょう。だからラケットとボールへの思いやりが、このように書けるわけ。使われなかった、傷だらけになったボールはかわいそうだけど、ラケットが感謝の気持ちを表わす。
のんびり 石井 誉之 やい ねこ なぜひなたの石段で 気もちよさそうにめをとじて そんなにのんびりしているのだ 私は汗だくで こんなに大変なのに やい ねこ いまめをあけて 私に気づいたのか 黄色のつりあがった目で なぜこっちを見るのだ まだねむいのか やい ねこ なぜまた目をつむって そんなにのんきなんだ ねてばかりでいいのか やることはないのか やい ねこ また目をとじて うとうとして なぜそんなに ゆったりしているのだ おまえはのんびりしている 私は忙しい おまえはやることがない 私は山ほどある やい ねこ なぜ私が しつこいほど おまえがうらやましいのだ さあ、かえって ひるねでもしよう
「やい ねこ」というくり返しがおもしろい。猫は「寝る子」と言われるように、いつものんびり寝ていることが多い。そんなことはわかっているけど、「やい」と言いたくなる気持ち、よくわかります。
とろんぼーん 板垣 茉由 トロンボーン〈trombone〉:名詞 低音から中音を受けもつ金管楽器。 とろんぼーんって 変な名前だし 変な形だし 中途半端 とろんぼーんって かわいくないし そんなに綺麗な音じゃない フルートとかトランペットとか 他にもめだつ楽器はあるよ でも 僕は君を吹いている 君が好きだから 君にしかできないことがあるから 君はなんでもできるから 君だけの音がある 君だけの色がある 僕らだけの音がある 僕らだけの色がある とろんぼーん 変な名前 僕らだけの音 私の楽器
とろんぼーんは、名前もかたちも音も変と言えば変です。
でも、独特の音色を出すことも事実だから、作者はこの楽器が好きで吹いているのです。
どんなものも固有の役割をもっていることを忘れないで。
ひまわり 張戸 陽菜多 しましまもようのお洋服 かわいいたねをうえたよ シャワシャワたっぷり水やり 毎日おせわしたよ 出たよ出た むくむくピョッコリ かわいいめが出たよ ニョキニョキニョキ のびたよのびた わたしのかたくらい なんだかうれしいな ぐんぐんぐん のびるよ のびる わたしのせをおいこした ちょっぴりくやしいよ 「もうすぐさくぞ!」って つぼみができた 「もうすぐもうすぐがんばれ!」 たくさんおうえんしたよ さいたよさいた 元気にさいた ふさふさたてがみ 強いライオンみたい ひまわりひまわり きれいだな ぴかぴかキラキラ かがやくお日さまみたい ひまわりひまわり きれいだな
ひまわりのタネをまいてから花が咲くまでの期待と、「もうすぐ」というおうえん、そのまっすぐな気持ちがあふれかえっている詩です。
花がライオンのたてがみみたい、という観察はうまい。なるほど。
海の先 青山 知乃 海はたくさん知っている 他の海に 他の国に つながってるから知っている 海はいろいろ運んでいる 他の国に 他の街に つながってるから運んでる たくさん知っているんなら 世界中の人のこと 教えてくれるかな いろいろ運んでいるんなら この気持ちも 運んでくれるかな この 大海原の向こうにいる人たちに この海を使って伝えたい ありがとうって伝えたい 海は運んでくれるかな 海は返事も 運んでくれるかな
地球をとりかこんでいる海は、世界中の何ごとも人々のことも知っているでしょう。
そこで海に伝えてほしいものって、さあ何だろう?
心のさけび 樋口 美咲 ずっと ずっと お腹の中に居たかったよ なんで お母さんは怒鳴るの? 悪いこと ボクしたの? なんで お父さんはそっぽ向くの? 痛いよ 心も身体も 産道通ってきた時よりも 辛いよ、苦しいよ ボク、産まれ変わるなら もっといい子にしてるから だから怒らないで ずっと ずっと お腹の中に居たかったよ そしたら、こんなに生きるの辛くなかった
どんなことで怒られたのかな? 生きているかぎり、辛いことも苦しいこともあるけれど、怒ることは愛情のあらわれ。強く生きよう。
宇宙 高田 智樹 空の向こうには いくつもの星がある きらきら光る星がある 空の向こうには いくつもの惑星がある すごく大きな惑星がある 空の向こうにも 何人かの人がいる とても不思議な人がいる でもいろいろな物を持っている 宇宙にはまだ たくさんの秘密がある 誰にも明かせない 秘密がある 空の向こうの宇宙には とても不思議がいっぱい とても不思議で仕方がない そんな未知な世界も 生きている だから僕らも 「生きているんだ」 と確信できる
宇宙には不思議なものや秘密がたくさんあります。
だから私たちは、そういう未知のものを知ろうと思いながら、日々をすごしています。
一輪の花 山下 美香 野原に咲いた小さな花は ふまれても きれいな花を咲かせた 上を向いてじっとこらえて 一生けん命咲いた 庭に咲いたかれんな花は 切られても きれいな花を咲かせた 花びんの水をいっぱい吸って 枯れるもんかと咲いた 人間も花と同じ いじめられたり けんかをしたり なやんだり 折れそうな心で がんばっている 人間の心の中に咲く 一輪の花 一人一人 花の色や形はちがうけど そこにはちゃんと意味がある 感動ど うという名の水やりで 強く大きく 育てよう かわいくきれいに 咲かせよう
ふまれても切られても、きれいに咲こうとする花はすばらしい。
人間だっていじめられても、心のなかに花一輪をもっていたいものです。
なみだ 丸山 愛 なみだが流れた ポロリ ポロリと なんで流れるんだろうね… 理由が分からない 君と別々の道…歩き出したその日から… なみだが止まらない… なんでかな… なみだが流れた ポロリ ポロリと 君からの手紙を見た瞬間… 理由が分からない 「元気?」と書かれたその文字を… 見るたび出てくる 止まらない やがて 平気になると思ってた なみだも止まると思ってた でも 「今度遊びに行く」 それを見たら うれしくて うれしくて 涙が出てきたの… 君のことを考えるたび 出てくるなみだ どうして こんなに涙が出るの…?
悲しくてもうれしくても、わけもなく涙が流れることがあります。
でも無理におさえないで、ときには流れるにまかせることも必要です。
夏休みんみん 中西 希々花 夏休みんみん セミが鳴く ひまわりんりん 風鈴も鳴く カブトムシムシ むし暑い プールルンルン 海にも行けた せん風きんきん アイスいっぱい食べすぎた ロンドンどんどん オリンピックの金メダル 夏休みんみん みんな元気にしてるかな ひまわりんりん 鈴虫が鳴く そろそろ夏も終わりだな でも宿題が終わってない
よく工夫された言葉あそびに感心しました。ユーモアのセンスがないと書けない詩です。
声に出して読んでみたら、きっと楽しいでしょう。
【ウラキク】 中村 祐梨香 生きていることは 普通なことだと思っていた 感覚がないから 生きていると思うのは 大きなけがをした時や 眠りから覚めたときくらいだ 僕は生きている 生きて一歩一歩進んでいる みんな生きている 生きて一緒に大きな一歩を踏む 大地を踏む感触がある 話していて笑顔になれる 涙を流すことができる すべて生きているからできるんだ もしも生きたノートがあるのなら 空白があるからと言って 嘆くことはない むしろ喜ばなければ損だね 空白っていうのは自由なんだ 何でもできる なんだってできる 「生きるは怖いこと」 そういって生きたノートを燃やさないで 生きることは怖いことじゃないよ 生きる言葉何でもできる 生きて感じることが生きる証 生きる一歩だから
笑顔や空白など、生きることの意味をよく知っている人の詩です。
生きていく上で、具体的に生じることにきちんと対応することが大切。
まもってあげる 渡辺 海璃 ぼくのおかあさんは こわがりです こわいてれびを いっしょに みてたら おかあさんが いきなり いなくなった 二かいに いって もうふを かぶって ひとりで てれびを みていたよ そのうち おりてきた おかあさんは いろんなところを はしりまわったよ こわいてれびが こわかったみたい ぼくがまもってあげると いったら さいごは いっしょに てれびをみました つぎも ぼくが まもってあげるね
こわがりやのおかあさんをまもってあげるなんて、とてもえらいなあ。
ほんとうはきみもこわがりじゃないのかな? たのもしい一年生。
パズル 菊川 桃那 人生ってジグソーパズルみたく難しい わからなくなったり、困ったりすると すぐやめたくなってしまう ピースはたくさんあるのに どこにはまるかがわからない たまに考えたくなくなって あきらめてしまうこともある まわりの人がアドバイスをくれたとしても 結局は自分でうめていかなきゃいけない 先を見るとほんとおもくなる でも、できあがったら どんな人生が待っているんだろう 自分の力で生きてきた 人生を作ってきたからこそ 輝くパズルが完成する
人生というジグソーパズルは、自分の力で完成させなければならない。
そこにむずかしさも喜びも生まれますが、おそれることはないさ。
祖母の思い出 佐藤 光子 きょうは暑いながらも 弱い弱い風が吹いてます 盛岡のおみやげの風鈴が 昼寝をさそうように 静かに鳴っています 祖母は風鈴が大好きでした 8月頃になると たくさんの風鈴を軒下につるして 音色を楽しんでいました 今年のお盆には 風鈴を下げてあげたいと思います 我が家のあじさいは やっとつぼみがふくらんできました 明日には咲くような気がします 祖母が植えてくれたあじさい いつまでも大事にしたいと思います 近所のたんぼの蛙も ひと声も発せず 暑さに耐えています
風鈴をたくさんつるしたという祖母のことは忘れがたいでしょう。
明日咲くあじさいも植えてくれた祖母につながる思い出は大切です。
チョーク 矢館 彩夏 わたしの仲間は赤黄青緑だ みんないろんな役割を果たしている いつもいつも ちがう形 ちがう字 ちがう太さ いろいろな物となって前にあらわれる そこに仲間たちは もよう絵となっていっしょに遊んでくれる 毎日が楽しい だが私にはいやなやつがいる それは黒板ケシだ 色おにごっこをしているじゃまをしてくる いじわるする理由を聞いてみた そうしたら 「オレにも仕事があるんだ」 と言った わたしは思った みんな一人一人のすごし方 役割があるのだと
色のちがうチョークが、絵をはじめさまざまなものを黒板に生み出してくれるが、黒板ケシはそれを消す。それぞれの役割があります。
ぼくのオリンピック 葊島 大晟 金メダルをつくった。 金いろのおりがみでつくった。 金メダルは四つつくってみんなにあげた。 ぎんメダルをつくった。 ぎんいろのおりがみでつくった。 ぎんメダルも四つつくってみんなにあげた。 どうメダルをつくった。 ちゃいろのおりがみでつくった。 どうメダルも四つつくってみんなにあげた。 おばあちゃんは「イヤリング」と いって耳にかけた。
金・銀・銅のメダルをおりがみでつくって友だちにあげて、よろこばれたでしょう。
イヤリングにしたおばあちゃんはおしゃれだなあ。
見てよー 長部 千花 春の花 ピンクにかがやく サクラの木 「おーいサクラさーん」 「お花見だよー」 だけど 食べものばかりで サクラ見ない 「何で 食べものばかりなのー」 「ちゃんと見てよー」 「わたしのきれいなところー」 「これじゃぁー お花見しているいみないじゃん もうー」
せっかくきれいに咲いたのに、花を見ないで食べてばかり。サクラがおこるのも無理はない。「花よりダンゴ」という言葉があります。
風の心 大花 沙衣 風が吹いてくる 大きい風 小さい風 風にも性格という ものがある 大きい風は 何かがこわくて みんなと動く 小さい風は 仲間がいなくて 一人で悲しく動く 生きているものは皆 心があるのだ 風にも 心があった だから 風も りっぱな 生き物だ
風に大小があり、さらに心があるという発見はお手柄です。
なるほどそうであるにちがいありません。風のさまざまな心も知りたいね。
木 長谷川 実穂 木はなぜ何も食べなくても大きくなるのだろう。 何も食べなくても大きくなるから おばけのようにこわい。 木はなぜいろいろな形になるのだろう。 木によって形がちがうから変な形だと、思わず笑いたくなる。 木はお笑い芸人のようなおもしろさだ。
風に大小があり、さらに心があるという発見はお手柄です。
なるほどそうであるにちがいありません。風のさまざまな心も知りたいね。
くも 高橋 善 くもは白でふわふわ くもはきれいだな たべたくなる 青い空にもくもく ウロコみたい 魚になった 大きなくも 上にはそんごくうが のってとんでいく くもはいろいろへんしん いいな いいな
夏の白い雲はとくにおいしそうで食べたくなります。
いろんなかたちがあるけれど、「そんごくう」を登場させてたのしい詩になったね。
白いあさがお 源川 耀子 だれともちがう白いあさがお ひとつしかない白いあさがお まっ白白のプリンみたいな白いあさがお だれもみてくれないけど これが 自分の色だと気づく たまに貝をせおった虫がくる 話しあいてになる だれともちがう白いあさがお ひとつしかない白いあさがお
あさがおには白もあって、プリンみたいにおいしそうです。
ほかの色のものもあるけれど、一つしかない白い花にとくに注目したわけ。
新しい出会い 山澤 彩菜 特別支援学校の 高校生になった 学校に来たら ふしぎな子ばかり 今までみたいに ませてる子がいないし とても気が楽 今は障がいのある子を見ると 近づいて話したくなる 話しかけても返事はない だけど 楽しい高校生活
新しい支援学校にきて、気が楽になってよかったね。
話しかけて返事がなくても、話しかければ何かが生まれるよ、それが出会いです。
第19回矢沢宰賞の審査を終えて
昨年の東日本大震災以降、いまだに日本はあらゆる面での混乱がなかなかおさまりません。それどころか、島の領有権をめぐって隣国との緊張関係が表面化したり、国内ではいじめの問題や親と子の悲劇がくりかえされています。
たいせつなのは文化や科学に国境はないということ、まして詩には国境などありません。かつて中国から亡命せざるをえなかったある詩人が語ってくれました、「詩こそ私のパスポートだ」と。そのことばが忘れられません。詩は他者とのたたかいではなく、あくまでも自分自身との精神的なたたかいです。
本年は、昨年よりもずっと多い684編の応募作が全国からよせられました。うれしいことです。原稿用紙に書かれたみなさんの直筆からは、なまなましい息づかいが伝わってきて、いつも圧倒されています。それらの作品をくりかえし読む作業は、たいへんというよりも喜びです。ふだんおとなの詩人たちの詩をたくさん読んでいる私にとって、新鮮な発見のあるぜいたくな時間です。
自分のまわりにあるものや起こったりすることを、深くていねいに見つめなければ詩は書けません。ものごとを見つめることは自分を見つめることです。でも、自分を見つめ・発見することは簡単ではありません。時間も必要です。心をとぎすましてねばらなくてはなりません。スポーツと同じように、むずかしいからこそ何回もトライする。その成果はこの上ない喜びをもたらします。
みなさんの日ごろのこまかい観察力や感性、それと疑問などにじかにふれ、ほかでは味わえない充実した時間をいただけたことに感謝します。
当然のことながら、地元からの応募がたくさんありましたが、例年のように、作品本位できびしく選考させていただきました。
表彰式で、みなさんにお会いできることを楽しみにしています。
- 審査員 八木 忠栄
1941年見附市生まれ。日大芸術学部卒。
「現代詩手帳」編集長、銀座セゾン劇場総支配人を歴任。
現在、個人誌「いちばん寒い場所」主宰。日本現代詩人会理事。青山女子短大講師。
詩集「きんにくの唄」「八木忠栄詩集」「雲の縁側」(現代詩花椿賞)他多数、エッセイ集「詩人漂流ノート」「落語新時代」他、句集「雪やまず」「身体論」(吟遊俳句賞)。
年ごとの入賞作品のご紹介
回 | 最優秀賞受賞者 | タイトル |
---|---|---|
第1回(平成6年) | 山本 妙 | 本当のこと |
第2回(平成7年) | 山本 妙 | 災害 |
第3回(平成8年) | 高橋 美智子 | 小さな翼をこの空へ |
第4回(平成9年) | 野尻 由依 | 大すきなふくばあ |
第5回(平成10年) | 佐藤 夏希 | お日さまの一日 |
第6回(平成11年) | 除村美智代 | 大きなもの |
第7回(平成12年) | 徳田 健 | ありがとう |
第8回(平成13年) | 井上 朝子 | おくりもの |
第9回(平成14年) | 藪田 みゆき | 今日は一生に一回だけ |
第10回(平成15年) | 日沖 七瀬 | 韓国地下鉄放火事件の悲劇 |
第11回(平成16年) | 佐藤 ななせ | 抱きしめる |
第12回(平成17年) | 髙島 健祐 | えんぴつとけしゴム |
第13回(平成18年) | 濱野 沙苗 | 机の中に |
第14回(平成19年) | 田村 美咲 | おーい!たいようくーん |
第15回(平成20年) | 高橋 菜美 | 空唄 |
第16回(平成21年) | 今津 翼 | 冬景色 |
第17回(平成22年) | 西田 麻里 | 命に感謝 |
第18回(平成23年) | 山谷 圭祐 | 木 |
第19回(平成24年) | 坂井 真唯 | クレヨン |
第20回(平成25年) | 宮嶋和佳奈 | 広い海 |
第21回(平成26年) | 金田一 晴華 | 心樹 |
第22回(平成27年) | 安藤 絵美 | 拝啓 お母さん |
第23回(平成28年) | 宮下 月希 | 大好きな音 |
第24回(平成29年) | 宮下 月希 | 心のトビラ |
第25回(平成30年) | 阿部 圭佑 | ものさし |
第26回(令和元年) | 上田 士稀 | 何かのかけら |
第27回(令和2年) | 宮下 音奏 | 大好きな声 |
第28回(令和3年) | 横田 惇平 | ふくきたる夏休み |
第29回(令和4年) | 野田 惺 | やっと言えた |
第30回(令和5年) | 舘野 絢香 | 気持ちをカタチに 思いを届ける |