最優秀賞 ポプラ賞
空唄 高橋 菜美 空が青いのは 空の青が映ってるからだって 誰かが言った 人が海から生まれて 空に帰っていくのは きっと 生まれたところが 恋しいからだ でも 地に残した人も恋しいから 人は星になる 僕はここにいるよって せめて みんなに伝えようと 競うように 光り合う そして星はより集まり 光は唄になる その唄は 青い空を響きわたり たくさんの人に 伝わって 心を ふるわせるんだ
海と空の青さの中に漂う、あなたのゆるぎない死生観。人は星になり、その光は唄になり、青い空、私たちの心の中に響きわたる。
とあなたは言います。驚きです。これだけの大きな精神の世界を、すでに心の中に持っているなんて。
大変にすぐれた作品です。
特別賞 ポプラ賞
祈り 野本 幸子 右も左も前も後ろも 何も見えず それでも、この街の片隅に生きている。 この小さな、小さな私は 雑踏に飲み込まれないように 必死に生きている…… 神様 この世に本当に 神様がいるなら 今一度 私に光を下さい! 今、私が生きている この街の風情を見たい…… いいえ……せめて私を 支えてくれるあの人の顔も、 この人の顔も一目脳裏に刻みたい 今一度 光がほしいのです。 学び舎を後に今日も点字ブロックに自転車がありま せんように、 障害物がありませんように 祈りながら 呟きながら家路に 向かうのです。 春になれば 桜の美しい花を知っています。 でも今は、香りだけ…… 神様 一つだけ願いが叶うなら、 ひとひらの光を下さい。 母と眺めた夕日を今一度見たいから……
中途失明者のあなたの深い祈り。あなたが、もう一度神様に出会う時がありますように。
その祈りが、届きますように。
奨励賞 ポプラ賞
白い紙から 石口 唯 白い紙から にじになる お空の にじの 七色に 白い紙から 花になる のはらにさく 一本の 花に 白い紙から 自由になる ひろおい お空に つづくように 白い紙は にじのように 明るく 花のように 美しく 自由のように ひろく なんにでもなれる まほうの たからもの
白い紙に描かれるひと渡しの虹、一本の花、まっ青な空。白い紙さえあれば、どんな世界も現れて来ます。実は白い紙がなくても、心の中に白い紙を持つことで、どのようにも生きていけると感じている。すばらしい発想です。
あっくん 伊藤 由圭 そらをみてた。 あっくんのかおがみえた。 あそんでいるかおがみえた。 わたしは、もう一どあっくんにあいたい。 あそびたい。 なくなるまえ、あそんでいたから。 そらをみたら、あっくんのかおがみえた。
読むと、胸があつくなります。もうこの世にいない、あっくん。
今は空の中で遊んでいる。いつまでも、みんなのこと、忘れないと思うよ。
もう年をとることもなく、一人ぽっちで空に遊ぶ、あっくん。
生きている 広井 灯 朝起きて、ごはんを食べて 勉強して、ごはんを食べて 家に帰って、ごはんを食べて こんな一日を毎日送って 生きていると感じるんだ 楽しくて、笑って うれしくて、笑って ばかやって、笑って こんな一日を毎日送って 幸せだと感じるんだ 今自分が生きてることに 喜びを感じるんだ
本当にそうだと思う。でも、あたり前のことが、あたり前に出来ることの幸せに気づく人と、気づかない人がいるのです。心にしみる、すぐれた作品です。
木 細貝 采可 小さな種から始まって 大きな大きな木になるまで どれくらいの時間が かかるのだろう 同じ場所にいつも立っている木は どんな気持ちで立っているのだろう きっと木だけしか知らない その気持ちは 私たちにはきっと分からない 木はいつも同じ場所に立って 同じものを見ている 歩いていく人 自転車に乗っている人 鳥・犬・ねこなどの動物 動くもの・動かないもの こんないろいろなものを 木はいつも見ている けってもはたいても おこらない 泣きもしない くやしがりもしない 自分に鳥がとまったら 何もしないで そっとしておく そんな木はそのやさしさを むねにたくして 今日もいろんなものを 見守っている
ここに描かれているのは、やさしい気持ちで立ち続ける一本の木。
その木でさえも、夜、生まれてきたさびしさに耐えられず雨風の音にまぎれて激しく泣くことがある。このことに、いつか気づいてくれるでしょぅ、あなたなら。
時計 矢追 海斗 大人は一生懸命走る 一周まわったら 子供は一歩進む 子供が友達と一緒に楽しく遊ぶ時だって 受験で合格した喜びの時だって 淋しそうに両親と離れる時だって お父さんになって幸せそうに暮らしている時だって 疲れて静かに寝る時だって 一回も止まらずに 走っているのさ なぜ走るかって それは 君を成長させるためさ
子どもが経験するいろいろな時を、励まし見守り続ける両親と大人たちの姿。
その様子が、時計の長針、短針となって鮮やかに表現されています。
生きることのあたたかさ、悲しみと喜びが、静かに伝わってくるすぐれた作品です。
佳作
木 中村 大樹 木 えだに葉っぱを あっちこっちはりめぐらして 根っこで地面をがしっとつかみ ぶっとい体を大きくはって 生まれた子たちに 「大きくそだて」といいながら 自分のうでを ザラザラふった
木の姿、木の心が手ざわりとなってじつによく、個性的に描かれています。
すぐれた感性と発想の持ち主です。
せみの声 土屋 晃志 一ぴきのせみが誰かをよんでいる。 自分かも知れない、他の人かも知れない。 他のセミかも知れない。 時々、自分をよんでいるような気がする。 アブラゼミ、ミンミンゼミなどいろいろなセミが僕をよんでいる。 なんでよんでいるのだろう。 もしかしたらちがうかもしれない。 そんなの分からない。 自分がよんでいると思っているだけでいい。 また、あのせみしぐれに僕をよんでいるせみがいるよ。
一匹のせみが、ぼくを呼んでいる、と感じる。このせみになっているのは、誰なんだろう。
私にも、もうこの世にいない父と母が、「ここにいるよ」と呼んでいると感じるときがあります。
さか上がり 荒井 栞 ぼうに手をかけて 足を おもいっきりふり上げた ほかの物が みんな 逆さになった 体中に うれしさがかけまわった 初めてさか上がりができた このしゅんかん
人生でたった一回しか味わえない、成功の一瞬。よくとらえました。
交番 飯塚 茜 なくしてしまった あの日の心 あの時の心 なくしてしまった あの日のこと あの時のこと だれか 届けてくれているかな そしたら もっと違っていたのに そしたら もっと素直になれたのに 早く見つかるといいな あの時の勇気を
私たちは、大切なものを無くしながら成長していくんだ。別の大切なものと引きかえにして。
見えない交番には、幾つも落し物が届いている。「交番」といった発想がすばらしい。
つりにいく 小島 諒也 つりにいく ていぼうにたつ いずもざき
私だから選ぶ短詩。いずもざきは、出雲崎と書く地名。
小さな漁港の堤防から、広い海を眺めている小さな君の姿と気持ち。私には見える。
夏の思い出 亀山 巧 夏 ぼくは、 父さんと 海へ行った 父さんに すなぶろをやってもらった 父さんと カニをとった ぼくは カニに こゆびをかまれた あついのもいたいのも 夏の思い出
お父さんと過ごした、大切な夏の思い出。君もお父さんも、一生忘れないと思う。
秋をみつけたよ 山下 雄也 くりを みつけたよ ちくちく したよ 100こくらい あったよ きんもくせいの においが 気もちの いいこと コスモスは オレンジ色 だったよ 国語の 時間は 楽しかったな
白い点字の作品。あなたのすなおな心が、私の心にしみてくる。
本当に「よかったね」とそっと言いたくなる作品。
帰り道 樋熊 涼 ぼくが毎日歩く道 ぼくの気持ちしだいで 短かくもなったし やになるくらい長い日もあった だけど毎日同じ道だった 晴れた日はぼくの靴の底をすりへらし 雨の日にはこうしてできた靴の穴に 水をじゃんじゃんいれてくる そんなにくたらしいやつだけど 毎日同じ道を通った
その道も、いつしか姿を変えていく。何十年か経ったある日、君はなつかしくこの道を思い出す。
わたしの名前 村尾 芽華 「めいか」という名前はすてき わたしの名前は 地めんにめを出し 人生というぶたいに 大りんの花をさかせてほしい こんないみがある お父さんとお母さんが いっしょうけんめい考えてつけてくれた 「めいか」という名前
大切な子だから、両親はその名前を大切に考えます。よかった、とってもいい名前をもらって。
楽しかった 小林 研耶 六年生だったぼくは 大きなカバンに 着替えと洗面用具 ちょっとだけの期待を詰めて 修学旅行に行ったんだ 楽しかったらいいのにな どんなことが起こるかな バスに揺られているうちに ぼくの心はどんどんふくらんだ 先生には悪いけど 原爆ドームやチボリ公園よりも トランプや枕投げのほうが めちゃくちゃ楽しかった 帰りのカバンは 少し汗ばんだ服と おとなには内緒の思い出と 家族へのおみやげで パンパンになっていたんだよ
ほんとうの気持ちがすなおにつづられていて、ほのぼのとした気持ちになります。
本当に楽しかったんだね、修学旅行…。
僕のポケット 金子 翔 僕のポケットには たくさんのものが詰まっている いつもの耳栓したくなるような 母さんの小言 誰にも言えない 机の奥のテストの点 ちょっと説教じみた ばあちゃんの教え 実は気になる あの子の笑顔 くだらないようだけど 本当は大切なものを ポケットにしまっている 入れておけばいつでも出せる 多くのくだらないようなもの これから先は 長い長い一本の道 うつむいたりしゃがんだり 空を見あげる日もある そんな時 ポケットの中のものが 僕にそっと教えてくれる 本当に大切なことを…
ポケットの中のもののどれもが、大切なんだよ。大人になると消えていく。
でも、なくさないでね。
野原 石川 恋 広い野原 心を元気にしてくれる野原 みんなが大好きな野原 イライラしていても ここにくれば すっきり解決 そんなごくふつうの野原が 私は好き ただながめているだけでもいい ただそこに行くだけでもいい 野原はとてもやさしく 私たちをむかえてくれる 「よく来たね」と声がする 「来てくれてありがとう」と声がする その声が聞きたくて、 私は今日も野原へ行く 野原は私の大好きな場所
まだ野原を持っているあなたは幸せ。いつまでもなくさないでね、幾つになっても思い出す野原、心の中に広がる野原。
くるりとゆるり 二又 草太 くるりくるりと 時計は回る くるりくるりと 時は動く くるりくるりの 行く先は 見えないものが待っている ゆるりゆるりと 時を重ね 見えないものになっていく ゆるりゆるりと どうしても ゆるりゆるりと どこまでも ゆるりゆるりと 時は動く くるりくるり ゆるりゆるり
くるりとゆるりという言葉が作り出す、不思議な世界。そこには時がすんでいる。
時間を感覚的にとらえていて、すごい。
たんぽぽ 齋藤 良樹 僕らは一人一人がたんぽぽの花びら みんなで一つのたんぽぽになる 一人だけではきれいに咲けない みんながいるからきれいに咲けた 僕らはたんぽぽ みんなで一つ今 卒業という風に吹かれ 未来へという大空へ飛んでゆく たどりつく場所はわからない 芽吹くかどうかもわからない それでも僕らは飛んでゆく 飛ばなきゃいけない またそこできれいに咲くために 大きな一つのたんぽぽになるために 僕らたんぽぽ 一人一人がたんぽぽになれる
本当に、君が言う通りだね。卒業して空に離されて行くひとつひとつのたんぽぽの種の、無事な将来を思います。
入選
僕の景色 渥美 聖也 いつも同じ教室の空気 いつも変わらない外の風景 毎日毎日が単調で 僕の景色は灰色だった 部活が終わり下校の途中 忘れ物に気付き道を戻った 誰もいない教室の景色は 紅の赤に染まっていた それは今まで見たことのない景色で それは今まで聴いたことのない静寂で 知っているはずの場所が知らない空間のようで 僕は 帰ることを忘れてしまいそうだった 僕の景色に、一つ色が生まれた。
偶然戻った教室で、あなたは夕焼けの紅に染まる教室を見た。誰もいない教室。誰が見せて教えてくれたんだろう。同じ場所が、さまざまな顔を持っていることを。
ため息 穴澤 久美 「はぁ。」 私がついた白い息は空高くたちのぼり やがてまわりの景色にかき消されてく あなたはどこへいったの? 私の心に悩みを一つおきざりにして なんでこの悩みも 消し去ってくれなかったのかな? そう思い、また一つ白い息がたちのぼった
そうかあ。ため息のこと、よく考えていなかった。
ため息をついたあとに、僕たちは悩みといっしょに残されるんだ。
校外学習 荒木 龍太郎 おかあさんがえきまでおくってくれた。 ぼくのすきなきしゃ ぼくのすきなバス あすたむランドへ行った。 あすたむランドには ぼくのすきなものがいっぱい プラネタリウム でんきのべんきょう 吉野川めぐり 肉うどん ソフトクリーム かみなりの大きな音、ひかりはこわいけど かみなりシアターはすき もう帰る時間 ぼくのすきなバス かえりは友だちといっしょ おかあさんにいっぱいおはなしした。
お母さんに送ってもらって、一日の出来事をお母さんにお話しする。
幸せなあなたの一日。お母さんの愛情の深さ。どれも私の胸を深く打ちます。
命のつながり 五十嵐 晶 命はつながっている 何代もつながっている 私はお母さんが いなきゃいなかった お母さんはおばあちゃんが いなきゃいなかった 命はこんなに つながっている…
そうなんだ、だから私たちは強く生きていける。これは自分ひとりの命じゃない。
前の世代と次の世代の命を、あずかっているんだと気がついて。
心の傷 五十嵐 紗弥香 心の中の 深い傷 忘れようと 思っても ずっと消えない 深い深い傷 私の中にきっとある 君の中にきっとある だれにも言えない だから 一人で悩む 一人で悩めば悩むほど どんどん深くなる 心の傷も 大きく大きく 広がって 痛くなる 早く言えば良かったな
十歳の少女の心に、こんなにも深い傷?。心配しましたが、違いました。普段から家族の会話をふやして、傷を深くしないようにしようね。
新しい命 池田 梨乃 新しい命が生まれたよ わたしの心は、ポッカポカ かわいい弟は、動いたりしゃべった りしている わたしと遊びたいのかな? わたしも、はやく遊びたいな この命が生まれたのは、 神様とがんばったお母さんのおかげ 「ありがとう」 わたしも、はやくお母さんになって、 新しい命ほしいな…
ポッカポカの新しい命。家族みんなが力をあわせて、元気に育ててね。
みんなポッカポカの心になる。
「すき」 伊藤 沙織 すきなんだ 辛い事ばかりだけど 泣いちゃう事ばかりだけど 頑張れるんだ 言いあえる仲間がいるから 怒ってくれる人がいるから 話をきいてくれる人がいるから 乗りこえていけるんだ すきだから どんなに辛くても 努力した分成長できるから よく周りから言われるんだ どうしてそんなに続けれるのかって自分でも分からない 辛い事ばかりなのに でもその後の少しの幸せが すごく大きいんだ だからないとだめなんだ はなれられないんだ ないとなにかがたりないんだ 自分に大きな穴が出来たみたいに こんな気持ち初めてだったんだ でもこの気持ちになれるのは 本当にすきだから 本当にすきなんだよね だからこの気持ち大切に出来るように 今日も1日生きていくんだ 辛い事ものりこえて幸せになれるように 少しの努力をしながら
すきだからこそ続けられる。すきなことだから、うれしい。そんなものを手に入れたあなた。幸せなあなた。
車いす 大川 友栄 僕のおばあちゃんは 手と足の節々が痛む リュウマチという 病気で苦しんでいる 痛む時は 顔をしかめて 必死に堪える 可哀想な おばあちゃん 痛まない時は ニコニコしている 優しい おばあちゃん 三年前 僕が足の手術をして 歩けない時 車いすを押してくれたよね おばあちゃん おばあちゃんは 膝が痛くて歩けない 外出する時は 車いすに乗る 今度は僕が 車いすを押す番だね 焦らず ゆっくり行こうか どこまでも一緒だよ おばあちゃん
最後の四行がいいなあ。自分のことを忘れて、あなたを大切にしてくれるおばあちゃんへの言葉。面倒を見てあげてね。
かみひこうき 大澤 幸治 どこまでも とんでゆく。 みんなのきもちを のせて。 ぼくは、 そんな きもちがのった かみひこうきで どこまでも とんでゆきたい。
たった一枚の紙を折って、空に飛ばす紙ひこうき。ぼくたちの願いや希望、悲しみものせて空へと飛ぶ。飛ばすのはいつだって君なんだ、悲しい時にはなおさら。
三つのやくそく 岡芹 拡紀 ぼくが入院したら お父さんがきびしくなった。 モニターを早くつけろ。 さん素を早くつけろ。 少しは、成長しろよ。 「いちいちうるさいな。」 と大声を出したら お父さん 「たしかにうるさいと思うよ。」 と ぼそっと言った。 一人になった時考えた。 きびしいのは、ぼくのためなんだ。 早く退院できるように願っているからなんだと。
お父さんの気持ちを理解したあなた。嫌われるのを承知で口うるさいお父さん。
二人の気持ちがつながりました。私の目には、涙が浮かんでいます。どうか元気になってほしい。
マット運動と僕のおなか 小田嶋 光一 体育館でマット運動 青と黄色のマットがならぶ 横転をした おなかがゆれた 左にグルングルン 右にグルングルン 前転をした おなかがへっこんだ いっしゅんだけへっこんだ キュッとへっこんだ 体育すわりになった おなかがへっこんだのは まぼろしだった でも、僕は僕のおなかがすき 僕のおなかには 幸せがいっぱいつまっているから だから、ほかの人のおなかとちがうんだ
お腹が太っていたって、そのお腹を好きになろう。幸せが一杯つまっているお腹。全員が同じお腹になる必要なんか、ないんだよ。
ふろ上がり 笠井 拓也 おふろに入っていた みんな おふろからあがると おへやへ走る ぼくとゆうやとさやかで走る。 ぼくが一ばん ソファにとびのったとたん ソファからおちた みんなわらった ぼくもわらった
どうしてこの詩が?と思う人もいるでしょう。私たちにとってかけがえのないもの。
それは平凡な日常。その日常にあるあたたかさを見事に切りとりました。
冬を越えたら 片山 清美 ライバルには勝てなかったけど、 精一杯走った持久走。 独りきりだけど、 楽しみなクリスマス。 猫みたいに丸くなって寝たいけど、 初詣に行くお正月。 人間関係が良くなるようにと、 願いをかける。 学生最後の冬休み。それを越えたら、 花芽がふくらむ春になる。 期待がふくらむ春になる。 夢が叶った春にする。
冬の厳しさには、木も年輪を細くする。人間もおんなじ。つらい季節があって、成長していく。がんばるんだよ。
もっと遊びたい 門田 世菜 あのぶらんこは うれしいって 言ってる 世菜と遊べて このぶらんこは さみしいって 言ってる 世菜と もっと遊びたかったって
あなたが手に握ったぶらんこ。握られて、いっしょにゆれて。ぶらんこの、本当の気持ちが言葉になりました。
花 鎌田 リリア わたしがすきな 赤い花 いいにおいの 水色の花 見るとうれしい むらさきの花 おもしろいな ピンクの花 さいてよかった 黄色い花 赤い花を買って ママにプレゼント
いろんな花の色があるけど、やっぱりお母さんには、あなたが一番好きな色の花をプレゼントした。リリアという名前もきれいな花のよう。お父さん、お母さんからの深いプレゼント。
人生はさんぽに似ている 古田土 俊夫 歩いてもいい、走ってもいい よそ見してもいい、黙々と進んでもいい 車に乗るのもいいだろう。 だけど歩くのをおすすめしよう。 そしてキョロキョロしながら歩くといい。 耳をすませて歩くといい。 風を感じて歩くといい。 そしてだれかと歩くといい。 そしたらきっと楽しいだろう。
あなたの今の人生観。途中で急ぎ足になったり、走ったり。でも今のこの人生観がいいな。
私もそう思うから。
はっぱの赤ちゃん 斉藤 麿黎子 森の中 歩いて いったら はっぱの 赤ちゃん 見つけたよ 小さくて かわいい はっぱだったよ きみどりいろの つぼみ みたいだったよ
あなたは、森の中で、はっぱの姿でいるあなたを見つけた。心配ないよ、立派に育つよ。みんなと一緒に、生きていくんだよ。
『ひまわり。』 坂井 穏空 元気に咲く花 ひまわりは 暑さにも 強い花 なぜだろう ひまわりを見ていると 明るくて いきいきした人に見えてくる 私も ひまわりみたいな人になりたい つらいことにも負けない 強い人になりたい
花言葉は「あこがれ」、「敬慕」、でも背が高いものは「高慢」です。真夏の花。ほどよい高さのひまわりの花になったあなたが、見えるようです。
シュレディンガーの確率よりずっと…。(卒業によせて) 佐藤 麻伊 たまごにきみが二個入っている 確率よりも どんぐりがピッタシな帽子に出逢う 確率よりも まれに二つで一つのさくらんぼを見つける 確率よりも どんな確率よりも みんなでここにいる確率の 壮大さには叶わない! 私の両手を広げてみても たまごを一〇〇個割ってみても どんぐりと帽子を探してみても さくらんぼを一〇〇個食べてみても みんなでここにいる確率の 壮大さには叶わない! この星に生まれたこと みんなで笑っていること みんなで手をつないでいること この一瞬に私たちが ここにいる奇跡 みんなと出逢えた この西中学校に感謝。
本当にそうだね。出会いと別れ、いずれにも、不思議な確率がかくされている。
私たちはそれを、人間の縁(えん)というけれど。
心配 清水 美花 ばーばの肋骨が折れた スリッパにつまずいて ころんで 肋骨が折れた 近くの土川医院で みてもらったら折れていた ばーばは喘息があるから 夜中に咳き込むと 背中をさすってあげる さすってあげると 少しはいいけど 今度は肋骨が痛む わたしはじいじとばーばの あいだに寝ている 咳がとまらないくらい出ると かわいそうになる 夜中に病院に行ったこともある ばーばは辛いから 入院すればいいのに お金がかかるから年金では入院できないから わたしも辛くなる わたしは働きたい 働いていっぱいお金をかせぎたい でも 人が怖い どんな風にわたしは見られているのかと 思うと無口になってしまう ばーばのコルセットの胸をなぜながら どうしようかと思う
苦しむばーばのために、私が働いて一杯お金をかせぎたい。でも、人が怖い。医師の私は、この言葉に胸を押しつぶされました。現実を訴える。それはとても大切なことです。
「ありがとう」 砂子 由恵 うまれて 18年 いろんな 人に 出会い たくさんの 友に 出会った 辛い とき 悲しい とき いつでも だれかが そばに いて はげまして くれた ときには けんか したり ないたり した ときも あったけど 今 思えば 笑える 楽しい 思い出 いっぱい もらった 「がんばれ」の ことば 自分の ことのように 泣いてくれた 愛する友 私が 笑顔で いられるのは みんなが こんな 私と 出会って くれた おかげ みんな 大好き どんな ことが あっても どんな 別れが 訪れたとしても さよならは 言わないよ 瞳を 閉じれば たくさんの はげましの 声が 私の 耳に こだま する みんなに 出会えて 本当に よかった この世に 生まれて 本当に よかった 今 私は みんなに この ことばを 伝えたい 「ありがとう」
白い点字の詩。あなたのありがとうの気持ちが満ちていた。人間が最後まで口にする言葉、ありがとう。
芽力 高津 唯 ずっとずっと待っていた 暗くて寒い土の中で でもやっと顔が出せた よくがんばったね みんなみんな待ってたよ 風がビュービューふいていても 雨がザーザー降っていても 犬ににおいをかがれても ずっとがまん がまん強さが とりえの芽 きっと春には 花がさくよ
三連目がいいね。みんな、花を咲かそうね。きっとだよ。
「私の宝物」 土井 わかな 私の宝物は、友達だと思う。 友達といると、 学校が楽しくなるから。 私の宝物は、家族だと思う。 家族といれば、 どこにでも連れてってくれるから。 私の宝物は、先生だと思う。 いつも、 私の話を信じて聞いてくれるから。 私の宝物は、ぬいぐるみだと思う。 夜に目が覚めると、 ぬいぐるみがいないと怖いから。 私の宝物は、シールだと思う。 いつもお出かけに行くときに、 シールを買っているから。 私の宝物は、旅行だと思う。 家族や友達と一緒に楽しくできるから。 私の宝物は、買い物をする事だと思う。 買い物をすると、 とても嬉しくなるから。 これからも、 宝物を大切にしていきたい。 その気持ちが、私の一番の宝物。
どれも大切な宝物。宝物は、私たちが作っていくものなんだね。
夜の森 堂内 惇史 夜の森で迷った人は 近くに深き光 遠くにまばゆく輝かしき闇を見る その光と闇は 迷い人を自身の方へと向かわせようとする でも 決して深き光の方へ行かないでほしい 何故なら 闇の先にこそ 本当の光はあるのだから
どなたの教えなのでしょうか。詩というよりも、正座して聞かなければならない厳(おごそ)かさがあります。
わたしの頭のなかはどうなってるの 西野 花音 わたしの頭のなかはどうなってるの? お金のことでもかんがえてるの? それとも家族のことでもかんがえてるの? わたしの頭のなかはどうなってるの? だれか教えてよ! おかあさんがいった 「たぶんいろんなこと考えてるよ」って わたしの頭のなかはどうなってるの? 犬のことでもかんがえてるの? それとも勉強のことでもかんがえてるの? わたしの頭のなかはどうなってるの? だれか教えてよ! おかあさんがいった 「たぶんいろんなこと考えてるよ」って
あなたの思うこと全てを考えているのです。やさしい人ほど、たくさんのことを考える。
やさしいあなたが、私は好きです。
うまれたこと 原田 新大 う うま うさぎ うまれた うふふふふ
ほほえんで、笑みがこぼれてしまう。いいよ。とてもいい。この瞬間も世界中でいろいろなものが生まれている。
自信 三村 信博 自分はまだまだ中途半端 さぼったり、やめたりしている でも、これでいいのか これで本当にいいのか やっぱりだめだ こんなことじゃだめだ 今こそ やろう 体を強化することで、心も強くなる 働く力をつけるんだ 働く力は生きる力 生きる力とは 自分の道を切り拓く力 幸せをつかむ力 三年間で培った生きる力 地に足をつけ、自信を持って 僕たちは社会へ羽ばたいていく
自分をきたえ、はげまして社会へと巣立っていく。何度くじけても、また頑張るんだよ。市長さんから贈られたメダルを握って、あせらずに頑張るんだよ。
かえりたかった 宮田 祐美 きしゅくしゃにとまるとき、どきどきした。 おうちとちがうところでねるから。 でもさやちゃんとあそんでたのしかった。 ごはんはおいしかった。 せんせいとおふろにはいってぬくもった。 おふとんにはいったらさみしくなった。 おうちにかえりたかった。 ぱっくんはどうしてるんかなあ。 あさおきたら、さやちゃんとゆかち ゃんとせんせいがいた。 うれしかった。
初めて知ったきしゅくしゃ(寄宿舎)。家族から離れて。帰りたいだろうなあ…。でも、読んでほっとしました。
お母さん 八木 真太郎 いつもおいしいごはんをありがとう ぼくをいままでそだててくれてありがとう やさしくしてくれてありがとう ぼくをうんでくれてありがとう ぼくのためにおこってくれてありがとう ぼくは、お母さんにありがとうばかりだ こんどは、ぼくがありがとうを言ってもらうばんだ。
よく気がついたね。本当にそうだね。この詩を読むお母さんの、うれしそうな笑顔が見える。
はっぱのうんどうかい 山中 康輝 こっちにきた あっ、こんどはひだりにいった うずまき、すげー はじめてみた まるでうんどうかいみたい はっぱがかけっこしてる うずまき、はやい あっちにもはっぱがいっぱいある 右にいってこっちにきた つぎに右にいって あっちにいった あっちにいって こっちにきた はっぱがつながってる スピードがはやい ちょーはやいなー にわをぐるぐるまわってる おにごっこのうんどうかいみたい なんかないよなー こういううんどうかい うかんでいるやつがジャンプしてみえる ぴょんぴょんしてはしってるみたい はっぱがさかだちしてるみたい はっぱがたって くるくるしてる やつらはダンスやってるみたい でっかいはっぱがせんせいみたい ちっちゃいはっぱはこども ごろごろしてる うごかない ぜんいんつかれちゃったかな うえからはっぱがおちてきた はっぱがいっぱいこっちにきた まえにいってひだり、右にいった すごいよー ぜんいんで もうスピードであっちにいってこっちにきた あっちにいったり、あっちにいったり うんどうかいがはじまった いまの きゅうけいだったんだ
言葉が多くて、葉っぱのように多くて。でもそれが、君の生き生きとした心そのまま。
物事を、よく見るんだよ。
文房具 若月 るり えんぴつと消しゴムは 仲良くない 実はかくれた所で 競争中 どっちが早く書けるのか どっちが早く消せるのか 毎日毎日 ライバル視 はさみとのりは 仲がいい 実はかくれた所で 晩さん中 切れあじ最高 ぬりあじ最高 毎日毎日 ほめちぎる ペンと修正液は 仲良くない 実はかくれた所で 支配中 なんども線をかくしてく かいてもかいてもかくしてく 毎日毎日 いじめてる 定規とコンパスは 仲がいい実はかくれた所で 協力中 ビビッと直線かきまして クルッと丸をかきまして 毎日毎日 笑いあう
軽妙。おもしろい発想。明るい。あなたの明るく好奇心に満ちた気持ちが、よく表現されています。拍手!
第15回矢沢宰賞の審査を終えて
今年も、無事に選を終え、私のつたない選評を全ての入選作品につけることができました。皆さんの才能を発掘し、今とこれからの生活を励ますことが出来たとしたなら、選者としてこれ以上の幸せはありません。
今年は、すぐれた作品が多く集まりました。私よりよほど、人生を、命のあり方を、達観している子どもたちが幾人もいました。時代でしょうか、心の肌を敏感にさせられて生きる年少者が、増えているのでしょうか、心配です。
大人のプロの詩人は、詩は言葉の芸術だといいます。その実際を理解することは、普通の大人にとっても難しいことです。まして年少者にとっては。
この賞は、才能を見逃すまいとする一方、皆さんへの励まし、応援歌になろうとする姿勢を強く持ってきました。すぐれた詩を残そうとして、補作を行うこともしてきませんでした。矢沢宰賞の目的を、私はそのように理解してきたのでした。
15年間。疲れて帰宅しても、子どもの寝顔を見て心癒される深夜があったように、みなさんの応募作を夜遅くまで一生懸命読んだ日もありました。しかし、私はもう、体力と気力が、それに耐えられなくなりました。医師として、年々増え続ける子どもから高齢者までの患者さんに全体力を注いできましたが、もう限界なのではないかと感じるようになりました。しのびないですが休診日を増やし、診察時間を短縮して診療しているのです。細かなことはお話しませんが、私は今年度をもって選者を退かせていただくことに致しました。
たくさんの作品に出会いました。素直でまっすぐな心を讃え、励まし続けてきたことが何かのお役に立ったのでしょうか。それもわからないまま、皆様にお別れを言わなければなりません。わずか15年間ですが、皆様の御応募に、共にボランティアとして身を粉にして働いて下さいました皆様に、今深々と頭をたれて、心からの御礼を申し上げます。ありがとうございました。
- 審査員 月岡 一治
上越市出身。国立療養所西新潟病院内科医長。第6回新潟日報文学賞受賞。出版物に「少年-父と子のうた」「夏のうた」(東京花神社)がある。
年ごとの入賞作品のご紹介
回 | 最優秀賞受賞者 | タイトル |
---|---|---|
第1回(平成6年) | 山本 妙 | 本当のこと |
第2回(平成7年) | 山本 妙 | 災害 |
第3回(平成8年) | 高橋 美智子 | 小さな翼をこの空へ |
第4回(平成9年) | 野尻 由依 | 大すきなふくばあ |
第5回(平成10年) | 佐藤 夏希 | お日さまの一日 |
第6回(平成11年) | 除村美智代 | 大きなもの |
第7回(平成12年) | 徳田 健 | ありがとう |
第8回(平成13年) | 井上 朝子 | おくりもの |
第9回(平成14年) | 藪田 みゆき | 今日は一生に一回だけ |
第10回(平成15年) | 日沖 七瀬 | 韓国地下鉄放火事件の悲劇 |
第11回(平成16年) | 佐藤 ななせ | 抱きしめる |
第12回(平成17年) | 髙島 健祐 | えんぴつとけしゴム |
第13回(平成18年) | 濱野 沙苗 | 机の中に |
第14回(平成19年) | 田村 美咲 | おーい!たいようくーん |
第15回(平成20年) | 高橋 菜美 | 空唄 |
第16回(平成21年) | 今津 翼 | 冬景色 |
第17回(平成22年) | 西田 麻里 | 命に感謝 |
第18回(平成23年) | 山谷 圭祐 | 木 |
第19回(平成24年) | 坂井 真唯 | クレヨン |
第20回(平成25年) | 宮嶋和佳奈 | 広い海 |
第21回(平成26年) | 金田一 晴華 | 心樹 |
第22回(平成27年) | 安藤 絵美 | 拝啓 お母さん |
第23回(平成28年) | 宮下 月希 | 大好きな音 |
第24回(平成29年) | 宮下 月希 | 心のトビラ |
第25回(平成30年) | 阿部 圭佑 | ものさし |
第26回(令和元年) | 上田 士稀 | 何かのかけら |
第27回(令和2年) | 宮下 音奏 | 大好きな声 |
第28回(令和3年) | 横田 惇平 | ふくきたる夏休み |
第29回(令和4年) | 野田 惺 | やっと言えた |
第30回(令和5年) | 舘野 絢香 | 気持ちをカタチに 思いを届ける |