第11回矢沢宰賞

第11回矢沢宰賞

最優秀賞 ポプラ賞

抱きしめる   佐藤 ななせ


高等部に入学して
一年が過ぎようとしている
電車に乗って帰省ができた
洗濯や料理を一人でできた
将来について少しだけ考えることができた

できるようになったもう一つのこと
針に糸を通して玉結びをする
布に針を刺して縫い目を確認する
指は震えて汗ばんでくる
少しでも気をぬくと
針がささって体に電気が走る
それでもなんとか
花のししゅうのバッグを作ることができた

私が小さい頃
お母さんがズボンを縫ってくれた
ひまわりのアップリケがひざについていた
針を持つ手は器用だった
私は汚さないように
パジャマに着がえずに
布団に入ったのを覚えている

いつものように電車に乗って帰省する
席に座りキップがあるか確かめた
母の顔を想い浮かべて
バッグが入ったカバンを
抱きしめる
プレゼントが入ったカバンを
ギュッと抱きしめる
待っててね お母さん
お誕生日おめでとう お母さん
審査員
審査員

母の愛情を受け止めるだけだった少女が、母の愛情にこたえられるようになった日が来ました。こんどは私が母を大切にしなければならないという思いが、特に溢れています。
余韻の美しさにも、心を打たれます。

奨励賞 ポプラ賞

木   相羽 祥


わたしは
家の近くの神社にある
一番大きい木がすきだ

戦争中
雷にうたれても生きていた
そこがすきだ
葉っぱがなくて
ボロボロで
でもなんか
大きくて
やさしそう

その木に
そっと
ほんのちょっと
耳を近づけてみる
・・・トックン・・・トックン・・・
わたしの心ぞうのリズムと同じに
いつも
いつまでも動きつづけている

今まで何年生きてきたのだろうか
雷にうたれたとき
まわりの木はすべてなくなった
そのとき
木はかなしくなかっただろうか
不安ではなかっただろうか

たった一人で
力強く生きてきた
その木が
わたしはすきだ
ずっとわたしの友達
審査員
審査員

百年、二百年を生きのびて来た一本の木。
自然にも、人間がすることにも耐えてきた木。
もう自分の子を抱くように葉を茂らせることはないけれど、なぜか見守るあなたの心を深くしてくれる木。
木の力で、あなたの豊かな感性が、育っていきます。

お姉ちゃんとわたし   相馬 亜希


お姉ちゃんは、
お母さんとおばあちゃんに
かわいがってもらっている。

わたしは、
お母さんとおばあちゃんとお姉ちゃんに
かわいがってもらっている。

だから、お姉ちゃんよりも
わたしのほうが
幸せ。
審査員
審査員

読む人がみんなしあわせな気持ちになる詩。
御家族の心の中にある、やさしさが湧き続ける澄んだ泉が見えてきます。

雪   星野 良太


雪は空からふってくる

いっぱいいっぱい

ふってくる

そしてどこでもふってくる

人にも

木にも

家にも人の口の中にも

犬の口の中にも

ねこの口の中にも

いろんな口の中にも

雪はこわいもの知らずだ

雪はなにをこわがるんだろう
審査員
審査員

最後の二行に注目しました。こう言い切った詩は、これまでありませんでした。
独特の発想と感性が、この作品にはあります。

なおちゃんが一年生   堀本 将史


いもうとのなおが、一年生になったよ。

たちばな小学校の一年生。

一年一組やって。

教室は、
一かいの一ばんはしっこやって。

名ふだつけとった。

黄色いぼうしかぶっとった。

赤いランドセルに教科書いっぱいで、
重そうやった。

わくわくしよった。

ぼくも、なんかうれしくなった。

じいちゃんが、
「ちゃんとかばんしめんと、さよならしたらざあって
おちるぞ。」
と、言うた。

しゅうごう場所に行ったけど、
まだ、だれもきてなかった。

はやかったんかな。

ぼくは、
「バイバイ」って言うて帰った。

がんばれよ。
審査員
審査員

四年生の兄が、一年生になった妹を祝います。その気持ちがよく伝わってきます。
「がんばれよ」、「がんばってね」。三つちがいの兄妹。一生励まし合って生きてゆきます。

私の家族   相澤 有紀


私の家族は、
いつもにぎやかな家族。

でも、けんかをする家族。

お金がたりない家族。

いつも、こまっている家族。

いろんな家族の顔がいっぱいある。

でも、私の顔だけは、なきむし顔です。

しくしく、しくしく
まだまだ、なみだでる。

しくしく、しくしく。

でも、ないている中に、家族の手が、
見えた。

「なかないで。」
と手が、私のかたをトンとたたいた。

おばあちゃんの手

おじいちゃんの手

お父さんの手

お母さんの手

みんなの手がやさしい。

その時、私は、元気がでる。

「よーし。」と力がわいてくる。

やっぱり大すき。

みんな大すき。
審査員
審査員

「なかないで」。あなたが泣きたくなった時、支えてくれる家族。
みんなが泣かずにいられない時、一緒に泣く家族。弱いけれど、強い家族。
だから私たちは生きてゆける。

佳作

こわいゆめ   佐々木 梨乃


夜、こわいゆめを見たよ。

こわいおばけが出てきたよ。

あたまがないのに手がのびて
わたしをつかまえようとした。

大きななべに入れられるかな。

しぬかな。

ドキドキしてこわくなって
お母さんのへやにいったよ。

「おしっこしたいの。」

「ちがうよ。いっしょにねよう。」

「おいで。」

ほっとしたよ。

どうしてこわいゆめを見たのかな。

わたしの頭の中に
すこしおばけがいるのかな。
審査員
審査員

最後の二行がとってもいい。そうかも知れないね。私たちの頭の中には不思議がいっぱいある。

いき   伊部 萌水


さむくなると、
いきがまっ白になる。

どうしてさむかったら
いきがまっ白になるの。

だれか知らないかなぁ。

そして、
もしいきが、
ピンク色や水色だったら、
空がきれいになるだろうなぁ。
審査員
審査員

最後の三行が、いいなあ。空がきれいになるだろうなあ。
11年間幾千の詩を読んできて、初めて出会った
言葉です。空が青いのは、私たちが水色の息をしているからかなあ。

秋の空   近藤 一稀


妹と遊んでいたら急に、
空が赤くそまって、
ぼくはこれが、
秋の空なのかと思った。

このままだまって妹と見ていた。
審査員
審査員

自然の姿に、はっとする時があります。あなたもその体験をしました。
妹さんも、兄さんと見たこの時の秋の空を、一生忘れないことでしょう。

なしばたけ   大関 果歩


うちのなしばたけに

雪が いっぱいあった

地めんが 見えなかった

木は つめたそうだった

木は ふるえてそうだった
審査員
審査員

梨作り農家は、梨畑と共に生活しています。どの木も家族と同じく大切です。
その木を思うあなたの気持ちがよくわかります。冬の梨畑が鮮やかに見えてきます。

がんばってみようよ!   西島 久璃子


今、あなたは人間ではなく、車や、魚みたいな心を持って下さい。あまり考えすぎてはだめ。

今、あなたは山を登っています。
今、あなたはとてもつらくて、困っています。車でいうと坂を上がろうとしているのにエンジンがかからないっていう所です。
私は、今、谷を下っています。
私は下りでスイスイスイスイ走っています。とっても気持ちいいです。でも、今あなたは山なので、今度下りになります。私は今度山になります。

あなたばっかり人生が長かったり、短かったりすることはないと思います。私は今山であなたは谷。初めから、終わりまではみんな、同じだと思います。でも一つ、ちがう運命がくることだってあります。車でいうと、ほかの車とぶつかって事故にあってしまったということです。「運命」というとかなしいけどでもその車の時間をあなたが走ってあげればいい。あなたががんばれば、みんなだってがんばれるよ。事故「運命」で死んでしまった車も、天国から見ていてくれるよ。みんな、
あなたの友達だから……
審査員
審査員

「うん、うん」と納得しながら読まされました。
運命や人生について、あなたの考えを人にわかりやすく教えるあなたに感心します。

私はわたし   小林 礼美


私はあの子のまねがしたい
あの子は絵が上手で
私はとてもうらやましい
私はまねをしてみたけど
やっぱりあの子みたいに
上手にはいかなかったよ

私はあの子のまねがしたい
あの子はピアノが上手で
私はとてもうらやましい
私もまねしてひいたけど
やっぱりあの子みたいに
上手にはひけなかったよ

私はあの子のまねがしたい
あの子はとてもオシャレ上手で
私はとてもうらやましい
私もあんなふうに
オシャレをしてみたいなぁ

私には
まねしたいことがたくさんあるけど
とてもまねはできないよ
私はあの子じゃないからなぁ
あの子にしかできないことがあるなら
私も
わたしにしかできないことを
大切にしよう
審査員
審査員

最後の四行にたどりついたあなたに、拍手します。
最初の三連があって、この四行が生きたのです。詩の作り方の一つのお手本です。

夕日がきらきら   横山 成美


海辺に行くとわかる
きらきら きらきら
夕日がきらきら

土手に上がるとわかる
きらきら きらきら
夕日がきらきら

この目で見ればわかる
きらきら きらきら
夕日がきらきら
審査員
審査員

海に輝く夕日。川にゆれる夕日。この美しさを何と表現しよう。
あなたは一生、夕日を自分だけの言葉であらわそうとするでしょう。実は私も、そう。まだ出来ないのです。

六時のメロディーとともに   池内 祐未


オレンジの夕日。
幼い私
おかあさん?おばあちゃん?
手をひかれて歩いた。
目の前に赤とんぼがとぶ。
オレンジの夕日。きれいな花だねといって笑って歩き。
今日のごはん何だろうと心躍らせたり。
時にはあのころと同じ夕日を見て。
何もかわっていないよ。
でもちゃんとここまでこれた。
いつのまにか大きく成長した。
そんな私が今ここにいる。
オレンジの夕日を見あげて、
そしてまた、赤とんぼがとんでいる。
審査員
審査員

時はどこを流れていくのだろう。私の体の中? 
記憶の川をさかのぼると、オレンジ色の夕日と赤とんぼが見える。
生きることって、自分だけが変わっていくことのように思われる。本当にそうですね。

かみさま けとばすぞ   大森  悟


あたまのなかで
かんがえた
つらかった

かみさま けとばすぞ
みんな
つれていくな

ぼくの むねに
しんぞう ぴくぴく
ぼく いきてやる
審査員
審査員

神さま、どうかこの詩を読んで下さい。くり返し、読んで下さい。

そよかぜ   五十嵐 優貴


朝のまどあけて
青空にあいさつして
うちをとびだして
はしりだしたら
そよ風もはしりだして
きもちいいなぁ
このまま
そよかぜに
なりたいなぁ
そしたらもっと
きもちいい
だろうなぁ
審査員
審査員

とてもいい詩です。本当にそうだなあ。そよかぜになれたら、気持ちいいだろうなあ。

君へ   岡堀 久美


ありがとう。
君に会えて
うれしかったよ。
私に言われた
最後の言葉。
たった一つの命が、
この世を去った。
どんなにつらくても
大空へ、
一生懸命、
はばたこうとした
一羽の鳥。
私は忘れない。
君は死んだんじゃない。
きっと夢が
かなったんだよ。
大空へ舞いあがったんだよ。
飛べるようになったんだよ。
おめでとう。
夢が
かなって。
また、
いつか
どこかで
会おうね。
必ず…。
審査員
審査員

「私を大切にしてくれて、ありがとう…」。
そう言うために、私たちは生まれてきたのだと思います。
心からそう言えるように、毎日を生きているのだと思います。
若い命が、教えてくれたのでした。

僕は風が好き   鈴木 裕二


僕は風が好き
野原に吹く風が好き
ハチやチョウチョも
僕と同じ

僕は風が好き
嵐の夜に吹く風が好き
悲しみも苦しみも
一夜で全部飛ばしてくれる

僕は風が好き
地下鉄のホームに吹く風が好き
踏みつぶされた空缶も、風で舞う紙くずも
悲しい僕の心に似ている

僕は風が好き
春の風が好き
空に舞い上がる桜の花が
青い空によく似合う

君は風が好き?
どこのどんな風が好き?
今生きてる僕も君も
夢は風が運んで来てくれるんだよ
審査員
審査員

ほかの連に生かされて、三連が味わい深くなっています。
人生はジェットコースターに似ているかも知れません。
絶頂と悲劇の間を、私たちは揺れ動く。そこにも強い風が生まれています。
一生の間に、さまざまな風が吹いて来ます。

チッチのゆめ   豊岡 紗良


学校でかっていた
真っ白いチャボのチッチ
ずっと病気で歩けなかったけど
今年の夏を
がんばってこしたチッチ
そのチッチが死んでしまった

わたしが二年生の時に
チッチがうまれ
少したってからやっと
だっこできるようになった
わたしはうれしくて
毎日のように遊んだ
あのチッチが死んでしまった

その日の夜
わたしはチッチのゆめをみた
チッチとわたしは
草原を走っていた
チッチはわたしのかたにのり
やさしくわらったような気がした

朝になって起きてみると
チッチはいなかった
わたしはゆめをみて
ないていた
あのゆめは
チッチがみせてくれたのだろうか
あの楽しいゆめを
チッチもみただろうか

わたしは
チッチが大好きだった
審査員
審査員

小さな生き物にも、大きな命があったことを、その死が教えてくれます。
ぽっかりとあいたあなたの心の中の穴に、チッチが夢の中から現れます。

思いで   野中 日向


ぼくは、思いだしている。
父さんのことを。
なつかしんでいる。
2才のころ。
いなくなった。ぼくが0さいのころ、あそんでくれた。
1さいのころ、
ゆうえんちにつれてってくれた。
いまは、
お父さんにあいたい。
審査員
審査員

あえて佳作の最後にもって来ました。小さな心が体験した、大きな悲しみ。
アルバムが残っていて、あなたはくり返し見るのでしょうか。
それとも、鮮やかな記憶が生き続けているのでしょうか。
最後の二行が、胸を打ちます。重い言葉です。

入選

野球   阿部 優


カーン、パシ
バッチこーい。
ぼくは好きだ。
このするどい野球の音が。
このボールをよぶみんなの声が。
さまざまな練習メニューがあり、
いつやっても心がウキウキしてくる。
ぼくはこの野球というスポーツの楽しさを
たくさんの人に伝えたい。
さくら咲くまで   安藤 晃穂


すぐそこに
さくら咲く日がまっている
今は まだ、つぼみ
すぐそこに
さくら咲く日がまっている

きっとみんながまっている
さくら咲く日をまっている
きっとさくらもまっている
みんなに早く会いたいと
うずうず うずうず
まっている
さくらは うずうずまっている
今年もきれいに咲いたなら
きっと みんな、来てくれる
さくら…   五十嵐 桜


さくらは
春にさいてとってもきれい
風がふくと
すぐちっちゃう
でもまた
春になれば
きれいにさくよ
わたしと
おんなじ名前
さくら
これからも
ずっと
友だちで。
秋を見つけた   石丸 綺華


秋を見つけた。
いっぱい見つけた。
玄関を開けると、
ぱっと広がる稲のにおい。
その向こうに、
ドンと見える赤い守門山。
家の横の柿の葉も、おじいちゃんの作っている、
大根の葉も、
大きくなってきた。
いっぱい、いっぱい
秋を見つけた。
冬   泉田 光平


朝まどのそとを見ると、あたり一面真っ白
だった。
雪がつもってる。
まどをあけると息が白くなっていた。
外に出ると地面がこおってる。
木にはゆきがつもって枝がおれている。
夜、月の光をあびて雪が青白く光ってる。
冬だと思うしゅんかんだ。
空を見上げて…   岩田 夕子


心がなんか
むかむかしてる時、
そしたら空を
見上げてごらん、
むかむかなんか
風といっしょに飛んでくよ。

気持ちが
しょんぼりしてる時、
そしたら空を
見上げてごらん、
しょんぼりなんか
月に照らされて
星といっしょにかがやくよ。

なにがあっても
空を見あげて、
楽しい心で
いたいなあ。
ママの顔   岩山 瑞希


ママはいつもおこると
トラのようにどなる。
でも
パパが帰ってくると
にっこりして
「おかえり。」
と言って
わたしやお兄ちゃんにも
トラのように
おこっていた顔が
にっこり
花のように
わらってくれる。
バス通学   大塚 里美


いつもは母の車で送ってもらうけれど
風もなくあたたかな日はバスで通学する
毎週というわけにはいかないけれど
晴れて気持ちのいい日には
バスで行こうと思っている

前橋駅前バス停留所、七時五十五分
「大渡橋経由箕郷行」の表示を確かめて乗る
まず、カードリーダーにバスカードを入れる
入る向きがあるので
間違えないように慎重になる
それから、
ステップを上ってカードをとるので、
いつもさいそくの音が、
ピー、ピー、ピーと鳴ってしまう
だから席にすわるとほっとする

三十分くらい乗っているので
窓の外を眺めている
大渡橋
陸橋から見える山々
フランシスコ前を通ったら降りる用意をする
「二之沢病院前」のアナウンスで
ボタンを押そうとするけれど
いつもほかの人が先に押してくれる
「おねがいします」
身障者手帳を運転手さんに示す
「わかりました」
割引料金にしてくれる
「ありがとうございました」といって降りる
バス通学で始まる一日は、気持ちがいい
自立に向けて、一歩、踏み出せた気がする
だいすき   恩田 成美


「この世で何がすき?」
と聞かれたら
わたしは
「かぞく」
って言うよ
この世でたったひとつの宝物よ

世界中どこへ行っても
かぞくはかぞく
たとえばかぞくのだれかが死んでも
かぞくは心の中にいるよ

ちなみにわたしは
六人かぞく
お父さん
お母さん
おじいちゃん
おばあちゃん
お兄ちゃん
わたし
六人でなかよしなのよ

もしもお母さんが
よそにおよめに行ってたら
わたしとお兄ちゃんは
生まれなかった
この世には
いなかったってことよ
おれはリッキー   笠 健太


おれはリッキー、笠家の犬だ。
家で一番えらいのは、母さんだ。
よく散歩につれていってくれるからだ。
近所の犬たちと遊ばせてはくれないけど。

次にえらいのは、多分、父さんだ。
いつも帰りが遅いけど、
休日には散歩につれていってくれる。
歩くのが速くてオシッコするヒマがないけど。

その次は、長男の亮太か三男の純だ。
いつもどっちが散歩に行くかでけんかする。
どっちでもいいから、早くつれてってくれ。

一番下は、次男の健太だ。
おれより小さいし、散歩にも行かないからだ。
でも、毎日エサをくれるから
おれより少し上かな。
ハンカチ   川上 あずみ


ハンカチでなみだをふいた
かんどうのなみだ
ハンカチでなみだをふいた
一位になれなかった
あの時の くやしいなみだ
ハンカチはわたしのなみだを
すべて知っている
ハンカチはなみだのパートナー

ハンカチであせをふいた
きんちょうのあせ
ハンカチであせをふいた
がんばったあせ
これもりっぱな思い出さ

友だちとおわかれの日
かなしくてないた
そのなみだをハンカチでふいた
そしたらまた 思い出一つ出きあがり
そんな思い出いっぱいつまってる
だから
ハンカチは思い出の
たからばこ
ふとん   久保 沙耶香


ふとん。それはゆめを
見られるげんかんだ。

夜にしか入れない
げんかん

ふとんがないと、
げんかんに入れない。

夜ふとんはゆめの
げんかん。
くつ   桒原 嵩人


くつをいろんな所に、
連れて行くけど、
くつの一番の思い出は、
ぼくがくつをはいていることなんだ。
ホメラレズ   小池 亮輔


早ク学校カラカエッタ。
デモホメラレズ。
ゲームヲスコシシカシナカッタ。
デモホメラレズ。
宿題モシタ。
デモホメラレズ。
風呂ニヒサシブリニハイッタ。
デモホメラレズ。
早クネヨウトシタ。
デモホメラレズ。
今日一日ホメラレズ。
この街見附   昆 祐里


この街見附
いつも静かで
おだやかな
そんな見附

この街見附
7時過ぎると
通行量が少ない
そんな見附

この街見附
こんな見附が
私は好き
ずっとここで
生きていきたい
弟   齋喜 みさと


わたしには、弟がいる。
なまえは、あきら。
弟は、おもしろい。
でも、けんかをすると、
わたしをなぐったり、
バカといったりする。
わたしも、まけずにバカといい返す。
すると弟はおしりを見せる。
わたしはそれを見ると笑ってしまう。
わたしは、ほんとうは弟が好き。
とくに、ねている顔とほっぺがすき。
ほんとうにすき。
ちっちゃいりんご   佐久間 翼


かわいいりんご。 ころころりんご。
りんごのにおい。 いいにおい。

りんごをきったよ。
ちっちゃくなったよ。

くんくん かいだよ。
おくちでも ちょっとさわったよ。
うれしかった。

みて ほら これ かいだよ。
ほら みて あまいにおい。 いいにおい。

ちょっとさわって。
かわいいりんご。ころころりんご。
席がえ   佐藤 あゆみ


わあっあの席だ
となりは だれかな

席がえは きん張する
だって どこの席になるか気になるから
だって となりがだれか気になるから
だから 席がえは きん張する
でも 私は席がえが好き
だって そのきん張が好きだから
だって いろんな人ととなりになれるから
今日もこれから席がえだ

こんどは どこの席だろう
こんどは だれととなりだろう
ふきのとう   佐藤 茉衣


ふきのとう
雪と土の間から顔を出して
ふんばって、ふんばって、
ウーンウーンってふんばって
がんばる声が聞えてきた

まるで、春がそこまできてるみたいに
夕日   しい谷 あやか


夕日は
わたしの道を
てらしてくれる
とくべつな赤い道
春   白木 里実


春はうれしそう。
なぜかっていうと、
サクラやふきのとうと、
いっしょに春を祝えるからです。
人もいっしょに祝えます。
春が終わっても、
春は次の春を、
ずっとずっと楽しみにしています。
また人やサクラ、ふきのとうと
次の春を祝えるのを
春は、
ワクワクしています。
足音   高世 咲希


学校のろうかで
あおいちゃんが
カッコンカッコンいっていた

いそいでいるんだ
自活室へ行くから
いそいでいる

あおいちゃんは
自活がたのしいし
すきなべんきょうだから
いそいでいる

あおいちゃんは
じょうずに歩けるようになりたいんだな

わたしの足音は
ガラガラという

車いすの音だから
ガラガラという
いそいでない時は
ゆっくりでシューといって
いそいでいる時は、
ガラガラという

わたしは
ときどき
いそいでいる
朝いそがないと
ちこくしちゃうから
ガラガラという音がする
学校は時間をまもらないといけないから
いそいでいる

時間にまにあって
教室のドアをあけて
「おはようございます。」
と、え顔で言う
大きな声でいって
気もちがいい一日だったよ
虹の彼方   冨田 勇貴


今日彼女が亡くなった。
付き合ってちょうど一年の夏の暑い日。
交通事故だった。
俺をかばおうとして……。
俺はどうしてあのとき何もできなかったのだろう。
と思っても遅かった。
俺は彼女の死後彼女に手紙を書いた。
ちょうど雨が上がったところで虹が出ていた。
俺はその手紙を虹に向かって飛ばした。
「今までありがとう。」
そう言って投げたら虹の彼方から
「ありがとうがんばってね。」と
聞えたような気がした。
はる   外山 良子


はるって
お花がいっぱい。
さくら。
チューリップ。
花見で
さくらが
ひらひらとおちてきて
ふわふわとチューリップの中に
ぽろりと入った
ハチのように。
さくらぽろぽろ
さくらひらひら
きれいに ちっていく。
きれいなさくら。
はるって
お花がいっぱい。
ふるさと   二瓶 亨也


朝も夜も
森に 林に 道に
家なみに きょうも
雪がふっているだろうか
富士山は 吹雪で
けむっているのだろうか
見える・見えないってどんなこと   林 大志


目が見えるってどんなこと。
さわらなくても形がわかるってどんなこと。
一度目が見えるようになってみたい。
みんなが
目が見えなくってかわいそうだというけれど
僕はまったく思わない。
目が見えなくても普通に生きている。
見えても見えなくても
生きているには変わらない。
僕は力強く生きるんだ。
悲しむのは人間だけじゃない   松村 大介


悲しむのは人間だけじゃない
すべての生き物が悲しがる

前 学校の帰り道
一ぴきのねこがたおれていた
すると近くの草むらが
ざわざわ
とゆれて
一ぴきのねこが出てきた

そしてたおれている
ねこのそばまできて
ニャーオ
と悲しそうに鳴いた

その時ぼくは思った

悲しむのは人間だけじゃない
すべての生き物が悲しがる
私にしかできないこと   前川 枝理子


障害のある人は強い
人一倍強い
健常者は障害のある人より弱い
人一倍弱い
手や足がなくても
命に関わる病気じゃないから生きられる
この世に生まれて来た以上
生きなければならない
障害があるだけで
差別されるのはなぜ?
障害がある人は邪魔なの?
今までいろいろな人に出会った
差別する人、優しくしてくれる人

私は健聴者と
聴覚障害者を体験した
元々は健聴者だった
病気で聞こえなくなったのだ

でも、障害があっても
私は人間だ
障害者として生きることは
私にしかできない体験だと思う
いい体験になるかどうかは
まだわからないけど・・・
道   三井 遼平


僕が歩んでいる道は
まるで道路の展示場

親と一緒に歩いた道は、高速道路
目的地に速く安全に着くことが出来た
初めて挑戦する時は、未開発の雑木林
自分で切り開いて作っていった
友達との関係に悩んだ道は、下り坂
どんどん下に落ちていった
進路決定に悩んだ、交差点
どちらの道を通るか決めるのに苦労した
そして、大学に合格したときは、
青空が広がる道だった

これから歩く僕の道
いろんな道があるだろう
でも、ぼくは歩き続けよう
希望に向かって
後ずさりすることなく
春の花   吉田 淳


春の花といえば、
さくらです。
ちらちら
花びらがちって、
さくらのシャワー
みたいです。
いいかおりの
おどりこ草は、
あまいみつ入りの
せっけんです。
さいごに
チューリップで
体をつつんで
春のおふろを
楽しみます。

第11回矢沢宰賞の審査を終えて

 今年も全国から沢山の応募がありました。特に沖縄県からふえており、私は幸せな気持ちで北海道の作品から日本を南下するように読み始めました。

 審査は私の体調がよく、最低一時間の時間が取れる時に姿勢を正して机に向かい行います。鉛筆で○、△、無印の三段階に区別しながら、どの作品も全て読み切ります。途中で読むのをやめることはありません。私の心が持っている、応募作品、つまり応援される先生、書いた児童生徒の皆さんに対する礼儀なのです。すると今年は例年になく○印が多くつくのでした。

 平成十六年度は、三月末で閉校になる学校が六校もあり、驚かされました。小中学校の統廃合は、この国から子供が減り、美しい四季をくり返す自然さえもが減っていく思いがしてさみしいかぎりです。
作品としては、自分の人生への応援歌を知らず言葉にしている作品に心を打たれました。家族の愛情が太陽の光となり、その愛情に向かってひまわりのように立つ子供達の姿を見るからです。選をする私も、矢沢宰賞に携わる人達の誰も、小、中、高校生の皆さんの御両親と同じ気持ちで皆さんを応援しているのです。

 「かみさま けとばすぞ」という作品に共感しました。病気と闘う仲間が、幾人も短い生涯を終えていく。続く「君へ」では、若い命がその最後に友にありがとう、君に会えてうれしかったよ、と言い残したのです。言われて、作者は気がつきました。私達は「ありがとう、大切にしてくれて、ありがとう」という言葉を最後に言うために、この世に生まれてきたことに。私も、家族との別れで、同じ言葉を言うことでしょう。

 今年も初めて応募して下さった学校が沢山ありました。ありがとう、皆さん、そして先生方。入選せず、全国に紹介されることがなく終わった人もどうか忘れないで下さい。私達は、私は、どの作品も最後まで、繰り返し読んでいます。そして何
年でも待っています。あなたの心の声をもう一度聞くために。

  • 審査員 月岡 一治
    上越市出身。国立療養所西新潟病院内科医長。第6回新潟日報文学賞受賞。出版物に「少年-父と子のうた」「夏のうた」(東京花神社)がある。

年ごとの入賞作品のご紹介

最優秀賞受賞者タイトル
第1回(平成6年)山本 妙本当のこと 
第2回(平成7年)山本 妙災害
第3回(平成8年)高橋 美智子小さな翼をこの空へ
第4回(平成9年)野尻 由依大すきなふくばあ
第5回(平成10年)佐藤 夏希お日さまの一日
第6回(平成11年)除村美智代大きなもの
第7回(平成12年)徳田 健ありがとう
第8回(平成13年)井上 朝子おくりもの 
第9回(平成14年)藪田 みゆき今日は一生に一回だけ 
第10回(平成15年)日沖 七瀬韓国地下鉄放火事件の悲劇
第11回(平成16年)佐藤 ななせ抱きしめる
第12回(平成17年)髙島 健祐えんぴつとけしゴム
第13回(平成18年)濱野 沙苗机の中に
第14回(平成19年)田村 美咲おーい!たいようくーん
第15回(平成20年)高橋 菜美空唄
第16回(平成21年)今津 翼冬景色
第17回(平成22年)西田 麻里命に感謝
第18回(平成23年)山谷 圭祐
第19回(平成24年)坂井 真唯クレヨン
第20回(平成25年宮嶋和佳奈広い海
第21回(平成26年)金田一 晴華心樹
第22回(平成27年)安藤 絵美拝啓 お母さん
第23回(平成28年)宮下 月希大好きな音
第24回(平成29年)宮下 月希心のトビラ
第25回(平成30年)阿部 圭佑ものさし
第26回(令和元年)上田 士稀何かのかけら
第27回(令和2年)宮下 音奏大好きな声
第28回(令和3年)横田 惇平ふくきたる夏休み
第29回(令和4年)野田 惺やっと言えた
第30回(令和5年)舘野 絢香気持ちをカタチに 思いを届ける