第1回矢沢宰賞

第1回矢沢宰賞作品紹介

最優秀賞

本当のこと   山本 妙


本当のことを知りたくなくて 

本当のことを聞こうとしませんでした

本当のことからにげていました

夢を見すぎることは、いけないことなのでしょうか

本当のことを知り

それを信じなければいけないのでしょうか

私は、自分の夢を信じつづけても

よいのでしょうか
審査員
審査員

私はあなたの病気の内容について、なにも知らされていません。
この詩の中の「本当のこと」は、きっとその病気のことでしょう。
大人たちは「本当のこと」を「現実」と呼び、そのきびしさに負けてしまいがちです。
あなたの詩は、たとえその現実を知っても、自分の夢をもって生きていけますか、生きていいですかときいています。
心からの問いかけが、読むたび私の心の耳に深く届きます。

奨励賞

わたしって大人になれる?   久永 葉寿美


わたしって 大人になれる?

おしごとできる人になれる?

はやく おとなに なりたいな。

ようちえんの せんせいに なりたいな。

さいた さいた

チューリップのはなが・・・。

たくさん うたを うたいたい。
審査員<br>
審査員

最初の2行の問いかけの重さに、胸をうたれました。

最終行の「たくさん うたを うたいたい」という澄んだ願いが、この詩をとても深いものにしています。

「うた」が実際にうたう「歌」だけでなく、この世にひとつしかない、あなたのいのちそのものに、高められているからです。

試験通学   玉井 広光


もといた 学校へ行くときは

朝からなんだか うれしい。


「久恵ちゃんに 会えるかな?」

「まさる君と、たくさんお話できるかな?」

小さい声で「おはよう。」と言った。

とっても、とってもはずかしい。


「玉井君、また来たが?・・・」

みんなが、ぼくのそばに来た。
審査員
審査員

事情があって一度離れた学校へ、また試験的に通学したときのあなたの気持ちが、とても正直に書かれています。
不安とはずかしさと、かすかな期待。
最後2行目で一気に高められた不安が、最終行でホッと消えていく。
その時君の心の中にこみあげた喜びが、私の心の中にまであふれてきます。

佳作

つばさ   池田 彩花


私につばさをください

 ぜいたくは言いません

 一つでいいのです

 私につばさをください

 つばさがあれば

 青空を飛べます

 ポッカポッカあったかい

 太陽の下で

 鳥のようにちょうちょのように

 だから、私につばさをください 
   今村 香月菜


涙は なぜ出るのかな

悲しいとき

涙はでる

涙が出ると

のどが痛い 心が痛い

おかしいときも

涙は出る

おかしいときは

お腹がいたい

だれか

涙を止める方法

知らないかな

涙が止まれば 傷みも止まるかな

だれか

涙と傷みを止める方法

知らないかな
大けやき   刈谷 和芳


私の家族を

見守ってくれた家の裏の大けやき

春は、黄緑色の髪

夏には、緑色の髪

秋には、赤色の髪

冬には、白色の髪

毎年、くり返していたきれいな髪

けやきの木は、年を取り

枝がぼうぼうになってしまった。

私達に木かげをつくってくれたこと

私達に美しく見せてくれた夏の木もれ陽、

家族みんなで

ありがとうという

気持ちを持ちながら

けやきの木が倒されるのを見ていた。

そうして、三百年の幕を閉じて

私達と別れて、神様のもとへ行った

大けやき

さようなら

大けやき

さようなら

四季の髪 

忘れられない

枝にぶらさげたブランコ

忘れられない

いいにおい

今は、もう大きな切り株と神社だけ

いつか私達は、あなたの所へいくよ。  
ほしい車   窪田 正志


成人になったら、

お金を沢山ためて、

高い車を買いたいな。

でも、耳が不自由だから、

無理かな。

心配しているよ。

もし、できれば

自動車学校で

練習をして、

卒業をして、

免許をもらって、

ゆっくり走る。

きれいに洗う。

いつまでも走る。

大人になったら、

かっこいい車

買いたいな。

車のやり方は、

だいたいわかる。

走ってみたい。

でも耳が不自由だから、

無理かな。

ぼくは、心配しているよ。

ゆっくり走る。

きれいに洗う。

とおくまで走る。
入院   斎藤 衛


初めて

病院に

とまりました。

なみだが

とまりません。
たいそうぎ   中村 大祐


今日、

ぼくは初めてたいそうぎをきました。

小林くんに

「なかだい、かっこいい。」

と言われて

てれました。

「べつに。」

と言いました。

うれしくて

サッカーボールを

おもいっきりけりました。
風   堀 将人


風は優しく吹いてくる

僕らにそっと語りかけ

そっと心をいやしてく 

風は激しく吹いている

あらゆるものに吹きつけて

一瞬のうちに過ぎ去っていく

時には穏やかな風となり

時には強力な風となり

いつも僕らに吹きつける

歩いていこう 風を感じながら

歩いていこう あの風の中へ
うみ   松下 直人


うみの音は

ザーザーして

あめの音みたいだ。

よく見たら

なみが かけっこしているみたいだ。

つぎから つぎと なん人でもくるから

だれがかったか わからない

うみをよく見ていたら、

うみが ぼくを よく 見ていたんだ。

ぼくを

おいで、おいで。

と、いっているみたい。

ぼくも

いっしょに いきたいな。
黄金色のカギ   見田 幸乃


障がいを持った自分を

悔やむか

悔やまないか

それは、個人の自由

私は悔やみたくない

神様がいたずらをしたのなら

許すことはできないけど

微笑むことくらいはできる

不可能なことは多いけど

苦労することも多いけど

私は夢に向かって走る

いつか、この手に掴め

未来の扉をきり開く

黄金色のカギを-     
気持ち   山崎 あゆみ


私と兄は、耳が不自由

それを分かってくれる人

ゆっくり話をしてくれる人

沢山いるから安心

でも、私は健聴者と

しゃべることも出来る

私の気持ちを通したい

あなたの気持ちも分かりたい 
この道   山内 範夫


何年ぶりだろう

この道は

空気の香りも

小川の流れも

あの時のままだ

今、ぼくは

過ぎ去った日々を

数えながら

この道を歩いている 

歩みを進めるたびに

ぼくの胸が鼓動する

「ドキドキ、ドキドキ」と

この鼓動は何か

喜びか

不安か

それとも

恐れか 

第1回矢沢宰賞の審査を終えて

矢沢宰賞をつくり、たくさんの児童生徒に詩を発表する場を与えようとした大人たちの熱意がいま実を結びました。応募した子供達の詩が、暗い土をやぶって現れた芽から若葉になって、風にそよいでいます。その目にうつっている現実の世界のきびしさと奥深さ。それぞれの詩は、不安にゆれながらも、自分の心のありようをみずみずしくうたっています。

初めての募集にもかかわらず、県内の6施設から151編もの作品が寄せられました。
特にすぐれた作品14編の中から、各賞を選ばせていただきました。

  • 審査員 月岡一治
    上越市出身。国立療養所西新潟病院内科医長。第6回新潟日報文学賞受賞。出版物に「少年-父と子のうた」「夏のうた」(東京花神社)がある。

年ごとの入賞作品のご紹介

最優秀賞受賞者タイトル
第1回(平成6年)山本 妙本当のこと 
第2回(平成7年)山本 妙災害
第3回(平成8年)高橋 美智子小さな翼をこの空へ
第4回(平成9年)野尻 由依大すきなふくばあ
第5回(平成10年)佐藤 夏希お日さまの一日
第6回(平成11年)除村美智代大きなもの
第7回(平成12年)徳田 健ありがとう
第8回(平成13年)井上 朝子おくりもの 
第9回(平成14年)藪田 みゆき今日は一生に一回だけ 
第10回(平成15年)日沖 七瀬韓国地下鉄放火事件の悲劇
第11回(平成16年)佐藤 ななせ抱きしめる
第12回(平成17年)髙島 健祐えんぴつとけしゴム
第13回(平成18年)濱野 沙苗机の中に
第14回(平成19年)田村 美咲おーい!たいようくーん
第15回(平成20年)高橋 菜美空唄
第16回(平成21年)今津 翼冬景色
第17回(平成22年)西田 麻里命に感謝
第18回(平成23年)山谷 圭祐
第19回(平成24年)坂井 真唯クレヨン
第20回(平成25年宮嶋和佳奈広い海
第21回(平成26年)金田一 晴華心樹
第22回(平成27年)安藤 絵美拝啓 お母さん
第23回(平成28年)宮下 月希大好きな音
第24回(平成29年)宮下 月希心のトビラ
第25回(平成30年)阿部 圭佑ものさし
第26回(令和元年)上田 士稀何かのかけら
第27回(令和2年)宮下 音奏大好きな声
第28回(令和3年)横田 惇平ふくきたる夏休み
第29回(令和4年)野田 惺やっと言えた
第30回(令和5年)舘野 絢香気持ちをカタチに 思いを届ける