第29回矢沢宰賞

第29回矢沢宰賞

最優秀賞

やっと言えた   野田 惺(大阪府)


文字に表しても
読み返したとき
これじゃない、私の思っていることは
文字に表すのはやめた

真剣に話を聞こうとされると
頭が真っ白になって
先に感情があふれてしまう

結局本当に言いたかったことは
言えずに終わる

私は話を聞いて欲しいだけなのに
アドバイスとか
相手の意見を聞かされる

結局傷となって返ってくるだけ

もう人に話すのは
やめよう

もっと苦しくなるだけだ

自分の中で消化すればいいんだ

夜、布団に入ると
いろんな気持ちで
頭の中が埋め尽くされる

もうどうにもならなくて
頭の中は真っ黒

誰かに聞いて欲しい

この気持ちを吐き出したい

そう思ってしまう

そんな中友達が
今しんどいこと、悩んでいることを
話してくれた

その話を聞いていたら
自然と本音がこぼれた
お互い泣きそうになりながら
話し続けた

この子になら話せる

そう思った

やっと言えた

私が本当に言いたかったこと
私の本音が
審査員
審査員

文字や話でも、本当に伝えたいことはうまく伝えられない。「傷となって」返ってくるだけ。慨してそういうものだ。
なかなか相手に伝わらない。苦しくなるから、もう人に話す(伝える)のはやめようと思う。
しかし、それは自分一人だけの悩みでなく、友達も同じ悩みをもっている。
友達と話し続けることで、やっと本音が言えた。自分を正面から深く見つめている作品。

奨励賞

アンサンブル   圡田 楓士(熊本県)


しんと静まりかえった会場
鼓動が早まり 高まる緊張感
そこに響く演奏開始の合図 ブレス

ドドドドドーン

いよいよ演奏のスタートだ

六月四日 私は熊本県立劇場にいた

私は盲学校アンサンブル部の一員だ

この部には指揮者はいない

すべての演奏の始まりは ブレス
スーッス

お互いの息づかいを聴きながら
ひとつになっていく 心と演奏
私たちが生み出す世界観
私は三年ぶりに舞台に立っている

長く人前で演奏できなかったことや
体調を崩せないというプレッシャー
様々な思いが込みあげてくる
その気持ちをいったん落ち着けて ブレス

さぁ
観客をアンサンブルの世界へ誘(いざな)うのだ

しんと静まりかえった会場に
響きわたる 一人一人の音色
これが高校最後かもしれない

大舞台での演奏
何年もの間 積み重ねてきた練習
このメンバーで作り上げてきた絆
きっと大丈夫

私の青春 アンサンブル
これからもずっとずっと続いてほしい

盲学校アンサンブル部
審査員
審査員

アンサンブル部の演奏が、ブレスでスタートする。自分も三年ぶりに舞台に立つ。
プレッシャーやさまざまな思いがこみあげてくる。演奏で観客を誘わなければいけない。
演奏する側と観客の張りつめた緊張感が、作品から強く伝わってくるようだ。
そこにはメンバーの絆も、青春もこめられているようにも感じられる。

あと少し、もうすこし。   宮下 音奏(新潟県)


ぼくのピッカピカは君と一緒に始まった。

つやも、においも新品のいい香り
思わず顔も押しあて、スーリスリ。

いいでしょう?良いでしょ?いつものぼくを自まんしてくれたよね。

でも、君と外に出て二日目
ぼくは片耳を負しょうした。

友だちにけられ金具が欠けてふっ飛んだ。

いたいよ。いたいよ。

声を出せないぼく。欠けたぼくを見て泣いてくれた君。

あれからぼくは、六年生。君の背中は大きくなった。故障したぼくも気にせず、しょってくれたよね。

暑い日も寒い日も雨の日も…
お父さんよりお母さんより長く一緒にいた。

親の知らない学校での君をぼくは知っている。

ぼくをしょうのもやっとだった君はもう大きいお兄ちゃん。

あと半年…
ぼくの役目は終わってしまう。

でもぼくは、第二の人生が待っている。机の横の君のお手紙ポストとして今度は、大事なプリントを守る仕事。

あと少し、
もう少し。

君とぼくは一緒にいるよ。

「君といた六年の思いの詰まったぼくは、最後に君にどんな風に思ってもうえるだろう…」
「ありがとう。」

ぼくのほしいのは、たった一つのこの言葉。

そして、ぼくは君へありがとう
その日までぼくは君と一緒に通うよ。大きな君の背中にしょわれて。

新しい君の友だちへバトンタッチするその日まで。
審査員
審査員

「ぼく」は、最初はピッカピカだった「ランドセル」のことである。

背負う背中は大きくなったし、お父さんやお母さんより長く一緒にいたのだ。

そんなランドセルへの愛と感謝の気持ちがあふれている。ランドセルの役目は終わっても、「お手紙ポスト」として第二の生き方がある。

「ありがとう」の気持ちの交換。

こんにゃく物語   望月 音寧(新潟県)


いま食べるなら
こんにゃくかフレンチトースト
とにかくとにかくそれが食べたい

でもどちらかというと
こんにゃく

ぷるぷるなこんにゃくの
上に とびのって
食べながら宇宙をとんで
なくなったらどこかの星で
こんにゃくを作って
いつか宇宙の
はしっこまでいきたい

ぐうぅ〜
おなかすいてきた
審査員
審査員

こんにゃくの上にとびのって宇宙をとぶ─なんて発想はすごい!

食べてなくなったら「どこかの星で/こんにゃくを作って」宇宙のはしっこまで行きたいという突拍子もない発想にも驚きました。

小学校六年生なのに、こんなにこんにゃくが好きだというのには驚くやら、愉快なやらで、拍手!

一人でできる   木村 里奈(熊本県)


私は今まで
一人でできないことがたくさんあった

どうしてできないんだろう
集中力が足りないのかな
いろいろたくさん考えた

でも 高等部になり
できることが少しずつ増えてきた

一つ目は給食
いつも残していたのに
スプーンの持ち方を工夫したり
黙食で集中できたりして
時間内に
一人で食べることができるようになった

二つ目は着替え
着る手順を歌にして練習すると楽しくて
制服やエプロンも
一人で着ることができるようになった

三つ目は荷物の整理
リュックに荷物を入れるとき
まず連絡帳 次に宿題
その次は何を入れようか
順番を考えていくと
荷物がきちんと整理され
スムーズに入っていく
荷物も一人で整理できるようになった

一人でできるようになると
とてもうれしくて
もっと頑張ろうと思う

これからもいろんなことを
いっぱいできるようになりたいな
審査員
審査員

一人でできないことがたくさんあったけれど、工夫してできることが少しずつ増えてきた。

給食、着替え、荷物の整理など。自分なりに工夫したり、人のアドバイスを聞いたりすれば、できるようになる。それが「とてもうれしい」いし、「もっと頑張ろう」と思う。

でも、あんまり過度に頑張らないでね。

入選

装ひ   伊藤 梨紗(福島県)


服は自分を移す鏡
それがどんな色でも
それがどんな種類でも
自分が着ることによって
服の個性
淡く
優しく
広がっていく

周りの着ている服を見て
水滴のように心にゆれができる

興味の水圧が上がって
上がっていくにつれ
自分に自信がなくなって
周りの視線が痛くなる
周りの声がこわくなる

でも自分の好きなものこそ
自分の一番の装ひ
審査員
審査員

「ひ」はしゃれた仮名遣いか?装いについての女性ならではの気配り。自分の個性、周りの視線に対する好みや「個性」。着る人によって個性は出るけれど、自分好みこそ一番。

挨拶   魚島 史奈(熊本県)


「挨拶はなんのためにするの?」

そう聞かれた時、私は答えを濁すことしかできなかった。

昔、挨拶は心を込めてと誰かに言われた。
なんの心を込めるのだろうか。
私の気持ち?相手の気持ち?
温かい心?冷めた心?
嬉しさ?悲しさ?
よくわからない。

きっと挨拶とは心を表すものなんだろう。
もしかしたら、性格も垣間見えるかもしれない。

「挨拶をしましょう」その課題は1人で達成できない。
でも、達成できない人など決していないだろう。

「人は人と繋がることで生きられる」どこかでそう聞いた。
私は生きていくことは容易くないと子供ながらに知っている。

そんな生きることの一部を担っている挨拶は実はすごいのではという考えが頭に浮ぶ。
きっとそうだ。

すごいから親から教師からお小言のように繰り返されるのだ。
つまり、挨拶とは生きるためにするのだ。

目と鼻の先の距離に人がいる。
私はその人に言うのだ。

生きられることへの、繋がることへの感謝を込めて「こんにちは」と。
審査員
審査員

「挨拶」ということを世間の常識でなく、親や先生から言われたからでなく、自分なりに考えている。そこがこの詩のポイント。「生きるため」「繋がれることへの感謝」という結論。

「黒い夢」   岡㟢 琴羽(山梨県)


夢を見ていた
不思議な夢だ
墨汁のような世界だ

重く苦しく静かすぎる世界だ
そんな所にぽつんと二人がいた

私と私だ

顔は見えない
だが絶対に私だ

世界がうすれていく
後ろの光が私を吸い込んでいく

その光で見えた向こうの私は
泣いていた

─夢を見ていた

不思議な夢だ
審査員
審査員

「不思議」というより「不気味」な、こんな夢をなぜ見たのか、自分でもわからない。私と私がぽつんと二人いた。しかも「泣いていた」私。こんな夢を見ることもあるのだ。

気持ち   岡野 琴音(群馬県)


気持ちなんて誰にも分からない

幸せな気持ち、嫌な気持ち、楽しい気持ち、気持ちには色々ある
自分にも分からない気持ちだってある
でもその気持ちを言葉にださなければ

ただ思っているだけでは
誰にも伝わらない

時々、不思議な気持ちになる時がある
その気持ちは自分でも分からない

だからおもしろいんだ
同じ場面でも
一人一人考えや気持ちなんて
同じわけではない

みんな違う考えや気持ちがあっていいんだ
だから授業をしている時だって
同じ問題でも
たくさんの答えがでてくるんだ

だから自分の気持ちを大切にして
生きていきたいんだ。
審査員
審査員

気持ちにもいろいろあってわからない。自分でもわからない。

「だからおもしろいんだ」と、作者はそのことはわかっている。

ちがう気持ちや考えがいろいろあるから生きられる。

しりとり   金子 楓芽(新潟県)


すいか からす すかんく くじら

らっぱ ぱはないからはでいいよ

はくちょう うま ますく くり りかしつ つくえ えび

びはないからひでいいよ

ひこうき きつつき きりきり りす すみれ れんこん

あっ。
審査員
審査員

他にも「しりとり」の詩があったが、この「しりとり」が一番おもしろかった。

途中に「ぱはないからはでいいよ」といった表現が入る意外性がおもしろい。

こんな詩もあっていい。

虹   掃部 真那(福島県)


虹はとてもきれいだ

そんな虹を
誰も取らないとはかぎらない

一瞬でも消えてしまうのは
誰かが取ってしまうからだ

取られてしまった虹は
自分で空に帰る

しゃぼん玉になって
審査員
審査員

心やさしい人にしか書けない詩です。虹を盗む人なんかこの世にいるのかしら?

いるのかもしれないね。虹がしゃぼん玉になって空に帰る、という最終節がこの詩のポイント。

花   川村 仁(東京都)


人は心の中に華を持っている

芯が通っているけれど
すぐに折れてしまいそうな人はフトイ

綺麗だけれど
棘を持っている人は薔薇

人は花を増やすことができる
花を増やし、心を豊かにすることができる

心を色彩やかにすることができる
人は花を枯らさない怒力をする必要がある
花を美しいままに保つ必要がある
自分の花を受け入れる必要がある

人は花を生けることができる
毒や棘を持っている花でも
自分の美しい一面にすることができる

自分の持っている花が嫌いでも
生け方によって受け入れることができる

赤色や青色、紫色や黒色
車形や鐘形、壷形や高杯形

花によって
様々な色や形があるけれど

どんな花でも
増やし
受け入れ
生けて美しさを引き出すことで
人はさまざまな色に染まり
魅力深くなることができる
審査員
審査員

「花」に統一しよう。「花」と「心豊か」「色鮮やか」というのは常識的であるが、受け入れ方でちがってくる、ということ。

人はさまざまな色に染まってくる。少々常識に傾く危険。

壱万円   神戸 天飛(神奈川県)


僕は壱万円が好きだ

品物を買える
エネルギーを買える
安心を買える
健康を買える
安全を買える

過去の時間は買えないけれど効率化することで未来の時間を少し買える
しかも左手で扇ぐだけですごく楽しい

壱万円は信用でできている

信用が無かったらただの紙切れだ
壱万円は絶対ではない
壱万円の価値は信用と連動する

でもいつでも同じ顔をしているからうっかり騙されそうになる
昨日の壱万円と今日の壱万円は違う
みんなに使われることによって変化する

上がったり下がったりジグザグしながらいずれ大きく変わっていく
昨日の僕と今日の僕は違う
何かを感じることによって変化する

良い日と残念な日を繰り返しながらいずれ大きく変わっていく
どう変わるか未来は誰にも分からない
どうなるか分からないことは不安だ

でも自分を信用すると不安がなくなる
未来を信用すると未来が楽しみになる
そして人生が楽しくなる

壱万円を空に向けると昨日より少し未来の顔が透けて見える
審査員
審査員

壱万円札をモチーフにした珍しい詩。同じようでいてちがうお札。

でも、言いたいことは第三節以降に。人間も日によって変わるが、どう変わるかは誰にもわからないということ。

お盆   小島 航(愛知県)


今年もお盆がやってくる
御先祖様が帰って来る日
仏だんの中のたくさんのお道具
家族皆で磨きます

おりん、花瓶、お灯明
全部外してクリームつけて
力を込めて磨きます

おじいさんはどんな人
おばあさんはこんな人

思い出話を入れながら
心を込めて磨きます

お盆提灯も出しました
ピカピカになったお道具戻し
お花を供えて待ってます
審査員
審査員

お盆用意なのでしょう、お盆を前に家族みんなで仏壇のなかのお道具磨きに精を出す。

ご先祖さまの思い出話をしながらの、大切な時間なのです。そうやってご先祖さまを待つ。

悔しかったうん動会   斎藤 悠誠(新潟県)


悔しかったうんどうかい

走りすぎて足をけがしてしまった、運動会

ついついなみだがでてしまうほど悔しかった
そして最高学年として、こんなすがたを見せてしまってもいいのかと、とまどった運動会

悔しかった運動会
皆が走っている中、一人だけみていていいのかと思った、運動会
最後のリレーをつかみのがした、運動会

本当にそれでよかったのだろうか

悔しかった運動会
自分が活やくしてないで優勝してよかったのだろうか
自分が役に立たなくて、よかったのだろうか
審査員
審査員

運動会をふり返っての反省。悔しいことがあれこれある。足をケガしたこと、リレーをつかみのがしたこと、自分が活躍しないで優勝したことさえ悔しい。悔しさを次に生かそう。

席替え   佐々木 明奈(山梨県)


前になった私の席
最初は最悪だなんて思っていた

けど今はそうは思わない
前も前で面白い
はっきり聞こえる先生の声が耳をくすぐり
視力が下がって見えなかった文字が
ちゃんと見える

黒板の深緑色が私の心をいやす
しっかり消せなくて黒板に残るチョークは
どこか悲しんでいるように見えた

次はどんな席にいくのかな
どんな景色が見れるのかな

やっぱり
席替えって面白い
審査員
審査員

席替えで前になって最初は戸惑った。けれど、先生の声がはっきり聞こえたり、文字がちゃんと見えたり、黒板に残るチョークの悲しさまでわかる。次の席替えにはどうなるか?

色   佐々木 桜(福島県)


一人一人には「色」がある
大切にしたい「色」がある

ちょっと変わっていたって
それもまた「色」でしょう?

君にはまだ固定概念があるんじゃない?
女子が自分を「僕」と呼ぶ
男子がかわいいスカートを着る

同性で好きな人ができる
それもまた「色」でしょう?

おかしいと思わないで
恥ずかしいなんて思わないで

大切にしよう 自分の「色」を
審査員
審査員

人によって「色」がちがう、それが個性というもので、それでいいではないか。固定概念にしばられることがいちばん怖いし、ヤバいこと。だから、自分の「色」を大切にしよう。

いちじく   佐藤 可澄(新潟県)


いちじくは内側で花を咲かせる。
   努力している所は
        誰にも見せない。

いちじくは一生懸命咲いている。
たとえ咲かせるのが難しくても、
   努力している所は
        誰にも見せない。

私たちはいちじくだ。
くじけても、転んでも、
たった一人できれいな花を咲かせる。
   努力している所は
        誰にも見せない。

そうやって花を咲かせる。
   たとえ一人でも
        凛と。
審査員
審査員

果実の「内側で花を咲かせる」いちじくの特性をとらえている。そのことは努力を、誰にも見えないところでしていることになぞらえることができる。花を誰に誇るわけでもない。

風と葉っぱ   高橋 くぬぎ(新潟県)


芽ばえたばかりの葉っぱの赤ちゃんを
やわらかい風が
ゆらゆらとだっこしてあやしているよ

あたたかい風が
そよそよと子守歌をうたっているよ

ほら葉っぱの赤ちゃんが
楽しそうにきらきらと笑ったよ

風はお母さん
やさしいお母さん
審査員
審査員

とても可愛い、やさしい詩。「葉っぱの赤ちゃん」はうまく印象的です。「子守歌」もやさしい発想だからこそ生まれている。やさしい人でなければこういう詩は書けないでしょう。

パパずるい   髙橋 京雅(新潟県)


パパずるい
パパ働いてずるい

仕事から帰ってつかれてるから
すぐねれる、パパいいな

パパずるい
パパ大人だずるい

大人だから家買える
何でも買える、パパいいな。
ああパパずるいずるすぎる

パパ車あるずるい
車あるから仕事場にも行ける
どこにでも行ける、パパいいな

パパずるい
パパ大変でずるい

仕事や家事とかで大変だ
大変だからひまがない、パパいいな
審査員
審査員

パパをよく観察している。「ずるい」ところと「いいな」という羨ましさが重なっている。観察する角度で、どうにでも解釈することができるということ。パパが好きなんだね。

通学路   滝沢 秋乃(群馬県)


朝になって家を出る
見慣れた道なのに 毎日毎日違う道
無音のリズムが響き 時間が止まる

退屈なのに 楽しい時間
学校に行きたいって思うと
カランコロンカラコロと音が響く

学校に行きたくないって思うと
パリンパリンサラサラって音が響く

学校に行きたくないって思った日は
時間をゆっくりにして通学路を冒険する

気づけば学校にいて「まぁいっか」という
異世界のように感じる通学路

時間が止まる通学路
無音とリズムが響く通学路
退屈で退屈で大好きな僕の通学路
審査員
審査員

同じ通学路でも、その日の気分によって毎日ちがうもの。「パリンパリンサラサラ」という音の表現に、独自な工夫が感じられる。通いなれた通学路もぼんやり歩いてはなるまい。

「ひい」   田中 大地(埼玉県)


僕が生まれる前、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんは長い長い旅に出ていた

まだ僕は「ひい」という言葉は知らなかった
知らないことを知りたい好奇心あふれる僕

「ひい」ってなんだろう?

動物の鳴き声かな?
それとも…
風の音かな?

十三になってようやく分かってきた
人は歳を重ねる

「ひい」だって重ねる
みんな旅に出かけたとしても
形見や言葉がずっと残りつづける

「ひい」は勲章だ
だって、「ひい」がついたらその人が生きたあかしなんだもん

「ひい」の勲章は「ひい」がつけばもらえるから、自慢はできない
いつか僕も、「ひい」の勲章をもらうことができるだろう

僕が「ひい」になるまでにいろんな「ひい」にお礼がしたい
「生きてくれてありがとう」って言いたい

一番古い「ひい」って誰なんだろう?卑弥呼か?

それとも…
恐竜だったりして!

こういう不思議に思うことが生きるっていうことなんだ
みんなが旅に出かけていても…

僕たちは
「ひい」で、いつまでもずっとつながっているんだ
審査員
審査員

生前会ったこともなかったひいおじいさんが、ひいおばあさん。「「ひい」ってなんだろう?」、そこから思考が展開する。最初はわからないが、「ひい」は「勲章」だと理解できる。

金魚鉢   谷崎 友香(福島県)


群青の色がきれいな小さな魚
金魚鉢で泳がせる

よく見ると小さな魚が大きく見える
理科が好きな人は
レンズが関係している
と言うかもしれない

けど私はそれだけじゃないと思う
体は小さいけどその小さな魚の
生命力の大きさなのではないか
きっと人も同じなのかもしれない

どんなに小さな子でも
体が少し弱い人でも
生きたいと思う気持ちは
金魚鉢から見えるように
大きいんだ

見えないだけで
大きいんだ
審査員
審査員

金魚鉢のなかでは、小さな魚でも大きく見える。魚の生命力の大きさの反映ではないか、と考える。人も同じかもしれない。体が弱い人でも大きく見えるのではないか、と気づく。

あいさつ   蝶名林 真和(新潟県)


あいさつは大切だ
あいさつをすると
みんな明るくなる
そんな気がする

あいさつをすると
あいても
あいさつを返してくれる
そうすると
うれしくなる

あいさつを返してくれない人もいる
そうすると
かなしい

あいさつでうれしくなるし
あいさつでかなしくもなる
あいさつで明るくなるかもしれないし
あいさつでくらくなるかもしれない
あいさつでいろんなかんじょうになる

あいさつを返さないと
人を不快にさせてしまうなら

あいさつをされたら
あいさつをかえそう

そして
自分からも
あいさつをしよう
審査員
審査員

あいさつの大切を言っている。あいさつをすれば、あいても返してくれて、うれしくなる。くれないとかなしい。あいさつとはそういうものだ、ということを理解できている。

「先輩になって思ったこと」   塚本 将輝(長崎県)


新入生が入ってきた
自分たちも先輩になって
お手本になるか心配だった

でも真面目に教えていこう
新入生の入部者達は
とてもおとなしく
何もしゃべらなかったが
関わることで仲良くなった

先輩として
後輩に色々な事を教える

先輩として恥をかかないように
部活で分からないことを
サポートする

バトンの練習で
次につなげていけるように
審査員
審査員

部活で「先輩」になったことを自覚して、後輩にいろいろなことを教えていかなければならない。どうしたらお手本になれるか、どうしたら仲良くなれるか、結構むずかしい。

私のめいっ子(空海…スカイ)   寺㟢 空(神奈川県)


スカイはとても可愛い、笑顔がとても愛らしい。

スカイ、とても泣き虫。でもベソかくと、とても愛らしい。

スカイ、私の耳が聞こえない事を理解している。まだ2才なのに。

スカイ、まねっ子が上手。まねっ子で手話で私にといかける。

スカイ、たまにおこりん坊。私にこわい顔してたたくふりをする。でも、そんかスカイがとても好き。

スカイ、最近、弟がうまれたね。一生けんめいお姉ちゃんしてるよね。そんなスカイが本当に可愛い。

スカイ、あなたは、とてもこわがりだね。青鬼さんがくるよってママに言われると「こわいよ〜」って言いながら、私にギューッてしてあげる。

スカイ、いつでも元気いっぱいでニコニコだね。私はそんかスカイが心から大好き。

スカイ、これからも私とたくさんあそぼうね。いっぱい楽しい事をしようね。

スカイ、私の可愛いめいっ子。
審査員
審査員

めいっ子の2才のスカイちゃんをとても好きで、可愛がっているようすが、作品から伝わってくるようだ。茶目っけもあるようだね。お姉ちゃんになってますます可愛いやら…。

君がいた   寺田 姫乃(千葉県)


入った時から
自分の足元を見て歩いていた
出口のない迷路だと思っていた

ずっと
一人だと思っていた
前を見た時
やっぱり出口はなかった
トンネルのような暗さの中
手さぐりで進んでいた

となりには
 君がいた
審査員
審査員

(中学校に)入ったとき、まだ一人ぼっちだと思っていたのだが、となりにいた君と知りあって友だちになった。君は今どんなふうにすごしているのか、これからどうなるのか?

天(そら)ざくら   外島 美空(福島県)


もしも天(そら)に土がある世界だったら
その世界では天(そら)にさくらが咲くのだろう

もしも天(そら)からふるさくらをとれたら
願いが叶う世界だったら
私は家族から愛してもらえたのだろうか

もしも天(そら)から降るさくらを持ち続けると
大切な人と結ばれる世界だったら
私は幸せな家庭を築けたのだろうか

もしも天(そら)から降るさくらを何代も受け継ぐと
幸せがずっと訪れる世界だったら
私はそのさくらを持てたのだろうか

もしも天(そら)から降るさくらを持って死んだら
次の人生を決められる世界だったら
私はどんな人生を選ぶのだろうか

もしも天(そら)から降るさくらになれたら
私はたくさんの人に愛されたのだろうか
私はたくさんの人に大切にされたのだろうか

今私が持っているのはさくら
今私が背負っているのはさくら
今私が名乗っているのはさくら

そんなさくらが降ったらどんな世界になるのだろうか
今私は宙(そら)からふるさくらになった

もしも神様がいる世界なら
私を幸せにしてほしい
私を愛してもらえるモノにしてほしい
審査員
審査員

「もしも(そら)から降るさくら……」という奇想天外が発想のくり返しで、将来の人生や幸せをさぐり問いつめてゆく、その常識破りがおもしろい。そういう発想をもちつづけよう。

だいすきなもの   栃倉 悠翔(新潟県)


ばなな
ぱっくんぱっくん もぐもぐ

たこやき
あっつあつの あっつあつ

たまごかけごはん
とろんとろんで うまいうまい

ますずし
むしゃむしゃ ぎゅうぎゅう

おこのみやき
まんまるの もりもり

まだまだいっぱい ありすぎだあ
あーおなかすいた
審査員
審査員

だいすきなものがいっぱいあるんだね。まさかいっきょに食べるのではあるまい。まだまだあるらしい。どれもみなおいしそう。最後に「あー おなかすいた」だって、笑っちゃう。

朝と時間   鳥井 美羽(群馬県)


朝は毎日くる
嫌なほどくる

明るい朝や 暗い朝
暑い朝や 寒い朝
春夏秋冬絶えずにやってくる

でもこんな朝はもうあきた
夜みたいに暗い朝がほしい
朝みたいに明るい夜がほしい

でも現実はちがくて君の「おはよう」をきく
こんな朝をむかえるうちに
私は現実が美しくて儚い世界に見えてくる

こんな朝が好き
こんな朝を時間と共にむかえたい
時間はすぐに過ぎていく

楽しい時間 悲しい時間
止まってはくれない
朝もすぐになくなる

けど
朝は一日たてばやってくる

時間は限られている
使える時間は限られている
使える時間を精一杯に生きたい

美しくて儚い世界を知るために
時間をかけながら知っていこう
審査員
審査員

必ずやってくる朝といっても、いろいろな朝がある。一定ではない。楽しい朝もあれば、悲しい朝もある。翌日朝はやってくるが、待つだけでなく、いい朝を前向きに求めよう。

ラッキーな日   内藤 衣舞(群馬県)


部活の帰り道
枯れた花が言う

「じっと私の事なんか見ていないで。」
「もっと立派な山を見なさい。」

遠くの
少し青がかった小さな山を
じっと、じっと見つめた
山が言う

「こんな私をじっと見ていないで。」
「もっと広く美しい空を見なさい。」

雷が鳴りそうな空
続く無言の会話

今日は
とっても、とっても
ラッキーな日だ

美しく、綺麗なものを
たくさん見たから
審査員
審査員

枯れた花が「もっと立派な山を見なさい」と言う。すると、山が「広く美しい空をみなさい」と言う。そういう言葉を次々に聞くことこそ、「ラッキーな日」と受けとめたい。

おなかのひみつ   中西 陽杜(新潟県)


もうすぐゆうごはん。
そんな時、ぼくのおなかがグーグーなった。

おかあさんに
「はらどけいがなってるね。」
と、いわれたよ。

おなかがそうじされた時になるから、おなかにとけいはないんだよ。
でも、本当はね、
おなかでグータンをかっているんだ。

なまけもので、目がさめたらグーグー。
たべものがほしくてグーグー。
けんかをしたらキュルキュル。
しゅくだいがいやでブーブー。

ぼくとおなじ、わがまませいじんだ。
グータンが、いっぱいすんでいるグータン王国。
これからも、おいしいものをいっぱいたべるね。
審査員
審査員

おいしいものをいっぱい食べたいからおなかがなるのを、グータンのせいにする。食べ物がほしいわがまませいじんだと。そんなウソに負けたふりしておかあさん何を作るかな?

旅の思い出   深沢 一瑳(東京都)


十日町に行った
父と母と弟とぼくの四人で行った

現代アートを見る旅だった
霧のアートに弟と入った
霧のアートの中は真っ白だった

弟のすがたもみえなくなっていった
上を向くと青い空しか見えなかった
まるで雲に乗っているようだった

霧をあつめてみた
すると体がつめたくなった

霧をけってみた
前にわらってる弟がいた

弟とぼくで霧をかけあった
弟のすがたはまたきえた

弟と外に出ると霧が高い山のようだった
まるでゆめを見ているようだった
審査員
審査員

旅先で珍しい体験をしたことを書く。「霧のアート」に弟と一緒に入った。なかは真っ白で、上に青い空。消えた弟が現れてまた消えた。まるで夢を見ているような貴重な体験。

私の太陽   松浦 碧(埼玉県)


私は、物心がつかないうちに引っ越した。
生まれた場所のことも、友達のことも、あまり覚えていない。
だから友達がいない。

「みんな、友達がいていいなあ」
そう考えていた。

ある日、太陽みたいな子と出会った。
その子と出会ってから、毎日が楽しくて、幸せで胸がいっぱいになった。
でも、小学校を卒業し、あの子は違う中学校へ行ってしまった。

私はまたひとりぼっち。
不安で寂しくて、まるで曇り空みたい。

入学した中学校は、ほとんどの同級生と顔見知り。
でも太陽みたいなあの子はいない。
もしかしたら、この別れには意味があったのだろうか。

「私と仲良くするだけではだめ、いろいろな世界を見てごらん。たくさんの仲間がいるよ。」

心の中であの子がそう言っている気がした。
私の暗い心を晴らしてくれた。
こう考えていたら、なんだかワクワクしてきた。

新しい人生のはじまりだ。
今ではたくさんの友達がいて、笑って、泣いて。
そんな日々を繰り返している。

あの子は今どうしているかな。
久しぶりに会いたいな。
そう願いながら、私は広い世界で生きている。
審査員
審査員

引越して友だちがいなかったけれど、「太陽みたいな子」と出会って仲良しになった。が、中学で一人ぼっちになった。たくさん仲間をつくること。あの子のことが気になる。

みんなのまんまる   宮川 紗也香(東京都)


人にとってのまんまるはたくさんある。

自分にとってまんまるでも、人にとっての四角かもしれない。

そんなことも気にしてしまう空間はいやだ。

みんなのまんまるを受け入れられる人になりたい。

まんまる空間でいろんなまんまるをつくりたい。
審査員
審査員

いろんなまんまるって、どんな「まんまる」があるのかな?なるほど自分と他人ではちがうけれど、あまり気にしないほうがいい。「みんなのまんまる」を受け入れられる人に。

「私の妹」   宮崎 心優(愛知県)


私には四さいはなれた妹がいる
妹が産まれてからすぐ、私が病気のため入院することが多くなった。

お母さんとはなればなれになったせいか
甘えん坊になってしまった。

そんな妹は今、小学2年生になった。
けんかばかりしてお母さんに怒られてしまうが妹は動じない。

運動も好きで、工作も発想がすごくて
いつもびっくりしてしまう。

私は歩けないので妹に取りに行ってもらうことが多い。
妹は「しょうがないなぁ」と言いながら
持ってきてくれる。

とても優しい!!
いつもおもしろいことを言ったりして
笑わせてくれる。
家族のムードメーカーだ。

そんな妹がとても大好きです。
審査員
審査員

小二の妹は怒られても動じないし、工作の発想がすごい。手伝ってくれる大好きな妹。うれしくて自慢の妹なのだろうな。「家族のムードメーカー」の妹に負けるな、姉さん!

人間みたい   宗像 杏華(群馬県)


空ってなんだろう
空に終わりはない

世界中の人が手をつないだら
空ってうめつくせるのかな

空は広く永遠だ
みんなの思いも
ずっとずっと永遠だ

空も生きているんじゃないかって
思ったりもする

いつもより暗い空
大粒の雨
なんだか楽しそうな春風

人間みたい
感情がある

空が悲しいなら寄りそいたい
空が楽しいならいっしょに分かち合おう

そうやって人間も
みんなで感情を分かち合い
成長しつづけている

空もそれぞれ違う
一秒一秒全然違う

ワンワンと広がる雲
ビリビリとなる雷
ザラザラとなる風
夜をてらす月
地球を輝かせる太陽

毎日違う 新しい日々達
それを探す
楽しいたいくつな時間

空は毎日新しいことを教えてくれる
人間もお互い教え合い生きている

いつかみんなの心を春風が吹くような
平和な気持ちで満たしたい
審査員
審査員

第一節に惹かれた。空も生きものだから、当然のことながら表情もいろいろでしょう。見あげる人によっても表情は変わる。残念ながら、人間はなかなか理想的に運ばないことも。

心は遊園地   村川 沙羅(青森県)


私の心は遊園地

人にほめられ気分があがる
興奮しすぎてつかれちゃう
それはまるでコーヒーカップ

わたしの心は遊園地
上手にできて気分があがる
人と比べてへこんじゃう
それはまるでジェットコースター

いつでも
いつまでも
私の心は
遊園地
審査員
審査員

さまざまな人が訪れて、いつもにぎわう遊園地もたいへんだ。「わたしの心」が遊園地なのだからたいへん。人を常に楽しませなければならない。気分がよかったりへこんだり。

そっくりさん   横田 惇平(新潟県)


 夏休みの朝ごはんに
ママが卵かけごはんを作ってくれたよ。

 ふりかけいりのスペシャル卵かけごはんだったから、妹が

 「ひゃっほーい!!」
とよろこんだよ。僕も

 「ひょっほーぅい!!」
と言うと妹が

 「マネしないでよ!
 マネするとそっくりさんみたいに
 見えるから、やめて!」

と言ったので
 「いやいや、元々そっくりさんだから。」

とつっこんだよ。
 「そうだね〜、きょうだいだからね〜。」

とママが笑っていたよ。

 卵かけごはんを食べ終わると、妹が
「だいすきだよ。」と言いながら
チューをするふりをして
卵かけごはんの付いた口を
ママの両方のほっぺでふいていたよ。

 僕も我ながら妹とそっくりさん
だと思うけど、いろんな人から
 「兄妹そっくりだね〜。」
とよく言われるよ。

 こどもの時は、迷子になっても
すぐに見つけてもらえるし

 将来、大人になっても
兄弟だと分かりやすいから
 妹とそっくりさんでよかった。
審査員
審査員

朝の楽しい卵かけごはんを、兄弟でふざけながら前にしているようすが伝わってくる。ふざけているようすからも、二人ともそっくりで、仲良しなんだということが読みとれる。

白杖歩行   吉野 和穂(熊本県)


カツ、カツ、カツ
大きくはずむ音
白杖を振って歩く音

私は今
白杖歩行の練習中
今日から外に出ての練習だ

点字ブロックの上を
おそるおそる歩いていく
まっすぐした線のブロックを歩いていくと
丸いゴツゴツしたブロックになった

これは
「進む方向がいくつかありますよ」の合図

私はここで立ち止まり
方向を変えてまた
カツ、カツ、カツと歩き出す

カン、カン、カン
マンホールに当たった高い音

私の大好きな音だ
コンクリートや木の根っこ
叩くといろいろ違った音がする

突然どこからとなく
ドン、ドン、ドン

太鼓の音だ
近くの学校で体育をしているのかな

白杖を振って
いろんな場所に行ってみたい
いろんな音を感じたい

一人で歩けるって楽しい
審査員
審査員

白杖を使っての元気な歩行練習。そのようすが見える。慎重に点字ブロックに沿った歩行では、カツ、カツ、カン、カンと音を頼りにする。ドン、ドンと太鼓の音で世界が広がる。

第29回矢沢宰賞の審査を終えて

 毎年、「詩の集い」の会場で入選者の顔を初めて拝見して、「ああ、この人か!」と作品と作者の顔が一致するときは、選者である私がとても興奮する瞬間です。その人たちの背後には、選にもれた多くの人たちの顔さえ見渡せるようです。みんなどんな表情をしているのだろう? でも口惜しいけれど、今年もコロナ禍のため「詩の集い」は開催されません。三年連続です。とても残念!

 しかし、今年も全国の学校から多くの詩のご応募をいただきました。ありがとうございます。詩を書く友だちはコロナ禍に負けず、学校での生活や夏休みの日々を旺盛に過ごしているようすが、作品から推察されました。詩の上手下手に関係なくそれが伝わってくるようです。そのことが選者としては何よりもうれしい。「詩の集い」は開催されなくても、誌面で作品や選評に接してください。入選者は舞台でメダルを首から吊り下げられず、無念。

 いつものように事務局から送られてきたすべての作品を開いて、次々とていねいに読んでいく作業は、いつもながら何ものにもかえがたい、緊張と楽しい喜びの時間なのです。けっして大変ではありません。読みこむことは、みなさんが詩を書くときのエネルギーに負けていません。書いた人のさまざまな呼吸が、行間からじかに伝わってくるようです。

 これまで少しがまんを強いられていた、海や山へのいろいろなお出かけや遊び、家族や友だちと過ごす時間は、今後少しずつ増えてくるだろうと思います。勉強や遊びに負けず、詩作も自由に思いっきり頑張りましょう。

 作品のすべてに目を通して、最終的に四十編にしぼりました(本プログラムに掲載)。選評はそれぞれの作品に付してあります。入選の喜び・もれた悔しさをエネルギーにして、これからも詩を書きつづけてください。

  • 審査員 八木 忠栄
    1941年見附市生まれ。日大芸術学部卒。
    「現代詩手帳」編集長、銀座セゾン劇場総支配人を歴任。
    現在、個人誌「いちばん寒い場所」主宰。日本現代詩人会理事。青山女子短大講師。
    詩集「きんにくの唄」「八木忠栄詩集」「雲の縁側」(現代詩花椿賞)他多数、エッセイ集「詩人漂流ノート」「落語新時代」他、句集「雪やまず」「身体論」(吟遊俳句賞)。

年ごとの入賞作品のご紹介

最優秀賞受賞者タイトル
第1回(平成6年)山本 妙本当のこと 
第2回(平成7年)山本 妙災害
第3回(平成8年)高橋 美智子小さな翼をこの空へ
第4回(平成9年)野尻 由依大すきなふくばあ
第5回(平成10年)佐藤 夏希お日さまの一日
第6回(平成11年)除村美智代大きなもの
第7回(平成12年)徳田 健ありがとう
第8回(平成13年)井上 朝子おくりもの 
第9回(平成14年)藪田 みゆき今日は一生に一回だけ 
第10回(平成15年)日沖 七瀬韓国地下鉄放火事件の悲劇
第11回(平成16年)佐藤 ななせ抱きしめる
第12回(平成17年)髙島 健祐えんぴつとけしゴム
第13回(平成18年)濱野 沙苗机の中に
第14回(平成19年)田村 美咲おーい!たいようくーん
第15回(平成20年)高橋 菜美空唄
第16回(平成21年)今津 翼冬景色
第17回(平成22年)西田 麻里命に感謝
第18回(平成23年)山谷 圭祐
第19回(平成24年)坂井 真唯クレヨン
第20回(平成25年宮嶋和佳奈広い海
第21回(平成26年)金田一 晴華心樹
第22回(平成27年)安藤 絵美拝啓 お母さん
第23回(平成28年)宮下 月希大好きな音
第24回(平成29年)宮下 月希心のトビラ
第25回(平成30年)阿部 圭佑ものさし
第26回(令和元年)上田 士稀何かのかけら
第27回(令和2年)宮下 音奏大好きな声
第28回(令和3年)横田 惇平ふくきたる夏休み
第29回(令和4年)野田 惺やっと言えた
第30回(令和5年)舘野 絢香気持ちをカタチに 思いを届ける