矢沢宰 19歳の詩と日記

19歳(1993年5月7日~1994年5月6日)当時の日記

5月7日(火)曇-晴

ペンを持つ手が重い。
あす、病院に行くから・・・。どうなろうと、一応は覚悟しているが、時間が進につれ恐怖がつのる。
暗いゆううつな19歳の誕生日となってしまった。

5月10日(金)薄曇

出芽のおそい柿もそろそろ芽をふき、野や山は緑一色になった。私が今一番なぐさめられ、興味を持ち、清新な気分をあたえられるのは、通学時の野や山の模様だ。
できることなら、いつまでも黙って自然の中にねころんでいたい。
それが一番私の心を安らかにする。

5月31日(金)曇

動乱の5月が去ろうとしている。
しかし、どうやら持ちこたえることができたようだ。
感謝の念をここに記す。
苦しい月だったが、反面体勢のたてなおしのきっかけをつかんだ月になるだろう。
生活に順応するのはいいが、それがマンネリズムにおちいらないように警戒しなければならない。
今晩は星について考える。
午後から風が強く吹いている。

6月2日(日)晴

学校へ行くようになってから初めて日曜らしい日曜を送った。
午前中は掃除したり、少し本を読んだり、午後は勉強をした後土堤に行ってゆっくりねたり、詩を考えたりした。
初夏。

6月18日(火)曇-小雨

4時限、1、2、3年の合同練習を見学した。
この体育の見学ほどいやなものはない。
科目の中でこれが一番いやだ。
自分にいっしょうけんめい『これくらいが何だ』病気の苦しみよりもいい。
死んだと思ったのが助かったのだ。
我、養護学校の各々は、みんなこの苦しみと戦っているのだと叫ぶ。

6月25日(火)曇

書きたいことを書く。
恋の詩を書きまくったっていいではないか。
そう思ったら軽くなったような気がする。

7月19日(金)晴

池田首相は内閣改造。
いわゆる『7月人事』を行い、新しい大臣たちが発表された。
自分が行政を行うにあたって、これが一番適当だと決めた大臣たちを、こうたびたび変えたのでは、どうして一貫した行政を行うことができるか、不思議に思う。
そこへゆくと政治形態こそ違うが、アメリカなどはいちおう4年という時間がある。

10月2日(水)雨-晴

私が求めているものは、はたしてこの現実だろうか?
絶対に幸せはあるはずだ。
そして、全ての人間は幸せにならなければならない。
それなのに金にしばられ、性にしばられ、精神に、肉体にしばられて、みじめな生活をしなければならない。
自由、秩序ある自由。
太陽に輝く自由を与えよ!

11月23日(土)雨

アメリカのケネディ大統領が暗殺された。
日本時間できょうの午前4時ごろだったそうだ。
私はおおいなる怒りを覚える。
そして、心から惜しい人をなくしてしまったものだと思う。
彼は今の世界に必要欠くべからざる人物だと思う。
彼のキビキビとした態度が好きだ。
どこか親しみのある人だった。
身近な感じの人だけに、いっそうショックは大きい。
まったく残念だ。
せめて重傷ぐらいであってくれればよかったのに。
私は人を殺しては絶対にいけないと強く感じた。
それと共に戦争をしてはいけない。
彼もきっとそれを望んでいることだろう。
戦争をしてはいけない。

1964年1月6日(月)雨

愛とは何だ?愛とはどうゆうことなんだ?

2月8日(火)雨

禁じられた遊び(フランス映画)をテレビでみた。
涙がポロポロでた。
あれが愛というものなんだなと思うとまた感動する。
子供の気まぐれとは思われない、そういってかたずけられない純粋なものが感じられる。
何と優しいんだろう。何と美しいんだろう。
あの風景のように何と大きくて温かいのだろう。
戦争とはまた何と悲しいんだろう。
とにかく私は、この映画を見てうれしくなり、元気になった。

3月21日(土)さあて天気は?

東京の第一夜。
清水トンネル前は吹雪だったのに、暗をすぎたら乾いた太陽があった。
竹林と麦と風が牧歌的であった。
柏崎の町もこれに似ていたが、それよりも雄大である。
まったく新しい世界である。
汽車が進むと共に自分が新しい未知の世界に入り、まだ知らない知識を収めて偉くなっていくような気がした。
野原といえば田んぼ、山といえばじめじめした木の葉。
自動車は越後交通というふうにきめていたのが、麦畑や竹林や色とりどりの自動車がここにはある。
栃尾のでこぼこに雨水がたまっているのに比べて、『白い道』の言葉がぴったりする道。
私は自然ばかりではない、もっと他の多くのものに影響を受けるであろう。
楽しみだ。
少しぐらいの犠牲を払ってもこの旅行(経験)は有意義である。ファイトがでる。

4月4日(土)雨

かえるが鳴いている。木や草が芽を吹きはじめた。
やぎが子を産んだ。

4月13日(月)

私の幼いイメージを捨てよというのだ。
私の大事なものを捨てよというのだ。
大人になるとは何と辛いものか。
しかもそこに持っているものは何だというのだ!?
しかし、私は捨てなければならない。
捨てることが、次に待っているものを高くし、大きくし、深くする。そうに違いない。
輝きに向かって、輝きをつかむために、輝きに向かって。

4月29日(火)晴

天皇誕生日。三日続けて天気がよい。
にぎり飯を持って山あるき。
杉沢の堤にも行ってきた。
水草が萌え、さざなみが立って美しかった。
あそこはいい所だ。いろんなことを想像させてくれる。

19歳当時の詩

風が

あなたのふるさとの風が
橋にこしかけて

あなたのくる日を待っている


薄命のからす

すき間だらけの翼に風がからんで
ふるえ
それでも地上と空の距離を計りながら

からすが飛ぶ

ケッ!

と伸ばした首に砂袋をぶらさげ
嘴から舌がはみ出るのをこらえ
自分の生まれた杉の木を目指して
死にもの狂いで

からすが飛ぶ


矢沢宰 19歳の詩と日記 おわり

年齢ごとの詩と日記