矢沢宰 14歳の詩と日記

14歳の詩と日記

14歳(1958年5月7日~1959年5月6日)当時の日記

1958年11月3日(月)

今日から日記を書くことにした。
生まれて初めての事だけに、どうゆうふうにして良いかわからないが、
とにかく思った事、した事を全部そのとおりに書けば良いと思う。
今日は文化の日なので学校は休みといっても僕はベッドの上?
朝から雲り。
昼の食がそばなので待ち遠しく、早く昼がこないかとモジモジしていた?
図画を書いた。
まずいのだが、何か美しい人を書きたかった。

11月6日(木)

夜になってラジオを聞いた。
落語を聞いたんだが、僕は大好きだ。
これを聞いていると何だか心がなんとなく楽しい。

11月7日(金)

午後からおもしろい本が来た。
おばさんが見つけて来てくれたのだ。
ちょっと熱中したらしい。恋物語である。
この頃こうゆう本に目を付けるようになった。
ふふふふ・・・。

11月8日(土)

毎日変化の無い生活なので、この日記なのだ。
はたして日記という物はこうなのだか?
火星が近づく。

11月9日(日)

今朝からずっと雨。
僕はこの頃音楽を聞いているが、何のために聞くのかわからない?
良くラジオなんか聞いている人があるが、わかるのだろうか?
僕はそんな物だったら聞かない方が良いと思う。
今度良くわかる人や多くの人に聞いてみて、音楽の魅力を知ろうと思っている。

11月12日(水)

この頃どうも変な日が続く。
おかげで詩や俳句が出来ない。
といってもそんな上等な物では無く、とにかくこんなに休んだので、
こういう文学の道に進もうと思っているけれど、学校にも行けず、これで出来るのだろうか?

11月14日(金)

午後から清拭を立川、広田両看護婦からしてもらった。
立川さんが
「どうしてこの頃そう元気が無いのだ?」
と聞いたから、
「物思いにふけっているんだ」
と言ったら笑っていた?

11月20日(木)

映画にみんな行って退屈してたので、ベースボールという週刊雑誌を借りたのを読んだ。
僕は長嶋が好きなんだ!川上も大好きだ。
彼はほんとうに努力家だ。

11月29日(土)

今日は天気が良いので鏡で外を見た。
もう青空がずうっと澄みきっていて、遠くに飛んで行きたい思いだった。

12月1日(月)

きのうの昼の安静の時間に眠ったので、夜眠れなく、
10時半頃まで目がさえて何か色々と僕のこれからの将来の事、
また生活、家庭のことなど考えた。
建築の設計、何事もこの病気を治して、体の弱い僕のことだから、
じっとしていて頭で暮らしをたてなければならない。
それに考えられるのが文学の方だが、この日記にも詩なんかも書いているが、
僕にその素質があるかどうか。
学校にもあまり行かず心配だが、僕はやるんだ。
白秋や藤村のようになるんだ。
それにはまず思った事を書くことだ。

12月8日(月)

朝とても天気が良かったので、汚くなっている金魚鉢を看護婦さんからきれいにしてもらい、洗面器に水を入れ、温かくしたのを入れてやった。

12月10日(水)

安静の時に考えたんだが、小説を書きたい。
題は「かえるのせんそう」というんだが、どんな物ができるかわからないが、
とにかくこの熱が下がったら書こうと思っているが、一度にたくさん書くわけではない。
気の向いた時にちょっとずつ書くつもりだ。

12月17日(水) 晴

自分で一つの物を知りえたという事は、何とうれしい事だろう。
今までわからなかった事を、今、自分の頭とこの手で発見したのだ。
それは誰にもわからない。いや誰にもわかる。
それは人々が経験してきたのだ。
そして大人になって行ったんだ。
一つの物を知りえたということは、なんとうれしいことだ。
いやそんな物ではない。
その心は、一人、一人にしか書きあらわせないのだ。
自分の心、一つ、一つにしか表せないのだ!

12月20日(土)

昨日本当に寝つきが悪く、色々と変なことを考えてしまった。
丁度ラジオがいやなのをやっていて、死について考えた。
死んでからはどうなるのか?
死は怖いものだ。
死んでからは本当に良く眠った時、夢も見ずの時と同じだろう。
だから僕はまだ死にたくないのだ。
どうしてももう一回この病気を治さなくては。
こんな話はもうやめた。

1959年2月27日(金)

今月もあと一日。
本当に早い。
社会は、みんなは、ドンドン進んでいる。

2月28日(土)

本を読んでいると、また一つの希望が出て、自分も生きて書いてやると思う。

3月14日(土)

今日はうれしい日である。
主医に僕の詩を見せたら「少し絶望しすぎ」と言ったが、
今日運搬車に乗って、看護婦室で清拭をやり、少し散歩した。
初めてである。
きっと先生が喜ばせようと、看護婦と相談してやったらしい。

3月20日(金)

今日は学院の卒業式であった。
昨年僕が初めて検診に来たのもこの日であった。
入院じゃないが、早や1年である。
また文集が出来上がってきた。
僕の出した詩が2編入っていた。
1編は出た作だが、もう1編は僕の詩集から選んだものだ。

4月22日(水)

今日も看護婦さんたちに話を聞いたが、はっきり ‘神’ 天主様を信じることができない。
はたして神と言う者がいるものか?
と自分では思うし ‘心の持ちよう’ と言う人もいる。

14歳当時の詩

ききょう

おまえは

本当に健康そうだね

つぼみは

ちょっとさわれば

はじけそうだね


一本のすじ雲

このはてしない青空に

何かと何かを結ぶかのように

夕日で銀色にそまる

僕は好きだ この一本のすじ雲が


矢沢宰 14歳の詩と日記 おわり

年齢ごとの詩と日記